１

　冷たい外気に針葉樹の先がキラキラと凍りついた朝でした。
　婚約者の菊池　貴君から
「転んで腰をいためてしまった」
　と携帯電話に連絡が入りました。
　滑りやすいので、怪我をしやすいんですよね。
　氷点下１４度になったりすると、道路もしっかり凍りつきアイスバーンになっているので、打つと特に危ないのです。

　仕事が終わってから、スーパーマーケットに向かい、買い物をしました。
　
　着替えが出来るようにパジャマを２点。
　夕ご飯用に、肉じゃがの材料と味噌汁の具。
　作り置きように、カレーの材料。
　朝ごはんに食パンと牛乳。（ジャムサンドにしてゆで卵とサラダをつくっておけば、簡単に朝の食事ができる筈です。）
　今晩食事の後に食べようと、カップのアイスクリームもついでに買います。
　大きい買い物袋を車の助手席に乗せて、一人暮らしの貴君の部屋に向かいます。
　スーパーの駐車場をそっとでて、圧雪でつるつるになっている道路を慎重に運転しました。
　暗い空のした雪で白く輝く道路が、冬ならではの景色を描いています。
　アパートの駐車場で車から降りると、口から出た息がふわりと白く見えました。
　空には星がまたたいていて放射冷却現象で今夜も冷え込むことを予告しています。
　そっと合鍵を差し入れてドアを開くと、部屋には電気がついていませんでした。
　寝室をのぞくと、窓にレースのカーテンだけがひいてあります。
　雪明りがガラスをとおして入ってほんのり明るいために部屋の中の様子が、はっきりわかります。
「あゆちゃん、きてくれたんだ」
　畳の部屋の真ん中に敷いた布団に、横たわったままの貴君が言いました。
　暗い部屋の中で、顔をこちらに向けて笑っています。
　口から白い歯がこぼれてみえています。
「おきてたんだね。寝ているかと思って、そっと入ってきたの。」
　と私。
　暗いままの部屋にはいって枕元に座りました。
「遮光カーテンは閉めないの？」
　白いシーツや枕の上に、貴君の顔の輪郭が浮いています。
「窓から外を見て過ごしてたんだ、雪が降ったりやんだり、晴れたり曇ったり。変化があって面白かった。
　そのうち、うとうとして、あゆちゃんがドアを開けたときに目が覚めたんだよ。
　いつのまにか、外真っ暗になったんだね。」
「そっと入ってきたんだけど、おこしちゃったんだ。ごめんね。」
「あやまることないよ。きてくれて、うれしいよ」
　彼のお礼の言葉に、こそばゆい気分になり照れ笑いをして、レースのカーテン越しに暗くなった空を見ました。
「この季節はお天気が、めまぐるしくかわるから空の表情が面白いよね。怪我はどう？」
「まずは、打撲だけで骨折とかじゃなかったんで、ほっとした。」
「よかった。」
　意外と元気そうな声に安堵しました。
　とりあえず、自分でトイレにいったりはできるそうで、
「痛み止めを医者に処方してもらった」
　と、横になったまま説明してくれました。
「洗濯とか、できることはやっておくね。電気つけてもいい？」
　彼がうなずいてくれたので、遮光カーテンをしめて電気をつけました。
　灯りをつけてみると、貴君はちょっとつかれた表情をしています。
「そうとう痛かったんでしょ？」
「うん、びっくりした。久しぶりにアンナ痛み経験した。いまも痛くて動けないんだ。」
「なんか憔悴しているもの」
「やだな、そんな顔みせちゃったのか。」
　恥ずかしそうにふとんを顔に引き上げました。
　短めに切った髪の毛のせいで、その動作が男の子みたいに見えてほほえんでしまいました。
「ゆっくりしていてね。」
「ごめんね」
　貴君が申し訳なさそうにうなずきます。
　家事にとりかかりました。
　洗濯物をヒーターのある部屋に干して部屋の乾燥をふせぎます。
　ピンチに衣類をはさみながら声をかけます。
「そうだ、あのあとお母さんから私に電話があったの」
「お袋から？」
「うん、『貴のところにいけないのでよろしくおねがいします』って言ってくれた。」
「お袋からの電話、迷惑だった？」
「ううん、うれしかったよ。お母さんにまで頼りにしてもらえて。」
「そうか、そういってくれるとうれしいな。ありがとう」
　台所でカレーや肉じゃがのお鍋を火にかけて、寝室をのぞくと貴君は安心した顔で眠っていました。
　カレーに入れるトマトをつぶしながら、台所をながめました。
　貴君のアパートはいつも清潔にしてあって、整頓されています。
　食器棚の食器もキレイに重ねてあって、流しも磨いてあります。
　寝室にある本棚もぎっしりと本が詰まっているのに、「流行っている本屋の書棚」のような印象をあたえる片付けかたをしています。
　実際、「一人暮らしが楽しい」と言っていました。
　食事も自炊できちんとこなしています。
　先週は「蛸のマリネのサラダ」と「鮭のホイル焼き」を私にふるまってくれたのです。
　きちんとたたいてやわらかくした蛸を食べながら、ちょっぴり疑問が浮かんだのでした。

