第４章 愛奴としての自覚

　その夜は東の空が明るくなるまで欲望の限り、セックスを楽しんだ。めぐみは夏彦が起き上がり、服を着ようとするのを押し留めた。
「このまま、地の底まであんたについて行きたい」
「子どもを放ってか？」
「……」
　めぐみは手を離すと、顔をベッドに押しつけシクシクと泣き出した。子どもさえいなければ夏彦と一緒に居れる。しかし、現実はお腹をすかせて帰りを待っている子どもの姿があり、平然と不倫を認める夫の姿があった。
「君にとって家庭は大事なんだ、それを克服した時点でまた電話をくれないか。ぼくはいつでも君に会えるが、家庭を犠牲にして愛欲に溺れる女には一切興味が湧かない」
　夏彦はそう言うとスーツに身を包み、ルームキーだけ残して去って行った。めぐみは携帯電話を取ると夏彦の番号を押し始めた。しかし、最後の数字を打ち込むところで泣きながら押し留める。すがりたい、甘えたい、しかし夏彦はそんなめぐみを蔑んで会ってはくれないだろう。

　家へ帰ると信一が待っていた。
「夜中中、ほっつき歩いて、お前何様だ！」
　髪をつかまれ、頬を数回叩かれると唾をかけられた。そのまま、怒って家を出てゆく。子供たちがめぐみのそばにより、ママ、ママ、と叫んでいる。
「なんでもないの、それよりご飯は食べた？」
　２人とも首を横に振って悲しそうな顔をしている。学校は今日は休んだようで、支度もしていない。急げば多少遅刻するかもしれないが間に合う。しかし、学校に行かせたい気分でなかったので、先生には急病ということで届け出た。
　午前中は朝食を３人で一緒に摂って家で少し休んでから、午後から子どもたちを連れて近くにあるショッピングモールにある子ども用遊び場で少し遊ばせたのち、ファミリーレストランでご飯を食べる。
　お父さんはどうしてあんなにひどいことするの、と長男がしきりに聞いてきたが、あなたたちには関係のないことよと言い含める。子どもの前で平気で暴力を振るう夫に悲しみを感じ、そんなとき夏彦の姿が思い出され涙が込み上げてくる。
　信一には毎日のように暴力を振るわれた。会社で嫌なことがあると、お前の顔を見るたびむかつくんだよ、とぬいぐるみを叩くように殴られる。それをじっと堪えて、子どもたちの面倒をきちんと見て、夏彦と前に会ってから１ヶ月後、なんとか２日、自由な時間を作り出した。子どもたちは実家に預け、信一には古い友人と旅行に行くと言った。家事もろくにできないバカ女が子どもを放って旅行かよ、いい身分だな、と言うとその場で不倫相手に電話をかけ、嬉しそうな声で話す姿を非常に嫌らしく見せつけた。殴りたいのを必死にこらえ、伝う涙にじっとこらえ震えながら堪えた。
「夏彦、夏彦なの、会って欲しいの、あなたの言う通り、家庭は守ってきたわ。でも、疲れたの……とっても……」
「別荘に来てくれないか……」
　手はずは整い、約束の日が来て、待合場所の駅前に来た。執事がやってきて、こちらです、と10メートルくらいありそうな黒いリムジンを指す。周りの人が注目する。リアのドアが開き、赤いじゅうたんが敷かれる。めぐみは申し訳なさそうに背をかがめ足早にリムジンの中に入った。ドアが閉められる。空調が完備され、冷蔵庫やテレビまであり、ラベンダーの安らかな香りが格調高く漂ってきた。ほとんどエンジンの音を響かせずに車は発進した。
　気が付いたときは高台の別荘に着いていた。あまりに気持ちよかったので、車に乗ってすぐに眠ってしまったようだった。執事は、よく休んでおられましたね、とめぐみの眠りっぷりに感心していた。顔を赤くして恥ずかしがる姿に、着きましたよとアクセントのはっきりした声が響いた。
　目の前には洋風のおしゃれな別荘があり、中世の城を彷彿させるような装飾が至るところにある。プールの水はきれいで濁りが全くなく、庭木なども剪定がすみずみまで行き届いており、よほどの金持ちが住んでいることを雰囲気が知らせている。庭の芝に赤じゅうたんが敷かれ、執事がドアを開けてくれる。めぐみは背を低くし、スタタッと足早に降りた。こういう場所には上等なドレスが似合うものだが、今の格好はカジュアルのスーパーで揃えた安物で、どうみても場所には不釣合いだ。
「こちらへどうぞ、マダム」
　ロマンスグレーの品のいい執事はめぐみを別荘の一階の応接間で待たせた。アンティークな籐の豪華な椅子で待っていると、執事が数十万円するシャトー・マルゴーをワインクーラーに入れて現れ、ピカピカのチェコ製のグラスに注ぐ。大理石の琥珀に赤く光るワインが幻想的な色合いを作りだし、めぐみには人魚が官能で悶えているように見えた。
