| 第一話「先入観と劣等感」 人を愛する事、それは、とても簡単に見えて難しい。 相性の不一致、性格の不一致があれば、 人間関係はとてもじゃないけど、上手くいかない。 私にとって、男性とは、まさに危険な動物でしかみれない。 肉食獣の中でも、特に野蛮な部類。ハイエナのような群れ。 誇らしげに頂上に立つ、ライオンのような人がいる世の中なんて、バブルの崩壊と共に無くなったのでしょうか。 「お姉さん！夜のお仕事興味ない？」 「男紹介するよ、一回につきこれだけ支払うから」 「急いでる？そうじゃないなら、いい話あるんだけど」 私は常に夜を生きてきた。きらびやかなネオンライトが並び、 最も、自分が美しく、そして自分らしくいられる時だった。 そんな中で、言い寄ってくる男はみんな肉食なタイプ。 どれもこれも、同じに見えて仕方ないし、 同じ空気を吸っていると思うと、凄い嫌になってくる。 でも、誰もがそう見えるわけじゃない。 私だって、色々と、恋をしてきました。 でも、それに満足した事は一回もありませんでした。 自分が歩んできた事に後悔はしてないけど、 私がここまで男性に対する嫌悪感はお解かり頂いたと思います。 高飛車な性格ではない、 別に男の人と接する事に抵抗はありません。 でも、恋愛対象には絶対に見えない。見たくもない。 だって、そうさせたのは、貴方たち、 私と連れ添ってきた男達じゃない。 私は今、繁華街の中心に並ぶキャバクラのホステスをしながらも、 自分の道を模索している、 まるで、タンポポの種のような人間。 本当は、誰かに支えてもらいたい。 でも、そんな事は口にもしたくないし、出来ない自分がいる。 「あおいさーん、５番さんに指名入ったからよろしくー！」 ア「はぁい、行ってきます」 私が勤めているお店は、いわば高級クラブといったらいいでしょうか。 安くても１万は超える、VIP待遇のお店。 役職はもう部長クラスが最低ランクで、 大手会長、オーナーさんがよく足を運ぶ、本当に成功した人でしか入れないお店です。 私はそこでは特に、 経営者さんや社長さんによく指名がかかる。 今日のお客さんは、某製薬会社の社長さん。私の事が好きで、 週に１回は必ず来て、万単位の金額を払って、 満足して帰っていく。 私も相手はお客さんであるから、もてなしも十二分に気をつけている。 「あおいちゃーん、今日も綺麗だねぇー」 ア「あらぁ、嫌ですわ。社長さんったら」 「あおいちゃんがいるから、私も仕事のストレスが一気に吹っ飛ぶよ！ワッハハハ…！」 ア「もーう、社長さんったらぁ」 勿論、演技で笑っているだけ。目の奥は笑ってません。 この社長はよく私を指名してくれる。 お店としては、大切な常連さんだから喜ばしいことでしょうが、私としては、年老いたハイエナにしか見えなかった。 どうせ、私以外の女の子にも同じ事を言ってるのでしょうから。 「どう？あおいちゃんも何か好きなのを頼みなさい」 ア「じゃあ、お言葉に甘えて…。野菜スティックで」 「いいのかい？そんなので。フルーツ盛り合わせはどうだい？」 ア「いいんです、私、今日は野菜スティックが食べたい気分だから」 女の子の注文で、大体が喜ばれるのがフルーツ盛り合わせ。 でも、私はそれを餌に釣ろうとしている魂胆が見えてて、だから私は天邪鬼な行為で、地味なメニューを頼むのでした。 それはもう、どのお客さんに対しても一緒です。 時にはエイヒレとか、すっごい地味なメニューを頼んだりしてます。 「ほんと、あおいちゃんはいつ見ても綺麗だよ！うん」 ア「もう、褒めても何も出ませんよ」 「その美貌を保つのに、手入れが大変だろう？ どれ、わしからチップを渡そう」 渡してきたのは福沢諭吉の描かれた一枚のお札。 それを誰にも見られないようにと私の手の中に押し込んでくる。 本来なら、気安く触るなといって引っ叩いてやりたかったけど、ここでは大事なお客、無礼のないようにしないといけない。 お店でも、何人かの女の子はお客からチップをもらうことはある。 それを売上金として献上するのもいいが、主に自分達のお金になる。 でも、私は売上金として献上していました。 店員「あおいさん、１番に指名が入りました」 マイクトークにて私の指名案内が流れた。 