| （２０） 不意に宮内の身体が背中から離れた。 真穂は安堵の息をつく。しかし、状況はなんら好転したわけではない。むしろ悪化している。 ほとんど全裸同然の姿で男たちに取り囲まれているのだ。しかも、バスタオルの下にあるのはただの裸身ではない。欲情の気配が色濃く残った裸身である。 真穂は、乳房と股間を両手で押さえた。尖りきった乳首を、おびただしく濡れた淫裂を見られたくなかった。そのような恥じらいが、かえって女の色香を濃くする。 「さてと。そろそろ決心がつきましたかね、奥さん」 煙草に火をつけながら寺崎は言った。 「裸を見せる決心がついたか、と聞いてるんです」 真穂は首を振って拒んだ。このままトイレに駆けこんでしまおうか、と思った。扉を施錠して泣き叫べば男たちも諦めるのではないか。いや、そんなものは急場しのぎの抵抗にすぎない。かえって彼らの怒りを買うだけだった。 「おらッ、返事をしないか」 宮内の怒声にビクンと肩をすくませる。まるで、不良の若者たちに恐喝されているような気分である。 「もう一度だけ尋ねます。奥さん、裸を見せてくれませんかね」 「ゆ、許して」 「好きなのでしょう？ 男に見られるのが」 「そんなの……」 好きじゃないと即断することはできなかった。やっぱり好きなのかも、という迷いが彼女のなかにあった。今だって、彼らの視線だけで股が濡れている。 「見せるのがいやなら、別のことをしてやろうか？ 今すぐぶちこんでやろうか？」 怒声よりも迫力のある低い声で宮内に脅され、ようやく真穂の身体が動いた。躊躇と混乱を引きずった指でバスタオルの結び目をほどく。 胸の谷間までを開陳させたところで、不意に指の動きが止まった。息が詰まりそうだった。 「さあ、はやく」 期待に染まった目で寺崎が促した。 一度だけ宮内に懇願のまなざしを注いでから、真穂は、両手を左右に退けた。白いバスタオルの前が開き、湯あがりの桃肌が、石鹸の匂いとともに外気にさらされる。華奢と豊満がこの上ないほどに調和した裸身である。 ほう、と寺崎は感嘆の声を口にした。乳房に股間に、男たちの視線が刺さる。 「そのまま、動かないで」 左右の手を腰の横まで引きおろしたところで、寺崎がやや強い口調で命じてきた。指は、まだバスタオルの両端を掴んだままだ。 「しばらくじっとしててください、いいですね」 「え、でも」 「バスタオルも放しちゃあだめですよ」 真穂の白い喉が震える。これは、単に裸を見られる以上に恥ずかしい姿だった。どうぞご覧ください、隅々まで鑑賞してください。そう訴えているとしか言いようのない恰好なのだ。 男たちの視線が痛い。見られている。いやらしい乳首も、ツルツルの秘部も、全部見られている。 この恥ずかしさは何度味わっても慣れるものではない。 寺崎は首を伸ばして股間を覗きこんだ。 「すごいや、本当に毛がないんですねえ」 冷静な口調がかえってつらい。自分の肉体が、男に値踏みされるための商品になったような気がする。真穂は美貌を横にそむけた。 「だめだめ、ちゃんとこっちを向いていてくださいよ」 それでも首を捻ったままでいると、真穂の顔を宮内が正面に固定した。 「どうだい、寺崎くん」 「想像以上ですよ。いやあ、これは素晴らしい。まるで芸術作品のようだ」 「芸術と呼ぶにはスケベすぎる身体だけどな」 「確かに、この濡れかたは異常ですね」 太腿を伝う粘液を眺めながら、煙草の煙の向こうで寺崎は言った。中年男の口元にも卑猥な笑みが張りついている。 「今度は後ろを向いてみてください、バスタオルも捨てていいですよ」 「ねえ。お願いですから、これ以上は」 けれどもすぐに宮内の手が肩へとまわり、身体を強引に逆向きにされた。