「雪枝、ビールが切れてるぞ」 すでに相当に酔いのまわった口調でそう言って、川嶋照雄は、空の缶ビールをブラブラと揺らした。部屋の半分が台所となっているリビングダイニングだから、シンクで洗いものをする妻の姿が、ソファに座る彼の位置からも見える。 「おい、雪枝」 「僕が持ってきますよ、部長」 照雄の斜め向かいに座っている朝霧健太郎の声だった。 「奥さんも忙しいみたいですし」 「すみません、今お持ちしますから」 「大丈夫ですよ、奥さんは洗いものをつづけてください」 「悪いねえ、朝霧くん」 すぐに照雄はテレビの野球中継に視線を戻した。 ソファから立ちあがった夫の部下の姿を目にして、川嶋雪枝の顔に狼狽の気配が濃くなった。彼女の住むマンションは自由が丘の郊外にある。都内でも指折りの高級ベッドタウンで、道を歩けば、オープンカフェでティータイムに興じる主婦の姿を容易に見つけることができる。 そんなセレブ美女にくらべても遜色のない容姿を川嶋雪枝は持っていた。単に美人なだけでなく、たたずまいに清潔感と品があり、俗っぽい雰囲気がどこにも見当たらない。それでいて良家育ちを鼻にかけたふうもなく、物腰も柔らかい。 父親はテレビで有名な代議士、母親は一流進学校の教師という家柄が、いい意味で女としての魅力に顕現している。まさしく川嶋雪枝は、手塩にかけて育てられた温室の薔薇のごとき女だった。その表情が、今は怯えからくる憂いの色に染まっている。 「今すぐご用意しますから、わたしがやりますから」 そうは言うものの、なかなか冷蔵庫に手を伸ばそうとしない。肩だけがモゾモゾと左右に蠢いている。見えない何かを振り払いたがっているような感じだ。 「あの、本当に」 遠慮の途中で朝霧がオープンキッチンの内側に入ってきて、雪枝は、そこから先の言葉を失った。 川嶋照雄は野球中継に没頭している。彼がひいきにしているチームの試合だった。その姿を横目で確認したあと、朝霧は、台所に立つ美人妻に目を向けた。 シンクの水が流しっぱなしになっている。だが、彼女の手は食器を洗うために動いているわけではなかった。シンクの縁に両手を乗せて、やや前のめりの身体を支えているだけだった。そして、オフホワイトのスカートが腰の位置まで引きあがっている。 彼女の背後には男の姿があった。台所の狭い隙間に片膝を落とし、コバルトブルー色のパンティに包まれた尻を揉んでいる。二十九歳のムチムチッとした太腿が嫌悪感のために震える。 「三宅くんはまだ戻ってこないのか？」 照雄が声を発しただけで、川嶋雪枝の肩がビクンと揺れた。 「ずいぶん長い便所だな」 「朝から腹の調子が悪いって言ってましたから」 何食わぬ顔で朝霧は答えると、ワイシャツの胸ポケットから一枚の写真を取りだし、シンクの横にそっと置いた。それから冷蔵庫に手を伸ばし、数本の缶ビールを取りあげてソファへと戻っていったのだった。 息を呑んで愕然としたあと、川嶋雪枝は、写真から目をそらした。ベッドの上で足をひろげた全裸の女が、モロだしの淫部にバイブをねじこまれている。 女の背後に写った室内の風景は、雪枝のよく見知っているものだった。リビングダイニングの奥にある寝室である。写真の女がこのあとどうなったのかも、よく知っている。 淫らな玩具によって不本意な絶頂を与えられたあげく、強姦魔たちのペニスで肉体を打ち抜かれたのだ。女性器も口もさんざんに貫かれたのだ。つい一週間前のことだった。そのペニスを持ったふたりの男が、今、彼女の目の前にいる。 「ばかやろう、そこは強攻策じゃなくバントだろうがッ」 テレビを見ていた川嶋照雄が口惜しそうに怒鳴った。 「こんな采配をしているから勝てないんだよ。