現地に着くと、彼らは指定されたホテルのそれぞれの部屋で、つかの間の休息をとることになった。そして、それは、この南の美しい島国で始まる物語の序章だった。

　気流玲子は、このフライトを、翼と個人的に接触するチャンスだと思っていた。裕福で美貌の彼女は、幼い頃から周囲の目を一斉に集めてきた。だから、何故か翼のように、自分に強い関心を持たない人間が気になってしまう。それに、彼女は翼の広い肩や、柔らかそうな髪や、涼しげな目に惹かれている自分も感じていた。男性とか女性とか、上とか下とか、そんなことに縛られない伸びやかな感性も好きだった。
　彼女の計画は・・・ストレートにただ一つ。いささか自信のある、自分の女性的な魅力を最大限に見せつけて、落とす・・・。彼の心を掴むより、体を奪いたい。それは、人間的な、心が欲しいという欲求よりも、むしろ気に入った牡を欲しいと思う、獣の本能に近かった。

　パイロットが睡眠をとり、レストランに食事を摂りに来る時間を見計らい、玲子もテーブルについた。しかし、翼の姿はなかったので、努めてゆっくりと食事をしながら彼を待った。程なくして、翼が現れた。味はいいのだが、代わり映えのしないメニューをかなりのスピードで口に運ぶ・・・そんな様子も玲子には好ましかった。彼がナイフを置くタイミングをはかり、彼女は席を立った・・・。
「青空君、今夜、これからの予定はある？」
「え・・・」
　突然声をかけられて戸惑っている翼の反応を利用して、彼に答えさせる隙を与えず、畳みかけるように言葉を続けた。
「よかったら　私の話を聞いて欲しいんだけど」
　玲子は、チャイナドレス風のタイトなワンピースを着ていた。そのスリットは太股まで切れ込んでいる。彼女は右足を少し持ち上げ、前に出すような形にして立った。白い太股がスリットから覗くのを計算していた。そして、小首を傾げ（かしげ）彼の瞳をのぞきこむようにして、囁くように尋ねた。
「だめ？」
「あ・・・はい」
　翼に断ることは出来なかった。

　１０分後、そのホテルの地下のカクテルラウンジのカウンターに　二人は並んで座っていた。
　二人は、仕事に関する当たり障りのないおしゃべりを、暫く続けた。彼が１杯目のグラスを空にする頃、彼女は若く美しい牡を、捕獲する準備に入った。
「あのね・・・翼君・・・私の話というのは、実は仕事に関することではないの」
「あ・・・はい・・。」
「それでも、構わない？」
「女性が困ってらっしゃるのでしたら、それに答えるのは、男の義務かもしれませんね。お役に立てるかわかりませんが、おっしゃって見てください」
「そんなに堅いことを言うつもりはないわ。敬語はやめて。プライベートでは、一人の人間どうしでしょう？先輩とか後輩とかは、なしよ」
「わかりました。・・・あ・・・あはは・・わかったよ。話してみて」
「うふふ。あのね・・・翼君は、女性の心理ってわかるかな？う〜ん　心理って言うより・・・生理って言う方が　正しいかもしれないけど」
「え・・？」
　玲子の計算された沈黙が流れた・・・。
「単刀直入に言うわ。私　生理前になると、とっても欲しくなるの。意味分かるわよね？」
「・・あ・・・はい」
「それで　今夜　あなたに私の相手をして頂きたいの？いかが？」
　翼は、かなり戸惑ったが、先程の玲子の態度から　全く予測できない展開ではなかった。イエスかノーか・・彼の迷いは一瞬だった。女性にここまで言わせて、傷つけずに断る自信はない。そうなると答えはひとつだった。
「いいですよ・・・。お望みに答えられるか自信はないけど」
「では、グラスの中身がなくなったら、私の部屋へ行きましょう。誰にも見つからないように来てね。私は、先に行くわ」
　玲子は、グラスの中の液体を一気に飲み干し、スツールを降りた。翼は、軽い興奮状態の自分を落ち着けるように、ゆっくりブランデーを回しながら時間を掛けて、飲み干した。

　玲子の部屋のドアを開けると、彼女はガウンを纏った姿で翼を迎え入れた。翼はドアを閉め、鍵を掛けると、振り向きざまに、玲子を抱きしめた。その行為はストレートで、玲子は言葉を無くしたまま、じっとしていた。しかしすぐに、彼女も余裕を取り戻し、両腕を翼の背中に回し力を込めて、抱き返した。その時間を暫く過ごすと、体をそっと離して、玲子に口づけた。唇を重ねたまま、玲子を抱きかかえ、ベッドルームへ運んだ。その間、ふたりは無言だった。

