『旅の宿』・『好きだよ』続編です。

　春。四月。今までの庶務課から、営業一課へと異動になった。あの人事異動さえ無ければ…って後から思うことになるんだけど、地味な庶務から花形の営業に移れて、あたしは毎日の仕事が楽しくて仕方なかった。彼氏とも順調だし、公私ともに良い感じだなーなんて思ってた。
　営業一課は二人の男性営業社員を、一人の女性事務担当がサポートするのが基本のチーム。あたしが担当する一人、嶋さん（30代の冴えない男の人なんだけどさ）が新しい取引先を任されることになり、相手先の会社へ課長・嶋さん・あたしの三人で挨拶に行くことになった。
　会議室へ案内され、
「課長、立派な会社ですねー」
　なんて呑気な会話をしていると、五分も待たずにドアが開き、
「お待たせしました。」
　先方も三人。お互い立ち上がって、名刺交換が始まる。
「担当の山崎です」
　相手の担当者さん。ウチの嶋さんより少し若いかな。眼鏡をかけて痩せてて髪がバサバサで、ちょっとヲタクっぽい見た目。
「三宅と申します」
　女性は、あたしより年上かな。…って、そんなことはどうでもいいの。
　問題は、もう一人。
「どうも。はじめまして。課長の佐伯です」
　え…えぇっ！？
　わざとらしく『はじめまして』を強めて言うとニッコリと笑ってあたしの顔を見たのは、佐伯さん―去年の秋にちょっとだけ…ほんとにちょっとだけよっ…アバンチュールを愉しんだ相手だった。

　世の中って広いようで狭い。顔合わせミーティングの間、向かい側に座る佐伯さんの顔を盗み見ては、そんなことばっかり考えてた。佐伯さんの方は、あたしのことなんて忘れてるかのように、普通に、真面目にお仕事してる。あたしはずっと上の空で、ミーティングが終わって、みんなが立ち上がったところで我に返る始末。
「じゃあ、このあとは行きますか？」
　ウチの課長が右手で、くいっと飲む手つきをする。あぁ、懇親会もあったんだっけ。
　取引先との顔合わせっていうから、紺の地味なスーツ着て来ちゃった。あぁ…下着は可愛いピンクの上下だぁ…あ、下着は関係ないじゃない。
　佐伯さんと飲む…ってみんなも一緒だし、なんか佐伯さんは知らない人の素振りだし。何バカなこと考えてるんだろ、あたし、一人オタオタしてる。こら、彼に悪いぞ…。予約してある居酒屋へ行く道筋、一番遅れて歩きながらとりとめもなく考える。
　居酒屋で座った席も、ちょうどテーブルの反対側だったから、佐伯さんと話す機会はなかなか来なかった。途中から男性陣は今年のプロ野球がどうのって話になっちゃって、あたしと三宅さんの女性二人は仕事の愚痴を言い合ったりして。
　こうして見ると佐伯さん、いい男だなぁ。少し目が垂れてるけど、いい感じに渋い。グラスを持つ指が長くて、あの指があたしの中に入ったことがあるんだなぁ…なんてエッチなことを酔った頭で考える。
　佐伯さんがトイレに立ったから、一応二人だけで話をしておきたいかなって思って、後を追う。男女共用のトイレは、広めの手洗いスペース、その奥に個室があって、あたしがドアを開けた時には、ちょうど佐伯さんは手を洗ってるところだった。
「やぁ」
　あたしに気付いた佐伯さんは、鏡越しに笑う。にやけた感じでもなく、爽やかっぽく見えるのは贔屓目なのかな。
「あ…どうも…お久しぶりです…」
　間抜けな挨拶をして、ぺこりと頭を下げる。
「偶然だね。プロジェクトよろしくね。担当の山崎、ちょっと抜けてるところあるからさ」
　手を乾燥機で乾かしながら、普通に、仕事の話をされて拍子抜け。あ…何かを期待してたわけじゃないんだけど。
「はい、よろしくお願いします」
　そのまま立ち話を続けるのも変だし、佐伯さんはもう手を乾かし終わってるし、あたしが奥の個室に入ろうとしたら
「…っと」
　佐伯さん、当然って感じであたしに続いて個室に入って来ちゃうの。鍵をかけると、そのまま強引に唇を重ねられて
「んっ…んん……っ」
　突然で、びっくりして、少しだけ身体を押し返そうとしたけど、舌先が触れ合うと身体の力が抜けちゃう。
