１．

　それは沙織にとって、ほんの出来心だった。
　日曜日午後の大型ショッピングモール。夫に子供を預け、久しぶりに羽を伸ばして買い物を楽しんでいた沙織は、ワゴンセールのハンカチに目を留めた。
「まあ、きれい」
　手に取った紅いハンカチをワゴンに戻さずに、そのまま自分のハンドバックにそっと入れてしまったのだ。
　別にお金に不自由していたわけでもない。盗んだという自覚もなかった。
　ただ足早にワゴンから立ち去りながら、普段はあまり感じたことのない胸の高鳴りを覚えていた。
　33歳の沙織にとって、生まれてはじめての万引きだった。
　まっすぐにエスカレーターに向かいながら、沙織は言いようのない達成感を感じていた。そう、その右腕をぐいと強く掴まれるまでは。

「見ましたよ。奥さん」
　はっととして振り向くと、そこに見覚えのある男の顔があった。
「健一くんのお父さん・・・」
　それは毎日幼稚園の送り迎えで顔を合わせる、子供の友達の父親だった。
　確か苗字は佐伯、あまり目立たない中背のサラリーマンだと記憶している。
「いけませんね、万引きは」
　男、佐伯はニヤニヤ笑っていった。いつもはおとなしそうな顔をしているくせに、このときはギラギラとした牡の目を沙織にひたと据えていた。
「ちょっと、こちらに来てくださいよ」
「え、いや、あの・・・」
　佐伯は有無を言わさず、エスカレーター脇の非常階段の方へ沙織を引っ張っていった。

　防火扉を隔てた非常階段には、殆ど人気がなかった。
　佐伯は沙織の腕を掴んだまま階段を下っていった。
「あの、佐伯さん、ちょっと手を離してくださいっ」
　佐伯は立ち止まり、沙織の目を覗き込むようにして囁いた。
「みんなにバラすぞ」
「え、な、何を・・・」
「翼くんのママは、紅いハンカチを万引きしました」
「！」
　硬直した沙織のサマーセーターの上から、佐伯の手が豊かな乳房を鷲掴みにした。
「黙っていてやるよ、一回だけヤらせてくれればね」
　沙織の頭の中が真っ白になった。
　佐伯の腕が、沙織のスリムな腰に回った。そのまま引き寄せるようにして、階段の踊り場にある男子便所に沙織を連れ込んだ。

　初めて入る男子便所は無人だった。
　呆然としたままの沙織を、佐伯は一番奥にある大便所に素早く押し込んで扉を閉めた。
　消毒薬の強烈な匂いが沙織の鼻を打つ。
　佐伯は狭い個室の中で女の体を壁に押し付けた。
　混乱のあまりまともに対応できない沙織は、佐伯がサマーセーターをめくり上げるまでなすがままの状態だった。
　ブラジャーに包まれた大きな胸が外気にさらされた瞬間、彼女に理性が戻った。
「や、やめてくださいっ！」
　押しのけようとした両手首を、佐伯の大きな右手の平が苦もなく掴んだ。
　170cm、学生時代はテニスで鍛えたしなやかな沙織の肉体は、欲情した中年男の力の前には無力に等しい。佐伯は左手でブラジャーを引き下ろした。
　夫以外には見せたことのない、二つの双丘がぷるんと飛び出す。
　子供を産んだとは思えないほど瑞々しく、張り切った乳房である。
「静かにしろ・・・」
　佐伯は沙織の耳元で囁いた。
「黙らないとコロすぞ・・・」
　押し殺した低い声は暴力の悦びに震え、沙織の背筋に冷たいものを走らせた。
　冗談ではなかった。少なくともこの男は本気だ・・・
　沙織の膝から力が抜け、抵抗の気力が萎えた。
　その瞬間を見透かしたように、佐伯が沙織の乳房にむしゃぶりついた。
　飢えた野良犬が、甘い水に満たされた皿に飛びつくように、遠慮会釈なく音を立てて人妻の柔肌を嘗めまわす。硬い歯がコリコリと乳首に当たる。熱い涎が、弾力のある白い肌を余すところなく汚していく。
　同時に佐伯の左手が、沙織の白いスケートを掻き分けて、ピンクのパンティに包まれた秘所を探り当てていた。

