空から見下ろす田園風景。

　子供の頃は特に気にすることも無かったが、久々に見ると、とても美しく見える。

　寺田武、痴漢王と称された痴漢師の頂点に立っていた男だ。

　寺田は、飛行機に乗りながら刑務所時代に貰った祖父の手紙を読んでいた。

（先日、息子の正志が亡くなりました。直樹も亡くなり、ついには寺田家の血を継ぐものは武、あなただけとなりました。
　罪を償い、1日も早く戻ってくることを心待ちにしております。
　寺田権六）

　手紙を読み終え、寺田はふーっと息を吐いた。

「まさか、親父に続いて伯父さんまで亡くなっていたとはな・・・。しかし、こんな犯罪者を迎えてくれるとは、ありがたいことだ」

　寺田は混みあがる感情を押さえ、久々の空の旅を楽しんだ。



　庄内空港

　今ではおくりびと人気で、すっかり名も知れた酒田市。

　寺田の故郷である。

　昔はしょっぱかった空港も、今ではいっぱしの空港となっていた。

「20年ぶりくらいか・・・相変わらず、東北は寒いな」

　もう11月、北国はすでにコートを着るような時期となっていた。

　寺田もマフラーを巻きなおし、空港の外へと出た。

「た、武しか！！」

「権ジイ！！」

　外に出た寺田に、驚いた顔で呼びかける老人の姿があった。

　寺田権六、寺田の祖父であった。

「久しぶりじゃの、大きくなって・・・」

「はは、権ジイは相変わらずジジイだけどな」

「む、口が悪くなったのぅ。まぁええわい、今日は武が帰ってきたから歓迎会じゃ！！　さぁ、乗った乗った！！」

　御歳80、権ジイは相変わらずの元気さで寺田を迎えてくれた。

　寺田は元気な権ジイを見て、嬉しさでいっぱいであった。

　権ジイに言われるがままに車に乗り込み、寺田は



「今日は貸切じゃ！！」

　ついた場所は1件の廃れたような居酒屋。

　どうやら昔からのなじみの店を借り切ってくれたようだった。

　犯罪者の自分への温かさに、寺田は熱いものがこみ上げてきていた。

（ありがとうな・・・権ジイ・・・）

　感謝の気持ちで一杯の寺田、しかしその感情もすぐに失せることになる・・・。

「みんな、武が帰ってきたぞ！！」

「ウォォォォ！！」

「武だ！！」

「よう来た！！」

　寺田が案内された部屋に1歩踏み入れると、すでに出来上がったオッサンたちの声が響き渡った。

　三十人はいるのだろうか？

　顔なじみの近所のオジさんたちもいれば、全く知らないジイさんたちもいる。

　寺田は何故、見ず知らずの人に歓迎されるのか訳もわからないまま、権ジイに連れられ上座に座った。

「皆さん、ついに、武がこの酒田に帰ってきました。やっとワシの跡取りが帰ってきた。今日でワシも、引退しようかと思う・・・」

「権さんもついに引退か・・・」

「悲しい話じゃ」

「しかし、お孫さんが、しかもかなりの手練の者と聞く」

「雌豚教育委員会も安泰じゃて・・・」

（引退？雌豚？まさかこいつら・・・）

　寺田は最初はなんのことだかさっぱりだったが、最後の言葉を聞き逃さなかった。

　雌豚、そんな言葉を吐く人種はただ1つ。

　うすうす気づいていた寺田に、権ジイが決定的な言葉を突きつけた。

