中学２年の時の話だ。
　その頃うちは、東京近郊のとある街に住んでいて、母の実家もその近くにあった。
　７月の盆の時期に、家族みんなで墓参りに行くことになって、唯一の親しい親戚だった、母方の叔母も誘うことにした。

　その叔母は、埼玉県で一人暮らしをしていた。
　歳の離れた旦那さんとは、その５年ぐらい前に死に別れていて、自宅で華道を教えていた。
　年齢は、母と８つ違いで、この当時３７才。
　死んだ旦那さんから、かなりの額の遺産と広い家を相続していて、暮らし向きは比較的楽で、華やかだった。
　伯母の記憶でよく憶えているのは、着慣れた着物姿とおみやげの菓子のことだ。
　伯母は、ウチに来る時はいつも、落ち着いた柄の地味な着物を着ていた。
　母に訊くと「とても高価なものなのよ。」と、教えてくれた。
　またいつも、俺と弟のために、三越の袋に入った高そうな菓子を買って来てくれた。
　銘柄はわからないが、この菓子は、母に頼んでも買ってもらえなかった。

　墓参りに行く日の二日前、母が伯母の家に電話をいれた。
　昼の時間に、何回か連絡したにもかかわらず、電話には誰も出なかった。
　母は、その日の夜にも、もう一度電話をしてみたが、やはり伯母の家の電話は鳴り続けるばかりで、応答がなかった。
　風邪を拗らせて寝込んでいるのではないか、そう心配した母は、次の日、俺に見舞いの品物を持たせて、伯母の様子を見に行かせることにした。
　ちょうど、夏休みに入る直前の土曜日だったと思う。
　だが俺の方は、伯母の様子は知りたいが、伯母自身とは顔を会わせたくない、複雑な心境だった。
　実はこの少し前、伯母を女として意識する特別な出来事があった。

　親戚全部が集まる法事を催した時のことだった。
　全ての法要が終わった後、みんなでうちに集まって、食事会をした。
　伯母は、着替えを済まし、母を手伝って食事の準備をしていた。
（この時は、珍しく洋服姿で、スカートを穿いていた。）
　すべての準備を終えた伯母が、俺の家族と一緒に、すぐ近くの席に座る。
　しばらくして、伯母が何かを取ろうとして腰を浮かせかけた時に、それは起きた。
　正座をしていた伯母が、立ち上がろうとした拍子に姿勢を崩した。
　そして、片膝を突いた格好で、スカートの隙間を大きく開けてしまう。
　その時・・片方の脚の内側、曲げた素足の踝から白い太もものつけ根までが、一瞬、まる見えになった。
　これは普段の伯母の動作からは考えられないことで、多分、立ち上がろうとした時に座布団が畳の上で滑って、身体のバランスを崩したのだと思う。
　伯母も自分のこの失敗にすぐに気づいて、急いで膝を閉じ、両手でスカートの裾を直しながら、素早く辺りに視線を走らせた。
　幸いにも俺以外は、この失態に気がついた人はいなかったが、俺自身は伯母の下半身から目が離せずに、目を見開いたまま凍りついてしまっていた。
　一瞬の後、我に返った時には、伯母が俺の顔をじっと見つめていた。
　その時の伯母の顔は、全く無表情に見えた。怒ってもいないし、困ってもいない。
　いっそ笑ってくれたらどんなに気が楽だろうか、とその時は思った。
　俺はすぐに顔を伏せて、伯母の目から視線を外したが、伯母の方はそのまま暫く、俺の顔をじっと見つめていたと思う。
　その時から、伯母の事を思い出すと、必ず勃起するようになった。
　記憶にある着物姿から、その中の真っ白な太ももや、形のいい尻を連想してしまう。
　一度勃起してしまうと、もうどうにも鎮まらなくて、いろいろな所で抜きまくった。
　家の物置や、家族の入っている炬燵の中、学校の屋上や近くの薮の奥で。
　そんな時は決まって、すすんで伯母が俺の相手をしてくれているところを想像していた。