『結婚しなくても不自由しない貴君。なんで、結婚しようっていってくれたのかな？　恋人のままでも困らない　とは思わないのかな？』


２

　肉じゃが、ほうれん草の胡麻和え、とうふとわかめの味噌汁の簡単な食事をすませてアイスクリームを食べました。
　奮発して値段が良いものを選んできたので
「このアイスクリーム、久しぶりに食べる」
　と貴君がうれしそう。
　冬にこたつで食べるアイスクリームの味は格別です。
　すこしやわらかくなったアイスクリームをスプーンですくって、舌にのせるとヒヤリとして、すぐに溶け出します。
　生クリームの風味と砂糖の甘みがとろりと口の中に広がって「ああ、おいしい」と感じたときは、もうするりとに咽に落ちていきます。
　その感覚をもう一度味わいたくて、スプーンをまたカップにさしこみ、くちびるに運びます。
　彼はもともとお酒を飲まないせいか甘党で、アイスクリームやあんこもちなどが大好物です。
　夢中になってスプーンを使っている様子が、ちょっとおかしくて、また笑ってしまいました。
　座椅子にもたれて食事をとっている貴君の脚が、こたつのなかで私のひざにコツンとあたりました。
　と、彼が言いました。
「もうすぐ、毎日こんな風にして食事できるようになるんだね。」
「楽しみ？」
「うん、楽しみだ。」
「私も」
　へへへ、と貴君が照れ笑いして身体をひねりました。
「イタ」
「あ、腰いためちゃだめだよ、もう横になって。」
「片付けもしないで悪いね。」
「いいよ、大事にして。」
　這うようにしてふとんにもどった貴君にかけぶとんをかけます。
「なんか、あゆちゃん、お母さんみたいだ」
「そう？そしたら、貴君は子供みたいに甘えていいよ。」
「え、なんか照れちゃうな」
「そうだね、私も顔が火照っちゃった。」
　ぽんぽんとふとんをたたいてその場を離れました。

　食器をかたづけたあと、何日か食べられるように作ったカレーをタッパーにいれて、多めに炊いたご飯をおにぎりにしてさまし、ふたつとも冷蔵庫にいれます。
　あるていど片付いたので
「ほかにして欲しいことある？」
　とそばに寄って聞きました。
「なんか悪いからなぁ」
　半分ふとんから顔を出して貴君がいいます。
「出来ることならなんでも言ってよ」
　とポンとふとんをたたくと手をヒョイと取って引き寄せ、照れくさそうに
「キスして」
　と言いました。
「はい、はい」
　笑いながらチュッと口を吸いました。
「もっとだよ」
　と不満そうに言います。
「うん」
　改めて「もっと」と言われるとちょっと恥ずかしさが湧いてきました。
　今日会ってから、はじめて貴君に直接ふれたのに気がつきました。
　貴君の胸の上に手をついて、ゆっくりくちびるをあわせます。
　私の髪がさらさらと彼の顔に落ちました。
　くちびるがふれると、貴君が私の頭にそっと手をのせてゆっくりとなでました。
　コクンと咽を鳴らすと少し口を開いて舌で私の唇をそっと舐めます。
　ちょっとアイスクリームの味がしました。
　舌の柔らかい感触に私の背中がぞくりとします。
「うん」
　思わず声をもらすと、スルリと舌が口の中に入ってきました。
　抱き寄せられて、胸と胸が重なり貴君の心臓の音が高鳴っているのがわかりました。


