亮は痛みに耐えていた。
　夕方に抜いた親不知がズキンズキンと痛むのだ。処方された痛み止めはまったく効かない。ときおり襲う発作的な激痛で目眩がするほどだ。
　もう、午後８時を過ぎた。歯医者の診療時間は終わったはずだし、両親は旅行に出かけていて一人きりだ。心細さがつのる。
「痛みが止まらないようだったら、いつでも来るように」という、昔なじみの歯医者の言葉を思い出し、出かけることにした。

　真夏の蒸し暑さでさらにひどくなる痛みを我慢しながら、亮は住宅街の壁をつたわるように１００メートルほど離れた三田歯科へ向かった。
　看板の電気は消えているが、住居のある二階の窓が明るいのを確認した亮はインターホンのボタンを押す。しかし「ピンポーン」という音の他に反応はない。二度、三度とボタンを押す。
（ああ、やっぱり電話しておいた方がよかったかなあ）
　絶望的な気持ちになったころ
「はい。どちらさまですか？」
　と、女の声がスピーカーから聞こえてきた。
「今日、親不知を抜いたんですが、痛みが止まらなくて・・・」
「わかりました。すぐ開けます」
　ほどなくして、ドアを開けたのは、白衣を着た若い女だった。
「どうぞお入りください。父は会合で出かけていますが、代わりに私が診察します。カルテを確認しますのでお名前をお願いします」
「みながわ、皆川亮です」
　やっと痛みから解放されると思った亮は入り口にへたり込んだ。

「えっ！　皆川さんって・・・亮ちゃんじゃない？」
　ちょっと驚いた顔の女が言う。
「そ、そうですけど・・・」
「私のこと覚えてない？」
「あれ・・・ひょっとして・・・ええと・・・由美子ねえさん？」
　そういえば三田先生のところに小学生の頃よく遊んでくれたおねえさんがいたことを亮は思い出した。もう十年以上前のことだ。たしか遠くの高校に行ったとかで、それ以来会っていなかったが、やさしいおねえさんだった。
「そうだ。由美子ねえさんだ。歯医者さんになったんだぁ」
「名前、覚えていてくれていたのね。うれしいわ。まだ大学病院で修行中だけど、腕は確かだから安心して。で、痛み止めは飲んだの？」
「はい。これです」
　亮はポケットから薬を出した。
「あら、やだ。これ化膿止めよ。お父さんったらこれしか渡さなかったのかしら。もらったのはこれだけ？」
「はい・・・」
「それじゃ痛いわけよ。いま薬出すから診察室に入って」
　由美子はそう言うと診察室の電気をつけた。
「こっちの椅子に座ってね。あとこれ飲んで」
　由美子が引き出しから出した薬を差し出す。藁をもつかむ気持ちで亮はそれを飲んだ。
「じゃあ、抜いたところ診たいから・・・あーんして」
　にっこりと微笑む由美子。子供の頃に戻ったような距離を感じさせない明るい物言いに、亮は思わず「あーん」と声を出して口を開ける。
　ライトがあてられ、口の中に暖かさを感じる。
「ああ、ちょっと腫れてるわねぇ。出血はしていないから大丈夫。消毒してから、痛み止めの薬を塗ってあげるわね」
　亮に覆いかぶさるような姿勢で口の中をのぞき込みなから、由美子はてきぱきと処置をしていく。その身体からは、消毒液の匂いに混じってボディーソープの匂いが漂ってくる。いい匂いだ。由美子の方を見ると、パッチリとした日本人離れした目と視線が合ってしまう。
　由美子が微笑んだ。
　医療用の帽子をかぶっているので美しい卵形の顔立ちが余計目立つ。
（由美子ねえさんって、こんなにきれいだったっけ？）
　遠い昔、子供心に、ただ、あこがれるだけだった女性を目の前にして、かなりドキドキしてしまう。
「痛み止め塗るから、もうちょっと口を開けて」
　由美子が優しく言う。そして器具を持って、さらに覆いかぶさるようになった。すると、大きく開いた白衣の襟ぐりから豊かな胸の谷間が覗いて見えた。さらに、その下のお腹から、白っぽいショーツまでがまる見えだ。
（わっ！　おねえさん、下に何にも着てない）
　そう思った瞬間、薬をつけた器具の先が、抜いた後の傷口に触れた。
　痛みを感じた亮は「ウッ！」と呻いてのけぞり、はずみで二の腕がバストの頂に触れてしまった。
　あまりの柔らかさに、痛みなんか忘れてしまうほど亮は興奮した。
　ふんわりとしていながらも量感のある感触に陶然となってしまう。
「ごめん。痛かった？　ちょっと我慢してね」
　両手を使っての処置なので、襟と胸の隙間がさらに開く。亮の位置からだと太股まで見えてしまうのだ。