今年は無理かな、優勝は」 「わかりませんよ、まだ八月ですからね」 「しかし、主力メンバーも怪我人だらけじゃないか」 「復帰すれば勝てますよ、もともと地力のあるチームですし」 ビールを片手に野球談義をしているあいだも、朝霧の注意は、常に川嶋雪枝のほうに向けられていた。 オープンキッチンの奥に立っているため、リビング側のソファから見えるのは彼女の上半身のみだった。これだけなら理想的な良妻といった印象だが、肉体の猥褻さまでは隠せない。乳房の高い盛りあがりが衣服越しにもわかるのだ。しかし、キッチンに隠れた下半身はもっと猥褻な状況になっている。 「せめてＡクラスは確保してもらいたいもんだ」 妻の異変になど少しも気づかず、照雄はビールを口へとはこんだ。彼にしてはめずらしく、今日はいつにも増して酒量が多い。 普段はコップ二、三杯で居眠りしてしまうくらいなのだ。だが、それでは雪枝のほうが困る。万一そんなことになれば、この男たちに好き放題にされるのは目に見えている。 夫の出張中に家を訪れ、こともあろうに、上司の妻を強姦してしまうような輩たちなのだ。そればかりか、こうして今だって破廉恥な悪戯を受けている。夫がすぐそばにいるというのに、だ。雪枝が抗えないことを見越しての蛮行としか思えなかった。 このままではあのときの二の舞になりかねない。いや、今度は夫の目の前で犯されるかもしれない。ばかげた発想だと自分でも思う。しかし、状況を考えればその危険性は皆無ではなかった。 雪枝は、伏し目がちの視線をソファの夫に向けた。 やはり釘を刺しておくのが得策かもしれない。今すぐ夫の酒をやめさせれば、男たちだって諦める可能性がある。もしくは、何か理由をつけて彼らを追いかえすことはできないだろうか。やや強引にでもそうしたほうがいいのだろうか。けれども、そのための理由が少しも頭に浮かばない。 困惑する雪枝の腰が不意に揺れた。男の手がパンティの内側に潜ってきたのだった。 ああン、だめえ……。 雪枝は出かかった言葉を呑みこんだ。へたに声をだせば、照雄に気づかれてしまう。強姦の事実までが夫に露見してしまう危険だってあるのだ。それは何より避けねばならないことだった。 照雄のほうに注意を払いつつ、さりげないそぶりで首を後ろに捻った。男と目があった。人妻の尻たぶを強く掴みながら、三宅彰は冷酷な笑みを口元にたたえている。 パンティのなかの両手が丸く動いた。 雪枝は首を左右に振った。やめてくれと目線で懇願した。けれども、三宅は愛撫をやめようとしない。やめるどころか、より激しい手つきで尻を握ってくる。 美人妻に色っぽい怨嗟の目を向けられたことで、新たな劣情が彼のなかに生じたのだ。パンティの生地が臀部の溝に食いこむほどの荒々しさである。となると当然、生尻の全容があらわになる。外見の貞淑さを裏切る妖臀だった。 普通に立っているだけだというのに、悩ましげな曲線がツンと後ろにせりだしているのだ。それほど完璧な形状と量感なのだ。魅惑的な丸尻を三宅はベタベタとさわった。 だめよ、しないで……夫の前でそんなことしないで……。 実況アナウンサーのやかましい声がテレビから流れた。ホームラン、ホームランと繰りかえし叫ぶ。照雄も歓喜の声をあげる。彼の数メートルほど横では、下半身を露呈した妻が他人の男に辱められている。 「そう言えば川嶋部長、知ってますか？」 意味深な目線を雪枝に向けたあと、朝霧は口を開いた。 「秘書課の香川萌子のこと」 「ああ、あの色っぽい娘さんだろう。確か、先月寿退社したんだったね」 「表向きはそういう理由なんですけどね」 「違うのかい？」 「ええ。あくまでも噂なんですが」 わざと雪枝にも聞こえるような声で朝霧は言った。 