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【 聖なるクリスマスイヴ 〜あるマンション隣人達の素敵な恋物語〜 】 *** 一話完結 ***
〜あらすじ〜
京都市内、洛北にあるマンションの隣人達の素敵な大人の恋物語。
北山昭夫(28才・独身)と衣笠圭子(29才・独身)は同じマンションの同じフロアの部屋に住む他人同士である。お互いここに移り住んで今年で一年半ほどになる。北山と圭子は同じフロアなのだが挨拶程度するだけで、双方に恋人らしき親密な異性がいたからお互いのプライバシーには不介入という現代風のスタンスを保っている。このマンションの近所にはカンタッキーフライドチキンというアメリカ発のファストフード店がある。クリスマスの時のチキンだけは予約制となっている。
そういえば2006年のＸ'masの時にも北山と圭子は予約しておいたチキンをほぼ同じ時間に取りに行ってマンションまで世間話をしながら帰った。その時はお互いの恋人とチキンをお互いの部屋で食べるのだ、という話であった。そして今年のＸ'masも奇遇にもほぼ同じ時間帯に北山と圭子はカンタッキーフライドチキンの店に予約しておいたチキンを取りに行ったのだ…。
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１．お互いの境遇
北山昭夫(28才・独身)は、今月の１４日に支給された冬期賞与を貰って今まで働いていた会社を退職した。仕事自体は順調で部下からの信望も厚かったが、上司の不正を見て見ぬふりができなくなくなり、それを暴いた勢いで会社に辞表を叩き付けて辞めた。本当は会社は引き止めてくれるだろうと思った演出でついつい出した辞表だったが、会社は来年発表する大々的なリストラ計画もあってか、優秀な北山でさえも引き止めることをしなかった。
つまり、只今無職の身の上だ。加えて、社内恋愛だった彼女とも（少し前にした）喧嘩が原因で現在は冷却期間という感じで、その彼女のいる職場で顔を合わさなくなった今、今年のクリスマスは一人で過ごす羽目になった。ただ、チキンは一ヶ月前に予約していたから３〜４人分のを持ち帰ることになる。
衣笠圭子(29才・独身)も、偶然にも北山昭夫と似たような境遇で今月の２０日に会社を辞めたばかりである。もっとも圭子の場合は今まで不倫の仲にあった会社の上司との不仲というか、その上司との縁切り精算と欧州留学の夢を叶えるのが目的で会社を退職したから、来年の一月いっぱいまで遊んだ以降の人生プランはしっかりと計画済である。
ただ、圭子の場合も元・恋人の会社の上司と食べる筈だったクリスマス用のチキンセットを虚しく一人で持ち帰るところは北山と同じであった…。
〜〜〜
２００７年１２月２４日の１８時頃、先に圭子がチキンを取りにカンタッキーフライドチキンの店に入った。予約済とはいえクリスマスだから店内でチキン受け取り客の行列が三列もある。
名前と品の照合をする作業はけっこう手間がかかる。元々の店内は店員動線を配慮した設計をしているのだろうが年に一度しかない大ピークの為用には設計されていない。当然、臨時増員したアルバイトの人数分だけ店内が狭くなり、カウターより向こうの従業員側店内はさながら戦場である。こういう楽しいイベントの食べ物の取り違えをするとお客に大迷惑をかけるだけなく、今後のお店の大きなイメージダウンになる。
ゆえに、圭子は入店後既に５分程待っても行列の中程にいた。そこに北山が入店してきた。北山の列のグループのチキンの引渡しはスムーズでレジ直前になる頃には北山と圭子が並んだ…。
北山のほうから圭子に声をかけた…。
「やあ、こんばんは！今年も会いましたね、ここで！あはは、奇遇です！」
