７．壮一、妻瑤子と再会の喜びもつかの間、新たな苦しみが

　薄暗い歓喜院の本堂には、赤ら顔で猪首の醜男、院主の大修行師・麝香坊（じゃこうぼう）が、赤い色の法衣を、金の模様で派手に飾りたて、太った手首と脂ぎった大きな手には幾重にも巻いた銀の数珠を握ってはげしくもみながら、言葉というよりどなるような声をあげて体を前後にゆさぶり、あたりを威圧している。
　正面の祭壇に据えられた大きな時香盤（じこうばん）という香木を炊く賽銭箱みたいな箱からは、もうもうと煙があがって、強烈な香木（こうぼく）の匂いが堂内に満ちていた。その匂いたるや人の神経を高ぶらせ、衝動に駆りたて、男女ともに股間がほてり、いたたまれなくなる、異様な官能の匂いなのだ。いわゆる抹香にくわえて、より強烈な乳香や麝香、反魂香などが燻され、堂内を隠微な雰囲気に包んでいた。
　祭壇にむかった院主の後ろには、数十人の教導師が色とりどりの法衣をまとって、声明を唱え、またその後ろには、百人は下らない数の修行師、修行女の男女入り乱れて座り、声明に声を合わせていた。
　時香盤と院主の中間には、一段高い場所に純白の絹の敷き布団が２枚祭壇に向かって敷いてあり、それぞれ枕が一個づつ祭壇側におかれ、祭壇に頭を向けて男女が並んで寝る備えになっていた。
　甲高い意味不明の呪文のような歌声の大合掌がえんえんと続いて、髑髏歓喜会（どくろかんきえ）はたけなわだった。

　見ると、堂内の隅のあちこちには、給仕役の修行師や修行女が大皿や鉢の料理を抱えてやさかんに出入りし、鯉や鶏の姿煮や丸焼きが並べられ、酒食の準備が次々にすすめられている。

　同じ頃、男性道場の湯殿では壮一が、修行女の桶の水を股間に浴びながら、一心に手を合わせていた。清めがおわると修行女は、壮一の陰嚢や陰茎に、何かの粉をまぶし、擦り込みはじめた。
「なんですか、これは」
　彼女が陰嚢をもむ間、思わず勃起したセガレをにぎりながら、壮一がいぶかって聞くと、修行女はにっこりして言った、
「強壮剤です。これから、本堂で、今始まった髑髏歓喜会（どくろかんきえ）で、あなたは、わたくしとのこの３日間の修行の成果を試されます。数知れない修行女のみなさんとのお手合わせがあるのです。」