「ひっ！」
　乱暴な指使いに沙織は息を呑んだ。
　しかし、太い指はお構いなしに大事な柔襞に進入し、こねくり回していく。
「や、やめて・・・」
　佐伯は耳を貸そうともしない。秘所を覆う布を面倒とばかりに片側に引き寄せ、とうとう生の肉を指でいじり始めた。もちろん、秘裂は乾ききっている。だが執拗で強引な刺激が続くにつれ、柔らかい肉は熱を帯び、徐々に湿り気を持ち始めていく。
　執拗な愛撫は乳房にも続いていた。
　噛み、ねぶり、吸い付き、嘗め回し、佐伯は一瞬も休むことなく豊満な乳房を弄い続ける。男の鼻息がだんだん荒くなり、激しさを増すにつれ、その興奮が沙織にも伝染してきたようだった。
「あっ、あっ、あっ・・・」
　思わず熱い吐息が唇からこぼれだす。
　軽くウェーブのかかった長い髪がその端正な顔に乱れかかり、ぞくっとするほど妖艶な表情が垣間見える。
　便所に入ってから10分とたっていなかった。誰かが来るかも知れぬというスリルが、二人の牡と雌に急激な昂ぶりをもたらしていることは間違いなかった。

「〜〜〜！！」
　佐伯はもう待てなかった。
　以前から目をつけていた美人人妻が、目の前でもだえている。自分の愛撫に応えている、そう思っただけで、気が逸った。沙織の両手首を戒めていた右手を離すと、自分のズボンのボタンを弾き飛ばし、一息にパンツもろとも膝まで引き降ろした。
　先端に透明な汁を滲ませた巨大な一物が、勢い良くそそり立った。
　佐伯は平凡な外見にかかわらず、若いときから数多の女たちを泣かせてきた男性自身の持ち主だった。長さ、強度はもとより、怒張時のその太さは驚くべきものだった。

　沙織は男の両腕が、自分の両膝を抱え上げるのを感じた。
　しとどに濡れた秘唇が左右に引っ張られ、あられもなく口を開いた。
　そこに火傷するほどに熱い丸いものがあてがわれたとき、一瞬にして正気が戻った。
「だ、だめ、それだけは・・・」
　ずぶりっ！
「あ！ああ！あああっ！」
　子供の腕ほどもあるかと思われる焼き串が、問答無用で沙織の膣内に侵入してきた。
　経験したこともないその感覚に、沙織の口から悲鳴が漏れる。
　それが佐伯のペニスであると認識したときには、すでに激しい抽送が開始されていた。

　じゅぶり、じゅぶり、じゅぶっ
「ああっ！あっ、あっ！」
　柔襞を掻き分け、佐伯の魔羅が送り込まれ、引き出される。
　最初は苦痛を伴ったその抽送も、愛液が分泌されるにつれて甘美なリズムを刻み始めた。

　じゅっぷ、じゅっぷ、ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ、
「あっ、あはっ、あはっ、ああっ！」
　素晴らしい肉壺だった。佐伯の巨根にあっという間に馴染み、しっとりと柔らかく包み込んでくる。佐伯はその快感に必死で耐えた。もっとじっくり味わうつもりだったのに、急激に快感の大波が襲い掛かってくる。こねくるように押し付け、ゆるゆると引き出し、リズムを変えて何とかその瞬間を引き伸ばす。
　その快感は沙織も同様に味わっていた。
「あんっ、あんっ、あはっ！いいっ！」
　紅い舌先がチロチロと唇をなめる。その表情は艶にして可憐。佐伯はたまらずにその唇に唇を重ねた。沙織の舌を舌でまさぐり、音を立てて吸い込んだ。二人の舌がまるで別の生き物のように絡み合い、溶け合った。

　ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ
「あっ！あっ！あっ！あっ！」
「奥さん、もういくぜ」
　佐伯は限界に来ていた。そして、沙織の絶頂も近いことを感じ取っていた。

「出すからな！膣中にたっぷりとぶちまけるからな！」
「えっ！だ、だめよ、外に、外にっ」
「いくぞ、いくぞ、いくぞっ！」
「だめえっ、中に出しちゃ、だめえっ」
「いくっ！」

　どぷっ！どぷどぷどぷっっ！！

「あ！ああああああっっ！！」

　禁断の白濁液が、大量に膣内に注ぎ込まれたのを感じた瞬間、沙織は絶頂に達していた。それは夫とのセックスでは感じたこともないほどの快感だった。
　沙織の頭の中は真っ白になり、自分が男子便所で犯されたのだということさえ忘れた。

・・・・・・・・・

　カシャッ！

　便器の脇にへたり込んでいた沙織は、シャッター音に目を上げた。
　快感の余韻が彼女の体を脱力させていたが、目にしたものが一気に現実に引き戻した。
　佐伯が携帯電話のカメラで沙織の姿を写していたのだ。
「くくく・・・、お○んこから流れるザーメンまで撮れたぜ」
　佐伯が酷薄な笑みを見せた。
　沙織は顔が青ざめるのを感じた。

　それが人妻沙織が新しい日常生活に足を踏み入れた瞬間だった。