連れ添って１０年、見合い結婚だったが、妻とは、それなりにいい関係できていたと思っていた。
　３年ほど前から、子供もできないこともあって、妻は近くの味噌を造っている商店に勤め始めた。
　もともと経理が出来るので、商店の方でも重宝がられているようだった。

　私は、自分の家の一部を店にして写真店をしている。
　近くに大きな団地があり、商店街も近いことから、それなりに顧客もあり、何とか夫婦二人で生活できる程度の収入を得られていた。
　だから、妻が働きに出たいと言い出したときも、経済的なことよりも、妻自身の働きたいという意思を尊重する気持ちが強かった。

　妻は、朝９時過ぎに、自転車で１０分もかからない勤め先へ出かける。
　昼には帰ってきて、一緒に昼食を食べ、午後の勤めも５時までには帰ってきた。
　月曜日から金曜日まで、妻の勤めに出る生活は、本当に判でも押したようにと言われるように、変わらなかった。
　土曜、日曜日は、私の店を手伝ってくれる、そんな生活の３年間だった。

　それは、店に持ち込まれるた写真としては珍しいものだった。
　現像してみると、ヌード写真だった。
　暗くした部屋なのだろう、ライティングは１灯で、モデルの身体に陰影をつけたヌードで、全体としてオーソドックスなヌード写真といえた。
　モデルはかなり慣れているようで、様々にとられるポーズも決まっているし、ポーズの見せ方も上手に思えた。
　ただ、写真の撮り手の意図なのだろう、どの写真もモデルの顔は陰に隠れていたり、向こう向きであったりして、モデルの表情を見ることは出来なかった。
　　
　このヌード写真のネガを、どんな人が店にもってきたのか、私はよく覚えていなかった。
　写真を取りに来たら、どんな人か確認しよう、などと思っていたのだが、次の日曜日に、近所の老人ホームに記念写真の依頼で店を留守にしていた間に取りに来たらしい。
　妻にどんな人だったと尋ねると、６０過ぎの紳士だったということだった。
　確かにあのヌードは、若い人の撮ったものではないように思え、そうだろうと納得できた。

　それから１ヶ月ほどして、再び、あの老紳士のヌード写真が持ち込まれた。
　今回も前回と同じで、ライティング１灯を巧みにつかった、ヌードだった。
　フィルムの本数が２本で７２枚、モデルとの息も合っているようで、どの写真も一定のレベルを維持している、力作といえた。
　特に、１本は、いわゆる「緊縛もの」と言われるもので、モデルに縄をかけ、縛りの美学を追い求めているとも言うべき写真だった。
　モデルの身体に食い込んでいる縄が、１灯のライティングにより、モデルの身体に深い陰を付け、モデルの苦悶の声が聞こえてくるようなできばえだった。
　
　私自身、写真を生業にしているので、写真についてはどんなものでも興味を覚えた。
　ヌード写真も以前にはかなり撮ったが、結婚し、商売が忙しくなるにつれて、プライベートで写真を撮ることはほとんどなくなっていた。
　そういえば、妻の写真も、新婚旅行以降、二人で出かけた数少ない旅行中のものばかりで、普段の生活の中での写真はほとんどなかった。
　老紳士のヌード写真は、ある意味で、私の眠っていた写真心をめざめさせるきっかけになるものだったかも知れない。
　
　次の日曜日、老紳士はやってきた。
　私は出来上がった写真を渡しながら、「いい作品が出来ましたら四つぐらいに大きく引き伸ばすことも出来ますので、ご注文下さい」と言ってみた。
　老紳士はにこっと笑顔を見せ、「その折りにはお願いしましょう」と返事をして帰っていった。
　私にはその老紳士のさわやかな雰囲気が心地よく、いいお客さんになってもらえるとありがたい、などと考えたものだった。
　「お昼の用意が出来てます。あなた先に食べてしまってください」と妻に声をかけられ、妻が後ろにいたことに、私は何か驚きを感じた。
　いつものように、昼食の準備の出来たことを伝えた妻の声なのに、どうして私は驚いたのか、少々まごつく思いだった。
　「午後、出かけますけど、５時には帰れると思います。」と言う妻の声を聞き、そうか今日はその日だったのかと私はうなずき、店の奥の台所で、食事をとった。
　妻は月に１度、日曜の午後に、近所の老婦人を相手に、お茶を教えに行っている。
　和服をきっちりと着こなし、茶道具を胸に抱えて歩く妻の姿は、亭主の身びいきな見方かもしれないが、品があり、なかなか絵になると思えた。