「このワシ、寺田権六！！東北の痴漢王とも呼ばれましたワシですが、全てを本場の痴漢王、武にその座を譲ると共に！！この雌豚教育委員会の会長職も譲ろうかと思う！！」

「ウォォォォ！！」

（やっぱりか・・・このジジイ！！）

　寺田の悪い予感は当たった、女性を雌豚などと言う人種はこの世に痴漢ただ1つ。

　権ジイは1人身の寺田への温情よりも、痴漢王寺田として、家へと向かえる入れるということの方が大きかったのだ。

「ジジイ・・・まさか、アンタ・・・痴漢だったとは・・・。あの近所のおっさんたちも・・・がっくりだぜ」

「流石は東北の痴漢王の孫じゃ！！まさか東京で痴漢王になっとったとわの！！インターネットでお前の活躍は確認済みじゃ！！」

　がっくりとうなだれる寺田の肩を、権ジイは上機嫌で叩いた。

「まぁ飲め、これでお前の将来は確約されたもんじゃ。1つ痴漢を頼みたいんじゃ、今日はそのために皆集まったんじゃ〜♪」

　そう言いいながら、権ジイは寺田にビールをコップにくんだ。

　寺田はヤケクソ気味にビールを一気に飲み干し、口を開いた。

「俺は痴漢を辞めるために、まともな生活をするためにこっちへきたんだ！今更また痴漢なんぞ、できるかってんだぁ！！」

　寺田の言葉で、ドンチャン騒ぎだった雌豚教育委員会に静寂が訪れた。

　しかし、権ジイがその空気を切り裂いた。

「いいのか？ワシの財産もいらないんじゃな・・・」

「くっ！！」

　寺田は完全に、権ジイの家と財産を頼りになけなしの金を叩いて帰郷してきていたのだ。

　ここで、権ジイの恩恵を受けれないとなると、寒空の下でのたれ死にしか残されていなかった。

「しょうがない・・・これで最後だ！！やってやるよ、で・・・標的は！？」

（かかったのぉ・・・）

　権ジイはイヤラシイ笑顔を見せながら、こう告げた。

「標的は・・・山形知事じゃ！！」



　酒田での衝撃的な出来事から1日、山形知事を狙うべく、寺田と権ジイは山形へと来ていた。

「で、なんで県知事なんだ？」

「話せば長くなるが・・・。早い話、山形での風俗店営業がしたいわけじゃ。しかし、山形は青少年保護条例かなんかでそれができんのじゃ！！県外に店舗を置くデリヘルか、秋田や仙台にいかんと、山形の人間はヌケにヌケんのじゃ！！！！！」

　権ジイは熱くなりすぎ、血管がハゲ頭に浮かび上がってきている。

「なるほどね。東京はそう考えると、良いところかもな。でも、国道に平然とラブホがあるのに、おかしな話だ。このご時世、痴漢になるか風俗で我慢するかって時代なのに、全く、時代遅れも良いもんだぜ。で、なんで知事を痴漢するのが風俗経営の許可に繋がるんだ？」

「それじゃよ。今は女性も性欲を求めている時代なんじゃが、知事が断固として反対しとる。武の影響で大痴漢時代が訪れ、男性というだけで今は評判が悪い。議員になるのも女性が多くなってしまった。知事が反対しているのに、賛成するのは世間的にもマズイ。おおっぴらにヤりたい条例に賛成するわけじゃしな。そこでじゃ！！知事を雌豚に教育し、性欲の虜にしてしまえば、軒並み賛成も増えると言う訳じゃ！！」