圭子も返答した。
「こんばんは！私のほうが先に並んでたんやのに、なんでそっちの列が追いつくんやろ、難儀なお店やわ！あははは…」
それだけ社交挨拶を交わすと圭子が一足早くレジで交換伝票と引換えでチキンを受け取って店を後にした。それから２分ほどして北山も品物を受け取って店を出た。北山が店を出た直後、何故か圭子は店の脇に北山を待つように立っていた。圭子の目線は北山を見ていた。自然、北山も圭子を見て目が合った。
北山は勿論、圭子は彼氏と待ち合わせしているものと思っていたから、少し微笑の表情で、
「あっ、彼氏と待ち合わせですね！良いクリスマスを！」
と、格好を付けて紳士ぶったセリフを吐いて圭子の前を通り過ぎようとした。圭子は尚も北山を見たままで、
「違うねん、誰も待ってへんねん！あははは…。ここんとこ、うちらのマンションの近所に痴漢が出るらしいねん！うち怖いから、北山さん同じマンションなんやし、送ってくれはる？」
圭子も北山も同じフロアなのだし、朝夕の挨拶はするのだから、別に(北山からすれば)「北山さん」と呼ばれても不自然には思わない。自分は彼女を失ったとはいえ圭子には彼氏がいる(筈な)のだ。彼氏がいるレディを同じマンションに送ることくらい、どうってことない。
「僕でよければ、かまへんですよ！衣笠さんは美人やし！あははは…」
北山としては精一杯のお世辞を言ったつもりだが、圭子のほうでもまんざらでもない。マンションへの道すがら圭子も北山に聞いてみた…。
「今年の彼女へのクリスマス・プレゼントはなんですのん？」
「えっ？プレゼントですか？…。い、いや、今年はチキンを食べてゆっくりしよや、ちゅー話ですねん！あははは…。そう言えば、衣笠さんは彼氏に何あげはるのん？」
「あっ。奇遇やね！うちんとこも今年はプレゼント無しでチキン食べてワイン飲んでゆっくりしよね、って話になってんねんけど！」
二人ともそれぞれの異性とは別れた、、、という話はしなかった。したところでどうなるものでもないし、第一自分だけ独り寂しいクリスマスを過ごすのだ、なんて言いたくないのである(笑)。
このあと、今年の世相など話して歩くと間もなく二人の住むマンションに到着した。同じフロアなのだが、北山が自分だけが独り寂しいクリスマスなのだ思い込んでいたから圭子と一緒のエレベーターに乗るのを避けた。エレベーターの中で彼氏のノロケ話などされると迷惑だからだ。（が、圭子も同じ心境だったのだが…笑）
「衣笠さん、僕ちょっと、郵便物と管理人室に荷物が届いてないか、チェックして来ます。どうぞ、お先に！良いクリスマスを！」
と圭子を先にエレベーターに誘導した。圭子の乗ったエレベーターの階層表示ランプが自分達のフロアに止まるのを確認してから、北山は再度ボタンを押してエレベーターを待った。
（やれやれ、疲れるわい…。しかし、衣笠さんて、結構ええ女やな、男が羨ましい…畜生め！）
と心で愚痴っていた。
圭子も、エレベーター内でやはり独り言を呟いていた。
（エレベーター、一緒やったら、北山さんのノロケ話聞かされとったカモ、あ〜、このチキンどないしよかいな…）
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２．気分が晴れない二人
北山も圭子も部屋に帰還すると、着替えをすませてりラックスする態勢に入り(二人とも)独り身の自分の身の上を愚痴りながらチキンを食べる仕度をし始めた。圭子は室内着には着替えたがメイク落しはしていない。圭子の彼氏は妻子のある身なのだから当然家族と男は過ごしている。が、北山の彼女は独身なのだから、北山からすれば"ご機嫌伺いの電話かメールくらい"よこしてもしかるべきではないか？…ね、という淡い期待というか未練がましいものがある…。