　一方、女性道場の瑤子は、湯殿に四つん這いになって、なぜか捨吉から桶の水を尻に浴び、捨吉の手が股間に水をかけ、捨吉の指が瑤子の割れ目を清めていた。
　脱衣場には、教導師茎心が鋭い目で、瑤子の沐浴を監視していたのだが、門番の捨吉は、無遠慮に清め終わった股間を手ぬぐいで拭きながら、歯を食いしばっている瑤子の尻を空いた方の手で愛撫することは忘れなかった。
　終わると、捨吉は瑤子の手をとって立たせ、その手を引いて、教導師の前に連れていった。捨吉は、上目使いに瑤子を一瞥すると、さっと身をひるがえして浴室の木戸を出た。
　教導師は、全裸の瑤子を寝室に連れていき、布団によこたえると、あらためて瑤子の全身をながめ、胸の盛り上がりのあたり、象牙のような白いすべすべの肌に彼のきゃしゃな指をはわせて、深く嘆息した。
「きょうで、もうあなたは、ぼくのものでなくなる」
　茎心は、つぶやくように言うと、瑤子の乳首を摘んで静かにもんだ。
「はーっ」瑤子は、恥じらいで膝を強く閉じながら大きく息をはいて目をつぶった。
　そして、おずおずと膝を開いた。
　こうして、緊張感のある時間のなかで毎朝の「検分」がはじまる。
「どうぞ、おはじめください」
　瑤子がいうと、茎心は右手を瑤子の股の間に差し入れ、人指し指を１本だけ伸ばして、瑤子の陰門の中心の筋に少し差し入れ、すーっと下へ移動させてから、ある位置で止めると、するするっと指の根本まで挿入した。
「うっ」
　瑤子が体を固くした。茎心の指の動きが痛いのだ。
　茎心は、瑤子の表情を見て、そのことを知り、ほっとした表情になった。茎心は、瑤子の乳首に唇を寄せ、そっと愛撫して言った、
「大丈夫。あなたの「月のもの」から今日で４日。ほら、ご覧なさい、あなたの膣は乾いています。粘液が出ていません。ほら、こうやって指を出し入れしても、糸を引いたりしません。おとといからでした。でももうきょうで３日、粘液がでません。きょうからしばらくは、受胎の心配なく修行にはげむことができます。」
　そういって、乳首にもういちど唇をもどすと、つるりと乳首を口に含み、舌でつつきながら、吸い始めたのだった。
「うーーん！」
　瑤子は、足を踏ん張って快感に耐えている。
　茎心の指は、出し入れがはげしくなり、クチャクチャ音をたてはじめた。
「そら、ご褒美だ」
　左手の指がクリトリスをつまんで、もみはじめた。
「う、う、う、うー、あーん！」
　瑤子は腰で指を追い、甘えた声が口を覆った手の平の下でくぐもっていた。
　膝から力が抜け、泳ぐように瑤子の右手が茎心の作務衣の裾をさぐっていた。
　瑤子は、ささやくように茎心に訴えた。
「どうぞ、菩薩様の法悦のお恵みを！」
　茎心は、瑤子の瞳をみつめながら、瑤子の手を取り股間の高まりに当てて押さえ込み、身をかかがめて瑤子の唇を軽く吸った。
「あなたのこのような清いお体を、ご主人が苦しめていたとは信じられない・・・」
「きょうは、院主様の御前で、あなたとご主人壮一どのとの「まぐわいの儀式」があります。」
「？」
　瑤子は驚きで胸が高鳴った。恋しい夫壮一に会えるのだ。
　慌てて茎心の股間から手をはずそうとする瑤子。
　しかし、茎心はそういう瑤子を無視するように、下履きを下ろし、そそりたつモノを恭しくささげながら、瑤子の膝の間で威儀をただすと、強く膝を合わせて抵抗する瑤子を巨体で押しつぶすようにのしかかり、かすれた声で瑤子の耳元に叫んだ。
「激しく愛を交わすも、菩薩の清浄の境地なり！」
　言いはなつと、強引にこじあけた膝を割り、同時に２０センチはある長尺がずぶずぶっと瑤子の陰門に埋められた。
「あっ」
　瑤子は、亀頭が彼女の一気に子宮口に届いたのを感じた。
　じっと気が通じるのを待つ茎心。はがいじめにされて身動きできず股を太く硬い陽物にふさがれた瑤子。動きが止まったままの時間。
　激しく胸を上下し、ぶつけあい、荒々しい二人の呼吸だけが部屋の静寂を破る。
　と、いきなり茎心が激しく腰を使い、亀頭のエラが子宮口の窪みにこすりつけられ、強烈な快感が子宮をゆさぶる。すると、瑤子は子宮が茎心の先端を吸い込み、あの巨根が子宮の中へ差し込まれたように感じた。今まで体験したことのない、子宮の中の熱いものの動き、動きにつれた鋭い快感！（まさか！そんなことが！）しかし、夢かうつつか、確かに子宮の中が熱い棒にこすられていた。
「あん、あーん、ぎゃーっ！」
　弓なりにそっくり返った瑤子は、長い長い硬直のあと、すーっと意識が遠のいていた。
　
　気がついたら、捨吉が股間を清めているところだった。
　部屋の入り口に、茎心の鋭い目が待っていた。
　こんどは、捨吉はきわめて事務的に濡れた手ぬぐいで瑤子の割れ目をぬぐううと、目も合わさずに背中を向けて、木戸の外へ消えた。
　瑤子は、ふと、茎心は捨吉を試しているのではないかと思った。
　瑤子は身支度へ。作務衣にきょうは下着はつけない。