「……実は、誰かにレイプされたって話なんです」 「本当かい？」 「インターネットに映像が流出してるらしいんですよ、営業課の連中が見たって言ってました」 「じゃあ、会社を辞めたのは」 「噂がひろまるのを恐れたんじゃないですかね、たぶん」 「……ひどい話だねえ」 照雄はつぶやいた。どこか歯切れの悪い口調だった。 「確かにひどい話です。でもね、香川くんのほうにも責任があるんじゃないかな、って思うんですよ、僕は。妙に派手好きというか、彼女、男好きする雰囲気があったから」 「まあ、確かに」 「レイプされるってことは彼女に隙があったってことですよ」 雪枝は耳を塞ぎたくなった。朝霧のその言葉は、雪枝に対する遠まわしな愚弄だった。 「ああ、なんだか眠くなってきたなあ」 ソファの上で照雄は欠伸をした。妻の表情に浮かんだ悩乱のことも、三宅がトイレから戻らないことも気づいていない。 「悪いが先に休ませてもらうよ、明日もはやいことだしね」 「はあ……」 「ふたりはもう少しゆっくりしていくといい」 「だめよ、あなた」 反射的に雪枝は口を開いた。夫が眠ってしまったら彼らに何をされるかわからない、という不安から出た声ではなかった。 寝室へ戻るには台所の裏手にある出口を通らねばならない。となれば当然、雪枝の横を彼が歩むことになる。尻を丸だしにした妻の痴態を彼に見られることになる。今、照雄を寝室に戻すわけにはいかなかった。 「お休みになられるのなら、せめて三宅さんにご挨拶をしてから……」 そうすれば三宅も悪戯をやめるのではないか、という打算の含まれた言葉だった。しかし、いつまでたっても夫からの返答はない。 「ねえ、あなた」 ソファに深く背中を沈めたまま、照雄は下を向いて黙っている。やがて、彼の口から小さないびきがこぼれはじめた。 朝霧は、居眠りをする上司の肩をそっと揺さぶった。 「部長、こんな場所で寝たら風邪を引きますよ」 彼のその声は、ついに実行のときがきたことを三宅に知らせるための合図だった。 照雄の熟睡を注意深く確かめたあと、朝霧は、鞄から何かを取りだした。会社にやってきたＯＡメーカーのセールスマンが配布していったアイマスクである。朝霧は、それを照雄の目にかぶせた。 「ああ、すまないねえ。朝霧くん」 ほとんど寝息に近い声で照雄は答えた。そして、数秒としないうちにまた深い眠りへと落ちてしまった。ひどいいびきだった。 朝霧はテレビのボリュームをあげて席を立った。大股でキッチンのほうへと歩んでくる。 「眠っちゃったみたいですねえ、部長」 はやくも劣情の色に染まった声で彼は言った。 「やめてください、こっちにこないで」 「三宅はよくて僕はだめなのかい？」 「そういう問題じゃなくて……とにかくだめなんです、これ以上はだめなの」 雪枝は小声で抗った。完全に眠っているとはいえ、夫がすぐ眼前にいることに変わりはないのだ。大声をあげて取り乱すことはできない。 三宅に背後から乳房を掴まれても、雪枝は抵抗しなかった。長い黒髪ごと首を左右に揺さぶるだけだった。 「ああッ、い、いやン」 「この前のつづきをしようぜ、奥さん」 「でも、あの人が、主人が」 「亭主の前でヤるから楽しいんじゃないか」 朝霧も手を伸ばして乳房を掴んだ。ふたりの男に左右の膨らみを揉まれる。 「ううッ……乱暴しないで」 「乱暴されるのがいやなら、自分で脱ぐといい」 「そんなの、む、無理です」 「無理じゃない、やるんだよ」 声の怒気とともに乳房を握る手にも力がこもる。 「裸になれよ、奥さん」 男の手はスカートのなかにも入りこんできた。台所という非常識な場所で、ふたりの男に前後から身体を圧される。尻も太腿も、パンティの股間までさわられる。 