　集中して汗をかいているのか、ボディーソープの匂いが一段と強くなる。
　間近に嗅ぐ女の匂い。そして、乳首こそ見えないものの、目の前に拡がる肌色のふくらみは女性経験がない亮にとっては強烈な刺激だ。たちまちチノパンの前がパンパンに膨らみ、苦しいほどになった。
「はい、おしまい。口をゆすいで・・・あら、大丈夫？　顔が赤いわ。まだ苦しい？」
「だ、だいじょうぶです」
　塗られた薬は麻酔薬だったらしく痛みは治まったが、口の中が麻痺して、うまくしゃべれない。
「もう大丈夫だと思うけど、化膿しているといけないから念のため熱も計っておこうか」
　由美子は診察台とは反対の方にある戸棚へ向かう。
「あれぇ、どこにあるのかしら」
　中段にある引き出しを探る由美子の後ろ姿。丸くて張りのあるヒップを突き出すような姿勢だ。
　腰のあたりにぴったりとまとわりついた白衣、ショーツのラインがはっきりと見える。どうしても由美子の裸を想像してしまう。これ以上見ていたら、暴発するに違いないと感じた亮は、勇気を出して由美子に言った。
「ごめん。由美子ねえさん」
「えっ？　なに？」
「あのさ・・・すごく悪いんだけど・・・」
「どうしたの？　どこか苦しいの？」
　心配顔で由美子がたずねる。
「ちゃんと服着た方が・・・」
「えっ！？」
「白衣の隙間から見えちゃって・・・」
「ええっ、やだぁ！　見えちゃってたんだ。ごめんね。亮ちゃんが来たとき、ちょうどシャワーを浴びてたのよ・・・そうかぁ、見えちゃったかぁ・・・」
　幼い頃に母親を亡くした由美子は、昔から気の強い姉御肌的なところがあり、度胸が据わっているというか、なにがあってもクヨクヨとせず、いつも明るく振る舞う性格であった。今回のことでも動じたそぶりは見せない。それでも、さすがに顔を赤くして、ちょっと色っぽい目で亮をにらんだ。その目が艶っぽくて逆に亮の方が動揺してしまう。
「ごめん。見るつもりはなかったんだけど、あんまりきれいなんで・・・ごめんなさい。もう、痛くないし、帰ります。ありがとうございました」
　亮は突っ張る腰のあたりを気にしながら立ち上がった。
「ちょっと、待って」
　ほんの少し間をおいて由美子が亮を制する。
「えっ？」
「痛みがないのは、塗った薬のせいだから、もう少し様子を見たいの。もう一度診察台に座って。ごく稀なことだけど、親不知が化膿すると怖いのよ。命に関わることもあるんだから」
「は・・・はい」
　亮は催眠術にかかったように診察台に腰をおろした。

　なぜか、このまま亮を帰したくない由美子の方便だった。
　もし診察を受けに来た相手が亮ではなかったら、もし痛み止めの薬を飲んでいたらどうなっていただろう。考えてみたところではじまらない。
　急患だと思ってあわてて玄関を開けたが、すぐに着替えるつもりだった。ところが、幼なじみへの懐かしさで裸の上に白衣を着て急いで応対したことを忘れて診察室へ入ってしまった。その結果、亮に肌を見られてしまった。でも、なぜかそれが快いというか、不思議な感情が湧き出てしまった由美子だった。だから、このまま別れるのが惜しかったのだ。

「そっか、亮ちゃんも大学生かぁ。どこの大学？」
　さっきのことなど、まるでなかったかのように由美子が話しかける。
「Ｋ大・・・です」
「へぇー、優秀なんだ。だから、紳士なのかな？」
「えっ？　どういうこと？」
「だって、黙っていれば分からないのに、ちゃんと教えてくれたし、服を着ろだなんて、すっごく優しくって、ちょっと感激しちゃった。大学病院の連中に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらい」
　そんな由美子の言葉に、十年以上の時の溝が埋っていくような、なにか温かいものを感じた。
「でも・・・う〜ん、ちょっと失敗だったかなぁ。見られたのが亮ちゃんでよかった」
　デスクの前にある椅子に座りながら、由美子は、少し媚びを含んだ声で言った。
　亮は、そんな由美子の言葉が意味するところを察しきれず。何気なく組まれてまっすぐに伸びた脚、そして細く締まった足首、素足に履いたスリッパをボンヤリと見つめていた。
「ちょっとぉ、亮ちゃん、どうしちゃったのよぉ」
「あっ、ごめん。なんだか、ぼうっとしちゃって・・・」
「亮ちゃんは彼女いるの？」
「えっ？」
　唐突な質問に咄嗟に答えられない亮。