　舌を絡ませ、濃厚なキスをしながら、佐伯さんの手があたしのスカートを捲り上げ、いきなり下着の中に入って来る。やぁん…すごい強引…って思いながらも、あたしの身体すぐに反応しちゃって、じわぁって濡れてくる。
「…ん…んぅ……」
　少しの間クリを指先で転がしたかと思うと、指が中に入って来る。唇を塞がれてるから、甘い声が喉の奥で篭る。
　乱暴に指を出し入れされて、くちゅっくちゅって愛液の音。
　ぁん…いぃ……腰が自然に動き始めた途端に、すっと指が抜かれて、唇も離れちゃった…。
「ぁん…」
　思わず、不満そうに声をあげちゃう。佐伯さんは面白そうにくすっと笑い、愛液に塗れた指をぺろっと舐めると、何も言わずにさっさと鍵を開けて個室を出て行っちゃったの。
　ええー…何なの今のってっ。思いっきり疼いた体のまま個室に残されて、あたし、蓋をしたままの便器に座って呆然とした。

　懇親会はつつがなくお開きに。もう後半はぼーっとしてて、何を喋ったのかもよく覚えてなかった。佐伯さんはあの後一度もあたしの方を見ることも無くて。一回会社に戻ってすることがあるって、駅に向かうのとは逆方向へ歩いて行っちゃった。
　みんなにはお店に忘れ物したって嘘ついて、途中で戻って追いかける。のんびり歩くグレーのスーツ姿に、すぐに追いつくことは出来た。隣に並んでも、佐伯さんはちらっとこっちを見ただけ。
「あのぅ…」
　声をかけても
「ん？どした？」
　呑気な返事。
　どうしたかって聞かれると……そうだよね。どうしてあたし、追いかけて来ちゃったんだろう。口篭っていると
「さっきのじゃ足りなかった？」
　からかうような調子で言われて、カッと頬が熱くなる。
「そっ…そんなんじゃありませんっ！」
　思わず、強い調子で言い返すあたしの頭を、ポンポンって二回叩いて
「すいませーん。お客さんが忘れ物しちゃって」
　ちょうど到着した会社の入り口、テレビを見てる守衛さんに声をかけ、佐伯さんはあたしの背中を押しながら会社の中へ入っちゃった。
　夜間用の小さな照明だけの廊下、あたしの手を取って歩いていく。
「佐伯さんっ…！」
　暗い廊下に声が響くから、
「あたし…忘れ物なんてしてません…」
　つい小声になって。
「うん。分かってる。あ、ここが俺の課」
　左側のドアのひとつを開くと、どこにでもありそうな机の並ぶオフィスの風景。
「ちょっと待ってて貰える？今、ひとつだけメールを確認して転送するのがあるから…」
　ＰＣを立ち上げ、作業する姿をぼーっと見つめる。旅先の露天風呂で出逢って、身体を重ねて…そんなことがあったのは遠い夢みたい。
「よし。ＯＫ」
　ＰＣに向かって頷いて、こっちを振り返る佐伯さん。ちぇ…悔しいけど好みのタイプ…なんて思ってると、
「よいしょっと」
　ふわっと抱き上げられる。
「きゃっ…佐伯さんっ…」
　軽く抱き上げられて、机の上に乗せられちゃった。
「あの…何をいきなり…」
「何って…こういうことをしようかなって…」
　ぎゅっと抱きしめられ、また強引に唇を重ねられる。
　力が…抜けちゃう。
　舌が、唇の内側をゆっくり辿っていく。
　キスをする間に、上着を脱がされ、ブラウスのボタンがひとつずつ外されて。
「会いたかったよ…理香子…」
　低い声が、腰のあたりにずぅ…んって響く。
「佐伯さん…」
　酔いも手伝って、頭の芯がとろんとしてくる。
「…なんて、言うと思った？」
　くす…っと笑ったかと思うと、首筋を軽く噛まれる。
「ぁんっ…痛っ…」
「彼とは順調なんだろ？いいの？こんなことして」
　冷静で、からかうような口調。乱暴にブラウスを肌蹴られ、ブラを押し上げられる。
　硬く尖ってる乳首に吸い付かれ、歯を立てて甘噛みされると、身体の奥に電気が走るみたい。
「ぇ…ぁ…んっ…どうして…」
「え？メールも来ないし、そりゃあよろしくやってると想像出来るだろ」
　言いながら、あたしの両脚から靴を脱がせ、机の上へと持ち上げる。