３

　貴君は両手で私の背中を、なではじめます。
　口の中に入ってきた彼の舌がまんべんなく口の中を動き回り、ゆるゆると口内をなで、それに応じてだんだん、口の中がチリチリと感じやすくなってきました。
　ガマンできなくなって唇を離してため息をつくと、私といっしょに貴君も息を吐き出しました。
「あゆちゃん、目が潤んでるよ。」
　と笑います。
「だって、あんなキスするんだもの。」
「うん」
　顔を引き寄せて、又くちびるをあわせました。
　いつも、貴君が上になる形でキスをしているので、私がかぶさるような体制でキスをするのはちょっと勝手が違います。
　貴君の広い肩の上に、自分が乗っているので、まるで小さくなったような気分です。
　貴君のくちびるを、ちゅっと音を立てて吸ってみます。
　そのくちびるを少しずつずらし、その度にちゅっと音をたててくちびるを離します。
　夜なので、ひげの感触がチクンとしました。
　彼がふぅっと息を吐いたので、くちびるが開いて舌がのぞきました。
　その舌を私の舌でちょんちょんとたたいてみます。
　下から彼がくちびるを強くあわせてきました。
　彼のくちびるの中に自分の舌をおくりこんで、彼の歯を舌で一本一本ゆっくりとなでていきます。
「うん」
　と小さく声を出して彼が身震いし、私の舌に自分の舌をからめはじめました。
　お互いに、舌を行き来させ唾液を交換するようなキスになってきて、息があがってきました。
　時々、くちびるを離して息を吸い込み、また、相手のくちびるをさぐります。
　そのたび、外気でちょっと温度が下がった舌の感触がして、さぐりあうとすぐに熱をおびたものに変化します。
　彼の舌が私の口の奥深くに入ってきて上あごをつきはじめました。
　それを吸うようにして応えながら、口の中に広がった甘い感覚が、全身にまわるのをかんじはじめました。
　腕に力が入らなくなって自分のからだを支えるのが難しくなってしまいます。
「はあ、」
　顔をあげて、髪の毛を耳にかけて貴君と目をあわせました。
「だめ、感じちゃった。」
　もういちど、軽くチュッとキスをしました。
　貴君が私のエプロンの肩紐をずらしはじめました。
　顔をはなして上半身をおこすと、エプロンの胸宛てがまくれて落ちます。
「こんなになってる」
　彼がうれしそうに胸のふくらみを手のひらで包みます。
　薄手のセーターを着ているので、身体の線がわかりやすいのです。
　すっかり感じてしまって胸の突起がポツンと見えます。
　下からもちあげるように、胸にふれ始めました。
「やだ、ますます感じちゃうよ。」
　逃げようと離れると
「さわらせてよ」
　と抱き寄せ胸のポツンと出てしまった部分をつまみました。
「あ」
　つままれるとそこから全身にじわりと快感がひろがります。
　貴君がそのまま指でもてあそびはじめると猫のような声が自分の口からもれ始めました。
　貴君はセーターのすそから手をいれブラジャーをずらして直に肌をまさぐりはじめました。
　手の暖かい感触と直接ふれた指の刺激にひときわ大きな声が出ます。
　セーターの下で指が動いてふくらみをすくいあげるのが見えました。
　丸みがうえにもちあがりやんわりと手のひらで包むようにつかみます。
　彼の指の関節が、別の生き物のように動いているのが、服の上からも見えて卑猥で恥ずかしさが増してきます。
　押さえていた息を吐くと彼が乳房のまるみにそってゆっくりと手をはわせていきました。
「ああ」
　こそばゆいような柔らかい手のひらの感触にゾクゾクと背中に電流が走りました。
　乳房をゆっくりと外側からなではじめると、そっと中心にちかづいていきます。
　ぽつんと出ていた部分にちかづくとまた離れて外側からゆっくりとなでます。
　はぁ、はぁ…彼の手の動きで自分の呼吸が荒くなっていくのがわかります。
　また中心からはずして、やんわりと円を描いて乳房をなでるので、中心を触ってほしくてじれったくなります。
　と、乳輪に指が触れました。
「んん。」
　乳房の皮膚よりも敏感な部分に指が当たってジワリとより強い快感がきました。
　指の腹で乳輪をなぞります。
　彼の指が乳房に沈むように入り込んでいきます。
「くうぅ」
　くるくるとやさしくなぞる感触に甘えた声が出てしまいました。
「そんな声出すと、やめられなくなるよ。」
「ん…だって、がまんしてるのに出ちゃうんだもの。」
　と、彼が両方の乳首をつまんでなぶりだしました。
　頭にツンとくる快感に我慢ができなくて又声を出してしまいました。
　指先でころがすようにしたり、手のひらでかするように触れたりして、その度に彼の手のひらに身体を押し付けてしまいたくなります。
　それでも、がまんしていたのですが、ついに手のひらにグイグイと乳房を押し付けてしまって、貴君が肘で私をささえているみたいになってしまいました。
　ひとしきり、胸をもてあそんでから貴君が声をかけました。
「セーターまくりあげてもいい？」
「いじわる、こんなにしておいてそんなこと聞かないで。」
「うん、でもこのままいじってるのもイイナって思ってみてたんだ。」　
　貴君自身も胸を触る自分の手の動きをセーターの上から眺めています。
　また、指をピアノの鍵盤をたたくように複雑に動かして、胸のふくらみをいじりはじめます。
　胸のかたちが、貴君の指の動きにあわせて、ぷくぷくと動くのもセーターのラインに浮かんで見えます。
「ああ」
　がまんできずに、かすれるような声が又もれてしまいました。