朝霧は腕を伸ばしてシンクの水を止めると、その手で台所の包丁を掴んだ。雪枝はひッ、と低く呻いた。 「自分で脱ぐのがいやなら、こいつで服を切り刻んでやろうか？」 刃物を押しつけられた人妻の喉が小さく動いた。 「下着をバラバラに切り刻んで、写真といっしょに亭主に送りつけてやるよ。俺らのあれを旨そうに咥えてる写真だ。部長、きっと腰を抜かすぜ」 雪枝は恐ろしくなった。そんなことを平然と言ってのける朝霧のことが心底恐ろしかった。何より恐ろしいのは、彼なら本当にやりかねないということだ。 「それがいやなら、やることはひとつだろ？」 「ゆ、許して」 雪枝は首を横に振った。それから視線を斜めに伏せて、カーディガンのボタンを外しはじめた。のろのろと脱ぎ去り、次いでブラウスに指をかける。 人妻の着衣が次々と床に落ちた。テレビの音と夫のいびきだけが響く室内で、下着だけの裸になる。 「これ以上は、もう」 「僕は裸になれと命令したはずだ」 「……なら、せめて主人のいないところで」 「亭主のいないところで、何がやりたいんだ？」 「そ、それは」 「挨拶のしかたはこのあいだ教えただろ？」 雪枝は、すっかりと潤んだ目で照雄のほうを見た。次に朝霧と三宅の顔を交互に見あげ、彼女は魅惑的な朱色の唇を開いた。 「ゆ、雪枝を」 眉毛を吊りあげて話すときの彼女は『マゾっぽさ』がきわだつ。 「雪枝を……どうか雪枝のことを可愛がってください」 「遊んでほしいんだな？」 「はい、遊んでください。お人形さんみたいに弄んでください」 言い終えたあと、お嬢様育ちの人妻は「う、うッ」と声を詰まらせた。 「遊んでもらいたいなら、さっさと裸になれ」 今度は三宅が命令してきた。泣きながら雪枝は背中に手をまわし、ブラのホックを外した。圧迫から解かれたふたつの膨らみがプルンと揺れる。 「ああ……ン」 眩暈にも似た屈辱のなかでブラジャーを取り去り、雪枝は、さらにパンティも足首から抜いた。か細い息が何度もこぼれた。酒臭い室内に、二十九歳の成熟した女の匂いがむわりとひろがる。 朝霧は、身体の前を隠そうとする雪枝の手を強い口調で制した。そうしてから、眼前の裸身を三宅とともに観察した。 こうして見ると、川嶋雪枝が単に育ちのいいだけの女でないことがよくわかる。挑発的なまでに突き出たふたつの乳房、悩ましげな腰のくびれ。下半身も太腿を中心に肉つきがいいが、腿から下はすんなりと細い。 きめのこまかい美肌といい、外面のお上品さといい、男を喜ばせるためのあらゆる醍醐味がこの肉体には内包されている。そして、その魅力は外見的な容貌だけに限ったものではない。 何より突出して素晴らしいのは、彼女の匂いだ。あたかも人間の姿を模した異形の花のように、独特な甘さを醸しているのだ。吐く息すら甘い。まるで、口のなかに飴玉を含んでいるような感じだった。 「たまんねえよな、奥さんのこの匂い」 「まったくだ。こんなもんをプンプンされたら、欲情するなってほうが無理ってもんだ」 「良家のお嬢様はやっぱり違うねえ」 芳香に誘われる蜜蜂のように、ふたりは手を伸ばした。 「おまけにこの顔と身体だもんなあ。最高だよ、奥さん」 「あ、だめ」 抗う間もなく朝霧に唇を塞がれた。強く吸われながら、右の乳房を揉まれる。もう片方の乳房にも三宅が顔を埋めてきた。誰のものともつかない指が股間を圧迫し、背骨を甘くなぞり、爪をたてて尻を鷲掴みにする。 「ねえ、だめ……あうン、こ、ここじゃだめなの……寝室で」 懇願の途中で今度は三宅に唇を奪われた。舌をこじ入れ、好き勝手にかきまわし、口の外に溢れた涎まで搾り取る。恥液で汚されたのは口元だけではない。