「顔だってかわいいし、背も高いし、あれだけ優しいんだったらもてるんじゃない？」
「そ、そんなことないです」
「じゃ、彼女いないの？」
「うん・・・高校のとき、つきあった女の子はいるんだけど、地方の大学行っちゃって、そこで・・・」
「えーっ、別れちゃったの？」
「そういうことかなぁ・・・」
「もったいないわねぇ。こんなにかっこいいのに」
　事実、高校時代バスケットボール部で鍛えた亮の身体は引き締まってバランスが取れているし、小さくて彫りの深いいいマスクは180センチの長身をさらに大きく見せている。
「で、いまは？」
「けっこう、授業とか忙しかったし・・・」
「いないんだ？」
「うん・・・」
　ちょっと沈黙が続く。
　由美子は意を決したように立ち上がり亮の脇へ移動した。
「診てあげるから口開けて」
「あ・・・はい」
　由美子の口調が医者のそれに変わった。
「あーあ、お父さんたら、まだ古いタイプの診察台使ってるから、やりにくいのよねぇ」
　ライトのスイッチを入れた由美子は、わざと襟を開けるようにして、亮の口をのぞき込む。
　ふたたび、ひろがる目の前の景色に、亮は目をつぶった。
「亮ちゃん、いいのよ」
「え？」
「見てもいいのよ。私に恥をかかせないで」
　そこまで言われて我慢するのは、かえって悪いのではないかと、亮が目を開けると、すぐ目の前に由美子の顔があった。
「亮ちゃんが、ここで、図々しくのぞき込んでくるようなひとだったら、私も、こんな気持ちにならなかったと思うわ」
　そう言うと、由美子は亮の腕にバストを押しつけてきた。
「おねえさん・・・」
　亮は空いた手で由美子の顔を引き寄せる。
　そして、唇が合わさった。
　なぜ、こんなことをしたのか亮にはわからなかった。自然に身体が動いてしまったとしか言いようがない。目が合ったときテレパシーのように由美子が何を望んでいるか頭に直接響いてきたのだ。その心の声に反応してしまった。
　激しく舌を絡み合わせてきたのは由美子の方だった。長い舌で、むさぼるように亮の歯茎や上顎を舐めまわす。
　生暖かい舌の感触に、亮は、うっとりとして眼を閉じた。高鳴る心臓の鼓動だけが聞こえる。
　由美子はキスを続けながら、左手で白衣のボタンを外し自ら胸をはだけた。
　右手の指先は亮の顔を撫でながら下半身へ移動する。
　ビキニブリーフをはみ出し、チノパンのベルトのあたりまで大きくなった亮のペニス。
（すごい。大きいわ。この子）
　そう思った瞬間、由美子は股間が熱くなるのを感じた。

　昔、姉のように接していた亮に肌を見られてしまったのがわかったとき、恥ずかしさと同時に甘い疼きを感じてしまった由美子だった。自分がどうしてここまで大胆になれるのかわからなかったが、身体が自然に亮のことを求めていた。
　大学病院でセクハラまがいの上司の言動や、下心丸見えの同僚の視線に辟易していた由美子にとって、亮は懐かしい相手であると同時に心の許せる存在だった。そしてその亮のピュアな反応が母性と欲望に火をつけてしまったのだ。
　たどたどしいキスがうれしかった。亮のことを男としてではなく、守るべきものだと思えたのに、なぜか行動は矛盾した方向に走ってしまっていた。
　ここまでやるつもりはなかった。にもかかわらず、無意識に身体が動き、肌を晒し亮の下腹部に手が行っていた。

　ペニスの形と大きさを確かめるように由美子の指先がうごめく。
　手探りでベルトが外され、猛り立ったペニスがブリーフの上から顔を出した。
「ああっ！　そんなにしたら出ちゃうよ」
　指先が先端に触れたとき、なぜか放出を恐れてしまった亮は由美子の身体を押しのけた。そして、生の肌の感覚に驚いて目を開けた。はだけた白衣から、柔らかい曲線を描いて盛り上がる乳房と、ピンク色をした乳首がのぞいている。
　あまりの光景に呆然としてしまう。
　そんな亮に向かって菩薩のように微笑みながら由美子は言った。
「見ていいのよ。ううん、こんどはちゃんと見て欲しいの。亮ちゃんに見られていると思っただけで気持ちいいんだから」
「ほんと？」
　由美子は、頷くと、まっすぐに亮の目をみつめた。
「由美子ねえさん・・・」
「なに？」
「ほんと・・・」
「私なんか見たくない？」
「いえ・・・もっと・・・」
「えっ？」
「もっと見たいです・・・」
「いいわよ・・・」