　茎心はそっと瑤子の耳元に告げた。
「きょうは、何十人もの修行師が相手です。おからだが持たないと困りますので、ちょっとお薬を使わせていただきます。」
　茎心はそういうと、瑤子を布団に仰臥させ、作務衣のズボンを下げると、膝を割って、瑤子の割れ目に何かの粉をすりこんだ。さっきの茎心の愛撫の余韻のある股間に、粉を塗る茎心の指が心地よい。
　クリトリスにもていねいに粉をすりこむので、
「うーーん」
　瑤子は身を反らせて耐えた。
「女性用の強精剤です。続けて強い刺激があると危険ですので、この粉末が、催淫効果と、抑制効果、持続効果、のバランスをとります。」
　茎心はそういうと、残りの粉を瑤子の乳首にまんべんなくすりこんだ。瑤子は、もう少しでまた声をあげるところだった。
　膝に力を入れて大きく広げたまま放心状態の瑤子の股を、茎心は閉じてくれた。
　うながされて、着衣をただすと、ふたりは本堂へ向かった。

　瑤子が、茎心に従って進むと、本堂は、もうもうたる香木の煙のなかで、騒然としていた。
　本堂の前の控えの部屋で壮一が待っていた。瑤子は、夫のしばらくぶりの姿を見つけて、胸が熱くなった。しかし、茎心の後ろで、茎心の背中の汗の匂いと香のかおりに包まれている自分が、壮一の妻としての道を踏みはずしていることに胸がうずいた。そういう自分に、うろたえていた。

　壮一も、一瞬、恋女房の姿、相変わらずの美しさに呆然となったものの、どきどきする心は、自分の作務衣に後ろに控える修行女の移り香が残っておるのではと、しりごみを感じていた。

　あんなにお互いに密かに憧れた、夫以外の男、妻以外の女性を、側に従えての再会は、なんともぎこちなく、いいわけががましい雰囲気になった。
「やあ、元気？」
　と壮一。
「ええ、まあ。あなたは？」
　と瑤子。
　しかし何かよそよそしい。
（どう、よその人とのセックスはよかった？）
　本当は、互いにそう聞きたかったにちがいない。
　いや、むしろ、言えるものなら、瑤子は、（あなたの時みたにに痛くなかったのよ！　きっと、あなたともうまくいくわ！）と言いたかったのだ。
（君は、痛くなかったの？教導師とは気持ちよかったのかい？）
　壮一は瑤子に、まず確かめたかったのだ。

　夫婦は、他人行儀に挨拶し、抱きしめたい熱い思いをじっとこらえて、促されるまま、騒々しい本堂へ向かった。
　本堂の入り口に近づくと、ひりひりするような、なぶられるような香の香りがたちこめて、壮一にも瑤子にも、本堂の大勢の人の気配が、ただならぬ雰囲気であることを感じさせていた。

　入り口で、教導師茎心が床にひれ伏して、祭壇を仰ぎ、うやうやしく礼拝した。壮一と瑤子もそれにならって、深々と頭をさげた。
　ふと頭を上げて堂内に目をやった時、夫婦は仰天した。
　祭壇の前の、広い拝殿の所狭しと、あっちでもこっちでも、男女が抱き合い交合し、もつれあい、口を吸い合い、股を広げ、四つん這いになり、性の宴のまっただ中だったのだ。髑髏歓喜会（どくろかんきえ）、子授け発願の儀式の前触れの祈りだ。
　よく見れば、ふたり組ばかりでない、３人でもつれ、４人で犯し、一人の女を大勢が輪姦し、一人の男を女性が次次に犯している。もな、瑤子、壮一の発願にあやかって、早々と菩薩の世界に身を没してひたすら祈りに身を捧げる修行男女だ。

　広間の周囲には酒食が用意され、一戦交えて疲れをいやす組は、油で揚げた鯉や鶏の足をむさぼっている。これも菩薩の世界だ。何事もむさぼることは、この日大いに奨励されているのだ。

　瑤子は、立っていられないくらいのショックで、教導師茎心にすがって、やっとの思いで堂内へ足を踏み入れた。
　壮一は、茎心の白くきゃしゃな手が瑤子の腰を抱くように支える姿に、一瞬頭が白くなり、焼け付くような嫉妬にかられながら、よろめく足を踏みしめながら、やっとの思いでふたりに従って堂内へ入った。見まいと思う茎心の手と瑤子の腰のふくらみから、壮一の眼は離れなかった。