左右の乳首を交互に舐めまわしたあと、朝霧の顔が股間へと潜りこんだ。 「ここが一番いい匂いだな」 柔らかい舌が淫裂に触れたとたん、雪枝の首が後ろにのけぞった。 夫のいる室内でふたりの男に裸身を弄ばれながら、雪枝は、自分の肉体が内側から引き裂かれていくのを実感した。痛みさえ感じるほどの恐怖があった。はじめてレイプされたときも相当に怖かったが、今はそれをはるかにうわまわっている。 いつ夫に気づかれてもおかしくない状況、破滅ととなりあわせの交接。常軌を逸した錯乱状態だから、つい大声がこぼれそうになる。 「いやァン、はあ……あ、あ……ッうう」 ふたりの男に乳首と股間を吸われる。涎の擦れる下品な音が身体の上と下から響く。体温の上昇とともに、彼女の持つ独特の匂いも濃度を増した。その麝香は、フランベした果実に牝そのものの生臭さを加味した甘さに近い。 雪枝の腰が丸く動いた。肉体からたちのぼる匂いがあまりにいやらしすぎて、自分がそんな匂いを持っていることが恥ずかしくて、彼女はしきりに尻を揺さぶった。 「チクショウ、たまんねえや」 美人妻のそんな腰振りを目にしては、男として黙ってなどいられない。朝霧はズボンのベルトに手をかけて、すばやい動作でブリーフごと引きおろした。 表情を歪めて怯える雪枝の前で、鉄鉾の硬さを宿した男茎がビクンとのたうつ。 「咥えろよ、奥さん。ペロペロしゃぶるんだよ！」 照雄の存在を忘れているかのような怒声を張りあげ、女の頭に手を伸ばした。 「い、痛いッ」 遠慮なしの力で黒髪ごと上半身を引き寄せられる。床に膝を落とした雪枝の顔に勃起が当たる。 反射的に彼女は首を横に捻るが、そこにも別の勃起があった。すかさず三宅は腰を進め、人妻の口内に肉楔を打ちこんだ。 「グムムッ……や、やめてェ……」 いったんは顔を引き剥がしたものの、またすぐに埋没してきた。雪枝が苦悶するのもかまわず前後に揺さぶる。朝霧もまた彼女の手首を掴みあげ、無理やりに勃起をしごかせた。亀頭を頬に擦りつけたりもする。 「こっちも咥えろよ、おらあッ」 朝霧に頭を掴まれ、今度は彼の勃起を口に含まされる。 いまや雪枝は、自分の意志でペニスを咥えていた。いや、正常な思考感覚などとうの昔に打ち砕かれている。ただ、彼らに逆らったら殺されるかもしれないという恐怖だけが心に渦巻いていた。 濡れた唇で太幹を包み、美顔ごと前後に揺さぶる。熱心にしごく。かと思うと口の奥深くに含んだまま舌を動かし、亀頭の裏側をまんべんなく舐めたりもするのだ。 台所の床に膝をついているため、リビングの状況がどうなっているのかは皆目わからない。その不安が勃起しゃぶりの動きを性急なものにした。 「もっと気合いをこめて咥えろよ。はやく終われば部長に気づかれなくてすむぜ」 そんな朝霧のそそのかしを浴びて、口淫の動作がより淫らなものになる。 雪枝は、ふたたび三宅の勃起に顔を戻した。幹の半分ほどを口に含み、余った根元は指を巻きつけて擦る。さらには朝霧のほうも片手で握った。全裸の人妻が台所の床に跪き、左右から突きつけられた二本のペニスを交互に慰めている。 もはや淫乱女と揶揄されても仕方のない嬌態だった。そのことが自分でもわかっているから、股間が熱い。新たな愛液がトクトクと溢れてくる。その恥液は彼女の陰毛を濡らし、足首を濡らし、床に点々と小さな溜まりを作った。 「そろそろ下の口にも入れてやるとするか」 朝霧が女の背後へとまわり、丸い尻を引き起こした。 雪枝は、すぐ眼前にある三宅の腰に両手をまわした。崩れそうになる上半身を支えるためだ。結果、より深く男の股間に顔を埋めるばかりか、朝霧に自ら尻を奉じる姿勢となった。こうなっては声をだすこともろくにできない。首を横に振ることもできない。 