はちみつ太郎 作
| ２４ 「ねぇ、浩二さんは・・・浩二さんは・・・。」 「まだ、生きてるよ・・・００２番は、お勤めに励むんだ。そうすれば。」 「会えるのね、帰らせてくれるのね。」 「あぁ、ほら、・・・ついて来い。」 首輪から繋がる皮ベルトを引き、紺色の服を着た男に引き渡される。後ろ手に手錠を施された女は、手綱を握る男に連れられ、暗い地下回廊を全裸の尻を左右に揺らせながら歩いていく。 「会えるよ、・・・もうすぐだ。」 手綱を引き渡した男は、女の後ろ姿を見つめ、哀れむように手を合わせ合掌すると念仏を唱え続けている。 「桧山警部補、県警上陽署、副署長の・・・山岡ともうします。」 「はい、・・・なにか？」 「小池本部長に番号を聞きました、１０１７事件のご担当ですか？」 「はい、・・・・。」 「外岡由美さんをご存知ですか。」 「えぇ、外岡浩二さんの殺人事件の重要参考人です。」 「上陽署管内の空き家で変死体で発見されました。司法解剖の結果は、後日、書類を送付させていただきますが。」 「速報をお聞かせ願えれば。」 「えぇ、他殺です。舌を噛み窒息していたが、どこからか運ばれた形跡がありました。自殺した後に・・・。」 「自殺だが、誰かに強要された？遺留品などは？」 「ＤＮＡ鑑定を・・・簡易鑑定ながらしております。」 「結果は？」 「ある、男が浮かびました。膣内に残った残留精液から・・・。」 「それが犯人。」 「そうなのですが、・・・完全なるアリバイが。」 「その男、引っ張ったのですか？」 「いえ、引っ張れないんです。」 「どうしてです？」 「もう、・・・この世にいないんです。」 「は？」 「金中・・大をご存知で？」 「えぇ、連続婦女暴行殺人事件の、たしか二人殺害して、服役中・・・。」 「死刑判決が下されていまして、数日前に執行されているんです。」 「・・・。」 「では、速報までに・・・。」 あずさは二人目の被害者、正確には四人目の被害者に黙祷した。 疑念だけが大きくなると、黒田と小春の行く先が気になったが、ＭＡＤとの逢瀬のため、二人で行かせたことを後に後悔することは、虫も知らせていない。 ４回目のＭＡＤとの逢瀬は、ホテルの一室だったが、直前のメールでＭＡＤ本人の自宅での逢瀬となった。 黒田と小春は、その旨をあずさにも伝え了承はされている。黒田が一緒ということもありサポートは、遠目での監視ということを伝えられていた。 ＭＡＤの自宅まで、数分のところ、黒田は小春との会話の中で今日の気持ちを吐露した。 「ＭＡＤ、ってどんな感じなんだろう？」 「ん、そうね、やさしさはありそう。離婚経験ってのが、大きいんじゃないかなぁ。」 「小春は、・・・どうなの・・・男として。」 「あぁ、心配？・・・年齢差が・・・気になる。男としてって言われると。」 「付き合うか、付き合わないかでいくと？」 「ない。・・・ないかな。」 「あ、そう・・・聞いたことなかったけど・・・俺は？」 「ん？」 「いや、なんでもない・・・忘れて・・・忘れて。」 「・・・結構、いけてる。・・・・けっこうね。・・・チュッ。」 小春の返事は、黒田の決意を固めさせた。頬に唇が当たるだけ、黒田はそれだけで良かった。形だけとはいえ小春は俺の物だと確信ができ、寝取られ夫を演じることができると。 二台目の駐車場に車を止めると、ＭＡＤの車を黒田は覗き込んだ。年収などがわかりえる高級車に嫉妬をいだくと、小春の前に出、インターホンを押す。 中からどうぞの返事を聞くと、躊躇なく玄関戸を開けた。 擬似夫婦がエントランスホールに足を踏み入れると、背後から物音が聞こえる。黒田は足元に張られたピアノ線に引っかかりつんのめると、脇の階段から飛び降りてきたガタイのいい男に馬乗りにされる。 背後の小春が気になるが、そこまで見る余裕はなかった。フグフグと聞こえる声は、口を押さえられているに違いないと思うが、何も出来ない。 黒田の髪の毛を鷲掴みにするガタイのいい男は、小春を羽交い絞めし、服の上から乳房を揉みしだく相棒に声を掛ける。 「どうだ、Ｓ級素人より？」 「Ｃカップの・・・Ｓ級人妻です。」 小春は、ビニール袋で口を覆われると、気化させた違法ドラッグ「５Ｍｅ０−ＤＭＴ」を吸わされ、足元が揺らぎ白目を向いている。 もう一つのビニール袋を黒田の耳に掛けると、小春と同じように白目をむき、顎を床に打ちつけた。 ＭＡＤの存在を確認するまもなく、遠い意識の二人は、数分前の話を思い出しているのだろうか。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2013.1.7掲載 |
【次頁】
|
はちみつ太郎さんの作品群→ |