４

　もう限界でした。
　手の力が入らなくなって身体をささえていられなくなりました。
　荒い息のまま貴君のそばに添うように横たわります。
「あゆちゃん、直接さわりたいから脱いで」
　言われてびっくりしました。
「起き上がるのが難しくて…脱がせられない…。」
　驚いた私に、すまなそうな顔で彼が言いました。
（ああ、そうか。）
「どこまで脱いだらいい？」
「全部とって」
　無性に恥ずかしい気分になって後ろを向いて、だまって服をとりはじめました。
　いつも、こんなときは彼に脱がせてもらっていて、自分で服を脱いだ事がなかったのに気がつきました。
（彼の目の前で自分から服を脱ぐとなると、脱がせてもらうよりずっと恥ずかしい。私、彼からどういうふうに見えているんだろう？）
　下着も全部はずして振り返ると貴君が心配そうに聞きます。
「怒ってる？」
「……ううん、…恥ずかしくてどんな顔をしたらいいか分からないの、それだけ」
　やっとで声に出すと、彼はうれしそうに笑って言いました。
「おいで」
　さっきと同じように、私がかぶさるようにしてキスをします。
　貴君は裸になった胸を下から持ち上げるように触り始めました。
「こんなふうにして触ったの初めてだ、重さが手にかかって柔らかくて、いいな」
　と揉みあげるようにします。
　ところが、私がだんだん感じてきてしまって、また自分の身体をささえるのが苦しくなってきました。
　快感のせいで手に力が入らないのです。
　腕立て伏せのかたちなのでどうしてもペシャンと身体が伏せてしまって貴君のうえに乗っかってくっついてしまいます。
　くっついた胸を触ろうと、貴君があいだに手を滑り込ませますがなかなか思うように出来ません。
「あゆちゃん。俺に跨いで乗ってくれない」
「え」
「俺のおなかの上にまたがって」


５

　パジャマを着たままの貴君のそばに、私だけ裸でいる…それだけで恥ずかしいのに、
「私が貴君にまたがるの？」
　うん、と貴君がうなずきます。
「灯りを消していい？」
「うん、恥ずかしいよね。常夜灯だけにして」
「貴君も脱いでくれる？」
「あ、気がつかなかった。もう、あゆちゃんを触ることで、頭がいっぱいになってた。」
　貴君がよいしょと体をおこすと
「いたたた」
　悲鳴があがりました。
「いたいの？無理しなくていいよ。だいたい今日はこれ以上は無理じゃない？ゆっくり、からだを休めたほうがいいよ。」
「せっかく、あゆちゃんがきてくれたのに、このまま終わるの残念だ。」
　しょんぼりとうなだれてしまいます。
「治ったら、ね」
　と声をかけると、彼がもぞもぞと上半身をおこし始めました。
　顔が痛さにゆがんでいます。
　それから私のほうに手を伸ばして
「あゆちゃん、やっぱりもう少し触らせて」
　と腕を引きます。
「今、俺、服を脱ぐから」
　と自分のパジャマを取り始めました。