丸だしの股間に亀頭が当たった。 「亭主の前でイカせてやる」 左右に逃げようとする尻に平手を浴びせ、一瞬ひるんだ女の腰を抱き寄せたあと、ひと思いに突き刺した。 濡れた肉襞が亀頭を迎え入れ、強く絡みついてくる。朝霧はいったん勃起の半分ほどを抜くと、彼女の尻たぶを両手で押しひろげ、ふたたび突き入れた。今度はさらに奥まで埋没した。雪枝の喘ぎがひどく潰れた音色になっているのは、三宅のペニスを口に含んでいるからだ。 いつの間にかテレビの野球中継が終わり、ありきたりの恋愛ドラマがはじまっている。 ソファで眠りこける上司に勝ち誇った目を向けたあと、朝霧は、女の細腰を両手で掴んだ。亀頭の手前まで引き抜き、また突き入れる。すさまじい膣圧迫だった。ほんの少しも緩い感じがない。 「またハメられちまったなあ、奥さん」 言葉苛めをすることで性交の興奮も膨らむ。 男茎で激しく打ち抜かれながら、雪枝は、シンクの縁を片手で掴んだ。上の口にも勃起を押しこまれているため、ウッ、ウッ、と喘ぐたびに涎が溢れ出てくる。 かまわず朝霧は腰を前後させた。三宅も口を犯した。女性向けファッション誌のなかに出てきそうな美人の人妻が、ふたりの男に前後からハメられている。上下の穴をいっぺんに蹂躙されている。 いっけんすると雪枝が自ら尻を揺さぶり、積極的に勃起を咥えているようにも見えるが、彼女は何もしていない。ただ揺れているだけだった。泣いているだけだった。 雪枝の口内から勃起が抜け落ちた。 「ンあゥ……」 栓の解かれた口からとんでもない量の涎がこぼれた。ダラダラと溢れ出た。表情も涙でクシャクシャだ。その顔に三宅は亀頭を向けて、こちらも尋常ではない汁量の精液を飛び散らせた。 シンクの縁にしがみついた雪枝の肩を朝霧は強く押した。 「顔をあげてみろよ、奥さん」 黒髪を邪険に掴みあげる。苦悶の声とともに雪枝は首をのけぞらせた。のたうつ糸のような精液が鼻筋と頬にかかっている。瞼にも残滓が張りついている。 ぼやけた視界の先に、口を開けたまま眠りこける照雄の姿が見えた。 「奥さんが今どうなっているのか、亭主に説明してやれよ」 豊かな乳房に右手をまわしながら朝霧はつぶやいた。 「自分が何をしているのか言うんだ」 「あン、許して」 「チ×ポをハメられてますと言うんだよ、言えよ」 さらに強く顔を引き起こされる。キッチンカウンターに乗りあげた上半身が弓なりに折れる。 雪枝は低く呻いた。ほぼ顔じゅうに精液が付着しているから、いっけんすると顔面が溶けかけているように見える。まるでホラー映画に登場する美しい化け物だ。高級住宅街に住む清廉な人妻の面影など、もはや微塵もない。 「おらあッ、はやくやれ」 「あ……朝霧さんのチ×ポ、ハメられてます」 ふたりの横で三宅がククッと嘲った。 「奥さんもこういうのが好きなんだろ？ ずいぶんと気をやってるみたいだもんなあ」 「ち、違う」 「奥さんの身体は誰のものなのか、あんた自身の口から亭主に聞かせてやれ」 「そんなの……ッは、はンゥ」 膣襞の奥をペニスで小突かれる。乳房を揉み押され、尖った乳首を指で潰される。 雪枝の裸体がくねりと揺れた。半開きの口から新たな精液が垂れ落ちる。 「さあ、言えよ」 「ンンッ、わ、わたしは」 勃起でねちっこく突かれながら催促されては、そう黙秘をつづけられるものではない。 「……朝霧さんと三宅さんのものです」 「つまり、奥さんは俺らの奴隷になると認めるんだな？」 「そんな、奴隷だなんて」 「奴隷がいやなら家畜だな、ペニスを挿入されるための穴を持った家畜だ」 雪枝は愕然とした。女にとって、良家育ちの二十九歳の人妻にとって、彼の口にした言葉は最大級の侮辱だった。 