　伯母の家に着いたのは、昼少し前の時刻だった。
　やはり、どこかおかしい、とすぐに感じた。
　新聞や郵便物などは取り入れてあるが、玄関の外灯は点いたままになっている。
　玄関扉には鍵がかかっていた。
　俺は、そのまま庭の方に回ってみることにした。
　伯母の家は平屋の純和風の建物で、襖で区切られたいくつかの和室を、周り廊下と奥廊下が取り囲む構造になっている。
　垣根の戸をくぐり、庭に入ってみると、雨戸は開けられていて、奥の部屋に明かりが灯っているが見えた。
　伯母は、家の一番奥の、通常は書斎などに使う部屋に、カーペットを敷き、ベッドを置いて、寝室として使っている。
　この方が、客が沢山訪れた時などは、楽なのだときいた事がある。
　俺は、庭に面したガラス戸を開けようとしてみたが、やはり全ての戸に鍵がかかっていた。
　仕方がないので、裏の勝手口を試してみることにした。
　幸い勝手口の戸には、鍵はかけられていなかった。
　引き戸を開け、中に入る。
　勝手口の上がりには、汚れたスニーカーが脱ぎ捨ててあった。
（なぜかこの時、声をあげて、家の奥に呼びかけようとは思わなかった。不思議と危険は感じなかったし、何か家の中の秘密を、調べているような気分になっていた。）
　そのまま、静かに靴を脱ぎ、台所に上がると、家のどこかから話し声が聞こえてくる。
　その声は若い男のもので、時々笑いが混じっていた。
　俺は、奥の廊下を玄関に向かって進んだ。家の奥の方は、意外と涼しくてひんやりとしていた。
　どうやら、話し声は、伯母の寝室の方から聞こえてくるらしい。
　そのまま音をたてないように注意しながら、寝室の隣の部屋の障子戸をそっと開け、その中へ忍び込む。
　やはり話し声は、隣の部屋から聞こえてくる。
　この時、物凄くドキドキと、胸が高鳴ったのを憶えている。
　俺は、隣の部屋との境に躙り寄ると、目立たぬように、部屋の隅の襖戸をそっと数センチ引き開いた。
　恐る恐る中を覗き込んでみると、丁度誰かが部屋から出て行くところだった。
　周り廊下の側の障子戸が、閉まるのが見えた。
　その部屋の中は、とても明るかった。
　俺が覗いている位置からは、直接ベッドの上を見ることはできなかったが、気配でその上に誰かがいることがわかる。
　部屋の隅に置いた机の上には、汚れた皿やコップなど、使い終わった食器類が山積みになっている。
　また、ベッドのすぐ脇の足側には、大きな三脚が設えられていて、今のものとは違う大型のビデオカメラがベッドの上を狙っていた。
　何かムッとする匂いが、襖の隙間から漂ってくる。
　覗き始めてすぐに、隣の部屋に少年が戻ってきた。
　表側の障子戸を開け、部屋に入ってきたその少年は、俺よりも少し年上に見える。高校生ぐらいだろうか。
　上半身裸で、手には大きめのコップを二つ持っている。
　その時、ベッドの上で何かが動いた。
　黒く光りながら波打っているそれは、丸まった人間の背中のように見える。
　部屋の中からは、「ハッ・・ん・・あぁー・・あ゛〜〜〜ぁ」という、啜り泣くような女の声が聞こえてきた。
　その声は当然、伯母のものだろうが、普段の明るく澄んだ声とは全然違う、低く気怠いような声で、どうしても本人のものとは信じられなかった。
　先程の男の子が、ベッドの脇に立って何かを話しながら、コップの中身を飲み始めた。
　俺が、もっとよくベッドの上を見ようと、いい位置を探しながら必死になって寝室の奥を覗き込んでいると、ふいにベッドの上から女の白い手がすっと伸びた。
　すらりとしたその手は、見慣れた伯母の手そのもので、右手の薬指には、母が贈った指輪が輝いている。
　脇に立つ少年に向かって伸びたその手は、裸の腹にそっと触れると、そのまま滑るように彼の脇腹に絡みついてゆく。