６

　あわてて電気をパチンとひっぱって消しました。
「腰、痛くないようにしてね」
　とそばに行って頼みます。
「あゆちゃん　いろいろ、頼まなくちゃいけないとおもうんだ、大丈夫かな？」
　と、すまなそうに言われてしまいました。
（そんな表情をされると、「まかせて！できる事ならするから。」と言いたくなっちゃう。でも、なんだかとんでもなく恥ずかしいことになりそうで……怖いな。）
　ドキドキしてきました。
「うん、出来るだけやってみるからね。」
　と答えて
「おなかに、のればいいんだよね。」
　と、わかっているのに時間稼ぎに聞いてみます。
　服をとった貴君が、痛そうな表情でゆっくりと横たわってから手を伸ばして、私にまた言いました。
「おいで」
（暗くなっているから恥ずかしくない…）と自分に唱えながら思い切ってそばに立ってから貴君のお腹にまたがりました。
　彼のおなかに直接のっているかと思うと、やっぱり恥ずかしくてクラクラします。
「重くない？大丈夫？」
　上から見下ろしながら聞くと
「大丈夫だよ」
　と貴君が見上げながら答えました。
「顔のところに胸をもってきて」
　四つんばいになって、私の乳房を貴君の顔に近づけます。
（なんだか、子豚にお乳をあげる豚のお母さんみたい）
　と色気もそっけもないことを思い浮かべてしまいました。
　ところが子豚は、下から乳房を舐め上げ始めたのです。
　片方の乳房を大きな手でたっぷりと揉み上げながらです。


７

　やわらかくて、しめった暖かい感触にと背筋がビクリと動きました。
　彼は私の乳房を丹念になめて全体を唾液で濡らしていきます。
　最後に乳首を口に含むと、舌先で転がし始めました。
　揉みあげていた右手も、乳首をいじり始め、頭にツンと快感が来ました。
「ああっ」
　小さなかすれ声がもれると同時に、腕の力が抜けてしまいます。
「いいよ、支えるよ。」
　貴君が、肩に手をかけて下から支えあげる姿勢をとってくれました。
　私が横に座っていたときと違って、バランスがとれるので支えやすそうです。
　さっき手でもて遊んでいた左の乳房を口で丹念に愛撫して、最後に口に含むと歯でそっと甘く噛み刺激します。
「あ、いい」
　貴君の頭をかかえて、グイグイと身体を押し付けてしまい、支えがとれてしまいました。
　どすんと、貴君の上に上半身ものせてしまいました。
「いいよ、そのまま、乗っかっていて」
　息を切らしている私の耳にささやくと、彼が両手のひらで肩から背中をなでてくれます。
　背中をなでる手のひらのしっとりとした感触の気持ちよさにとうっとりしました。
　身体がゆるんでいくような、安心感があります。
　緊張が解けてほっと息を吐きました。
　あがっていた息も整ってきます。
　ところが、そのあと肩にまわした両手をそっと背骨にすすめて貴君は指をたてました。
　指の爪の感触がこそばゆい。
　私の背骨を軽く立てた爪で「つっ」となぞります。
　又電流が走るような感じがして、私はおもわずのけぞってしまいました。
　おしりに爪が下りていきます。
「あ、そこはダメ、だめぇ」
　声を出したときは既に足の間に彼の指が入り込んでしまっていました。
「ああっ」
　身体がビクンとケイレンします。