　由美子は小さな動きで白衣の襟を開いた。次の瞬間、パサリと音がして白衣が床へ落ちた。そして医療用の帽子を脱いだ。まだ湿り気を帯びたセミロングの髪が肩に落ちる。女医からひとりの女になった感じだった。
　抜けるように白い肌。丸く突き出す乳房とピンクがかった薄茶色の乳首。くびれたウエスト。ショーツに包まれたたおやかな腰。それは眩しいほど美しい肢体だった。
「まるでギリシャ彫刻のようだ」と亮は思った。神々しく後光が差して見えるのだ。
「すっごくきれいだ・・・」
　最初、白っぽいとだけ感じていた淡いラベンダーのショーツから上を向いて生えている陰毛が、かすかに透けて見える。
　生まれて初めて見る女性の裸。それも、手を伸ばせば触れられる位置にある由美子の身体が現実のものとは思えなかった。
　もう、これ以上見ていたら気を失ってしまいそうだった。
「ゴクリ」
　生唾を飲み込む音が診察室に響いた。
　由美子の身体は、ふっくらとした脂肪が形作る丸みを帯びた曲面だけの、どこか母性を感じさせるようなボリューム感のある体型だった。そして、それが、目の大きい華やかな顔立ち、抜けるように白い肌とよく合っている。
　亮は、由美子の肢体に見惚れ、身動きができなくなってしまった。
「どうしたの？　亮ちゃん」
「う、うん・・・どうしたらいいのか、わかんないんだ・・・」
　降って湧いたような幸運に現実感がない。まるで夢の中にいるようだ。
「いいのよ。好きにして」
「ほ、ほんとう・・・触ってもいい・・・」
「もちろんよ。亮ちゃんのしたいようにしていいのよ」
　やさしく頷く由美子。その表情に釣られるように、亮はためらいながらも柔らかな乳房へ手を伸ばした。
　指を押し返してくるような弾力と柔らかさ。
　思わず涙が溢れてしまう。
「あら、亮ちゃん、泣いてる。どうして？」
「だって、あんまりきれいだから、感激しちゃって・・・」
　この言葉を聞いたとき、由美子の心の中でなにかが弾けた。
　亮が欲しくてどうしようもなくなってしまったのだ。
「亮ちゃん。もっと見ていいのよ。そして好きなだけ触って！」
　そう叫んで、由美子は亮の頭を思い切り抱きしめた。
　強い力で引き寄せられた勢いで顔が乳房へ押しつけられる。
　その柔らかさは経験したことのない気持ちよさだった。顔を動かしながら感触を楽しんでいると唇に乳首の突起が触れる。亮は舌を出してその頂を舐めた。
「ああんっ」
　喘ぎと同時に由美子の身体がビクンと反応する。
　欲情した雌の声。由美子が悦んでいる。でもほんとうだろうか？　亮は、由美子がどうして自分に対してこんなことをしてくれるのか理解できないでいた。
　夢なら覚めないで欲しいと願い、甘い由美子の体臭を胸いっぱいに吸いながら舌先を動かす。
「ああっ・・・ああん・・・」
　由美子が喘ぐ様に勇気を得た亮はさらに舐め続けた。
　最初はおずおずと舐めていただけだったが、次第に硬度を増していく乳首が悦びの証だと察した亮は無我夢中で舌先で転がすように舐め、そして吸った。
「そうよっ！　そうっ、もっと舐めて！　ああっ、気持ちいいわ！」
　亮の舌の動きが、直接、子宮に響くようだ。由美子は股間に熱いかたまりが生まれたように感じていた。
（ああ、亮ちゃん、なんてかわいいのかしら）
　今まで接してきた男達とは、まるで違う亮の素直さと優しさに、ますます母性がくすぐられる。
（昔から、おとなしくていい子だったけど、今どき、こんなに素直な男の子がいるなんて・・・亮ちゃん、私が包んであげる。かわいい子・・・）
　幼なじみというだけで甘酸っぱい感情がある。その上、恥ずかしさの裏返しで欲望に火が点いてしまった身体が肉を求めている。そんな中で亮に対する気持ちが思慕へと変化していくのが心地よかった。
　由美子は亮の頭をかきむしるように抱きしめる。
　そんな由美子の行動と言葉に勇気を得た亮は、両手で、乳房やヒップをまさぐりはじめた。
（なんて柔らかくて気持ちいいんだ）
　亮は、初めて触れる女体に夢中になる。
「亮ちゃん・・・ああっ・・・素敵よ・・・」
　すべてを受け入れてくれる由美子の身体を堪能しながら、なぜかその先へは進めなかった。

　どれだけの時間が過ぎたのだろう。やがて、どちらからともなく、ふたりは診察台の上で抱き合う形になった。
「ちょっと、待ってね」
　由美子は、そういうと、診察台のリクライニングを操作して、ほぼ平らにセットして仰向けになった。
