貴方様は鬼様で御座いますね。
　優しい目をした鬼様でらっしゃいますね。
　私のことを知りたいのですか。
　そんなことをおっしゃった鬼様は貴方様が初めてで御座います。

　えぇ、お話します。
　しかし、何からお話いたしましょうか。
　始めからお話いたしましょうか。
　いいえ、それでは長すぎますから、そうですね。
　私が父と母と別れる日の少し前からお話しましょうか。

　私は生きていた頃、冬を恐れておりました。
　今でこそあの指先の千切れるような冷たい痛みからも解放されておりますが、冬の夜はいつも私の手足を凍らせて、それはそれは叫びたい程の痛みで御座いました。

　父と母も私のこの凍るような体を心配して、毎晩一緒に眠ってくれましたし、冷えの酷い夜は、一晩中、まきを火にくべたり、湯を用意してくれたりととても優しくしてくれました。
　それでなんとか私も耐えることはできていたので御座います。

　人より少々遅いのですが、１３歳の秋に初潮を迎えまして、村の長老様のお心遣いで、隣村の大地主の若旦那様の所へ嫁入りさせて頂く事になりました。
　そこならば冬の間火を絶やさないほど薪を集める人手もありましたし、
　なにより若旦那様が私のことを幼少の頃より見初めていらしていたとのことで御座いました。

　父も母も、そして私もそのお話にとても喜びまして、別れこそ寂しいものでは御座いましたが、精一杯の結納の品と供に嫁入りさせて頂きました。
　旦那様も私のことを決して凍えさせるようなことはしないとおっしゃってくれまして、私は将来がとても明るいとこしえの春の到来かと言う程に泣き喜びました。

　最初の夜。
　旦那様は、まだ冬の到来はまだ少し先では御座いましたが、少しずつ冷気の増し始めたその嫁入りの日から、私の体を温めてくれたので御座います。

　裸で私を抱きしめて、体中を熱い唇でゆっくりと冷えたところを探しているかのような、そんな優しい心遣いに始めての夜から私は感激に涙しながら旦那様と寝所を供にしたので御座います。
　指先が冷えるのですと言えば、温かい唇は指を飲み込み温めてくれました。
　そして、旦那様の硬くて熱をもった棒を私のお腹の底に埋め込んでは、私の体に旦那様の余る程の熱を送り込んでくれたので御座います。

　幸せで御座いました。
　最初は驚きと痛みが御座いましたが、旦那様が私の内側に入ると指先の冷たさも足の冷えも吹き飛んで、それどころか不思議な心地よさと痺れるような熱がふつふつと体中に広がってくるので御座います。

　充分過ぎるほど、お腹の中が温められて、なにか背中の芯が焦げるような・・・。
　なんと表現すれば良いのでしょうか。
　そうです、旦那様は私の冷たい体に奇跡の火を灯してくれたので御座います。

　秋の終わりの冷たい空気の中、私は旦那様のおかげで、あれ程恐れていた指先と足の切り裂かれるような痛みへの恐怖から解放されたので御座います。

　旦那様は私の体が温よかに心地よくなって、それ以上の熱が必要ではなくなっても、一晩中その暖かさのもつように、火傷する程の灼熱を私の腹の底に叩きつけては抜きして、私はその燃えるような心地良さに我を忘れるほど心酔しました。
　そして旦那様の棒から、それは熱い飛沫を注いで頂いたので御座います。

　それでも旦那様は私の体を優しく抱きしめて温めてくれまして、そう、あれは極楽浄土で御座います。
　恐れもない、そして得も知れぬ心地よさの中で眠りについたので御座います。

　それからは毎晩、旦那様は私を極楽浄土へと連れて行ってくれました。
　一日も休むことなく私のために旦那様の燃える棒を突いては、白い熱いものを体の奥にこぼしてくれたのです。

　その冬が終わり、雪が溶け、日が心地よくなっても、旦那様のこのお優しい心遣いが休むことは御座いませんでした。

　嫁入りして１年が過ぎ、冬が来て、春が来て、夏が来て、秋が来て、２年が過ぎ、３年が過ぎ・・・。

　私の体は旦那様のあの熱い飛沫を何度受け入れたのでしょうか。
　ある日、お義母さまがお医者様をつれてらっしゃいました。
　不信な瞳でお医者様もお義母さまもお義父さまも私の体を調べますと、どうやら私は石女（うずめ：妊娠できない女性）だと言うのです。

　旦那様があれ程私のために努力して下さっているというのに、私は子を成して恩返しすることすら出来ないというのです。
　とても悲しく、恐ろしいことでした。
　旦那様の愛が消えてしまうのではないかと、心の底から恐ろしく思いました。

　しかし、それが分かっても旦那様は私の体にあの極楽浄土の火をくべ続けてくれたので御座います。

　私が嫁入りしまして５回目の冬が参ろうかという時のことで御座います。
　やはり子がなくては家が途絶えてしまいます。
　旦那様は妾の女をとることになりまして、それは美しい乙女が家に参りました。

　その夜から私は再びあの、恐ろしい千切れるような指先の痛みに耐える日々が、途切れ途切れながらも始まったので御座います。
　うなされ、泣き、旦那様がせめて冬の間だけでも良いので、私にあの極楽浄土の火をくべて欲しいと心から願うようになりました。