　はじめは手のひらで撫でるように触って、指でゆっくりとすじをわけていきます。
　恥ずかしくて足を閉じたいのですが、彼のおなかの上に跨っているので、すっかりその部分が開いたままなのです。
　いつもは、少しずつ刺激を受ける部分に最初から指の感触が直接きてしまったので、私の身体がビクビクと動きます。
　手を上下にやわらかく動かして刺激をするのにまかせて、恥ずかしいことに私の腰が知らずに動き始めました。
「感じる？」
　息を弾ませながら貴君が下から聞いてきますが、私は声が出せません。
　たぶん、彼が私の顔を見ているのだろうと思うのですが、目がかすんでしまって、表情を見ることもできません。
　手のリズミカルな動きに、ゾクゾクと快感が高まっていきます。
「あ、もっと…」
「もっと?」
「もっと触って…」
　かするように上下に動いていた指が、ねっとりとその部分に吸い付くように這い出しました。
「ああ、いい…」
「ここは?」
「すごく…いい」
「こうしたら、どう?」
　深く探るように指を滑らせる感触で、また体がのけぞってしまいました。
「あっ」
　そのまま、熱い沼のようになった部分に、抵抗もなく指が入ってきました。
　身体のなかに入った指の感触でますます快感が大きくなります。
　彼の手のほかの指が、入り口の周りの部分を刺激し始め、ジンジンと身体がしびれてきました。
　より快感の強い部分に導こうと腰をくねらせて彼の手の位置を動かしていきます。
「ここ？」
　貴君がささやきながら、手指を動かします。
　でも、なかなかその部分に当たらないので、じらされて、ますます感じ方が高まってきました。
「あん、あ、あ」
　今度は、もどかしさに大きな声が出てしまいました。
　私は自分の手を二人が身体をあわせている間に滑り込ませて、おなかのほうから彼の手をつかみました。
　自分の指で貴君の指をささえて、触って欲しい部分を直接刺激します。
　ずっと待っていた部分に直接触れてもらって、そこからチリチリと快感が来ました。
「あ、そう、ここ！」
　自然に腰が激しく動きます。
「あ、あ、あ」
　自分の手で貴君の手を導きながら、登ってくる快感に声がもれはじめました。
「いい、すごくいい、あ」
　彼の手と指が下半身を暴れるように動いています。
　その動きは、ヌルヌルとした泥をかきまわしているみたいです。
　私は、あまりの気持ちよさにイヤイヤをするように、頭をふります。
「ああ、もう、ダメ」
　最後にかすれるように声をだして、私は登りつめてしまいました。
　彼の指先から電気をもらったようにジンとした快感が身体をつらぬき、それがじっくりと全身をまわって皮膚から外に抜けていくように伝わります。


８

　べったりと、身体をあずけて、彼の耳の横に、自分の頭を落としてしまいました。
「よかった？」
　聞かれて、弾んだ息を整えながらうなずくと、
「入れてもらえる？」
　と問いかけられました。
　入れる、って？
　ああ、そうだ、自分では私のからだに入れることが出来ないんだ。
「ど、どうすればいいか教えて？」
「あ、俺も良くわかんないんだけど」
「う、うん」
「あの、キジョウイってやるの知ってる？」
「騎乗位…こうするのかな」
　身体をうかせて、彼の足元のほうに動きます。
　そっと男性の部分を握ってみました。
　熱くて、思っていたよりもずっと硬い感触です。
（すごく、大きい…これを自分で自分の身体の中に入れるんだ。いつもしていることなのに、なんだか信じられない。私がこれを自分で見ながら自分の体の中に入れることが出来るのかな？本当に大丈夫？だんだん不安になってきた。）
　そっと顔を近づけて、いつものようにまず口に運ぼうとします。
「あ、今日はいいよ」
「？」
「なんだか、がまんできそうにないから、もったいないんだ。あゆちゃんの中に、早く入りたいよ。」
「あ、じゃあそうするね。上手くデキルカナ？コンドームをかぶせるからまってて」
　パッケージからとりだしたコンドームをそっとかぶせます。
　そうやって触っていると、血管が浮いたその部分がますます大きくなってきました。
　そうっと、腰を彼の上の位置にもって行きます。
　自分の部分を確かめて、先をあててみます。
「大丈夫かな？」
「いいよ、なんか触れてるだけで、すごく気持ちいいや」
「じゃあ、このままいくね。」
　コンドームをかぶせた部分を手でささえながら、脚を開いて腰を落としていきます。
「ああ、なんていやらしい眺めだろう。」
　ため息をつきながら貴君がつぶやきます。
「やだ、そんなこといわないで、恥ずかしいんだから。」
　様子を確かめるためにじっと見なくてはなりません。
　いつもは彼に任せて眼をつぶってしまっているので、こんなふうに一つになるとき、その部分を見たことがなかったので、私にははじめてのながめです。
　ゆっくりと部分をあてがって腰を落としていくと、ぬるぬると大きなそれが身体の中に入っていきます。
　さっき、彼に感じさせてもらったので、充分に潤っています。
　自分の胴体の影に、彼の部分が少しずつ隠れていくのです。
「あ、ちゃんと入ってくる…。う、うん。」
　あんなに大きなものがこんなふうにスムースに入ってくるのを目の当たりにして自分の身体なのに不思議な気分になってきました。
　なんだかおなかにいっぱいの感触で、せつないような気分になって、ため息が出ます。
　ゆっくりと腰を落としていく自分の姿を、じっくりとながめている貴君をみると、みだらな姿勢をさらしているのがわかって、恥ずかしさに耳が火照ります。
「ふう」
　息を吐きながら、身体を落としてやっとで彼の腰と私の腰が密着しました。
「ああ、あゆちゃんの中に全部入った。」
　感激した声で彼がつぶやきます。