　横になってもボリュームを失わない乳房。その圧倒的な量感に亮は息を飲んだ。そして驚きと感動を伝えるように丁寧に撫でながら再びその頂を吸った。
「ああ・・・」
　勃起した乳首を吸われると身体に電流が走ったように感じてしまう。由美子の口からため息が漏れる。
「亮ちゃん、もっと、もっとして・・・ああっ！」
「おねえさん。気持ちいい？」
「ええ・・・とっても上手よ・・・気持ちいいわ・・・」
　その言葉にうながされるように、やがて亮の唇は由美子の上半身全体を移動し、指先が肌の柔らかさを確かめるように這う。
　亮の舌先が波打つように動く腹部へ達したとき由美子が大きくのけぞった。
（亮ちゃん、上手。そんなに、ゆっくり、やさしくされたら・・・なんだか焦らされてるみたい・・・）
　喘ぎ声を上げながら、由美子は、自分の秘部が洪水のようになっているのを感じていた。
　自分の手のひらと舌で肌の感触を楽しむ行為が由美子の官能を引き出しているのだとわかった亮は感激で胸がいっぱいになった。もっともっと由美子を悦ばせたい、感じさせたいと思った。
（おねえさんは「もっと」って言ったけど・・・ほんとうにいいんだろうか？）
　ここまできたら最後まで見たい、触りたい、知りたい、そして・・・
　亮の好奇心と欲望の矛先は波打つ腹部の下にあった。
　いままで躊躇していた場所。
　勇気を出してその場所へ手を伸ばした。
「ああん・・・」
　由美子の喘ぎ声が高くなる。
「おねえさん・・・これ、取っていい」
　恥骨の膨らみに手を置いた亮が、上目遣いで言う。
（亮ちゃん、やさしいのね。いままでの男は、ここまで来れば、引きちぎるようにショーツを脱がせたのに）
　そう思いながら、由美子は、さらに、愛液が溢れるのを感じていた。
（ああ、もう、腰の骨が溶けちゃったみたい）
　まだ、直接触られたわけでもないのに、ジンジンと熱いものがたぎっている。
「いいのよ。脱がせて。亮ちゃん、はやく・・・早く来て」
　由美子が、うわごとのようにつぶやく。
　亮は立ち上がってショーツに手をかけたが張りのあるヒップが邪魔になってなかなか下ろすことができないでいた。
（かわいいわ・・・）
　不器用な亮の脱がせ方すら好ましく愛おしく感じてしまう。
　由美子はヒップを浮かせて亮の行為を手助けする。
　ショーツがヒップラインを滑るように下り、燃え上がるような黒い茂みが露わになる。その光景に亮の目は釘付けになった。最初のとき亮を興奮させたショーツも、いまとなってはただの邪魔な布きれだ。
　亮は両脇を持って素早く足首まで下ろす。
　クロッチの部分が洪水のようになった柔肉から離れたとき、糸を引くのが分かり、由美子は羞恥を感じて呻いた。溢れ出た愛液が、尻の割れ目を伝わって診察台まで濡らしていくのがわかる。
　ショーツが足首から抜き取られ、由美子は一糸まとわぬ姿になった。
「すごい！　すごく、きれいだ！　おねえさん、好きだよ！」
　亮が感動して叫ぶ。
「ああ・・・早く来て」
　由美子は、消え入るような声で言い、亮に手をさしのべる。
　しかし、興奮した亮に由美子のつぶやきなど耳に入らなかった。
　茂みの奥に何があるのか、それを確かめることしか頭になかった。
　亮は息を荒げながら由美子の膝の下に手を差し入れ、持ち上げるように脚を開かせる。
　愛液でドロドロになった秘肉が露わになった。
「ああ、恥ずかしい・・・見たいのね・・・好きなだけ見ていいのよ。見られると感じちゃうの・・・」
　全てが晒された恥ずかしさと、燃えるような亮の視線に、由美子は震えながら本心を明かした。
「もっと、よく見たいんだ。いい？」
「いいわ・・・亮ちゃんの好きなだけ見て・・・」
　喘ぎながら由美子が言う。
　その言葉に反応するように亮は診察台に正座して、由美子の両脚を肩にかけて脚を開かせた。そして歯科医用のライトを点灯させ脚の間の合わさった部分へ向ける。
　煌々と照らされる由美子の秘部。
（えっ・・・こんな・・・）
　抵抗しようとしても甘い感覚が身体を支配してしまって由美子は動けなかった。
　ライトから伝わってくる熱が、まるで、亮の視線そのものみたいに感じた。
　まさか仕事道具を使われるなんて思ってもいなかったが、なぜか倒錯した妖しい感情を覚える。
「すごい・・・きれいだ・・・」
　逆光で影に見える亮がつぶやくように言った。
（だめ・・・見られているだけで、こんなに感じちゃうなんて・・・もう、どうにかなっちゃう・・・）