　翌週、老紳士が店に現れた。
　いつものようにフィルム現像と同時プリントを注文し、さらに、その中で私がよいと思うものがあったら、１枚を４つ切りに引き伸ばして欲しいと依頼された。
　私は、私の目でなく、あなた自身の目でよいと思われるものの方がいいのではないか、と言ってみたが、老紳士は、「いやいや、あなたに選んでもらいたい」と言って帰っていった。

　老紳士のヌード写真を私はじっくりと見た。
　これまでも何度か見ているのだが、７２枚から１枚を選ぶとなると、いい加減に見ているわけにはいかない。
　モデルはこれまでと同じ人だと思えた。
　写真はどれも、身体の半分、もしくは半分以上が濃い陰に隠れている。
　手足のすらっとのびた、その肉体は、年の頃なら３０歳前後だろうか。
　立っている姿は華奢に見える。乳房もそんなに大きくはないが、形が整っている。
　広く足を開いたポーズやきれいなお尻をレンズの前にさらけ出すなど、ポーズは前回以上に、モデルががんばっているように思えた。
　「緊縛もの」では、縄が股間にきつく締め付けられ、身体をよじるようにポーズするモデルは、実際に快楽の中にあるのでは、と思わされた。
　じっくりと７２枚を見終わって、これまでにも何度も見ているモデルだけに、写真作品全体が身近に感じられた。
　選んだ１枚は、緊縛の縄のいましめが解かれ、床にぐったりと倒れているモデルの背中からお尻にかけてを画面に捉えているものを選んだ。
　半分が光の中に現れたその背中から腰にかけて、女が快楽の余韻に浸っているという雰囲気が出ていると思えたからだ。（実際に快楽の中にあったのかも知れない。）
　モデルの上手なポーズをきっちり写し止めている、なかなかの力作だ。このモデルなしには創り得ない作品だと思われた。
　こんなモデルがいてくれたら、私もいい写真が撮れそうだ、そんな気分になった。

　次の日曜の午後、老紳士から電話があり、商店街の中の喫茶店まで写真をもってきて欲しいと依頼された。
　日曜日は稼ぎ時なのだが、幸い妻が店を見てくれるので、配達することにした。
　指定された喫茶店は、３代は続いている商店街の中でも老舗であり、知らないものはない店だった。
　喫茶店には老紳士がカウンターに腰掛け、マスターと何か話している最中だった。
　私が写真を届けに来た旨を伝えると、老紳士は自分の隣の席に座るように勧めた。
　マスターは私にコーヒーを出しながら、「岡倉さんは、なかなか腕がいいでしょう」と私に話しかけた。
　老紳士は店では「岡」と名乗っていたので、私が怪訝そうな顔をしたのだろう、岡倉老人は「岡は私の写真ネームです」と弁解した。
　私は、妻の勤め先の味噌造店がたしか岡倉といったはずだと思い出し、その旨を尋ねると「その岡倉です。といっても私は店を息子に任せてしまっています」と答えた。
　私は妻が世話になっていることを改めて謝し、「今後ともよろしく」と挨拶した。
　岡倉老人は、私を呼び出したのは、自分たちの写真グループに入らないかと私を誘うことが目的だったといった。
　そのグループは、主にヌード、特に「緊縛もの」中心に撮っているという。
　撮影内容が単なるヌード写真に終わらないだけに、メンバーはかなり限定されているらしい。
　モデルも、メンバーがモデル１人をグループに提供する形で確保されており、モデルを提供することがグループ加入の条件でもあるらしい。
　私も、岡倉老人の写真を通して、かなりいいモデルを撮っていることを知っているだけに、いいモデルと出会えるチャンスだと思え、かなり乗り気になったのだが、モデル１人を提供することが加入の条件であることを聞くと、ほとんど無理だと思い諦めざるを得なかった。
　マスターは「あなたの奥さんでもいいのですよ」と言ったが、妻は３０歳代も後半で、とてもモデルにはならないと答えた。
「いやいや、３０代後半の女性が最も緊縛モデルには向いているのですよ。一度、奥さんに挑戦されてみてはいかがですか」とマスターは言ってくれたが、妻がそのような私の願いを聞いてくれることはまずあり得ないことであり、無理であることを伝えた。
　すると岡倉老人が、「モデル提供の件はさておき、１度だけ参加されてみてはいかがですか」とさらに誘ってくれた。
　一度参加すれば、その撮影の面白さを知り、妻にアタックする意気込みも出ると考えたのかも知れない。
　私は、１度参加さしてもらう約束をし、喫茶店を後にした。