相手の女のプライドなど若い男は考えない。そんな淡い期待で心を焦がすよりも、未練があるのなら自分から行くしかないのだ(笑)。どのような形にしろ、さっさと男の側から再アタックするしかないのだ。その点、北山の彼女にしても衣笠圭子にしても、女という生きものは一度男と戦闘態勢に入ると滅多なことでは自分からは折れないし、謝らない。多分、北山の年齢では、それを体験的に理解するにはあと最低10年は必要であろう…。
圭子は、お気に入りのＣＤを流すとチキンは温めずに、先にワインの栓を抜いた。クリスマスにはまずシャンパンなのだろうが圭子はそういう心境にはなれない。シャンパンを独りで飲むのはミジメよ、と圭子は思っている。圭子がワインの栓を抜いた頃、北山も缶ビールのキャップを開いて半分ほどグイグイ一気に飲んだ。しかも、北山も圭子と同じで何故かチキンを食べる気がしないのだ。
カンタッキーフライドチキンの紙製パックはなんでか一人で開封するのは、特にクリスマスの場合気後れするものかもしれない…。複数人でワイワイ騒ぎながら各々が好きな部位のチキンの争奪戦をするからこそ明るく楽しいムードで盛り上がるのである。
北山も圭子も自然にそういうふうに考えて、紙製パックを開けようともしない。そのうち、二人はチキンの紙製パックをそれぞの部屋のテーブルの真ん中においたまんまで、圭子はチーズをワインのアテにして、北山はビールのアテに柿の種の袋を開封してパリバリ食べ始めた…。
北山は考えた。たが、(喧嘩冷却期間中の)彼女のことではなく、衣笠圭子の事をオボロゲに考えた。それにチキンが勿体ない…。完全にさめるまでに、チキンを喜んでもらえる人…つまり衣笠圭子のカップルに上げるというか譲るべきではないか…。そうだとすると、圭子カップルがラブラブ・モードに突入する前に早めに譲ることがマナーだと思った。仮に自分が彼女とキッスをする態勢になろうとする時に、隣人から「チキンどうぞ！」と来られても困る筈である…(笑)。
北山は自分の心理に置き換えて圭子のシチエーション分析をして、チキンを譲るには今この瞬間だと判断した。元々、北山という男は会社を辞めた経緯からして物事を深く考えない代わりに悪意というものもない。「けっこうです」と、もし圭子に言われたら持ち帰ればいいだけの話だ。
ジャージ姿(北山の屋内着)の北山はまだ少し暖かいチキンの紙製パックを持って圭子の部屋のチャイムフォンを鳴らした。
「…はい、どなた様ですか？」
「507号室の北山です。先ほどは失礼致しました。実はこれから出かけるもんで、チキンが余ってしまいました。開封もしてませんから、ご迷惑でなければ、僕のチキン貰ってやってもらえませんか？…、勿論、無償です…」（いや、圭子だって、チキンは食いたくないのだ：笑）
「はあ？チキンって、さっきのカンタッキーの？そやかて、彼女と食べはるんでしょ、それ？…」
「あっ、いえ、そうやったんですけど、彼女残業で来れへんかも知れへんのです…」
「はあ、ほんなら、明日に彼女と食べはったらええやないですか？」
「はあ、その…」
圭子はそう言うと、なにか六感めいたものを感じて、防犯レンズで北山の表情を観察してみることにした。こんな寒い日に、「これから出かける」という人間がジャージ姿でくつろいでるのはおかしい、と思ったのだ。それに、北山に対して良い意味での好奇心も芽生えていた。自分も「彼も仕事で来れなくなった」と言えば、クリスマス的な飾りつけをしてない色気のない部屋に迎え入れても言い訳はつく。とにかく、コーヒーでもどうぞ、と誘ってみることにした！
「はあ、ほんなら、北山さんがそこまで言わはるんやったら、甘えて、チキン貰います！まあ、コーヒーでも飲んでって下さいな！」