　一頻り、引き締まった少年のウェストを撫で回したその手は、やがてもっと下の目的に向かって、ゆっくりと滑り降りていった。
　浅黒く日焼けをして、逞しい体格をした少年が、ベッドの上で上体を起こし、夢中で腰を前後させている。
　その少年の話す言葉が、今度ははっきりと聞こえてきた。
「ふうぅ〜気持ちがいぃ。１０回目・・こんなにしたのは初めてだ。けど、もっとしたい。」
「ほんとか？、俺はまだ８回目だけど、もう腰の感覚がなくなってる。」
　そう話す色白の少年の股間には、伯母の白い手が貼り付いたままになっていて、ズボンの表面に浮き出た、勃起したペニスの形をなぞるように撫で回し、まさぐっている。
「嘘だろ、物凄く興奮しないか？、何回出しても勃ったままだし・・このままずっとやりまくりたいな。」
「お前、少し寝ろよ。昨日からずっとやりっぱなしだろ。」
「へへへ、そうだな。入れたまま寝るか・・」
　色の黒い男の子が、そう言いながら上体を前に倒し、ベッドの上に覆い被さると、下からあの真っ白で豊かな太ももがゆっくりと起き上がってきて、男の子の腰を両側から挟み込んだ。
「おぉ・・・」「ぅ〜〜柔らけぇー・・」
　ベッドの上から、深く蕩けるような吐息と、切羽詰まったような嬌声が聞こえてくる。
　これを見たもう一人の少年は、急いでズボンを脱ぐと、ベッドの上に駆け上がった。
　そして、相手の顔を跨ぐようにして、ベッドの頭側に向かって跪く。
　下から２本の手が伸びてきて、真上を向いて勃起している少年の先端を包み込むのが見えた。
　その子は大きく肩で息をしながら、そのまま暫く、愛撫される自分の股間を見下ろしていたが、急に腰を深く落として、その場に座り込んでしまう。
　よく見ると、下から伯母の手が男の子の腰に絡みついている。
「アッ、凄ッ・・ん〜〜ッ！」
　下半身を搦め取られた男の子は、伯母の頭を下腹に抱え込んだまま丸く踞まり、そのままブルブルと全身を震わせ始める。
　俺はここで、どうしても我慢ができなくなり、ハンカチで先端を包んで、その中へ出すことにした。
　音を立てないように注意しながらズボンのチャックを降ろし、一杯に勃起したペニスを取り出す。
　そして、夢にまで見た伯母の喘ぎ声を聞きながら、一心不乱に自分自身を扱いた。
　それから、微睡むような陶酔の中で立て続けに数回射精をして、持っていたハンカチからポタポタと精液が溢れ出した頃、やっと俺は、強い罪悪感を感じ始めていた。
　実の伯母のセックスの様子を盗み見ながら、夢中でオナニーをしていることが、とても悪い事に思えてきたのだ。
　ベッド上では丁度伯母が、前と後ろから同時に少年を受け入れ、サンドイッチにされたまま歓喜の悲鳴をあげている最中だった。
　浅黒い少年の上に跨がり、彼に豊満な乳房を与えながら、背中にのった少年に真っ白な裸体を揺すられ続ける、妄想のままの伯母の姿が見える。
　俺は、勃起したままのペニスを、必死でズボンの中に押し込みながら、
（「録画したビデオは、どうするんだろう？、後であいつらが使うのかな？、いや、誰か他の人に見せるつもりなのかも・・」）
　そんなことを考えていた。

　今思い出すと、なぜあんな事をしたのかわからないが、それから俺は、母から預かった荷物をそのまま玄関に置いて、黙って帰ってきてしまった。
　伯母には、覗かれていたのがすぐに判ったと思う。
　日曜日の墓参りの日には、何事も無かった。
　伯母は俺に話しかけなかったし、俺の方も、伯母とは目を合わせないようにしていた。
　それから数年後、突然伯母が亡くなった。子宮ガンだった。
　自分でも嫌になってしまうが、その時は、使い過ぎが原因ではないか、と真剣に考えた事をよく憶えている。