　妻は今年で３７歳になる。見合い結婚だと述べたが、実は私の友人の妹であり、以前から顔見知りであった。
　妻は２２歳の時に結婚したがうまくいかず別れ、その後、２７歳で私と結婚したのだ。　結婚当時、子供を作りたい思いで、毎晩のように性交渉をもったが、子供に恵まれず、その回数も減ったが、それでも週に１〜２回は続けている。
　妻はまじめなタイプで、性生活については、決して消極的ではないが、自分から求めてくることなどは、これまでに１度もなかった。
　私は、初婚ではあったが、女性経験はそれなりにあった。今では写真屋だが、以前は東京で広告代理店に勤めており、それなりに羽振りをきかせていた。
　妻との性生活は、激しさはないが、妻も何度かに１度はアクメに達しているということはあり、私自身は、妻との相性は悪くないと満足していた。
　どちらかといえばおとなしい、落ち着いた女性である妻に、緊縛モデルを頼むということ、しかも他人の前で．．．．．となれば、ほぼ絶望的な望みだと思われた。

　グループの撮影会の日が来た。
　私の店の定休日（火曜日）に合わせて撮影会を設定してくれた。
　午前中２時間、午後２時間の４時間。モデルは午前と午後で変わるという。
　場所は、岡倉味噌造店の裏にある蔵の中だった。
　その蔵は今は使われておらず、広い敷地のはずれにある蔵で、その隣には小さなログハウス風の建物がこのグループ専用のものとして建てられていた。

　撮影会は、モデルが蔵の地下に降りてくるところから始められた。
　モデルは２０代後半の驚くほどの美人であった。
　彼女が階段を下りて来る。薄い絹地のスリップ１枚を身にまとっている。
　逆光のライティングの中で、薄い絹衣が透け、細く長い足がきれいな陰をつくった。
　私を入れて４人のカメラマン（１人は女性だった）が、１脚や３脚を立て思い思いにシャッターを切った。
　モデルは柱に縛られ、片足を天井の滑車から降りてくる鎖につながれた。
　モデルを厳しく縛ったり、モデルに気分を出させる為にその乳房をもんだりするのは、ただ１人の女性カメラマンだった。
　彼女は６０歳前後で、すらっとした身体を黒服に包み、知的な容貌をしていた。
　しかし、彼女の口から出る言葉は、かなり激しい、ほとんど男のようなものだった。
　モデルは片足をつり上げられ、陰部も顕わにさせられた。
　黒服の彼女は、「お前は、今日も気の遠くなるほど感じたくて来たのか」とモデルに向かって言い、返事が遅いと、手に持った鞭で陰部をたたき上げた。
　モデルはもうそれだけで失神しそうになり、返事を何度も求められる中で、「はい、いじめて頂きたく思います」とか細く答えた。
　黒服の女の命じるまま、陰部をさらけ出し、男のカメラマンから、穴という穴に指を入れられ（尿道まで指が入った）、そのたびに女は失神にした。
　これは撮影会とは名ばかりで、まさに蔵の地下でほんもののＳＭ行為（ショウというようなものではない）が繰り広げられたのである。　
　モデルは黒服の女が腰に付けたディルドーに深く貫かれ、苦悶の表情のままよだれを垂らして果てた。
　果てた女の尻の穴に、マスターが自分の男をつき入れ、「やっぱりこれが一番ええ」と言いつつ腰を振り続けている。
　岡倉老人が気後れしている私を気遣って、「無理に女を犯す必要はありませんよ。女が真に歓喜になる時を写真にしてください」と語りかけた。
　２時間、モデルの女はこの間、何度アクメに達しただろうか。
　このような経験をした女は、日常的な性生活ではとうてい満足できず、またこの地下蔵にやってくるのだろう。