バスタオルが床に落ちる。 「おおッ、こいつは……」 驚きの声が背後から聞こえた。中年男の声だった。 「どうです、有田さん」 「いいですね、最高の尻だ。さすがに坊っちゃんはお目が高い」 「この尻なら傑作が彫れるんじゃないですかね？」 「ええ、腕が鳴りますよ」 ふたりのそんな会話も真穂の耳には届いていない。極度の恥ずかしさに、恥辱の奥から生じる視姦の恍惚に、真穂はすっかりと溺れはじめていた。 「問題は中身ですね……」 寺崎は、携帯用の灰皿に吸い殻を押しこんだ。 「宮内さん、そっちのほうはどうなんです？」 「淫乱そのものさ、普段とのギャップがこの女の魅力だからな」 「少し見せてくれませんかね」 「いいのかい？」 「奥さんがどんな声で泣くのか、聞いてみたいんです」 「なら、本人にも了承を得ておかなくちゃな」 宮内は、視線の愛撫だけで放心する真穂の乳房を片手で掴んだ。 「さてと、どうするよ？ 奥さん」 「え、あの」 「ヤッてもいいかと聞いてるんだよ」 そんなのだめ、と叫ぼうとしたとき、宮内のもう片方の手が股間にあてがわれた。膣溝を肉芽を指で擦る。淫液が糸を引く。 「はァン、だ、だめ……こんなのいやッ」 「奥さんのその台詞はあてにならないからなあ」 「違うの、本当にだめなの」 「ヤラれたいんだろう？」 ふたりの男にさしだすようにした尻が揺れる。 「ヤッてほしいのならちゃんと言え、オマ×コをかきまわしてと言うんだ」 真穂は黒髪を左右に揺らした。しかし、喘ぎのあとにこぼれた無意識の言葉は、拒絶とは真逆のものだった。 「ヤ、ヤッて」 裸身を触られながら命令されては、そう答えるよりほかになかった。この一週間ずっとそうだった。 「聞こえないな。寺崎くんの顔を見ながら、はっきりと言え」 「ああン……」 上体を捻って背後に顔を向ける。濡れた瞳に寺崎の顔が映る。 「オ、オマ×コをかきまわしてください……オマ×コをヤッて」 拗ねた声でささやいた矢先、指が、ズブリと膣内に沈んだ。 「はァンンゥ」 真穂は、衝撃で崩れそうになった身体を宮内の胸にしがみついて支えた。 つけ根まで埋まった指が小刻みに動き、次に、手首ごと左右に捻られた。内側の粘膜が引きつる独特の感覚に、自然と腰から下が揺らめく。割れた声が出る。これまでさんざん関係を持ってきた男の指は、彼女の弱い部分を的確に責めてくる。 膣いじりの性感にはやくも惑溺しながら、真穂は、自分が一週間前とは別人の女になっていることを痛感した。心と身体の落差が日に日に大きくなっている。 このまま宮内との関係をつづけていたら、いつか正気を失ってしまうのではないか。いや、すでに正気の沙汰ではない。好きでもない男の前で裸をさらし、卑猥な台詞を吐いて行為をねだり、淫裂をいじられて喜悦している。はしたない音をたてる淫裂を、くねつく尻を、男たちに鑑賞されている。 もはや淫乱以外の何者でもなかった。色情狂いとは自分のことをいうのか。 「はああン、だめッ、いい、いいの……あーン、いいッ！」 真穂のその声とともに、突き入れの動きが一気に加速した。機関銃の激しさである。 男の指一本で翻弄された裸身が震える。白い乳房が揺れる。荒息とも嬌声ともつかない喘ぎを発しながら、若妻の意識が、灼熱色の無重力空間へと投げ飛ばされた。 「あァ……ゥ」 虚脱した裸身が床へと崩れ落ちる。宮内は咄嗟に指を抜き、すっかりと愛液に濡れた手で彼女の肩を支えた。 「フフフッ、たいしたもんだ」 寺崎はおどけた仕草で手を叩いた。 「確かにすさまじい豹変っぷりですね」 「まだまだこんなもんじゃないぜ」 「それは楽しみだなあ。