ア「ごめんなさい、他の所から呼ばれちゃった」 「えぇー、残念だなぁ。あおいちゃん人気者だからねぇ」 ア「また私を呼んでね、それじゃ…」 軽くウインクをしてその場を立ち去った。 演技でもいいとはいえ、まだこういうタイプの人は私としては扱いやすい。 中には本当にしつこいお客もいるから。 お店の管理もしっかりしてるから女の子は安心していられるけど、店の中でダダをこねる人や、女の子を独り占めしようとする人もいる。 先ほどの社長さんはまだいいお客さんの中に入っていた。 私を指名してきた２人目のお客。 彼こそ、獰猛なハイエナとしか言いようがありませんでした。 ア「ご指名ありがとうございます、あおいです」 「あ、きたきた！あおいちゃあーん」 何なのこいつ…という言葉が、私の頭によぎった。 こんな高級クラブに相応しいとはいえない風貌。 髪の毛はボサボサだし、服装はトレーナーとジーンズ、本当に金持ってるの？といいたいくらいの人でした。 何でこんなのをお店に入れたんだろう。 失礼極まりない言葉が並んでくるけど、本当にそうなんだもん。 ア「の、飲み物は何にします？」 「…じゃあ、山崎１２年」 うちではまだ安い方のウイスキーである。 といっても、ボトルなら１０万は手堅い。 グラスでなら１万は覚悟していた方がいい。 飲み物がやってきて、私達は何の感情もない会話を交わした。 「俺、山田通販の代表なんだよ、よろしくね」 ア「あ、はい。じゃあこれ、私の名刺です」 山田通販といえば、インターネット通販市場では上位に入る大手企業である。社長といえば、スーツ姿で少し年季の入った人ばかりだと思っていたけど、意外でありました。 でも、正直言ってこの男は最低でした。 山田「な、俺の秘書になったら今よりお金も良くなるよ？」 ア「いえ、この仕事が楽しいんで…」 山田「綺麗な足だよねぇ、ちょっといい？」 ア「ちょっと！ここはお触り禁止です」 山田「何で？いいだろ、金は払うからさ…」 高級クラブの客とは思えないほどのマナーの悪さに私は頭にきました。そして、スタッフを呼びました。 女の子を不快にさせたお客は、今後お店の出入り禁止、そして罰金も支払われるのでした。 店員「お客さん、今すぐ引き取ってもらいますか」 山田「な、何だよ？俺は客だぞ！」 店員「こちらも商売ですから…」 二人組みのがたいのいい店員に引っ張られ、会計レジまで連れて行かされたあの男。いい気味でした。 店員「じゃあ、そろそろあおいさんは上がってください。後は大丈夫なんで…」 ア「はい。じゃあ、お疲れ様です…」 お店は深夜の２時で閉店するので、私はその一時間前、１時にワークアウトするのでした。 ロッカー室に入って、紺のワンピースドレスから、普段着の格好に着替えていきました。 着替え終わったら、タイムカードを押して、後は退室するだけ。 店員「あ、お疲れ様です」 店内の掃除や洗い場を任せられる新人のボーイ君達。 彼らは夜の街で成功するため、またはお金が必要でこんな大変な日々を過ごしているのかと思うと、頑張ってと応援したくなる。 ア「お疲れ様」 ひたむきに目標に向かって頑張る、男の人の背中がとても大きく見える。 頑張ってね、そういって私は店を後にした。 時間は午前１時を回っていたというのに、止む事を知らない人だかり、電光の明かり。 その中を私は一人、黙々と人波に紛れながらも歩いていく。 そんな中、私の運が悪いのか、今の日本の状勢が悪いのか、有り得ない出来事が起きました。 山田「あれ？あおいちゃんお仕事上がり？」 ア(うわ…！さっきのタチの悪い客…) 私の選択肢、逃げる、我慢する、歯向かう。 逃げるにしても、ハイヒールを今日履いているため上手く走ることが出来ない。 我慢するなんて選択肢は相手の思う壺。 となると、歯向かうしかない。でも、相手が女にも容赦しない野蛮な男だったら、私は２番の選択肢にならざるを得ない…。 何事もなく通りすがる人の流れの中、私の中で万事休すな状態が生まれた。 |
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| 2008.11.1掲載 |
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