朝霧の腰が前後に動きはじめた。前置きなしの激しい挿送である。 「ううッン、や、だめえ」 硬くて太いもので肉体を打ち抜かれながら、雪枝は上体を伏した。洗いものの皿がシンクのなかにまだ残っている。そこに、肩からこぼれた長い黒髪が落ちる。バラバラに乱れ落ちて、毛先が濡れる。 「奴隷と家畜、どっちがいいんだ。奥さんの好きなほうを選べ」 犯される雪枝の頭を今度は三宅が掴みあげた。 「答えろよ、部長の前で言うんだよッ」 「ひいン、か、家畜です……家畜がいいんですゥ」 ふたりの男に顔と下半身を揺さぶられながら雪枝は叫んだ。わけもわからないまま叫んだ。夫の前で強姦された恐怖と絶望感が、これまでになく強い性交の愉熱が、彼女から理性的な判断力を奪っていた。 「わたしはおふたりの家畜ですゥ、オチン×ンを挿入されるための家畜ですゥ」 「そうさ、家畜だ。チ×ポ狂いのど淫乱な家畜だ」 「ああン、許して。照雄さん許してェ！」 顔を伏せて泣き崩れようとしても、すぐに黒髪ごと引っぱり起こされる。視界がグニャグニャに歪んで、揺れる。大きな乳房も揺れる。 照雄の肩がかすかに震えていることなど、雪枝はまったく気づかない。 ☆ 暗闇のなかで狸寝入りを演じながら、川嶋照雄は、身体の内側から臓腑をかきむしられる思いだった。最初からこうなることはわかっていた。だからこそ、無理をして大量の酒を喉に流しこんだのだ。 酔い潰れて眠ってしまえば、現実を直視しないですむ。そのはずだった。しかし、これほど悲痛な妻の大声を耳にしては、眠ってなどいられるわけがない。意識も酔いも醒めてしまうのが当然の話だった。 十年ほど前、照雄はひとりの女を強姦した。 相手はまだ年端もいかない子供だった。たぶん中学一、二年生くらいだろう。大雨のなか、傘もささずに帰宅していたその娘を見すごせず、つい車に乗せてしまったのだ。最初は親切心からの行動だった。ほんの一片の下心だってなかった。 けれども気がつくと、助手席に座る少女の上にのしかかり、制服のスカートを捲りあげ、彼女が泣きわめくのもかまわずに男茎を突き入れていた。ほんの出来心としか説明のしようがなかった。ほつれ髪の張りついた幼い顔立ちが、濡れたブラウスにくっきりと浮いたブラジャーの形状が、白い肌が、常識ある大人の男としての分別を麻痺させたのだ。 照雄自身もすっかりと忘れていた過去だった。数週間前、課員の家族を交えた親睦パーティーがあったのだが、その席上で彼女と再会したときも、それがあのときの娘だなどとは少しも気づかなかった。パーティーの翌日に朝霧健太郎から声をかけられるまでは、そうだった。 朝霧は、レイプの事実を黙認する見かえりとしてある要求を照雄に突きつけた。 確か名前は結衣といったか。まさか、朝霧が彼女の兄だったとは……。 悔やんでも悔やみきれない過去だが、今となっては無意味な後悔にすぎない。何もかもが遅かった。照雄が彼の妹にしたことも、こうして彼の脅迫に屈して妻を奉呈したことも、変えようのない事実なのだ。 すまん。許してくれ雪枝……ばかな夫を許してくれ……。 雪枝の喘ぎが徐々に甘ったるい音色に変じていく。明らかに性感にまみれた声だった。やがて、犯される妻の口からある明確な単語がこぼれはじめた。 それが性交の喜悦から出た「いい」という言葉だと理解した瞬間、照雄は寝がえりを打つふりをして彼女に背中を向けて、唇を強く噛んだ。 |
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| 2009.9.19掲載 |
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