　オフィスの机の上で、胸を露にされて、Ｍ字開脚しているあたし。
「彼氏がいても、こっちは別だもんな。理香子」
　すごく意地悪い言い方。
「佐伯さん…怒ってる…の？」
　恐る恐る聞いてみたけど答えは無くて、ストッキングの上から、腿に佐伯さんの舌が這う。舌が触れるだけで、あたしの腰はびくんって動いちゃって。
「ここも…もうびしょ濡れだよな。トイレでちょっと触られただけで、あんなだったんだから…」
　指先で軽く撫でられるだけで、逝っちゃいそうなくらい感じちゃう。
「や…いや…っ」
　そんな言い方しないで。
　下着とストッキング越しに、乱暴に捏ねられて
「いや…じゃないだろ？」
　目を覗き込まれる…ぁ…佐伯さんの目…だめ…。
「こんなに濡れて…乳首舐められただけでぐしょぐしょだな」
　指先が、割れ目のところを往復する。
「ぁ…ん……や……」
　指の動きを追うように、腰を浮かして、揺らして。
「直に触って欲しい？」
　哂って聞かれてるのに、反射的にコクンと頷いちゃう。
「んー…脱がすのも面倒だな。切っちゃっていい？」
　え……？？
　机の上にあったペン立てからハサミを取り出すと、佐伯さんの手が股のところのストッキングを摘む。
「やっ…やだっ…！」
　ハサミで怪我することが一瞬頭をよぎって身体を強張らせている間に、ハサミを動かし、ストッキングとショーツの股布を切り取ってしまった。アソコの部分の布が無くなってすうすうする。
「これで、いつでもどこでもやれるな」
　ハサミをペン立てに戻し、丸見えになったあたしの恥ずかしいところを見て、彼がニヤリと笑う。
「いや…今日の佐伯さん…いや……」
　怖くなって来て…それでもあそこを見られていると身体の奥が疼いて、新たに蜜が溢れていく。
「こんなに濡らしといて、『いや』？」
　長い指が、花びらを柔らかく辿る。
「ぁ……はぁぁ……」
　甘く、吐息が零れちゃう。
　オフィスの机の上で、Ｍ字に脚を開いて、ショーツに空けられた穴から弄られて、気持ち良さそうに喘いで腰を浮かせて…自分のはしたない姿を思うと、余計にたくさん濡れちゃう。
　ぴちゃぴちゃと音を立てて叩いたり、ゆっくりと周囲を撫でたりしながら、佐伯さんの指はクリにも触れてくれないし、中へも入れてくれない。
「んっ…ぁ…ぁんっ……いやぁ…」
　指を追って腰を動かす。クリも弄って…中もかき回して……そうされることしか考えられなくて。
「ん？どうして欲しい？」
　あぁ…ずっと妄想してたのと同じ台詞を佐伯さんが言う。
「んぅ……意地悪…しないで…」
　泣きそうになるあたしに、
「ちゃんと言わないと…入れて欲しい？」
　聞き返されて、小さく頷く。
「ん………欲しいの……」
　答える声が掠れちゃう。
「どうしようかなぁ…」
　考え込むような素振りをしながら、左手はずっと花びらを弄ぶから、あたしは切なく腰を動かし続けていて。
「連絡しなかった罰だから、今日は入れてあげない」
　意地悪く、佐伯さんが笑う。焦らされると、余計に欲しくなって、膣がひくって動いて蜜が溢れていく。
「んぅ……」
　もどかしくて、でも、そう言われたら何も言えなくて。
「じゃあ、これだけ」
　軽く、クリトリスを弾かれる。
「んくっ…ぁぁっ…」
　ずっと焦らされていたから、すごい快感で…びくびくって腰が震えて跳ねちゃう。
「理香子は感じやすいなぁ…」
　面白そうに言うと、佐伯さんはペン立てから太めのサインペンを手に取った。
「これ、入れてごらん？」
「ぇ……」
　ペンをあたしの右手に持たせて。
「これで、オナニーしてみせたら許してあげるよ」
　無造作に言う。
　あたしが、するって決め着けてるみたいに。
「や…そんなこと…できない…」
　ペンを持って、あたしは首を振る。出来ない…見せるなんて…佐伯さんに…。
「いつも、してるんだろ？どんな風にするの？」
　大きい手をあたしの手に添えて、股間へ導いていく。
　抵抗しようと思えば、ペンを離せばいいだけなのに、あたし、されるがままになっていて。