北山は、展開の意外性も若干気になったが、「それも男が到着するまでの話や、男が来りゃ早々に退散したらええんや！」と自分に言い聞かせた。（今、自分の口で"出かける"と言ったのを忘れているのである：笑）
「いや、なんか悪いですね！じゃあ、僕もお言葉に甘えて、コーヒー一杯だけご馳走になります！」
と北山が言い終える前に、圭子は玄関のドアを開けていた！こういう場合の女の動作は速い。
「寒いもんね〜！冷えるから、早く(部屋に)入ってドア閉めて！」
「あっ、では、お邪魔します！」
「お邪魔やったら、コーヒーどうぞ！なんて言わへんし！…あははは」
圭子はユーモアもあって中々の美人だ。圭子は北山をキッチンのテーブルではなくリビングルームの絨毯の上にセッティングされているホームゴタツに北山を誘導した。別に妙な気はないのであろうが京都の冬は底冷えする。キッチンの冷たい洋式テーブルでは可哀想と思ったのであろう！
続けて北山に向かって喋った。
「あっ、北山さん。今、コーヒーって言うたけど、アルコール飲む？クリスマスイヴの夜のチキンにコーヒーじゃあ、チキンにも北山さんにも失礼や思おて…あははは」
「ええのんですか？アルコールもうて…」
「あっ、勘違いせんといてや！うち、男に餓えてへんさかい。それに北山さんが変な気起こしてうちに襲いかかってきたら、言うとくけど、私、空手の高段者やからね！うちに指一本触れられへんどころか、肋骨の２〜３本折れたら割に合わんやろ！それでええんやったらいつでも襲ってきてや！あははは…」
（北山は、圭子が空手高段者であるという事を信じた。それが前提なれば、男にひと指も自分に触れさせない武術力のある女がカンタッキー店の帰りに、"痴漢が怖いから送って"と言うのは、圭子の側から意図的に北山に接点を求めてきた証明となる。つまり、自分が男として意識されていて、今からの展開次第では圭子をモノにすることだって可能なのである！北山は密かに心中で小躍りした!!笑）
北山も釣られて笑ったが、見れば見るほど圭子がイカシタ女に見えてきた。そして、その延長線的に好奇心も涌いてくる。
「衣笠さん。あなたのこと、素敵な女性や思いますが、僕は襲ったりしません！ハハハ…。ちょっと聞いてええですか？嫌なら答たえんでいいです」
「なんよ？」
「今の彼とは何年お付きあいされてます？…」
「おぉっ〜と！そんなん聞いてどうするん？目的はなんやのん？」
「あっ、いえ、後学の為に…。それに貴方みたいな素敵な女性の好みのタイプ(男)も知りたくて」
"貴方みたいな素敵な女性"と言われたのか、或いは、(不倫交際に終止符をうって)身辺爽やかなのか、ワインがまわってきたのか、とにかく圭子は笑顔で即答した。
「彼とは、５年やったわ…」
「５年"や"、と違うて、５年"やった"…って、なんで過去形ですのん？？…」
「北山さん。あんた、見てくれはええけど、頭あんまし賢こうないな！あははは…。過去形ちゅうことは、過去の事。今の話やないちゅうことやん！分らんかなぁ！あははは…」
「あっ、とんでもないこと、聞いてしまいました！ゴメンなさいっ！」
北山はマジで平謝りした。圭子の陽気に変化はなく、北山の謝罪も無視して今度は圭子が北山に同じ質問をしてきた。
「ほんで！北山さんは、何年交際中なん？正直言いなはい！」
「僕んとこは、３年でした…ハハハ」
「でした…、って、どういう事やねん？えっ？」
「僕んとこの恋物語も、過去形です！ハハハ…」
圭子の笑いは止まった。
「ほんなら、このチキンは？…彼女と食べる言わはったやん！」
「ええ…。チキンを予約購入した直後に彼女にフラレましてん！ハハハ…」
北山は笑ったが、圭子は笑わない…。
「フラれたわけ(理由)は、なんえ？」
「僕が嫌いになったんでっしゃろ、多分…」
再び、圭子は笑いはじめた。
