２　やじろべー

　こじんまりとした会社のため出勤時も、お客と同じ玄関から入り社員入り口などという物もない。

「おっ、おはよー」と先に来ている先輩社員に声を掛けられながら、ロッカールームへ向かう。
　このロッカーは、あまり女性にはうれしくない作りで入り口に鍵はあるものの男女共用の狭苦しいスペース。

　『着替え中』の、プレートが掛かる扉の前でノックをする。

「コッコン」

「はい！」若い声が狭苦しいスペースよりする。
「奈々ちゃん？開けれる？」と佳乃が問うと扉は開き、中からまだ女子高生ではと間違いそうな着替え途中の西野奈々（２１）が顔を出す。

「佳乃さん。おはようございます。」
「おはよ。奈々ちゃん。」先に制服に着替えた奈々が佳乃に言う。
「見ました？佳乃さん、イケ面銀行員！」と隣に聞こえないよう小声で耳打ちする。
「ん？なにイケ面銀行員って」同じく耳打ちし
「会議室で社長となにか打ち合わせしてるんですけど、その銀行員がとてもいけてるんですよ。」
「そんなに？いつもの銀行の人じゃないの？」と上をむき佳乃の知ってる行員の顔を思いうかべる。

「ちがいますよ、あんなエロ目線の親父臭いのとは雲泥です雲泥！」
「なんだか違う銀行さんらしいです。」
「社長あの銀行に取引変えないかなぁ。」
「そしたらあのいけてる人ともしかして・・なんてことが」とあきれかえる佳乃に、

「あー、呆れちゃいますよね。佳乃さんはいいなーだって人妻だもん。わたしなんかまだまだ小娘扱いだもん」
　とこぶりな胸を寄せる。

「何言ってるの、若いっていいわよ。私みたいに子供できたら２４でもおばさん扱いよ。」と同じく胸を寄せる。
「佳乃さんのおっぱい理想だなー私。」
「奈々ちゃんも子供ができたら大きくなるわよ。」
「あのイケ面の！」特に小声で奈々が発する。

　紺色のベストに、丈は膝が見える程度で二日目の少し皺の入ったベストと同じく紺のタイトスカートに着替え終わると、
「さあさあ、仕事仕事。」二人揃ってロッカーを出る。すると

「近藤さんに大島さん今回はいい話になりました。これからもよろしく頼みます。」

　と深深と頭をさげ、隣の会議室から爬虫類顔の社長の山本（５６）につづいて奈々好みのイケ面銀行員近藤、その二人だけかと思いきや、最後にダークスーツに身を包んだ、てかてかしたおでこが見苦しい社長と同年代の大島と呼ばれる男が続く。

「いやいやーやまもっさん、こちらこそ永い付き合いよろしゅうたのんまっせー。がははは」

　と下品な声で大島が社長を見下し言うと、着替えを終え出てきた二人が会釈をする。
　頭をあげると奈々は近藤の顔を熱にうなされた病人のように見つめる。

　近藤は名刺を二人に渡し、某地方銀行の行員であることを明かす。
　一方の大島は社長となにやら話しこんでこちらには気づかない。

　社長と大島の横を通り過ぎようと二人が進むと、大島がニヤケタ顔で社長に、
「社長、このべっぴんさんはおたくのこれでっか？」と古い表現で小指を社長の目の前に差し出す。

「いえいえ、ふたりはうちの従業員の加山君と西野君ですよ。ハハ、ハハ」と二人にすまなさそうに否定する。
　少しむっとした二人に気がつくことなく大島が、
「なーんやそうでっか、うちの会社にこんなねーちゃんおったら、毎日が天国やのになー。」
「社長はん、交代しまへんかわしと、えっ？」
　目をぎょろぎょろとし市場で肉を品定めをするように二人を凝視する。

　朝から嫌な気分になり、二人はそそくさとあたまをさげながら大島らの前をやり過ごす。
　社長が玄関のほうへ進むと、大島は奈々と佳乃の後姿を凝視し、心の中でつぶやく
（あのおなごら、ええ尻しとるがなぁ。）
（おおっ、スカートぴっちりしとるからすけべぇなパンツの線が丸わかりやないかっ。）
（エロいパンツはいてからにっ！若いほうは少し喰いこんどるがな！ほっほっ。）
（仕事終わりにひんむいてええ匂い嗅いでやりたいわっ。）
（も一人のねぇさんはパンツの股の生地の分厚いとこまできっちり見えとるやん！）

（あの部分だけ切り取ってマスクにしたらおもろいやろな。）
（んっこのまま二人とも連れ帰ってええ匂いのパンツひんむいてお○こべちょべちょにしたるのにっ！）

（わしはあの若い西野ゆうねーちゃんがたまらんのやけどなぁ、総帥はも一人のほうやなー多分。）
（ま、他の会社からもようさん来るやろからどの子が餌食かわからんが、またあの会員さんらを喜ばすことは、まちがいないやろなー。）
　
　遠くからでも二人の尻を触るかのような手つきでおどけてみせる。

（おなごはええ。べちょべちょのお○こはもとより、尻の穴、喉の奥、はたまた小便の穴、女の穴という穴全部使うてまでわしらの為に、あの変態共から大金を巻き上げてくれるんや。
　その金でまた新しい餌を仕入れられ、無限の利益が変態と我々のまわりをぐるぐるとまわるんじゃからなぁ。）

　笑みを浮かべながら手を合わせ何かにわびるように合掌する。

　この大島の手の上に乗せられた佳乃のやじろべーは、この時右へ左へと大きく振れはじめる。