　それは視姦だった。視線があそこへ突き刺さるようだ。犯されているという意識が強い。それでもよかった。見られていることが快感だった。
　由美子は亮を求めて腰をうごめかす。
「触ってもいいよね・・・」
　ほんとうは強引に入ってきて欲しかったが由美子はおとなしくうなずいた。
　プックリとした大陰唇に亮の親指がかかり、押し広げられた。割れ目が裂けて、ピンク色に光る柔肉が顔を出し、蜜壺が口を開ける。
「はあん・・・」
　すべてが、いや内部さえも晒された恥ずかしさで思わずうめいてしまう。
　しかし、亮にはそんな由美子の反応に気づくだけの余裕はない。
「すごい・・・こんなに、きれいだなんて思わなかった・・・」
　由美子の陰部は全体的に毛が薄く、大陰唇にはほとんど毛が生えていない。小陰唇も小ぶりで、縁がわずかに茶色を帯びているだけ。上側の合わせ目からパールピンクに光るクリトリスが顔をのぞかせている。蜜壺の少し下にある菊蕾も、色素は少なく、ひっそりとしている。この美しさは、他の女を経験したことのない亮にもよく分かった。いくら眺めても見飽きないのだ。
　亮は息を荒げながら由美子のそこを凝視し続ける。
　視姦されている快感に由美子は喘ぎに喘いだ。見られている、その視線に激しいエネルギーを感じるのだ。
　下半身全体が熱くなって、まるで自分を制御できない。
（亮ちゃん。あげる。私をあげる。だから、もっと・・・）
　そう思って口に出そうとしたとき、クリトリスをスルッと撫でられた。
「ああっ！！」
　やさしいタッチとは裏腹に由美子が受けた衝撃は凄まじいものだった。
　大きな喘ぎ声と同時に腰がバウンドする。
　あまりの反応の激しさに亮はビックリして愛撫を中断した。
「大丈夫？　痛くない？」
　由美子の叫ぶような声で我に返った亮の声はやさしさを取り戻していた。
「お願い、もっとよ・・・もっとちょうだい！」
　反対に由美子の理性は完全に吹き飛んでしまっていた。ただひたすら亮を求めるだけの存在になってしまったのだ。
（すごい。女って、こんなになっちゃうんだ）
　亮は由美子の反応に驚きながら、女性器の感触に夢中になった。蜜壺に指を入れると、クニュッとした柔肉がヒクヒクとうごめき、その度、由美子は喘ぎ声を上げる。硬くなったクリトリスを撫でれば、腹筋が波打つのと同時に蜜壺がクッと閉じ、由美子の口から１オクターブ高い「あっ！」という声が漏れる。
　こうして、好奇心の赴くままに由美子の秘部を散々弄んだ亮が、そこの味を確かめたくなったのは自然の成り行きだろう。柔肉を指で開いて舌を伸ばすと、菊蕾からクリトリスまでを舐め上げた。
　亮の口の中に、少し酸味をともなった、しょっぱいような愛液の味が拡がる。
「ひぃぃぃっっ！」
　由美子の声が、また変わった。
「ああっ、いいわっ。亮ちゃん。もっと・・・もっとよ・・・」
　すべてをさらけ出し懇願する由美子を亮はたまらなく愛おしく感じる。
　そして、由美子の望み通り、ひたすら、ドロドロになった秘肉を舐め続けた。
「ああっ！　だめ、もう・・・もうだめ。いく・・・いっちゃう〜っ！」
　最後の言葉が高く長く伸び、ガクガクと腰をバウンドさせながら由美子は痙攣した。
　由美子がオルガスムスを迎えたのを本能的に理解した亮は、感激のあまり由美子を抱きしめ、唇を吸う。
　由美子が、それに応えていると、亮の腰が微妙に動き、熱いものが太ももにこすりつけられた。
　亮が呻く。
　そしてすぐに生温かい感触が伝わってきた。そう、ブリーフから顔を出したペニスから精が放たれたのだ。
「どうして？　亮ちゃん。私なら、いいのに・・・」
　予想していなかった展開に由美子は戸惑う。
「だって、初めてで、ちょっと怖かったんだ・・・そしたら・・・」
　亮がうつむきながら答える。
「ええっ、前の彼女とは？」
「キスもしてないよ・・・」
「じゃあ、なにもかも私が初めてなの？」
「・・・うん・・・」
　顔を赤くして、ちょっとふてくされる表情の亮を見て、「この子は私のもの！」だという感情が由美子の心を支配した。自分のすべてで亮を包み込んでしまいたくなったのだ。
「亮ちゃん、さっき、私のこと好きだって言ってくれたわよね」
「うん・・・」
　ますます、顔を赤くして、うつむく亮。
「私も、亮ちゃんのこと、大好きよ」
「ほ、ほんとう・・・」