「あんた、北山さん。男前やけどアホやな！あははは…。そやから嫌らわれた理由を聞いてんねん、うちは！」
「…」
「まあ、ええわ。そやけど、北山さんは、"別れた"やのおて"フラれた"って言わはったやろ！うち、そういう潔いセリフ言える男は好きや！情けない男に限って実質自分がフラれとるのに、"別れた"なんて格好付けよるし…。あんたは偉い！」
「はあ、まあ。僕も衣笠さんみたいにイカシタ女性に誉められたら嬉しいです。それに…」
「それに…、なんえ？…」
「僕、衣笠さんみたいな女性、タイプです！」
「…」
圭子は、会話とムードをずっとリードして来たつもりだったが、なんとなく、さり気なく要所々々に圭子を(北山が)誉めてくれるので、無意識のうちに異性を意識し始めていた。そして、急展開する相手への思いは同時進行していて、北山のほうでも冷却期間中の５歳年下の彼女なんか、もうどうでもいいように思えてきた。
勝手な理屈だが、３年交際した女とより、たった３０分会話しただけの圭子のほうが、なんとも自分と相性が合うのだ。圭子だって、５年も付き合った妻子ある元上司とは、結局は得る(うる)ものが無かったように回顧し始めているのだ…。圭子の５年前と言えば２４歳である。その頃は自分の体を求められることが男の愛の証しだと思っていたし、求められる自分が女としての誇りでもあった。
だけど、今は違う。何年たってもセックスのことしか頭にない男は勘弁だわ。成長しない男も嫌。
結局、男の能力の評価基準なんて、求める相手の女のレベルで決まる。２４歳時の圭子レベルでは元上司は相応だったが、仕事の能力も人生経験も含めた人間総合力が飛躍的に向上した２９歳の圭子にとっては、今の成長しないままの元上司は重荷でしかなくなったのだ…。
「では、私はどんな男が欲しいのかしら？」と圭子は自問してみた…。
自問するうちに、ある事に気がついた。今、目の前にいる北山という男に照らすような自問内容になってしまっているのだ…。すなわち、既に自分が北山に恋をしている、ということに…。
自分が何故こんな気持ちになってしまったか圭子自身も考えた。元上司との関係も自分から精算し、晴れ晴れした気持ちになって、来年の一月末までは"男抜き"で好きな事をするつもりであった。なのに…何故？。それは元上司と５年費やしても築く事ができなかった圭子が求める理想の男女関係やコニュニケーションの種類を、圭子と同じ感性を持つ北山という男が突然自分の親近距離内に入ってきて、北山を警戒しながらも観察しているうちに、知らぬ間に北山と自分は同じ匂いを持つ人間であると察知し、北山となら理想に近い男女関係が実現できると直感したからに他ならない…。
そして、一方の北山も同じである。２８歳の北山の今日までの彼女は２３歳であり、３年付き合っているという事は彼女が２０歳の時から交際が始まった訳である。北山の彼女は短大卒である。
高卒の女性が社会でもまれている間、短大卒や四大卒の女は(殆どの場合、いや北山の彼女は)遊び呆けている。そんな女と付き合うのは疲れるのである。北山にとっては、圭子を実力で口説き落せれば、自分もそれだけ男として成長した証しであると考えたし、それにも増して圭子とは不思議なまでに気心の波長が合う気がしたのである。
もう、そうなれば…。
これは、世の中では極めて稀な、映画のような恋物語のように…、付き合いをスタートして一日に満たなくても、何年も交際している恋人同士のような間柄が成立してしまうのである…。
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３．相性ピッタリだった二人
圭子は、この心のトキメキからくる衝動を落ち着かせる為に、とにかく北山を質問攻めしてみることにした…。