「ま、気持ち良くイカせて、性欲の良さというのを教えてやればいいんだろう？ただ忘れんなよ？俺が継ぐって話」

「当然じゃ。財産もたんまりあるからの。ま、頑張ってくれ・・・」

（しょうがない、これからの人生のために・・・）

　封印しようとしていた痴漢、寺田はこれからの暮らしを手に入れるべき、再び痴漢に手を染めようとしていた。



　終電の時間帯を迎えた。

　席に座っている人もまばらで、痴漢するには絶好の時間帯と言える。

「で、どんな女なんだ？」

「色気はほとんどない。宮崎かおり、インテリクソ野郎じゃわい！！」

　風俗を経営できないのがよほど腹が立つのか、権ジイは知事の事をミソクソいい放っていた。

（全くこのジジイは・・・。100円レンタルデーの時、絶対ＡＶコーナーにいるぜこの老人。しかし、宮崎かおりか・・・名前は・・・悪くない）

　最初は嫌々だったがやはり痴漢王、東北での初の痴漢でテンションが上がってきていた。

「次は〜山形駅〜」

　車掌のアナウンスが流れる。

　権ジイはその駅名を聞くと、クワっと目を見開いた。

「宮崎の野郎は次の駅からのってくるはずじゃ、頼んだぞ！！」

「はいよ」

　権ジイの予想通り、宮崎は電車に乗り込んできた。

（想像通りの、堅物っぽい女だな・・・）

　キッチリとまとめた髪、真面目そうな眼鏡、そして足を見せないロングスカート、色気のいの字も無いような、まさに堅物、宮崎はそんな感じの女性だった。

「じゃあちょっと言ってくるわ。色気の色くらいは出させてやらないとな・・・」

　この電車は普通の席と、4人が向き合って座れる4人席とで構成されていた。

　宮崎は、死角のできやすい、4人席に座っているのであった。

　寺田はチャンスと思い、おもむろに宮崎の隣に座った。

（何かしら？こんなに席が空いているのに・・・隣に座るなんて）

　宮崎が不審がるのもそのはず、4人席は隣も前後も誰も使用していないのだから。

　しかし、寺田は不審感が募る前に先手を打った。

　ぐにゅり

「ア・・ン」

　ロングスカートはありがたいことにやわらかい素材でできていた。

　寺田はスカートの上から土手を狙い、一気に刷り上げたのだ。

「ちょ・・アン・・・」

　ぐにゅり

「なに・・っぉお・・・」

　ぐちゅり

「してる・・・アッ・・・」

　ぐぢょ

「の・・・クゥ・・・」

　不意を疲れた愛撫に、ついついあえぎ声を漏らしてしまう宮崎。

　見る見るうちに自分の意思とは反対に足が開いていき、ついには他の者が見たら目を覆うほどに、足を大きく開いてしまっていた。

（意外だな・・・、痴漢を敵対視している女とは思えない・・・。ま、なんだかんだでただの男日照りの女ってことか）

　寺田の予想通り、宮崎はもう何年も男性との性交渉が無かった。

　痴漢に対しての敵意からであったが、数年ぶりの愛撫、逆に性交渉が無いことで痴漢の虜となってしまうとは、何とも皮肉なことか・・・。

　久々の愛撫を阻む心は、宮崎にはなかった。

　グチュグチュグチュグチュ！！

「アッ・・・ハァ・・・アッン・・・ハァ・・・ハァ」

（キモチイイ・・・こんなに・・・濡れてる・・・アア・・何て事なの・・・でも・・・阻めない・・・キモチイイんだもの！！）

　スカートは捲れ上がり、下着の上からの愛撫であったが、すでに下着全体が粘着性のある液体で覆われ始めていた。

（これだけでイキそうとはな、一回スッキリしてもらうか・・・）

　グリュン！！

「アア！！クゥゥ・・・アゥ・・・ググ・・アゥゥ・・・」

　寺田は不意をつき、下着の脇から秘部に指を突き刺した。

　宮崎は大声を出してしまったが、とっさに手で自分の口を押さえ、喘ぎ声をこらえた。

　クチュクチュクチュクチュ！！！

「グ・・・ンンンッ・・・アァ・・・」

（アア・・・ダメ・・・コンナトコロデ・・・イキソウ・・・アァ・・・・）

　イヤラシイ音が、ガタン・・・ゴトン・・という音の合間に響く。

　もうすでに、宮崎は限界を迎えてきていた。

「イっちゃっていいんですよ」

「ンンッ！！」

　寺田はわざと、宮崎に耳打ちをする。

　寺田の指戯で火照った顔が、更に赤みを増す。

「お爺さん、切符を拝見します！！」

「おや、どこだったかのぉ・・・切符」

「お爺さん、しっかりしてくださいよ・・・」

　ズボォ！！

「ンハァ！！」

　ビシャァ！！

　不意の声に咄嗟に、寺田は指を抜き、愛液で濡れた手を拭き、自分のコートで乱れた宮崎の下半身を隠した。

（危ない、ここは田舎だ・・・無人駅の後は切符を拝見に来るんだったな・・・）

