３．あなた、やめて

「それじゃ、また明日」
　静子が帰った。
　俊一は、玄関で静子を見送る広美の後姿を見ていた。
　静子がいることで作られた状況が変わってしまう。
　広美はどんな顔で振り返るのか？
　そのとき、自分はどんな声をかけるのか？

　広美がドアを閉め、振り返った。
　広美は、緊張しているのか、表情が固い。
　かける言葉が見つけられない。
　広美が、俊一の脇を抜けて居間に行こうとする。
（どうすんだ？）
　俊一は、通り過ぎた広美の腕を後ろからつかんだ。
　広美は立ち止まるが、黙ったままだ。
　俊一は、広美を引き寄せ、背中からぎゅっと抱きしめた。
　広美の首筋に俊一の唇が乗る。

「見られたかったの？」
「わからない」
「見られて興奮したんじゃない？今日はいつもより早かった」
「そうかもしれない」
　会話になりそうにない。
　俊一は思い切って訊いた。
「僕が他の女としても平気？」
「相手によるわ」
「静子さんならいいの？」
「いいも悪いも、もうしちゃったわ。…あなたは？」
　答えに困る質問だ。
「あなたは？って言われても、初対面だし…まぁ、いい感じの人だったけど」
「ううん。違うの。あなたの気持ちを訊いたんじゃなくて、わたしが静子さんとしてもいい？って訊いたの」
「広美が？…静子さんと？…好きなの彼女が？」
「わからないけど、静子さんはいい感じ」
「それで、うちにつれて来て、僕とさせたの？」
「嫌な言い方」
「ごめん、悪気は無いんだ」
　気まずくなった。

「いいよ。静子さんとなら…。ただ、３人ってのもいいな。さっきは、すごく興奮したから」
「わたしも…」
　広美は、ついさっきのことを思い返した。
　真ん中でひとり逆向きに寝た広美は、片足を上げて股間を広げた
　静子と俊一の二人の舌がアナルを刺激し、前の壷とクリを刺激した。
　舌の刺激だけで立て続けに２度も達してしまった。

「俊一」
「何？」
「明日のことだけど…」
「どうかした？」
「外で…するのかなぁ？」
「バーベキューだし、外だろ？」
「ばか」
　やっと、俊一は広美の言ったことを理解した。
「そうだな。ときどき外でもするって言ってたね」
「俊一、外でできる？」
「どうかな？やったことないし、わかんないよ。広美は？」
「わたしは、されるほうだし…それに、少しどきどきする」
　外ですること以前に他の人とするかもしれないという重要な部分がいつの間にか了解事項になってしまっていることにお互い気づかない。
　静子をはさんだことで、お互いに秘密だった部分があいまいになってしまっていた。

「広美」
「何」
「窓に向って歩いて行って」
　俊一は、広美の後姿を見つめる。
　広美は裸の上に薄地のワンピースを着ただけだ。
　お尻のラインが柔らかそうに揺れた。
「裾を持ち上げて」
「だめよ。裸なの」
「お尻が見たい」
　広美がゆっくりとワンピースの裾を持ち上げる。
　真っ白な太ももがあらわになっていく。
　お尻が見えた。
　半分。
「足を開いて、上まであげて」
　今までとても口にできなかった言葉がすんなりと俊一の口から吐き出される。
　広美が足を開く。
　恥ずかしいのか少し間があった。
　広美は、静子によってあっさりと変わってしまった俊一に対する反発もなくはないが、それでも広美がずっと待っていたことだ。
　広美は、俊一の言うことに従った。
　やがてまた広美は裾を持ち上げ始める。
　腰まで持ち上げて、お尻がすべて晒された。

「前かがみになって」
　俊一にもう躊躇はない。
　広美は、前かがみになってお尻を後ろにつきだした。
「手でお尻を左右に広げて」
　広美の手が後ろに回って、左右のお尻の肉をつかんで広げた。
「お尻の穴が丸見えだ」
　俊一は、後ろから広美の股間に指を入れた。
　熱いものが俊一の指を包む。
（こんなことなら…もっと前から）
　夫婦と言ってもお互いに理解しているとはいえない。
　なにもかも知ったつもりで実は何も知っていなかったのかもしれない。