〜大体、自分の事をさておいて相手を一方的な質問攻めを企画すること自体が、既に自分が恋のワナにかかった証拠である…(笑)。自分の心底を先に相手に知られたくないから、先制攻撃する手段しかないだけの話だ（日本帝国海軍の真珠湾奇襲攻撃のようなものである：笑）。このあたりは圭子はまだまだオボコ(純心)な乙女なのかも知れない…〜
北山との相性を確かめる為、いや、北山からの自分への関心度を調べる為…、いや、もうどうでもいい…、圭子の本能のままにアドリブで聞いてみることにした。ただし、顔には常に余裕の微笑を浮かべている。
「北山さん。今からあなたに質問を少しします。正直に答えて下さい。どうしても答えたくなければノーコメントと返事してください。不快になればそのグラスのワインを飲み干した上で、この部屋からいつでも好きな時に撤退しても宜しい…。うふふふ…」
「なんだか怖い気もするけど…。ワインご馳走になってますんで素直に応じます！ハハハ…」
「では…。あなたは、セックスは好きですか？」
「大好きです！」
「あなたは、嫌いな女とでもセックスだけはしたいですか？」
「昔はしましたが、今はしたくありませんし、しません」
「過去にセックスした女の人数は？」
「…、ノーコメント」
「仕事と女、どっちを取りますか？」
「両方取ります」
「恋人或いは妻が仕事を優先、重視するタイプだったらどうしますか？」
「惚れた女性がそうならば、僕も相手の仕事も尊重・重視します」
「結婚したら絶対に浮気はしませんか？」
「今はしません、と言いきれますが、将来どういう気持ちになるかは自分でも分りません」
「私のようなタイプの女はどう思いますか？」
「ような、ではなくて、衣笠さんなら大好きというか、非常に強い魅力を感じてます」
「私のようなタイプの女とキスしたいですか？」
「ような、ではなくて、衣笠さんとならしたいです！」
「では…、特別にキス、一回だけ許可します！うふふふ…」
「一回だけで我慢できなくなったら？…」
「逆質問は許可してません！したいか、したくないか？口答か、行動で示して下さい…」
ここまで言われたら、北山も男である。
但し、圭子を押し倒したりはしない。自分から顔だけを圭子に近か付けて、唇表面だけの軽いキス(接触)を数度したあとお互いの舌を絡め合った。圭子の女性器は潤ってきているだろうし、心臓の鼓動も激しいのが北山に伝わってきた。恐らくこのまま圭子を押し倒してノシカカッテ強引にぺニスを挿入しても軽い抵抗がある程度だろう。
だが、圭子がここまで演出してくれる、わくわくするような大人の恋愛セクシー・トークショーを途中でぶち壊すようなデリカシーのないことは北山はしたくなかった。圭子という素敵な女性ならもっともっとわくわくする先の展開を用意してくれているに違いない…。そう思って北山は、首より下の圭子の肉体にはひと指も触れないで静かに唇を離した。
「衣笠さん。次の質問を続けてください…」
圭子は今の北山のキスにウットリしてあきらかに狼狽していた。
「あっ、へっ？あっ、質問ね？ってか…。もう一回…、私とキスしたいですか？」
北山は返事しないで、再び行動で示した。さっきよりも少し濃厚なキスをして再び自分から唇を離した。圭子が無意識に北山の唇を追ってきて、ふと我に返って、また、質問態勢に戻った…。
「北山さん、質問…、続けます、よ…。よ、よろしいですか？」
「はい、どうぞ、衣笠さん…」
「わ、私と…、セ、セックスし、た、い…、ですか？…」
北山は返答しないで、この質問へも行動で示して答えることにした…。
黙って圭子のコタツの面の横に移って圭子を静かに絨毯の寝かした。そして、さっきしたばかりのパターンの濃厚なキスをして右手で髪を撫でながら左手で服の上から圭子の乳房を優しく揉んだ。圭子はウールの室内用セーターとニットのスラックスで、その下はブラジャーとショーツだけであった。ここまでくると北山も自制できなくなって、コタツをずらせて圭子のニットのスラックスとショーツを同時に脱がせた。