ところで、お尻のほうは開発済みなのでしょうか」 「お尻？」 宮内の目が輝いた。 「そうだな、そろそろ使おうかと思ってたところだ」 「では、そちらも見せてください」 実験を指示する科学者のような口ぶりで寺崎は言った。 直後、乾いた音とともに真穂の美臀が揺れた。宮内が平手を振りおろしてきたのだった。四つん這いになれという合図だった。 すぐに真穂は従った。震える手足で犬のポーズを作る。そして次の瞬間、短い驚きの声が彼女の口からこぼれた。宮内が肛門に指を押しつけてきたのだ。 「いやン、だめ……そ、そこはだめえッ」 太い腕でがっちりと腰を支えられては、前へと這い逃げることもできない。 たっぷりの涎をつけた指が肛門を刺激する。時折、内部にも入ってくる。恐怖とおぞましさのために、真穂は声を枯らしてわめいた。少なくとも最初はそうだった。 だが気がつくと、声音が変質していた。性熱に浸った女特有の粘っこい呻きである。四つん這いの腰もクネクネと動きはじめる。 ああァン、嘘ォ、お尻が熱い……いい……。 真穂は困惑した。自らの非常識な感応に困惑した。 これまで口舌で舐められたことはあったが、指での愛撫はこれがはじめてだった。予想以上の快美感だった。ジワジワと加熱する口腔の刺激とは異なり、一気に燃焼する感電の鋭さがある。膣とは異なる穴性感である。 涎でふやけた菊穴が開閉を繰りかえす。指が、徐々に奥深くへと埋没する。 「ああ……ッ」 真穂は瞼を閉ざした。もっとも不浄な部分でこんなにも感じている。新しい性感がそこから芽生えている。ならば、勃起を挿入されたらどうなってしまうのか。 排泄器官への姦通。肛門性交。とんでもなく恐ろしいことなのに、恥ずかしいことだというのに、彼女はその場面を想像せずにはいられなかった。いや、想像だけじゃなく実際にほしくなっている。 肛門の内外をじゅうぶんにほぐして指を抜くと、宮内は、すばやい動作で衣服を脱ぎ去り、全裸となった。 すぐに真穂は裸身を翻し、彼の男茎を口に含んだ。無意識の動作だった。いつの間にか、ペニスを見ただけで咥えてしまう女になっていた。 ふたりの男が感嘆の笑い声をあげる。 「素人の奥さんを短期間でここまで手なずけるとは、いやあ、たいした手腕だ」 「俺がやったことじゃない、この女の素質さ」 「僕も入れたくなってきましたよ」 「なら、先にヤるかい？」 「そうですねえ。……いや、やっぱり今日は見学だけにしておきますよ」 「フフン。今日は、か」 寺崎と有田がベッドの左右へと退いた。そうして空いた中央の空間に、宮内は、女の裸身を投げ飛ばした。ベッドに上体だけを預けた若妻の尻をこじ開け、今度は二本の指を肛門に挿入する。 真穂は犬のように尻を振った。四つん這いの姿でさまざまな音色の喘ぎを飛ばした。喜悦から出た声ではない、挿入をほしがる懇願の哀訴である。 入れて。はやく入れて。オマ×コでもお尻でもいいの。どこでもいいから、はやくぶちこんで……。 シーツに美顔を押しつけながら、真穂は一心に願った。ほしい。非常識のなかでしか味わえない麻薬的な快感がほしい。とことん墜ちて、狂って、この不安定な現実を忘れてしまいたい。 男たちが何かを言っているが、その声すら、真穂の耳には届いてはいなかった。自分が「きて、ヤッて」と叫んでいることにも気づかない。宮内の両手が細腰を掴んだ。 「ゥググ……あ、あひいいーッ」 男の巨砲が肛門内に押しこまれた。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2008.10.4掲載 |
蘭丸さんの作品群→ |