英理子、君は、僕のおもちゃだ。もっと僕を楽しませて欲しい。
　うつ伏せの君の白い肌を、微かに浮き出た背骨の影に沿って、僕の人差し指が柔らかくなぞって行く。
　僕の指は平坦な道筋を辿り、君の神経を刺激する。
　英理子、君の赤く、つやつやした、厚めの唇から、漏れてくる、いやらしい女の声が僕を切ない気持ちにさせる。
　その声は、君の平坦な背中のラインが、大きくくびれた君の腰の谷間の底へ、無骨な指が差し掛かった時に、僕を驚かせるほどの大きな喘ぎ声になる。
　僕の指は、君の声を無視して、肛門へ向かう道を辿り、急な坂のような君の柔らかな臀部を這い上がる。
　美しい身体の中で作られた排泄物をこの世に送り出す恥ずかしい穴の上で、指を止める。
　やめて、そこ、いや。君は、僕に懇願するように切ない声で言う。
　だめだよ。僕は、吐き捨てるように言うと、君の恥ずかしい穴の周りにできた立体的な模様のようなしわの部分を軽く押してみる。
　指の先が君の排泄口にめり込む。君は、身をよじって僕の指を振り切ろうとするけれど、僕はそれを許さない。君を力ずくで押さえつける。
　君の白い背中に、僕の大きな手がのしかかり、君の動きを封じ込める。だめだよ、止めないよ。だって、君は僕のおもちゃだもの、僕は心の中で冷静に言う。僕を心から慰めて、心から楽しませて。
　僕の体も君を求めている。ほら、今君があげた、滑らかで美しい声が、僕のペニスをこんなに興奮させてしまった。
　僕は、それを君に知らせたくて、力が入った君の手を取って、僕の固くなった肉に、柔らかで白い指を絡ませた。
　君は、わざと無反応に、僕の肉を握っている。僕は、その手を僕の手で覆って、しっかりと掴ませて、前後にスライドさせた。
　僕の肉はますます血流を得て、大きくなる。でも君は、それにも無関心な振りをして、声も上げない。
　もっと僕を興奮させてくれなけりゃだめだよ、だって君は、僕のおもちゃなんだから。
　僕は、さっきまで僕のもう片方の手の指が連れていた美しくて恥ずかしい穴の模様に、唇を近づけキスをした。君は、止めて、本当に止めて、と声を出す。僕はそれには耳を貸さずに、君の手を握り締めスライドを続ける。
　僕の片方の手は、しっかり君の片方の手を押さえつけている。君の折れそうな手を傷つけないように、僕は細心の注意を払う。僕は、キスした唇をなだらかな坂道にそって這わせて、首筋のほうへとゆっくり移動させてゆく。その間、君の唇からは、また、いやらしい女のうめき声が漏れる。
　そうだよ、僕を楽しませて。君が僕に握らされている肉の先端から、粘り気のある、恥ずかしい透明な液が、溢れて来てるのがわかるかな。
　それが今、君の細い指に絡み付いて、光っている。君の指先が小さくて、白いペニスのように見えるよ。
　僕は、英理子を、仰向けにした。
　英理子の目は、いつものように、僕には向かずに壁のほうを向いている。ワタシハハ、ホントウハ、アナタノコトナンカ、アイシテイナイ。君から強烈なメッセージを受け取る瞬間だ。でも、僕は気にしない。
　君と僕は、裸でこうして、ひとつの部屋、ひとつのベッド、ひとつの時間を共有している。僕にはそれだけで十分だ。僕は知っている。
　初めて、君とひとつになったときから。君は僕を、愛してなんかいない。君が僕にこうして抱かれているのは、君の愛ではなく、君の弱さが原因だ。僕は英理子の弱さを利用している。
　君は僕を愛さない。僕は君の弱さを利用している。だから、僕と君は利用されるものとするもの。利用されている君は、僕のおもちゃ。おもちゃは、利用するものを楽しませなければいけない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

　英理子、君と始めて会ったのは、今から5年前。君は、僕の妻、美奈子の実の妹。