　東京と違い、無人駅が存在する駅では車掌が切符を拝見しに来る。

　何とか権ジイはボケたふりをして、寺田が処理をする時間を作ったのだ。

（恩にきるぜジジイ）

「切符拝見します」

　寺田は何とか息を整え、切符を渡した。

「ハイ、どうぞ、そちらの方も」

「あ・・・はい・・・アゥゥゥ・・ハァ・・・」

「どうしました？息が荒いようですが・・・それに顔も・・・」

　車掌の前でも、寺田はコートの下で愛撫をしていたのだ。

（ハァ・・・・カンジル・・・こんな状況じゃ、助けも・・・呼べない。いや・・・モウ・・・オサエラレナイ・・・ココデヤメタラ・・・クルッチャウゥ・・）

　極限に辱められ、宮崎は淫乱女に成り下がっていた。

「あ、彼女、風邪気味で・・・ほら切符貸して。どうぞ」

「そうか、だからコートをかけてあげていたのだ。優しい彼だ。大切にしなさい」

「ハァ・・・イ、大切に・・・しまっ・・・す」

　何とか、宮崎は切符を受け取ると、車掌は隣の車両へと移動した。

　その瞬間、寺田のピストンが再び始まった。

「ンオァ！！アァァ・・・ハァ・・・アアアア・・・アァアァアアアア・・・イ・・・イクゥ・・・・！！」

　ビシャァ！！

　プォーーーーーン！！

　ちょうど、汽笛が重なり、喘ぎ声はかき消された。

　宮崎はガクガクと痙攣し、聖水を撒き散らした。

「いいイキっぷりですね。このままお尻を向けてくださいね」

　言われるがままに、宮崎は寺田にお尻を突き出した。

　ズボォ！！

「ンアァ！！」

　ヌポ・・・クポ・・・

　初めはゆっくりに、そして徐々にピストンを上げ、寺田の肉棒が宮崎を突き上げていく。

「ア・・・アァ・・・イィ・・・モット・・・ハゲシク・・・モット・・・チョウダイ！！！」

（イイ・・・デンシャデスルノ・・・キモチイ・・・モット・・・モット・・・・ォ！！）

　数年ぶりのＳＥＸ、しかし腰の動きは忘れていない。

　宮崎は自ら求めるように、お尻を寺田の肉棒に押し付ける。

「いいぜ、いくらでもくれてやる。オラ！」

「アァ！！イィ！！」

　喘ぎ声が、車両に響き渡る。

　ざわざわと野次馬たちが群がり、ＳＥＸを凝視している。

（ミテ・・・アァァ・・・イヤラシイワタシ・・・ミテェ・・・アァァァ・・・）

　視線が突き刺さる。

　それさえも、快楽の1つとなっていく。

　宮崎は性欲はピークに達した。

「オラァ、イクのか！？イッちまいなぁ！！」

　寺田が最後のピストンに入る。

「アァ・・・イク・・・イッチャウ・・・ミテ・・・かおりのイクトコ・・・・ミテェ・・・アァァッァァァァァァァ！！！！イクゥ・・・・！！！！」

　ドピュ！！

　熱い液体が発射されると、ピクピクと痙攣しながら宮崎はその場に崩れ落ちた。

「あれ、知事じゃねぇか？」

「本当だ・・・うわ、電車の中で・・・」

「ただの淫乱女じゃん。何だよ、こいつもただの雌豚かよ」

　野次馬たちが犯された女性が市長と分かると、より一層ざわめきが車両を占領した。

　ちょうど良く、電車のドアが開き、寺田と権ジイは電車を後にした。

　宮崎は野次馬の痴漢たちに運ばれ、更にその晩、ＳＥＸに明け暮れたのであった・・・。



　その後、2度も退けられてきた風俗経営に関する条例の改正はついに知事の態度が変わったことから賛成数が伸び、翌年1月から改正が施行されることになったのであった。

「思えば、淫行条例も2度退けられてきてんだよな。援交が流行ってきていたからと言って、可決されたもんな。結局は、正しいところに行き着くのが法律ってもんなのかね？」

　山形新聞を読みながら、寺田は縁側から庭にいる権ジイに問いかけた。

「その通りじゃ！！正義は勝つのじゃ！！」

　条例改正により、権ジイは上機嫌で庭を走り回っていた。

「元気なジジイだな・・・。あ、それよりこれで正式に俺がこの家の財産を継げるんだよな！？」

　権ジイは満面の笑みでこう答えた。

「ああ、それな、継がせてやるぞ。雌豚教育委員会」

「は？」

「だから、継がせてやるんじゃよ」

「いや、家は？」

「誰も家とは言っとらん！！まず、東北でも頑張ってもらってからじゃの。家を継がせるかどうかはこれからかじゃ！！」

　確かに、寺田は一度も家をとは言ってはいなかった。

「かーやられた。全く、このジジイは！！」

　寺田は縁側に横になり、空を見た。

　とても天気のいい、秋の空だった。

(俺は相変わらず、馬鹿やってるよ。そっちはどうだ？変わりはないか？）

　東京にいる親友たちを思い、寺田は酒田での暮らしをスタートし始めていた。