　30分後、夏彦が現れた。仕立てのいいアルマーニにワインと同じ色のネクタイをしている。自分の席に置かれてあるグラスにワインを注ぐと、めぐみの飲みかけのグラスにも満たす。執事が銀の食器をトレイに乗せて切り分けられたローストビーフ、オマール海老のサラダ、カスピ産のキャビアのサワークリーム和えなど所狭しと並べてゆく。
「ごめんよ、待たせて、ビジネスで東京から飛行機で今戻ってきたところなんだ」
「ううん……あたし恥ずかしいわ」
「なにが？」
「だって、もっといい格好してこないとこれじゃ……」
「めぐみはそのままが一番似合うよ。下手な装飾は虚栄心が見え見えでしらけるだけだ。ぼくはそんな女性をいっぱい見てきた。ぼくに対抗心を燃やし、ブルジョアであろうとする。心が貧相なだけに滑稽極まりなかった。だから、正直なめぐみにますます好感を持った」
「ありがと」
　そういうとめぐみはグラスのワインを一気に飲む。数十万もする高級ワインなのに千円の料理用ワインと区別のつかない自分が情けなかった。空になったグラスに涙が落ちた。
　飢えた狼のように料理に手を出すめぐみ、それを夏彦は笑いながら同じように手を出して食べる競争をした。男性と食べることがこんなに楽しいと感じたことはなかった。初めてデートするときの新鮮さを37歳にもなって感じている自分がいて、なんだか嬉しかった。
　酔ってフラつくめぐみを夏彦は温室のツインベッドへと案内する。
「めぐみ、ちょっとした遊びをしてみないか？」
「えっ、なに？」
「ＳＭっていうのを聞いたことあるかい？」
「なんか変態というイメージがあるけど……」
「変態でもなんでもないよ。お互いを確認するにはすばらしい遊びだよ。ちょっと縛るけど、恐がらないでね」
「恐いわ」
　夏彦は縄を持ってくると、下着だけのめぐみに掛けていった。高手小手に縛り、足は自由にさせておいた。初めて味わうＳＭプレイに終始緊張しっぱなしのめぐみだった。夏彦はそんなめぐみの緊張を解きほぐすため、唇や耳に時折り軽く舌先を這わせ、大丈夫だよ、緊張しないで、と耳元に囁く。
「目隠しはした方がいいかな？」
「……お願い」
　棚から赤いハチマキを取って来ると、目を覆い隠すようにして頭の後ろで縛った。めぐみのパンティはまだ何もしていないのにすでにジュクジュクとエッチな染みを浮かせ蜂蜜のような照かりを出し、艶かしくトロンと染みを広げながら下に向かって粘り付いている。
「おや、めぐみ、こんなエッチな染みを作って……。ぼくはまだ何もしていないんだよ」
「いや、見ないで」
「見ないでと言っても見えてしまう。嫌らしいあそこだな」
　夏彦はそう言うと染みのできた部分を人差し指で上下になぞると、クレバスにスッとパンティの上から侵入させ、小陰唇の襞を軽くくすぐった。
「あっ、ひっ、き、気持ちいい……」
「本当？」
「いい……いいわ……」
　足をくねくねとさせ、快感に身をよじらせるが、夏彦の方はやめようとせず、クロッチを少し剥くと直接クレバスから膣に指を入れ、酸味のある粘膜に疼きを感じながらＧスポットを突いた。
「あっ、ダメ、そこ……」
「ここが気持ちいいのか？」
「い、いいっ、イクっ！」
　腰を前に突き出したかと思うと太腿をプルプル痙攣させながらめぐみは絶頂の波に飲み込まれ、身体を小刻みに震わせている。
「なんだ、めぐみ、こんな軽い刺激でイってしまったのか？」
「……イジワル……夏彦」
　唇を尖らせながらいじけると、足で闇雲に夏彦を探す。そして夏彦の股間を見つけると、すねで一生懸命こすった。暖かい感触がすねに伝わり、男根のしっかりとした隆起を感じ取った。
「めぐみ、ぼくの言うことをちゃんと聞けるかい？」
「うん」
「今から君はぼくの奴隷だ。絶対はむかっちゃだめだぞ。それからこれからぼくのことをご主人様と呼ぶんだ、いいね」
「はい、ご主人様」
「よし、いい子だ。それじゃまず誓いとしてぼくのあそこを舐めてもらおう」
　それを聞いためぐみは口元が緩み笑みがこぼれた。さっきからその言葉を言ってもらいたくて仕方なかった。もし手が使えたらすでにしゃぶりついていた。
「おい、どうして笑っているんだ。そんなに欲しかったのか？」
「ご主人様のイジワル……めぐみの気持ち分かって……」
「そうか、つまりは淫乱だってことだ」
　我慢のできなくなっためぐみは縛られながらも夏彦の身体を探し当てると一番欲しかった物を見つけた。そして反り返り熱くなった先に舌先を這わせると、フルートを弾くように唇で撫で上げ玉を口に含む。それから舌先で先端をチロチロと刺激するとパクンと口に含んだ。