　制服のブレザーに赤いリボンをして、僕に、無言でお辞儀してくれた。君の恥ずかしがりやは、君の姉さんとは対象だった。明るい太陽のような君の姉さんよりも、僕をひきつけていた。
　結婚式で僕に花束を渡してくれるときに、僕の手が君の手に触れた。僕にはそのときにわかったことがある。僕は、迷っているのだと。心が揺れているのだと。その証拠に、君が、僕と君の姉さんの新しい部屋に時々顔を出してくれた時、僕は初恋の人に突然訪問をされているような気分になった。
　君が僕のことをどう思っているのかすごく気になった。君が高校を卒業した後も、合格した大学が僕らの部屋から、そう遠くないところだと聞いたときには心が躍った。
　君の合格よりも、君にまた会える方が嬉しかった。
　君が大学に向かうところを何回か見たことがある。薄い化粧と、短めのスカートから伸びた君の足に、僕は表現しようのない、胸の苦しさを覚えた。
　君と僕が始めて、男と女になったのは、去年の冬。
　君の姉さんが友達と旅行中に行っている間に、君を食事に誘った夜。
　君は、断りもせず、僕と過ごしてくれた。君には珍しい赤い服。僕は君を肴にして飲んだ酒で酔ってしまった。帰り道君は僕が抱きしめる手を振りほどこうとはしなかった。
　僕のキスも最初は嫌がったけれど、受けてくれた。いつもは君の姉さんが眠るベッドで君は、僕と横たわり、僕の体を受け入れた。
　君は、僕が始めての男だと言った。僕は、疑わなかった。その夜は君と僕がひとつになったのは、ただ一度だけ。僕は君を抱いて眠った。
　きっと君は、今起こったことが恐ろしくて眠れないのではないかと思ったから。君を包み込むように抱いて眠った。
　でも、君は僕の腕の中ですぐに眠ってしまった。眠れなかったのは棒。
　眠れずに君を抱いたまま、朝まで起きていた。そしていつの間にか眠り込んだ僕が、目を覚ますと、君は、僕の手からいつのまにかいなくなっていた。
　君は置手紙も置かずに帰ってしまった。君はタフだ。一晩中心配していたのは僕。

　それから何回か僕は君を抱いた。
　２回目の時には、君は自分の口がもう一つの性器になるのだと、知った。最初はもちろん嫌がったけれど、僕は卑怯で、なおかつ効果的な言い方を使えるようになった。
　君の姉さんは、やってくれるよ。この言葉は魔法のように君の抵抗力をそぎ落とした。
　その時、僕を口に含み必死に僕を衝天させようとする君や、僕の体液を口に受けて咽ぶ君を見て、いい気持ちがしなかった。目的の達成感や征服感などなかった。
　むしろ、僕には不思議なほど、君をめちゃくちゃにしてやりたいという、破壊欲求のようなものが芽生えていた。
　僕は君を壊したい。それは、彼女の身体を実際に傷つけたいという、SM的な欲求ではない。彼女の心を傷つけたい、弄んでずたずたにしたい、というのが一番近い表現だろうか。
　キスだけで、全儀もなくいきなり挿入をしたり、一度も挿入せずバイブレーターだけでいかせて、僕が自分でマスターベーションをして、君の体を汚してみたり。でも、君は嫌だとは言うけれど僕のやることには従う。いつも君は従順だ。
君は汚れている、君は汚れている。一度だけ君は泣き出した。君は汚れている、君は汚れている。耳元で囁いた僕の言葉が悲しかったと君は言った。
　どうしてそんなことを言うのって君は聞いたけれど、僕にはわからなかった。
　でも今ならわかる。本当は君は汚れてなんかいない。いくら僕の体液にまみれていても、流れ出た君の滴りがシーツを汚すほどいやらしい君を見ても、僕は思う、君は確かに汚れてなんかいない。ただ君は僕を愛していないだけ。
　こんな僕を最初から許してはいない。君はただ僕に逆らえなかっただけ。ちょうど、虐待を受けた子供が誰にも言えず、じっと我慢しているのと同じ。僕が君を求めることはあっても、君が僕を求めることはない。
