8　杏子

　俺はスライドショウを見た。日付は三月十九日〜

　定位置からの撮影間隔が一定の撮影だった。三脚を使い自動シャッターで撮ったんだろう。
　もう、母はあの女に変身していた。ガラガラと格子戸の開く音がした。あの女はカメラの方を見たが何の反応も示さなかった。例によって男がすぐ果てる。
　三十年前の父が出てきた、裸だ。男と比ぶべきもない貧弱な身体で。あの女は言った。”杏子”という名にしよう。
「おう、雄チャンかい。いい度胸だね。いいよ来な、可愛がってやるよ。」
　あの男に対するよりも少し優しかった。
「寝な」
　父を寝かせ、情けない父の一物に目をやり言った
「相変わらずだらしない息子だねー」　　（息子は俺だ）
　”杏子”を大分てこずらせたが息子は立った。
　”杏子”は父の上に乗った。父は泣きながらイッた。
　”杏子”はそれを見てコロコロ笑い、からかった。
　そして、倒れ気を失った。父は慌てて画面から消えた。

　まるで喜劇だった。memo.txtを見てみよう。

　男との取引は成立し、妻が一人になる夜がきた。秋分の日と日曜日で連休になり、子供達は妻の実家に遊びに行った。私は”残業”である。
　舞台は寝室、観客である私は指定席で開演を待っていた。いよいよ役者の登場である。
「そんなに飲んで大丈夫」
「ああ」
　男にいつもの荒々しさがない。
「変ね今夜は」
　居間でいつもより飲んできたのか妻の方が積極的だ。男に見せ付けるように脱ぎ始めた。鏡の前では自分でオナニーもした。男を裸にして、いつもは命令されてやることを自分からしてやった。
　妻の挑発に乗ってきたのか、酔いが回ってきたのか、私の存在にかえって興奮したのか、男はふっ切れたようにぎこちなさがなくなり、私に対して開き直った。ほとんどの行為が私から近い妻のベットで繰り広げられ結合部分がよく見えるようにしてくれた。妻の表情もよく見させてくれた。
「こんな時旦那が帰ったらどうするんだよー」
「こんな助平な”あや”を見て旦那はどう思うかなー」
　そして、妻に卑猥な言葉を何度も繰り返させた。妻は私の目の前で潮を吹き始めた。
「グホッ」という音と同時に汁が飛び散る。男はいったん妻から離れた。
　私に妻の表情がよく見えるように妻を軽々と持ち上げ、足と頭の位置を逆さまにした。妻は男が離れた時のままの格好で固まっていた。
「いや、いや、来て、来て」
　両手の指は何かを鷲づかみにするように大きく広げ宙をさ迷っている。身体は小刻みに震えてきた。いや、ケイレンが来ている。男は再び妻の上に乗った。妻の右手はシーツをきつく掴んでいる。左手は自分の髪の毛の中で頭を掴んでいる。男が深く突く。
　右を向いていた妻の顔がゆっくり上を向く。目が宙をさまよう。眉間にしわが寄り、一瞬困ったような表情になった。その時「グホッ」という音がする。
　妻の叫び声が上がる。見えないがこの時妻のそこからは愛液がほとばしり出ているはずだ。

　男は私のほうを一度見るとフィニッシュに向かった。妻は確かに涙を流していた。男の目を見ながら「スゴイ、スゴイ」を連発しながら。
　妻は今、”大”の字になっている。男がその上にのし掛かった。二人の間に一分の隙間もない。男が激しく突く。ピンクに染まっていた妻の肌が白く変わってきた。目の前に妻の顔があるが青白い。「ウー」とうなり声を上げた妻は黒目が斜め上に上がってきた。妻の目から完全に黒い部分が消え、身体は反り上がり、男はベッドの下に飛ばされた。

　私はここまでカメラを持たず、自分の目で、直接に妻の痴態を堪能した。妻が失神する少し前には、私は格子戸を両手で掴み妻を夢中で見ていた。視姦していた。私の中心は熱くなっていた。期待が膨らんだ冒険だったが、格子戸を開けた。”杏子”は私とカメラを見たが無視し、男に跨がった。私がカメラをセットし、裸になると男はもう果てていた。
　私は自分の無鉄砲さに驚いていた。男も同じ目で私を見ている。”杏子”はその私を受け入れてくれた、乱暴な言葉で。しかし私を立たせるために”杏子”の口は献身的だった。吸い、含み、舐めてくれた。唇、舌、喉、唾液がハーモニーを奏でた。
　左手は睾丸から肛門の間を丹念に愛撫した。時々、肛門の中にも指が入ってきた。右手は男が女を愛撫するように、身体のあちらこちらを行き来した。口の中に親指が入ってきた。私は夢中で吸った。愛撫されるたびに電気が走り確実にスイッチが一つ一つ入っていく。

　ついに体中の血が意志を持って中心に集まりだした。何年ぶりだろう。そして、マスターベーションを覚えた頃のあの感覚が懐かしさと切なさで迫った。硬くなったことを感じた。それでも不安で右手で握ってみた。完全だ！
「てこずらせやがって」
　”杏子”は俺の手を払いのけ乗ってきた。
「このまま死んでもいい」
　私は泣いた。久しぶりに涙がボロボロと出た。
　男の視線も、”杏子”のからかいの言葉も気にならなかった。
　泣いてもいいんだよ。私は自分の中の”男”にやさしくいった。一度は完全に諦めたんだから。
　”杏子”は私を男のようには扱わなかった。
　女性を「観音様のよう」と表現することがある。”杏子”の中はまさに観音様のように温かく優しかった。私は観音様の乳房をつかんだ。私は御光の光を浴びながら果てた。

　私は”残業”を終えて家に帰った。妻が迎えた。
「何もなかったかい」
「ええ、”頭”が来ましたが貴方が電話で返すようにおっしゃったので返しました。ほかは何も」
　妻はまったく自然に答えた。いつもどおり完璧に！
「そうかい」
「すぐお風呂にしますか」
「二人っきりになるのは久しぶりだな。一緒に入るかい」
　私は妻の後ろから抱きついて言った。
「まあ、酔ってらっしゃるんですか」
「いーや」
　胸に手を入れようとした。妻はするりと逃れると、子供を叱るように私を睨んだ。
「変ですよ、今日は」
　台所を通り風呂の燃し口の方に消えた。私の妻”文子”が

　私はその後、”文子”の知らない”杏子”と何回か浮気した。そのためには男の協力が必要だった。男は私の無理な注文によく答えてくれた。そして私が男になるには、”杏子”の力が必要だった。妻を含め他の女では依然として駄目だった。
　”杏子”は相変わらず乱暴で礼儀知らずだったが、私は”杏子”に満足していた。
　そして、私が見ているとも知らずにますます淫らに乱れる妻に新たな欲望が湧いた。私がいる事を意識した時、妻はどう振舞うだろうか。ぜひ見てみたい。
つづく