「ねっ……やっぱりやだ。こんな格好でっ」 嫌がる乃梨子の手を引いて、雅史はテニスコートに通じる戸を開く。 天気も良く風も無かったので、予想していたより寒くは無かった。 もっとも、薄いウェア一枚の乃梨子はかなり寒い思いをしているだろう。 半ば脅すようにして、白いミニのテニスウェアだけを身に着けさせ、乃梨子を連れ出した。 どうしてそんなことをしようと思いついたのか、自分でも良く分からない。 ただ、無性に乃梨子を苛めてみたかった。 「雅史さん……ねぇ……」 乃梨子は泣き出しそうな顔で、雅史を見上げてくる。 寒さの為か、ウェアの下で勃ち上がった乳首がくっきりと浮き出している。 （ほんとに嫌がってるのか？） 自分が命令したとはいえ、厭らしい格好で外に出て来た乃梨子に、いらついた気持ちを覚える。 アンダースコートも着けさせていないから、短いスカートの下から丸く形の良い尻がちらちらと見える。 「いいじゃん。平日だし誰も通らないよ。寒いんなら、身体動かせよ」 ピシャッと尻を平手で叩き、向こう側のコートに追いやる。 「………」 悲しそうな表情を浮かべて、乃梨子がコートに立った。 「ほら。行くよっ」 ボールを打ち込む。 最初は、乃梨子の打ち返しやすい位置に。 「んっ」 反射的になのか、仕方なくなのか、乃梨子が打ち返してくる。 何度かボールが二人の間を往復する。 次第に、左右に打ち分ける。 大きく動けば、スコートが捲れ上がる。 「はぅ…」 乃梨子がスコートの裾を押さえて立ち止まった。 「何やってんだよ？ちゃんと走らなきゃだめだろ？」 構わずに、新たなボールを取り出して、コートの反対端に打ち込む。 「ぁ……ん…っ」 乃梨子は今度は走ってボールに追いついた。 大きく脚を広げて打ち返すときにスコートが捲れ、黒い茂みがちらりと現れる。 「そうそう。久しぶりだけど、なまってないじゃん」 少しずつ、乃梨子の動きが解れて来る。 ボールを打ち返すことに夢中になって、下着を着けていないことを忘れているのかもしれない。 「あのさっ」 ボールを打ちながら、声をかける。 「え？」 乃梨子も、打ち返しながら答える。 「七恵さんに、聞いたから」 「……えっ？」 「俺、乃梨子がいいなら、いいよ」 「いい……って？」 「俺も、ＯＫだってことだよっ」 七恵に聞いた、『椎の会』とやらのことは、乃梨子は当然知っているものだと思っていた。 だから、これだけの言葉で、何のことなのか乃梨子に通じると思っていた。 「ＯＫ……？」 乃梨子が、その場に立ち竦んでしまった。 ボールがコートの外を転々とする。 「そう……ＯＫなんだ……」 乃梨子が呟く。 （なんだよ。自分が先に七恵さんにＯＫしたんだろ） 呆然としている様子の乃梨子に、雅史は首を傾げる。 （なんか勘違いしてるのかな……俺） 「……乃梨子…？」 「ん……分かった」 二度三度首を左右に揺らしてから、乃梨子が頷いた。そして、コートの外を転がっているボールを拾いに行く。 乃梨子が賛成したというのは、七恵の嘘だったのかもしれない。 その可能性に思い当たったが、それなら七恵に電話番号や会社の場所を教えるはずがないと思い直す。 「乃梨子だって、そうしたいんだろ？」 強い調子で念を押すと、乃梨子の表情が泣きだしそうに曇った。 （やっぱり……なんか変だな……） 「そろそろ上がろうか？乃梨子……」 きちんと話した方がいいのかもしれない…そう思って声をかけた時だった。 乃梨子のコート、そのフェンスの向こう側に二人の人影が通りかかった。 |
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| 2013.1.19掲載 |
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