　そしてそんな君を僕は心の底では身悶えるほど愛している。君にはそれが伝わらない。僕はそれが悔しいだけ。だから腹いせについ口にしてしまった。　
　君は汚れている。でも本当に汚れているのは僕のこの屈折した感情。僕こそ汚れている。
　だから今晩も君の姉さん、いや、卑怯な言い方はやめよう、僕の妻、美奈子がいない夜に、君を抱く。
　今日は僕のこの思いを、君の思いもよらないところに出してあげる。
　さあ、もう一度、うつ伏せになって僕の目にその美しいお尻の曲線を見せて。柔らかな盛り上がりが君の恥ずかしい排泄口をまた隠している。
　僕をその白い肌をピンと張った柔らかな肉の山をこじ開け、先ほど僕のキスと指でマーキングした、そこを探し出す。君は嫌がるけれど、僕の目標は決まっている。舌をドリルのように尖らせると、僕は英理子が恐らく一番触れさせたくない部分に入り込んでいった。
　英理子、君はこんなときも僕を楽しませてくれる声を出す。いつもは君の姉さんと寝るこの部屋いっぱいに、実の妹の君のいやらしい声が響いている。
　ほら、僕の舌のドリルからは潤滑油代わりになる唾液が送り込まれている。君の抵抗もさすがに今日は激しい。でも、君がそんなに嫌がれば嫌がる程、僕には君を征服した喜びが湧き出てくるだけ。
　さあ、僕のペニスもそろそろ君の中に入る準備ができたみたいだ。今日は、生まれて初めての場所に入る。いつもの場所とは違って、受け入れる場所ではなく、不要物を吐き出す場所だ。
　僕は今、そこへ侵入をしようとしている。ちょうど君の心へ無理に入り込もうとしている、僕の心のように。僕は君の背中を舌でなぞりながら、体を重ねる。英理子、君は僕の舌が恥ずかしいところから離れた安心感からか、何も抵抗せずに眠っているように静かだ。さあ、行くよ。
　僕は君の恥ずかしい穴へペニスの先端をゆっくりと静かに埋め込む。君は最初何が起こったかわからず、背中越しに僕を見ようと振り向いた。
　僕は、君の美しい頬にキスをした。そして、やがてすべてを察した君が立てるであろう声を、僕は先手を打って、片手で口をふさいで止める。僕の唾液だけでは潤滑油は足りない。
　君のもう一つの場所から出ている滴りをペニスに刷り込むようにつけてみる。君の穴が僕を押し戻そうとする。本来の機能をフルに使って、僕を拒否しようとしている。でも僕は負けない。
　君はふさいだ僕の手の隙間から、止めて、止めてと、叫んでいる。僕の心に少し罪悪感が湧き上がる。
　僕のペニスが半分ほど始めての場所を征服すると、君の目から涙が溢れて僕の指に伝わった。僕は罪悪感でいっぱいになる。けれど、不思議に、ペニスの勃起は今まで感じたことのないくらいになっているのがわかる。
　小刻みにペニスを前後に揺らしながら、少しずつ君を攻略する。君は声が先ほどより小さくなっているが、それは快感などではなく、痛みに耐える人が、あまりの痛さに声を出せない、あの状態だ。根元までペニスが入ったときには、じっとしていないと、射精をしてしまいそうになっていた。
　僕は意地悪に、しばらく動かずに君の背中の体温を感じていた。このまま英理子、君と一つになっていたい、そう思った瞬間僕の思いが君の中ではじけた。君は、小さな声で鳴いているが、何も言わない。
　なぜ、僕を責めない。僕を「変態」と呼べばいいじゃないか。きっとまた君は僕のこんな行為に耐えて、朝を迎える。僕には、それが手に取るように感じられた。そして、僕に背中を向けたままの君に、僕は心の中でつぶやく、君は僕のおもちゃ、僕を楽しませてくれ。
　けれど、僕にはわかっている、それは、僕の負け惜しみ。けして開けない君の心への負け惜しみ。
　君は僕のおもちゃ。
　それじゃあ、僕は君の何？
　僕は、それを君に聞けずに、ただ君の体を抱き寄せた。君は壁に視線を向ける。僕の心は孤独なのだと君の視線が教えているようだ。
　僕は、何？僕は、君の何・・・