「そうじゃなかったら、こんなこと、するわけないでしょ。それに亮ちゃんがあんまり上手なんでビックリしちゃった。だから初めてなんて思わなかったの。だったら私が最後までちゃんと教えてあげるから・・・こんなところじゃなくて私の部屋へ来て」
「でも、三田先生が帰ってきたら・・・」
　すでに、時刻は１１時に近いのだ。
「大丈夫よ。箱根で会合だから、明日の夜までは帰ってこないわ。それより早く」
　手を引かれるまま、亮は二階に上がり、由美子の部屋に入った。
　女性の部屋らしい調度。そして、オーデコロンだろうか、蠱惑的な香りに動悸が激しくなる。セミダブルのベッドが目に入り、ますます胸が高鳴る。
「ちょっと待っててね」
　由美子が素裸のまま部屋を出ていき、すぐに蒸しタオルを手にして戻ってきた。
「まずは、きれいにしないとね。はい、バンザイして」
　あっという間に、Ｔシャツを脱がされ、チノパンはブリーフごと下ろされてしまった。腹にべっとり付いた精液を蒸しタオルで拭かれ、ペニスにかかると、ふたたび勃然となる。
「元気ね。たくましいわ。じゃあ、ご褒美に、もっときれいにしてあげる」
　由美子は亮のものを躊躇なくくわえた。
　生暖かいものに包まれた亮は、その舌の動きに陶然となる。
　いったん萎えたものが硬く太くなっていく。
「ああ、すごいわ。亮ちゃんのもの」
　実際、亮のペニスは、由美子が両手で握っても先端が顔を出すほどなのだ。
「ねえ、約束してくれる？」
　由美子が、いたずらっ子みたいな目で、亮を見上げる。
「由美子ねえさんとだったら、なんでも約束するよ」
「本当？　うれしいわ。じゃあ、亮ちゃんのこれは、これからずっと私のもの。いいわね？」
　そういうと、由美子は、また亮のものをパクッとくわえた。脈打ちながら硬度を増す亮のペニス。これから、これが自分の中に入ってくるのだと思うと、蜜壺がジワッと熱くなる。
　自分のものがくわえられたという初めての経験と感激にもう亮はたえられなくなる。
「ううう・・・由美子ねえさん・・・もう出ちゃうよ・・・」
　このままだと暴発してしまう。こんど自分の中で最後を迎えて欲しいと思った由美子は亮から離れた。
「まだダメよ。さあ、こっちへ来て、私の言う通りにして」
　亮の手を取り、由美子はベッドに横になった。
「ちゃんと最初から教えてあげる。まずはキスして。私の口の中を舌で舐めまわすのよ」
　亮は操り人形のように由美子にキスをする。手が自然にバストへ向かい、親指で乳首を転がしながら包み込むように揉みしだく。ブルッと身体を震わせた由美子は唇を離す。
「そう。上手よ。亮ちゃん。こんどは首筋にキスして」
　映画で見たラブシーンを思いだした亮は、耳に息を吹きかけ、耳たぶを軽く噛んだり、舐めたりして、耳の後ろから首筋にかけて舌を這わせる。
「ああ・・・気持ちいい・・・」
　由美子の息づかいが荒くなってきた。
　由美子の反応に「これでいいのだ」という確信を得た亮は、バストを揉んでいた右手の位置を下げ、秘肉をとらえた。
「ああっ！　本当に上手・・・そうよ、そこ・・・ちいさく丸を書くみたいに触って・・・」
　由美子は、自分の手を亮の手にあてがい、動かし方を教える。
「尖ったところの上あたりを、人差し指と中指ではさむようにして・・・そう、やさしく・・・すごくいいわ・・・」
　蜜壺から愛液が溢れ、亮が手を動かす度に「ニチャッ、ニチャッ」と、いやらしい音が部屋の中に響く。
「あっ・・・もう、きちゃった・・・ああっ！」
　亮が、舌を乳首に移したとき、由美子はそう言って身体を硬くした。
　自分がリードしようとしても、熟れた身体が先に反応してしまうのだ。
「もうっ・・・亮ちゃんったら上手過ぎる。また、私の方が先にいっちゃったじゃない。こんどは背中も可愛がって。私、背中がとっても感じるの」
　うつぶせになった由美子に、亮は覆いかぶさり、また首筋から舐めはじめる。
「すてきよ・・・ジンジン来ちゃう・・・」
　亮は、両手を由美子とベッドの間に差し入れ、持ち上げるようにして四つん這いにさせて、両手で両方の胸を揉みながら背中を舐めまわした。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
　由美子が断続的な喘ぎ声を上げ続ける。
（く、くやしい・・・けど・・・ああ、早く欲しい・・・）
　教えてあげるつもりだったのに、完全に自分の方が翻弄されている。それでもいい、早く亮とひとつになることを望む由美子だった。