　ベッドに玲子を横たえ、翼は舌先で玲子の唇を舐めた。閉ざされていた狭間が開いていく。翼の舌が口内に入ると、玲子は積極的に舌を絡めてきた。
「キス・・・上手ね」
「もう一度しようか？」
　返事が返ってくる前に、玲子の唇が近づいてきた。翼はキスをしながら、玲子のガウンの紐を解きに掛かった。ガウンの下から　現れたのは、情熱的な真紅のショーツ一枚だった。ショーツの縁に指をかけ下げていく。ショーツを足首まで下ろした。その先は、玲子が右手を伸ばし、足首から抜いた。再び舌を絡ませあいながらベッドの上に倒れこんだ。
「う・・ううぅぅん・・」
　玲子が甘い声を出す。翼は、玲子の頭の下に右腕を差し込み、激しく舌を絡ませあう。二人のテンションが一気にあがる。長い口づけを終え、翼は腕をそっと引き抜くと、半身を起こした。玲子は深紅の唇を半開きにし、翼の瞳を見つめ返す。
「青空君・・・脱いで・・」
「青空君は、やめて・・。今は　翼でいいよ」
「分かったわ・・・じゃ・・・私も　玲子って　呼んでね」
「うん」
　翼は、玲子の瞳を見つめたまま、左の乳房にそっと右手を置いた。
「玲子・・奇麗だ」
「あ・・・あん・・・・」
　玲子の声に躊躇いの色はない。指先に軽く力を入れ、ゆっくり回すように動かしてみる。弾力に満ちた感触が、翼の全身を柔らかに包み込む。手のひらの下で、乳首が硬く尖ってくるのが分かる。
「あっ・・ああん・・・」
　乳房の質感を十分楽しんでから、親指と人差し指で膨らんだ乳首を摘んだ。
「あん・・・」
　玲子の口から艶めかしい声が漏れ、仰け反るような反応を示す。翼は尖った乳首に口づけた。唇で挟み込むように、その感触を味わうと、舌で乳首を舐め上げた。
「あっ　あああん」
　玲子は、翼の頭に手を回し、喘いだ。彼女が求めていることが何であるのか、はっきりしている以上、しつこすぎる前擬は必要ないと判断した翼は、即座に玲子の股（もも）の間に手を伸ばした。
「あ・・ああん」
　そこはすでに潤っていた。その雫を掬い上げるようにして、女唇全体に塗り広げると、柔らかなタッチで摩擦する。
「あう・・・あん・・・いい・・・・あぁぁぁ」
　玲子の足がゆっくりと開かれていく。それを確認すると、翼は中指をその中に挿入してみた。抵抗無く、ぬるりと膣の中に滑り込んでいく。
「あっ・・・あああぁぁぁ・・・・・」
　一際　甲高い声で　玲子が応える。
「玲子・・・玲子のなか・・・熱いね・・」
「あっ・・・ああ　・・・やっ」
　差し入れた中指を、根本まで埋め込むと指を回転させ、その感触を楽しむ。そして　ゆっくりと出し入れし、熱い襞を刺激する。
「う・・うん・・・恥ずかしいこと・・・言わないで」
「ホントのことだから・・・」
「あ・・・あああぁぁ・・・」
　甘美な刺激に玲子は言葉を続けることが出来ない。
「玲子の体は　正直だね・・。」
「ああ・・・だから・・・ああ・・・いや・・・って・・・ああぁぁぁ・・」
　翼は、玲子の足の間に、自分の体を滑り込ますと、玲子の足を立て、ゆっくり開いた。
「たっぷりと　満足させてあげる」
　そう囁いて、ゆっくりと顔を埋めた。石けんの香りと彼女が自ら流し出した液体の匂いとが混ざり合って、翼の性欲を刺激する。小豆粒程のクリトリスを舌先でつついた。
「あっ　あああん」
　玲子は大きな声をあげ、背中を反らし、腰をつきだした。翼の唇に彼女の濡れた部分が押しつけられる。左右のラビアを吸引したり、クリトリスを強く吸ってみたり、舌を奥まで入れてみたり、翼は口での愛撫を続けた。
「あぁ・・・ああああ・いいの・・・きもち・・いいいいいい」
「気持ちいい？」
　翼は顔を上げ　玲子に尋ねてみた。
「う・・・うん・・いいの・きもちいい　もっと　もっとしてぇ」
　玲子の強請る（ねだる）声に、翼の限界は音を立てて切れた。
「うん・・でも・・・今度は、玲子が一番欲しかったもの・・・入れてあげる」