　午前中の部が終了し、昼食となった。
　午後の部に出るには、少々気が重かった。
　私自身、午前中の美人モデルにまったく欲情しなかったわけではない。ただ、あの雰囲気の中で、自分の欲望をさらけ出すには、少々歳をとっていたということだろう。
　３０歳代の私なら、美人モデルになりふり構わず男を突き立てたかもしれないが、慣れていない雰囲気の中で、私は勃起しなかったのだ。
　午後の部に出るほど、私のスケベ心は強くなかったと言えるかも知れない。
　そんな私を気遣って、岡倉老人は「午後の部は、肉体的と言うよりは精神的な快楽といった方がいいものです。
　勿論、快楽は肉体を通して精神が感じるものですが、中には、精神的苦痛で肉体的快楽を高める人もいるようです。午後はそんなモデルです」といった。

　私は岡倉老人の言葉に、この道のベテランの雰囲気を感じ、午前中と違ったものが展開されるらしいことに、やや期待を持つことが出来た。
　昼食が終わり、午後の部の時間となった。
　マスターが私に、「モデルの都合で、少し待って頂けますか。都合がついたら呼びに来ますので」と言って出て行った。
　岡倉老人は、私にこれまでの自分の写真作品集ともいうべき分厚いホルダーを渡し、「それでも見て、少し時間をつぶしてください」と言い、やはり出て行った。
　私は、手渡された写真ホルダーをめくりながら待つ以外になかった。
　写真ホルダーの中の岡倉老人の作品は、なかなか力作揃いだった。
　緊縛写真は、単なる猥褻写真に堕するものが多いが、この中の作品には、勿論、猥褻性を否定できないものものあるが、総じて、モデルと撮り手との関係が浮き出ているように思われた。
　単にスケベオヤジの一方的な写真なのではなく、モデルとの共犯関係とも言うべき雰囲気が、それらの写真には醸し出されていた。
　モデルの哀しさ、そんなものも感じられた。

　待つこと１時間。
　マスターがやっと呼びに来てくれた。
　
　地下蔵にはいると、モデルは既に両手を天井からつり下げられた鎖に固定され、両足は大きく開いて左右の柱からの縄で引っ張るように固定されていた。
　黒服の女が、やはり先ほど以上に太いディルドーでもって、モデルの背後から貫いているようで、黒服の女の腰使いに、モデルの女は息も耐えるほど感じているようだった。
　モデルの女は、岡倉老人の写真のモデルと同じ人物と思えたが、それ以上に、そのモデルの女を私は知っていると感じた。
　強い横からのライトに照らされ、身体の半分は陰になっているが、そのモデルの女は間違いなく私の妻だった。
　黒服の女に激しく責められ、もう息も絶え絶えになっているが、それでも自分からも激しく腰を使い、より大きな快楽に身を沈めようとしているようだった。
　マスターが妻の近くに寄り、妻の耳に何かささやいたようだ。
　妻は、その瞬間、下げていた頭を急に上にあげ、誰かを捜すようにギラギラした眼で周りを見渡した。
　妻からは私の立っているところは光が落ちていて暗く、私を見つけることは出来ないようだった。
　
　するとマスターがやってきて、「もっと近くでご覧なさい」と私の背を押した。
　妻は私の姿を見ると、「イヤーイヤー」と大きな声をあげ頭を左右に振り続けた。
　妻の後ろには、黒服の女ではなく、岡倉老人が立っており、その後ろから妻を貫いているよだった。
　岡倉老人の腰の動きに合わせて、「イヤー」と言いつつも、妻は激しく自分の腰を使い始めた。
　マスターが妻の顔の前に男を突き出すと、妻は待たされていた餌が与えられたようにむしゃぶりつくのだった。
　その後、妻の身体には電気コードのついた、なすびのような形をしたものが挿入され、乳房をマスターに愛撫され、クリトリスを黒服の女に刺激されて、何度も何度もアクメに達し続けた。
　
　私は結局、言葉の一言さえも発することが出来ず、ただ呆然と妻の姿を眺めているばかりだった。
　岡倉老人が私の横に来て、「あなたの奥さんはすごいですね。この３０分足らずの間に、１８回もアクメに達しましたよ。これは新記録です。やはり、あなたに来ていただいたかいがありました。女が真に歓喜になるときの写真が撮れましたか」と言った。
　私は、妻が電気仕掛けのなすびに支配されている、全く別の生き物になったように思えた。
　妻は、もはや気を失っているが、それでも身体は感じ、痙攣し続けていた。
　そして私は、激しく痛いぐらいに勃起していた。