９

　このあと、どうしたらいいんだろう？
「入ったね。なんだかおなかがいっぱいな感じがするよ。このあと、どうすればいいのかな？」
「大根をおろすみたいに動いてくれればいいよ」
「また、色気がないたとえ。こうかな？」
　身体を、前後にゆらしてみせます。
　彼のお腹の上を自分の体が動きます。
「うん、不思議な感触、気持ちいいよ。」
　密着した部分がこすれるので、私もその部分から快感がじわりと広がります。
　おなかの中に納まった部分は、どんな感触なんだろう？
　じわじわと快感がくるので、腰が自然と激しく動いてしまいます。
　息がはずんでしまって切れ切れに声を出しました。
「…手を…ついてもいい？」
　彼の胸に手を当てて聞くと
「大丈夫、いいよ」
　というので彼の胸の上に手のヒラをのせて自分の身体を支えて、円を書くように身体を動かし始めました。
「ああ、すごくいい。」
　彼がつぶやきながら、私の胸に手を伸ばし、そっとふれました。
「うん、ああ」
　腰の感触と、胸への刺激で声が出てしまいます。
　胸をひとしきりまわすようにさわると、重さをたしかめるようにもちあげて感触をたのしんでいます。
　裸の乳房に貴君のゆびが埋まる様が見えています。
　さっきもしたように、肌をなでるように指を這わせ、丸みに添って円を描きます。
　私が動いているせいで、はじくような動きになって、乳房がプルンとゆれて彼の腕にあたったりしています。
　彼は私のわきの下や、腰もまんべんなくなでてから、また胸をまさぐり刺激をあたえます。
　汗でぬれた乳房をひとしきりさわってからゆっくりと乳輪をなぞりはじめました。
　ビクリと体が痙攣しました。
「あ、いい」
　お腹の中の刺激と、密着している部分の擦る刺激そして、すっかり溶けたようになっている胸、その敏感な部分への指の刺激で、私は頭の中までかきまわされているようになってしまっています。
　彼はくるくると乳輪をなで続けています。
「乳首に触って」
　思わず声に出して頼んでしまいました。
「お楽しみはもうちょっと後で」
「そんなぁ…いじわる…じゃあ、私がさわる！」
　身体を倒して、彼の胸にキスをします。
　彼も汗でぬれています。
　ゆっくりと胸に舌を這わせて、乳首を舌先でなでて見ます。
　だんだん、たってきました。
　硬くなった彼にの乳首を「ちゅっ」と音を立てて吸ってみます。
「あははは、くすぐったい。」
　彼が笑い出してしまいました。
「感じないの？」
「うん、そこあんまり俺は感じないんだ」
「ザンネン」
　くちびるにキスをします。
　口角に音をたててキスをすると彼がこそばゆそうな表情をします。
　腰は円を描くように動かしながらなので、キスもねらったところと違う場所になっていまいます。
「ああ、どんどんこっちが良くなっていく」
　彼が私のおしりのふくらみに手のヒラをあててつぶやきました。
　身体をおこして、大きめに動いて見ます。
　と彼が両手の指で同時に両方の乳首をきゅっとつまみました。
　待っていた刺激に体がビクンと大きく反応します。
「あぁん」
　甘えた大きな声が私の口から出て、ぽんと与えられた感触のよさに思わずのけぞってしまいました。
　すると
「ああ、あ」
　彼が声を出し、同時に私のおなかの中が急にいっぱいになりました。
　貴君が大きな口をあけて苦しそうにしています。
（あ、貴君　いったんだ）
　と眺めていると、
「あ、あ」
　としばらく苦しそうに声を出し、ビクンビクンと体がケイレンしていましたが、やがて顔の緊張がとけ、今度は悲しそうになってしまいました。
「こんなに短く終わってしまった…。」
　と彼がつぶやきました。