　ちゅぷ…サインペンの軸が、割れ目に少しだけ入って…止まる。
「ぁぁ…いや…だめぇ……」
「いつもは？何を入れてするの？」
　手を止めたまま、佐伯さんが囁く。
「ぁ…ん…や……いや……」
　頭の芯が痺れたようになってくる。いや…いや…弄ってもらえないのも、ペンが入り口で止まっているのも、佐伯さんの声も……何もかもがもどかしくて、奥の方で愛液が溢れる。奥の蕩けているところに、硬いモノを入れてほしい、かき回してほしい、蜜を掻き出してほしい…
「ほら、教えて。いつもは？」
　質問を重ねながら、もう少しサインペンが押し込まれる。
「ぁ…ぁぅ…いつもは……もっと…奥まで…ぁぁ…」
　堪えきれず、自分でサインペンを押し込んじゃう。膣壁は奥へ奥へって誘うように蠢いていて、ペンを吸い込んでいくよう。
「奥まで？何を入れるのかな？」
　佐伯さんはくすっと笑うと、奥まで挿入されたサインペンをゆっくりと回す。
「はぁ…ぁ……バイブ…入れるの……ぁぁ…ぁはぁ…」
　ペンの動きに合わせて、腰を回すように動かして。
「バイブ持ってるんだ…厭らしいね…理香子…」
　佐伯さんがペンから手を離す。あたしは、手を離せない。そのまま、佐伯さんが動かしていたのと同じリズムで、ペンを回して、奥をかき混ぜて…
「ぁん…や…いや……恥ずかしぃ……佐伯さん…」
　机の上で、穴の空いた下着で、サインペンでオナニーしてる…たまらなく惨めで…それなのに溢れる愛液が机にまで滴って…。
「うん？自分で勝手に動かしてて、恥ずかしいの？」
「恥ずかしい…いやぁ…」
　ペンを動かすのを、止められない。くちゅくちゅ音がする。佐伯さんに見詰められて、恥ずかしい格好でオナニーして…感じすぎて頭がおかしくなりそう。
「いつもは、何を想像してするのかな？」
「ぁ…ぁん……佐伯さんのこと…思い出したりぃ…ぁ…はぁ…」
　ペンを出し入れしたり、ぐりぐりと奥を抉るようにかき回したり。
「へぇ…俺のこと思い出してくれたんだ…じゃあ、ご褒美」
　かりっ…と乳首を噛まれる。
「ぁぁぁっ…」
　その刺激だけで軽く達してしまう。あたしの身体、どうしてこんなに淫乱になっちゃったんだろう。
　片手でペンを出し入れしながら、反対の手でクリを弄る。
「もっと…深く逝けるだろ？」
　また、佐伯さんがペンを動かしてくれる。あたしは、デスクの上で腰をびくんびくんと跳ね上げ、クリトリスを指先で捏ね、乳首を摘んで胸を揉みしだき
「ぁ…ぁん…佐伯さん…いぃ……っ…」
　膣が何度もひくひくする…きっとひくひくしてるところ、全部佐伯さんに見えちゃってる。そう思うと、すごく感じちゃって
「んっ…ぁんっ…イっちゃぅ……いや…ぁ……イクぅ………っ」
　脚を開いたまま突っ張って、身体を仰け反らせ、潮を噴きながら絶頂に昇りつめる。

　少しずつ快感の波が引いていくと、サインペンなんかで逝っちゃった自分が惨めで泣きたくなって、ポロポロっと涙が零れて来た。
「あぁ…よしよし…」
　苦笑交じりに頭を撫でて、あたしを抱き起こし、机から下ろしてくれる。
「連絡も寄越さないし、久しぶりに会ったら綺麗になってるし、つい苛めたくなっちゃってね」
　ブラとブラウスの乱れを直してくれる。その間、あたしはしゃくり上げてるばかり。
「苛め過ぎちゃったかな。でも、感じてただろ？」
　濡れたところもティッシュで拭いて、捲れたスカートも引っ張って直して。
「……知りません…っ」
　優しく言われても、あんなことされて感じちゃった後じゃ、恥ずかしくて顔も見られない。
「怒っちゃった？後でちゃんと可愛がってあげるから…機嫌直して」
　ぎゅぅって抱きしめられる。
「……知らない…佐伯さんなんて…嫌い…」
「よしよし」
　くしゃっとあたしの髪をかき回すように撫で、
「ホテル、行こうな。たっぷり可愛がるから」
　耳元で囁かれると、膝の力が抜けて来ちゃう。
　煙草の匂いのする胸に顔を埋めたまま、微かに頷いて…一瞬浮かん彼氏の顔を忘れようとして、あたしぎゅぅっと目を閉じた。