圭子は無言であるし、目も瞑ったままだ。つまりは、「あなたの好きにして」というサインであることは一目瞭然である…。
北山自身、元彼女とは常にコンドームで避妊していた。そして、圭子にも聞くつもりであった。
一方、圭子の元上司もコンドームを常にしていた。それは今にして思えば、圭子の体をいたわるというよりそういう修羅場を作りたく無いという妻子持ち男のエゴでしてきただけの話であった。その証拠に圭子には、男の側には何のリスクもない(生セックスが楽しめる)ピル服用をいつも圭子にせがんだ。（圭子は応じた事はないが…）
そして、北山も今にして思えば元彼女の体の事も配慮してでの避妊ではあったが、それは自分の心理を詳細に分析すれば「妊娠されても、この女とでは結婚生活を継続する自信が無いな…、妊娠させたら面倒なことになる」という意味での避妊協力でもあった事に気付いた。
北山は小さな声で「コンドームありますか？」と圭子に尋ねた。圭子は元上司用にと、コンドームを常備品のように置き薬のボックスに備えてはあった。しかし、何故だか無意識に「そんなの、ありません。避妊のことは北山さんにお任せします…」と、ごく自然体の気持ちで答えていた。
北山はコンドームを装着していない怒張したペニスで圭子の膣口を数回撫でるようにしたあと、ペニスの先っぽを２センチほど膣に挿入すると圭子の側から腰を推し進めてきた…。その圭子の腰の動きに呼応するように自分からも腰を推し進めた…。よって、北山のペニスは根元まですっぽりと圭子の膣内に納まった…。
「あっ、ああ〜ん、あはぁぁぁん、気持ちええわあ、北山さあ〜ん」という圭子の熱い吐息を聞くに至っては最早、北山の自制力は０になった…。しかも、圭子の膣壁は熱くて高い粘着度と適度なザラザラ感がある強い締まり具合で、トロケるような甘い感触でもって北山の鋭敏な亀頭とペニス全体を包みこんでくれる…。
((圭子が妊娠したら、責任を取って結婚すればいい。いや、妊娠しなくても圭子と結婚したい…、俺の妻にして誰にはばかる事なく、この女とやり狂いたい…、俺の子供を産ませたい…))
圭子も全く同じことを考えていた…。
昭夫のペニスそのものの大きさは元上司のそれと大差はない。だけど、硬度やそして何よりもお互いのアソコの部分の密着・摩擦の際の微妙な相性も、悦楽を求める時の動き方の相性まで抜群なのである…。こんなに素敵なセックスをするのは生まれて初めてだわ…。なんだか今初めてセックスって素敵な行為だったのだと圭子は実感した…。
((昭夫さん、何も聞かないでこのまま自然に私の中で果てて…。もし妊娠したら…、ううん、妊娠しなくても昭夫さんの妻になりたい…。彼が行くなと言えば欧州留学なんかキャンセルする…。彼と暮したほうが私、幸せになれるわ…。だから、何度も何度も私の中で果てて…。私、この男の赤ちゃんを宿したい…)）
この夜、二人は結局１ピースのチキンにも触れないで、翌朝まで、いや…、明日仕事が無い二人は翌２５日の夕方まで、互いの体表面の細胞の数を確かめるように触れ合い、避妊も一切しないでお互いの本能のまま貪り合ったのだった…。
〜〜〜
そして、翌年の圭子は北山姓に改めていて、その年のＸ'mas はカンタッキーのテイクアウトチキンではなく、本物の七面鳥を自宅のガスオーブンレンジで調理して2008年のクリスマスを、二人の愛の結晶である生後２ケ月の赤ん坊と夫(北山)と三人で祝うことになるのであった…。
完
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