　俊一は、広美の腰を持ち、前に押した。
　広美が窓に張り付く。
　キッチン横のこの窓は、南側ののベランダに出る窓と違って、腰から上の小さな窓だ。
　俊一が窓を開け、広美の上半身を外に出した。
　広美の腰の上にカーテンが乗る。
　カーテンの下から、広美の下半身が突き出た格好だ。
　お尻の白さが強調された。
　俊一は一気に昂ぶったが、少し時間がたったせいか、勃起しても今度は痛みはない。
　俊一は、また広美の中に肉棒を押し込んだ。
　普段、この窓は開けない。
　隣のマンションがこっちに向いているからだ。
　広美の外に出ている上半身は裸ではないが、それでもセックスしているところを見られているように錯覚する。
　広美は、普通に外を眺めている振りをするが、俊一は、広美に声を出させようと、激しく突いて、さらに左右に振った。
「ぁっうっ…」
　いつまでも窓から顔を出しているのも変だ。
　俊一は、広美を中に戻した。
「誰かこっちを見てたか？」
「わからない。そんなの見てられないもの」
「そうか」
　俊一は、広美の腰に手を回し、広美を持ち上げると、今度は、ダイニングテーブルに乗せ、仰向けに寝かせた。
「何するの？」
　俊一が洗ってたたんであったタオルを取り出した。
「縛る」
　広美の足を曲げさせ、膝で縛る。
　次に広美の腕を取り、足首で縛った。
　膝を立てて開脚した格好だ。
　その１ｍ先に窓がある。
　俊一の手がカーテンに掛かった。
「いや。だめよ。カーテンは開けないで…」
　カーテンを開ければ、窓は開いている。
　俊一がカーテンの下の端を持って広美に近づく。
「だめよ。あなた、だめだって…」
　俊一はカーテンをゆっくり開けていく。
　広美が、顔をそむけた。
　俊一は一瞬、さっとカーテンを開き、すぐに閉じる。
　さすがに、本当に誰かに見られると危険だ。

　俊一はテーブルの上で足を開いている広美にまた挿入した。
　それでも広美の興奮は普通ではなかった。
　縛られたままでもいやがりもしない。
　広美がいったのを見て、俊一は、広美の顔のほうに回った。
　仰向けの広美の首の後ろを手で持ち、広美の顔の前で自分のものを手でしごく。
　広美は目を閉じて、顔にかけられるのを待った。
　いやがるそぶりは微塵もない。
「出すぞ」
　とは言ったが、さすがに放出された量はわずかだった。

４．都合がいい

「こんにちは」
　俊一たちを出迎えたのは、千佳だった。
「こんにちは、始めまして…」
　千佳が何か言い出す前に、俊一は初対面の挨拶をした。
「上に行っててもらえますか？」
　千佳は、余計なことは言わずに俊一たちを案内した。

　どうやら庭は、３階建てのビルの屋上らしい。
　階段を上がると静子がいた。
「いらっしゃい」
　俊一は一瞬、どきっとした。
　静子が、浴衣だ。
「わたし、手伝います」
　広美は駆け寄ったが、すでに準備は整っていた。

「広美さん、お風呂どうぞ？」
「お風呂？」
「今日はね、浴衣っていうことで…。用意してあるから…」
（浴衣か）
　浴衣の裾が割れて、お皿を運ぶ静子の白い足がチラチラのぞいている。
「千佳ちゃんもいっしょに…。広美さんを案内して」
　広美の浴衣姿は俊一も見たことがない。

「じゃぁ、始めてましょうか？」
「ご主人、いらっしゃらないんですか？」
「ちょっと買い物に言ってもらってるの、すぐ帰ってくるわ」
　静子が、鉄板に肉やら野菜やらを乗せ始めた。
　静子は肉を焼いたり、野菜を焼いたり、焼けたものを器に移したり、立ったり、座ったりをくりかえす。そのたびに裾が割れて、なまめかしい白い太ももがあらわになる。
「やだ。あまり見つめないでよ」
「いいですね。浴衣ってのも…」
「そう？似合ってる？」
「ええ」
　静子が俊一の横に座った。