　その年の冬は早く参りまして、旦那様に私の冬の間だけでも毎晩欲しいと言う願いを伝えましたところ、旦那様はとてもお怒りになられて、なにやら私はお前の薪でもなければ湯でもないとか、とてもよくわからないことをお怒りになられたのです。

　そして、その日から途切れ途切れでは御座いましたが私の体を温めて下さっていた旦那様は、ぱったりと寝所にいらして頂けなくなり、妾の女の所へ入り浸るようになったので御座います。

　雪が参りました。
　私の手足は千切れるほどの痛みに攻め悩まされ、ある夜、とうとう耐えられず、声を漏らして泣き濡れておったのです。

　その夜、お義父さまが様子を見に来てくださいまして、せめて実家の父や母のように抱いて欲しいと、少しで良いから抱いて欲しいとお願いをしたので御座います。
　お義父さまは驚き、悩み、しばらく苦しげに息を吐いておりましたが、私のお願いを聞いてくださって、その夜、私を温めてくださいました。

　お義父さまは私のお腹の底に唇を寄せると、舌で私を灼熱に焦がしたので御座います。
　私は驚きました。旦那様は熱い棒を突き刺して火をくべてくれましたが、お義父さまは舌だけでそれ以上に私の体を燃やしたので御座います。
　痺れるほどの熱と心地よさに声も出ず、背骨が白熱して真っ直ぐ寝ていることすら出来ませんでした。

　なにがなにやらわからなくなり、指先や足の冷えを心配する余裕もないほど、熱くて熱くて灰になりそうでございました。

　実際、目の前が真っ白になりまして、なにか燃える芯が脳天まで突き抜けたようで御座います。
　ええ、旦那様が極楽浄土なれば、お義父さまは稲妻を落とす雷神様のようで御座いましたが、その稲妻の心地の良さは忘れることも出来ないほどで御座います。
　目が覚めますと、お義父さまも旦那様と同じ棒を私に突き刺しまして、あの灼熱の飛沫をほとばしらせて極楽浄土へも誘ってくれまして、その夜より、再び凍える冬の冷たさを恐れる必要がなくなりました。

　昼の料理時に火を使っている時ですら、寒くもないのにあの稲妻で焼かれたいと思うほどで御座います。
　お義父さまは毎晩、旦那様に代わって私を温め、稲妻を落とし、冬の恐怖から救ってくださいました。

　しかし、真冬のある夜、お義母さまがなにか気違いのように喚きながら、お義父さまと私を責めるのでございます。
　お義父さまはお義母さまに詫びておりまして、私も訳もわからず頭を畳に擦り付けておりましたが、
　お義母さまの気が違ってしまったのでしょうか。冬の雪世界に薄絹一枚で追い出されてしまいました。

　一瞬でお義父さまの稲妻の熱も氷に吸い込まれて、私の体はあの恐ろしい痛み以上の、まるで鋸で切り裂くような激しい痛みが手足を千切るので御座います。
　泣いて助けを求めますが、誰も家にいれてくれないのです。

　村へ走っておりて村人に氷りついた唇で助けを求めますと、雪女と私を呼んで恐れて私を助けてはくれません。
　ただ我武者羅に泣き叫びながら家々を訪ね、村はずれの最後の家も、決して閉ざした戸を開いてはくれませんでした。

　その頃には、神様のお助けでしょうか、体が熱くなって参りまして、指先も足もまったく冷たさを感じなくなりました。
　どんどん、どんどん、体が熱くなってきまして、それが異常だと思った私は、山を越えて実家に助けを求めようと、川を渡って山に入ったので御座います。

　そこで、体が凍りつき、私は山の中で眠りについてしまいました。

　そして、目が覚めたときは村のお医者様のところで御座いました。
　お医者様は私の苦悩をまるで知っていらしたかのように、私の眠る間にあの恐ろしい痛みの元の手と足を切って捨ててくれていたので御座います。

　しかし、これではもう誰のお役にも立てませんし、実家に帰ることはもとより、旦那様のもとにも帰れません。
　それで、お医者様に殺してくださいとお願いしたのでございます。

　そして私は死んだので御座いますが、仏様のお計らいで、この手足のない私に稲妻を落とし、熱い飛沫をお腹の底に注いでくれる鬼様が、かわるがわる訪ねてくださるこの地で静かに暮らしております。

　しかし、始めの何年か程は鬼様もそれは仰山いらして下さいました。
　朝から晩まで、眠るときも起きるときも。
　体は焼け爛れたように心地よかったので御座いますが、少々熱くなりすぎまして、気をやってしまうことも日に数度御座いました。

　今では日に一度程しか、鬼様もいらっしゃって下さいません。

　貴方様は私にあの心地良い稲妻を落としてくださいますのでしょうか。
　そして熱い棒を突き刺して極楽浄土の奇跡の火を灯して下さいますのでしょうか。
　この暖かい地で随分とわがままな願いではありますが、もし貴方様にその気持ちがおありでしたら、あの心地良さを一度下さいませんでしょうか。

「君はもう年だし、この世界では生きられないのです。そして、人の世界にもその体では戻れないでしょう。これを飲めば本当の極楽浄土へと旅立つことができます。さぁ、これを飲んで、あとはゆっくり、静かにおやすみなさい。」

　お言葉に甘えまして少し眠らせていただきますね。
　貴方様は本当にお優しい鬼様ですね。
　仏様で御座いましょうか。それではおやすみなさいませ。