１０

「まっててね、今タオルもってきたから。」
　暖かいタオルを持ってきて身体を拭き始めると貴君がいいました。
「ごめん、あんなに早く終えちゃうとは自分でも思わなかった。」
「別に、気にしないで、私、長くても短くても気にならないから」
「うん、でも、もっと楽しませたかったのに、下からあゆちゃんのこと見上げてるといつもと違うんで、すごく興奮しちゃってさ…。いろんなところが、良く見えて。」
「ヤダ、そんなの」
　身体をふきあげ終わったので、タオルケットを彼の顔までかけてしまいます。
「今、シャワーあびてくるからね。そしたら、パジャマを着せてあげるけどいいでしょ？」
　彼が顔にかけられたタオルケットをひっぱって顔をだしながら答えます。
「服ぐらいはなんとかなるから、ゆっくりシャワー浴びておいでよ」
「じゃあ、お言葉に甘えてそうするね。なんか私、すごくべとべとになっちゃっているから。」
　シャワーをあびて寝室に戻ると、パジャマを自分で着て布団をかぶった貴君が寝ていました。
「あゆちゃん、今日、すごく色っぽかったよ。本当押さえつけて、力いっぱい…してみたかったなぁ」
「元気になったらね、楽しみにしてるから。」
「あのさ、さっき来てくれたときも言ったけど、昼間こうやって寝ていると窓の向こうに青い空と白い雲が見えるんだ」
　今は厚いカーテンが閉まっている窓を指していいます。
「あゆちゃんと結婚すると、こんなふうに窓の外に空があるみたいに『いつでも、あゆちゃんが俺のそばにいてくれるんだな』って思ったら、とても楽しみになったんだよ。
　冬でも、春でも、青い空って見てると元気になるよね。
　そんなふうに、元気になれるヒトともうすぐいっしょになれるんだって、そう思いながら、空を見てたんだ。」
「そんなふうに思ってくれていたんだ。うれしい」
「うん、俺もうれしい…。いっしょに暮らすの、本当に楽しみだよ。」
　照れた顔で話してくれます。
「あのさ、聞いてみたかったんだけど…」
「ん？」
「貴君、なんでもできるじゃない？家のコトだって、仕事だって」
「うん」
「なんで、結婚しようと思ったの？恋人だってだけじゃ駄目な理由って、なにかな？」
「あゆちゃんは、結婚うれしくないの？」
「すごく、うれしい。結婚を申し込んでくれた事がすごくうれしかった。でも…なんか、貴君が結婚しようって思った理由がわかんなくって。」
「あゆちゃんがうれしかった理由と同じだと思うんだけど」
「私はね、自分が頼りないから、『貴君に支えてもらえる』って、すごくうれしかったの。でも、貴君ってしっかりしてるし、一人で全然ダイジョウブじゃない。家事とか全部キレイに片付けてるし…。」
　不思議そうな顔をしていた貴君が、噴出して笑い出しました。
「あはは、あゆちゃん、それはおかしいよ。家事が出来ないから結婚するってんじゃ、家政婦さんを雇えばいいじゃん。家政婦さんと結婚するつもりはないよ。」
「だって」
「あゆちゃんと、この先もずっといっしょに生活したかったんだよ。いろんな事をいっしょにしてさ…さっきみたいに。俺失敗しちゃったけど…。でも、すごく楽しかったよ。こんなことも出来るんだなって…わかってさ。生活ってそんなことの積み重ねだと思うんだ。」
「うん」
「だから、これからもそばにいてほしいんだ」
「ありがとう。」
「こっちこそ、今日はふがいない俺のためにあれこれしてもらって、うれしかった。ありがとう。」
　ふとんから手を出して私の手をにぎりました。
　私はちょっと握り返して、うれしくて涙が出てきたのを指でふいてごまかしました。
「明日、又くるからね」
　タオルで清拭したので、さっぱりした表情をした貴君がうなずきました。
「今日は本当にありがとう。おやすみ。」

　今度は眠るために電気を消して、部屋を出ました。
　空には月がコウコウと輝いています。
　頬に外気がつきさすようです。
　このまま晴れた空なら　放射冷却現象で、朝になるともっとキリキリとした冷え込みになるはずです。
　たぶん、青い空の下またキラキラとした氷の張る寒い朝になるでしょう。
　でも、外の空気と裏腹に、私の身体はさっきのなごりで芯が熱いままでした。