　亮は、舐めたり触ったりするだけでは我慢ができなくなり、ヒップの双丘に手をかけ、思い切り押し広げた。もう一度、由美子の秘部を観察したくなったのだ。
「ああっ！　なにするの？」
　そう言ってみたものの、爛れきった身体ではまるで抵抗ができない。
「由美子ねえさんのあそこを、もう一度、よく見たいんだ」
　初めての強い亮の自己主張。由美子は突き刺さるような快感を覚えた。
「いいわ・・・好きにして・・・」
　立場が逆転した瞬間だった。
　亮は、先ほど教えられた方法を応用して、親指でクリトリスを撫でながら、秘部のあちこちを見たいだけ見て、好奇心の赴くまま触りたいだけ触った。その間、由美子は、押し寄せる快感に、ベッドに顔をうずめながら耐えていた。もう、何度、絶叫を上げたか分からないほどだった。
　最後に、亮が興味を抱いたのは、かわいらしく佇む菊蕾だった。
　指で拡げてみる。わずかに開いた穴は、まるでイヤイヤをするように閉じる。試しに舐めてみると、蜜壺とは違い、コリッとした感触が舌に残る。
「あんっ」
　新しい刺激に、由美子は甘い悲鳴を上げた。それは身体中がゾクゾクするほどの快感だった。登り詰めていく感覚の中で、（私、いったい、どうなっちゃうのかしら）と一瞬思ったものの、亮の舌先が菊蕾に触れる度、どうでもよくなって、亮のなすがままになるのだった。
　何度も大きな波がやって来て、もう下半身が溶けてしまったように感じていた由美子。
「入れてもいい？　もう、我慢ができないよ」
　由美子は、まるで力が入らなくなった身体をなだめつつ、なんとか仰向けになった。
「さあ、来て。私も亮ちゃんが欲しいの。私は亮ちゃんのものよ」
　さっきまで、亮を自分のものにしたいと感じていた由美子だったが、いつのまにか、亮のものになりたいと願っていた。
　由美子は、亮のペニスを握りしめると、自分の蜜壺にあてがった。
「入れるよ」
「来て・・・」
　二人の目が合わさったとき、亮は腰に力を入れた。
　濡れた肉がこすれ合う軽い抵抗があり、二人はひとつになった。
　挿し貫かれた瞬間、由美子の頭の中は真っ白になり、背中にまわした手で亮の身体を思い切り抱き寄せた。
「りょ、亮ちゃん！　ああ〜っ！」
　それは、オルガスムスというには、あまりに激しいものだった。
　まるで、全身が性感帯になってしまったみたいで、ぴったりと合わさった身体が熱くなり、登り詰めたまま一向に醒める気配がない。
（ああ、まるで、身体の中があれでいっぱいになったみたい・・・）
　次々に押し寄せてくる波に身を任せながら、由美子は自分の身体を満たすものの大きさに恍惚となる。
「だめだ・・・もう、出ちゃう！」
　本能的に、力強く腰を動かしていた亮にも限界が来た。
　由美子は、亮のペニスがさらに膨れあがるのを感じ
「来てっ！」
　と、叫んだ。
　ドクッ、ドクッと放出される熱い奔流を感じながら由美子は意識を失った。

　放出の瞬間、閃光が走ったような視界の中で、ひときわ高い声をあげ、腰を持ち上げてのけぞる由美子。その姿が亮の心に刷り込まれた。由美子は亮にとって永遠の女性になったのだ。
　萎えたペニスを抜いて見下ろすと、由美子は、ときおり、ヒクッと身体を痙攣させながら無防備な姿をさらしている。思いも寄らぬ女体の反応に、亮は、ただ驚くばかりだったが、ますます愛おしさが募り、由美子の髪を撫でる。

「おねえさん、大丈夫？」
　眼を覚ますと、心配げな亮の顔があった。
「ああ、亮ちゃん・・・素敵だったわ・・・」
「僕の方こそ、夢みたいだ・・・」
「もう、亮ちゃんを放したくない。でも・・・亮ちゃんは、もっと若い娘の方がいいんじゃない・・・？」
「そ、そんなことないよ。僕の方こそ、心配なんだ」
「なにが？」
「このまま、会ってくれなくなっちゃうんじゃないかって・・・」
「ばかね。もう、私は亮ちゃんのものよ」
「ほんとう？　これからも、ずっと・・・？」
　由美子は、返事をする代わりに、亮を抱きしめる。
　その、柔らかな体を全身で感じて「ズキン」と亮の欲望が回復した。
「由美子ねえさん・・・」
　亮のペニスが、また、硬く大きくなっていく。
「すごいわ。亮ちゃん。こんどは、亮ちゃんの好きなようにして。したいことがあったら、何でもしていいのよ。どんなことでも・・・」
　それは、長い夜の始まりだった。