「広美さん」
　千佳が広美に話しかけた。
「何？」
「わたしね、この前、ご主人に会ったのよ」
「そうなの？」
「静子さんのとこに寄ったら、たまたまご主人がいらして…」
「いつのこと？」
「金曜日。先々週の金曜日」
（わたしが静子さんのところで目隠しされて俊一とした日だ）
「その日は、９時か１０時前まで、わたしも静子さんのところにいたわ」
「そうなの？わたしが行ったのは、１０時をかなり過ぎてたかしら」
（俊一、静子さんのところに戻ったんだ）
「そこに主人がいたの？」
「ええ。ご主人、目隠しされてて、静子さんと最中だたんだけど、わたしがこっそり割り込んだの」
「やだ。本当？」
（わたしと同じことをしたんだ、あの人）
「わたしが勝手に割り込んだの。だから浮気じゃないわよ」
「あはっ、いいのよ。どうせ静子さんと浮気してたんだから…」
「あっ、そうか。そうだね。ばかだね、わたしったら…」
「お風呂、いっしょに入ります？」
「ううん。わたしは入ったの。着替えに着ただけ。広美さんの浴衣もここだから…」
　そう言って千佳はトイレに向った。


「ああ、いらっしゃい。ビール、やりますか？」
　買い物から戻ってきた啓太が俊一に缶ビールを手渡した。
　長身で筋肉質な男だ。
　男というやつは、必ず相手を自分と比較する。
　そして、どこか相手の欠点を見つけては、自分のほうが優位であると思いたがる。
　静子が他に男を探すぐらいだから、たいしたことはないとたかをくくっていたのだが、予想は完全に覆った。
“敵わない”
　それが正直な感想だった。
「ああ、いただきます」
　緊張で俊一の声が少し上ずった。
「静子の亭主で啓太といいます」
　いかつい体格とは裏腹に声はおだやかで目は優しい。
｢先にやっちゃいましょう｣
　そう言うと、啓太は、缶ビールを開けて飲み始めた。
　俊一も、ぐっとそれを飲み干す。
　酒が強いわけではないが、弱くもない。
「さぁ、始めちゃいましょう。がんがん食べちゃってください」
　啓太が肉をひっくり返しながら俊一に言った。
「わたしも食べよ」
　静子は、お皿に焼けた肉を盛ると俊一に手渡す。
　自分が客だからなのだろうとは思ったが、ご主人を前にしてあまり居心地はよくない。
　ようやく広美と千佳がやってきた。
　柔らかい胸の曲線と腰の張りがなんともいえない色気を漂わせている。
　俊一は、自分の妻ながら、正直きれいだと思った。

　俊一の横に静子が座っているので広美は啓太の横に座った。
「ビールもうひとつどうぞ」
　クーラーボックスから新しい缶を持ってきた静子が、啓太ではなく俊一に勧めている。
「広美さんもどうぞ」
　啓太が、広美にビールを勧めた。
「じゃぁ、あらためて乾杯」
　啓太が立ち上がった。
「はじめまして。静子の夫の啓太です。以後よろしく。乾杯」
　啓太が自己紹介しただけで、静子は広美も俊一も啓太には紹介しない。
（そういうことか…）
　小心者の俊一が、浮気相手のご主人のいる場所に顔を出すなんて、信じられないことだ。
　でも、別居している静子とならご主人に隠れて不倫という意識は希薄だっただろうし、啓太に対する罪悪感はそれほどは感じていなかったに違いない。
　それに、今のあいさつ。
　今日は、静子が夫の啓太を自分たちに紹介する場を作ったという感じだし、啓太自身もそういうふりをしている。
　ゲストは、自分たちではなく啓太なのだ。
　おそらく、俊一を緊張させないようにという静子の配慮なのだろう。
　広美は、以前に静子が言った言葉を思い出した。
　どうして別居したのかと聞いたとき、静子は、“そのほうが都合がいいの”と言った。
　たしかに都合がいい。
　広美はそう思った。