　茎心は夫婦を院主の座へ案内した。壮一は院主の姿に圧倒された。そして、すぐ事態を悟った。院主の血走った眼が妻瑤子の胸と腰をなめるように見たのを見逃さなかった。
　これから、自分の目に前で、院主は瑤子を犯すにちがいない、と。

　脂ぎった大男の大修行師・麝香坊（じゃこうぼう）は、夫婦をじろりと一瞥すると、茎心を手招きし、耳元でささやいた。
「あのものたちだな？」　
「左様でございます」
「きょうは大丈夫なのだな？」
「はい、しかとこの３日間確かめてございます」
「よし、わかった。さっそくかかろうか」
「承知いたしました」

　院主の前から引き下がった茎心は、壮一と瑤子に耳打ちして、院主のすぐ後ろで祭壇に向かって拝礼し、頭を床につけ平伏して待つように言った。

　院主は祈祷の座を降りて、夫婦の前に座ると、二人の頭の上からしゃがれた声で、ゆっくり話し始めた。
「そのまま聞くがよい。ここは清なる祭壇の前、修行の場じゃ。こころして、わしの言葉を心に刻むべし。」
　院主は、壮一と瑤子の頭に手を置いて言葉をついだ。
「驚くではない。この場の男女は、菩薩の清浄の境地を求めて、修行に勤めているのじゃ。教えはかくあるのじゃ。
　第一、男女の交合の快感、夢心地は、清なる菩薩の境地じゃ。　
　第二、男女の愛欲の激しきは、清なる菩薩の境地じゃ。
　第三、男女の肉のふれあい、まじわりは、清なる菩薩の境地じゃ。
　第四、愛するものと肌を接し抱き合うも、清なる菩薩の境地じゃ。
　第五、異性の他人に欲望を抱くことも、清なる菩薩の境地じゃ。
　第六、男女が交合し快感に身をまかすも、清なる菩薩の境地じゃ。
　驚くではない。おまえたちも、これから、正式に修行に入る。
　きょうから１週間の修行によく耐えるならば、かならず、子宝を授かることができるであろう。
　夫婦の清なる交合も、病癒え、悦楽の天上に至ることであろう。
　これから、どのような試練にも耐え、すべてを受け入れよ。
　さらば、必ず結願成就し、子宝にめぐまれるのだ。
　きょうの、髑髏歓喜会（どくろかんきえ）で、発願の儀式を行う。
　いいな。」
　茎心が後ろから夫婦を小声で促した。
　ふたりは、声をそろえて答えた。　
「委細承知いたしました。お導きよろしくお願いいたします。」

　しかし、壮一は、そのすぐ後、悲嘆のどん底に落ちることになる。
　ふたりは、祭壇に向かって並んだ敷き布団に作務衣を脱いで全裸で寝かされることになる。
　そして、堂内から三々五々集まってきた修行者や教導師が、列をなしてふたりを取り囲むなか、院主がまず瑤子の足下で呪文を唱えはじめた。そして、瑤子の両足首をつかむとグイと広げ、瑤子の股の間に膝をつき、両手を瑤子の頭の両脇について、大きな顔を瑤子の顔に寄せ、耳や鼻や頬から口へ、長い舌をはわせ、なめまわし、驚いて身を固くする瑤子の首から、乳房へ、乳首へとなめたり吸ったりしながら、いつのまにか取り出した巨大な陰茎で、瑤子の下腹部をなぶりはじめ、瑤子のつやつやした黒光りする陰毛のマウンドに、院主麝香坊の拳ほどもある亀頭の先端からあふれる透明な粘液をまきちらし、白磁のような下腹部から黒い森を通って、毛の間に見え隠れする朱色の谷間を下り、粘液をこすりつけながら、割れ目を下へ下へとうかがいはじめたのだ。
　瑤子は、助けを求めるように茎心を見た。茎心は眼を伏せ、ふかぶかと頭をさげてし
まった。

　壮一は、瑤子と並んだ床に横たわり、瑤子を見ないように、真上の天井に渦巻く香木の煙を見つめながら、全身を耳にして、瑤子の息づかいと、院主が乳房をベチャベチャなめまわし、乳首をチューチュー吸い付ける音や、股間を滑る院主の一物のクチャクチャする音を聞きながら、からだのふるえを奥歯でかみしめて耐えていた。
（続く）