　翼は、自らのいきり立つ性器を、玲子の潤った部分に宛うと、ゆっくりと腰を沈めていった。
「あっ・・・ああああぁぁぁ・・・・」
　一気に入りたい気持ちを抑えて、中途半端な状態で、玲子の乳房に手を伸ばす。
「ああぁん・・・焦らさないで・・・早く・・」
「これ・・・欲しかった？」
「いじわる・・・・知ってるでしょ？」
「ふふ・・・うん・・知ってる・」
「あん・・・はやく・・来て」
「行くよ・・・」
　乳房を鷲づかみにしたまま、玲子の奥まで、一息に挿入した。
「あああああああぁぁぁ・・・・いいいいいい」
　玲子の中に全てが埋まると同時に、彼女が腰を大きく突き上げてきた。同時に強い力で締め付けられる。
「翼・・・いい・・・とっても・・・」
「どう　いいの？」
「あ・・あたるの・・・奥に・・・あたるの」
「どうして欲しい？」
「動いて・・。いっぱい　欲しいの」
　玲子が言い終わらないうちに、翼は激しい抽送を開始した。音がする程激しく腰を打ち付ける・玲子の襞が翼を熱く柔らかに、時に、きつく締め付けてくる。
「あっ　あっ　あっ・・・あん　あん」
　送り出される刺激に合わせて、玲子が声をあげる。翼の息づかいも荒くなり、二人の体温が上昇してくるのが感じられた。
「あっ　いい・・あっ　あっ　あっ」
「う・・はぁ　はぁ　はぁ」
　翼はこみ上げる射精感を抑えるべく、動きを弱めると、玲子の腕を引っ張り上げ、体を反転させると、仰向けになった。
「自分で動いてみる？」
「あっ・・・あん」
　玲子は言葉で返事をする変わりに、ゆっくりと腰をグラインドさせ始めた。女性上位の形で艶めかしく動く玲子・・・。はじめはゆっくり動いていたが、次第に自分の得たい刺激を求めて激しく腰を動かす。
「はぁぁん。もう　だめ　・・・だめ・・・我慢できない・・」
「う・・うん・・僕も・・・いきそうだ」
「い・・一緒にいって・・」
「う・・うん」
　翼は起きあがると、動き続ける玲子の体を抱いて、押し倒す。そして両足首を掴み、足を高々と上げた格好で、玲子の中を激しく突いた。玲子は奥まで貫かれ、強い快感に一際大きな声で、喘いだ。
「あああぁぁぁ・・・あん　あん　あん・・いいい」
「う・うん・・」
「だめ　もう・・・だめ・・・」
「う・うん・・・はぁ　はぁ・・
「あああ　ああ　あん　あん　あん・・・」
「いい？」
「いいい・・とっても・・・いい・・・ああああ・・・だめっ」
「はぁ・・・はぁ・・・いいよ　いって・・・玲子・・・いって」
「ああぁあん　・・・うん・・・もう・・・」
　玲子は体を反らすと、高く長い声をあげた。
「ああああぁぁぁぁ・・・・・・・・・」
「くっ・・・・ぅっぅぅぅ」
　玲子の爪が翼の背中に食い込む。軽い痛みが背中に走り、それが、玲子の達成感の強さを物語っているようで翼は、嬉しくなった。そして強烈に締め付けてくる玲子に我慢の限界を超え、最後の瞬間を予感し、腰を引いた。とたんに、たくさんの白い液が玲子の体の上に降り注がれた。

　玲子はそれに気を止めた様子も見せず、翼の目を見つめると、翼の首に手を回した。二人はゆっくりと唇を合わせた。
「よかった？・・満足した？」
「ええ・・わかってるでしょう？」
「ふふ・・・うん・・・そうだね・・」
　もう一度キスをして、息が整うと、玲子はいつものどこか冷たい感じのする美しい声で、翼に告げた。
「あのね・・・青空くん・・今日のことは二人だけの秘密ね・・。」
「う・・うん」
「そして、プライベートをはずれたら、あなたは新人パイロットの青空君・・そして・・」
　翼は、玲子の唇に、人差し指をあて言葉を遮ると、後を続けた。
「あなたは、クールで美しいキャビンアテンダントですね・・・気流さん。」
　翼は玲子に皆まで言わせず、また　玲子の唇に軽くキスをすると体を起こして、脱ぎ散らした服を拾った。

つづく