７

　帰路のタクシーの中。興奮が冷めやらない山根に、先ほどのシーンが鮮やかに甦っていた。
　バイブに犯される麻里子の痴態が、強烈な残像となっている。
　悩ましい喘ぎ声と、明彦の腕が動くたびにピチャピチャいう淫らな音が響く中で、なめらかな白い太ももがピンクに染まり、ネグリジェを揺らしながら、腰が大きく踊っていた。
　山根に覗かれているとも知らずに、麻里子は２回の絶頂を迎えた。
　きれいな顔を快楽に歪ませ、腰を波打たせていた・・・・
（普段、清楚な奥さんが、あんなになるなんて）
　ふと山根に、ある記憶が甦った。
　・・・・・・明彦と麻里子の結婚披露宴。
　トイレに入ろうとドアに手を掛けた山根に、明彦の学友の会話が耳に入り、手を止めた。

　湧き上がった欲望を勝手な同情心にすり替え、喘ぐ麻里子を思い描いて、山根は淫らな空想を膨らませた。

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　今日、明彦は接待ゴルフで出掛け、出社していない。
　社員は営業で出掛けてしまっていて、社内には僅かな人数だけが残っている。
　電話も少なく、静かな空間に気が抜けたようになり、麻里子は仕事が手につかなかった。
　あれから一週間、明彦は一日も欠かさずバイブを使った。
　バイブ・・・・・温もりも愛情もない、ただの人工ペニス。
　明彦との結合は、相変わらず明彦だけ満足し、麻里子にそれはなかった。
　毎回淡い期待を持つのだが、空しく終わるばかりだった。
　自分を満たしてくれるのは、醜いバイブだけ・・・・・
　倉橋との、甘い歓喜の夜が、遠い過去のようだった。（・・倉橋さん・・・・・）
　出資の条件、愛のない行為だけのセックス・・・・・・・なのに、忘れることができない。
「変に聞こえるでしょうが、女性が好きなんですよ。病気みたいなものですかね」
　隠さずにそう言った言葉を裏付けるように、無知に近かった麻里子を、女へと導いた
　女性関係は、数知れないのだろう・・・・・
（バカね、早く忘れてしまいなさい、あちらはお遊びなんだから。私の事なんて、抱くだけ抱いたら、とっくに忘れてしまっているのよ・・・）
　そう言い聞かせながらも、あの夜のセックスを恋しがってしまっている自分がいた。

　そんな時、専務の山根が麻里子に声を掛けてきた。
「浮かない顔してますね、奥さん。私はこれからＡ社に行くんですけど、社長もいないことですし、どうですか、気分転換に一緒に行きませんか？」
　Ａ社は、片道１時間半ほどの遠方で、皆が敬遠するため、内勤の山根に押し付けられた取引先である。
　月に２〜３回の訪問を、不満を言うわけでもなく、無難にこなしている。
「え、あ、でも留守番が・・・・・」
　それを聞いていた事務の女子社員が、言った。
「今日はみんな出払ってるし、私１人で大丈夫ですよ。ドライブ気分で行って来て下さいよ。なんか最近、奥さん元気ないですから、心配で」
「でも、社長から電話が入ったら、困るでしょ？」明彦は、社員の手前、身内である麻里子に厳しい。
「適当にごまかしておきますよ。任せて下さい」と、指でＯＫサインを出しながら、女子社員が微笑んだ。
「せっかく、ああ言ってくれてるんですから。たまにはサボって、気晴らしもいいでしょう。ね、行きましょうよ」
「・・そうね・・・じゃあ、すみません、後をお願いしますね」

　郊外の取引先への同行は、徐々に増えてくる木々の緑が、麻里子の気分をほっとさせる。
　さっさと社用を済ませた山根は、わざわざ足を延ばし、昼食に地元で有名な店を選んだ。
「ここは、獲れたての魚を出してくれるんです。それはもう新鮮で、うまいのなんのって」
　うきうきと話す山根に、麻里子はおかしくなった。
（まあ、仕事で来てるのに、食事がお目当てみたい・・・・・あ、もしかしてＡ社の用って、今日じゃなくてもよかったんじゃ・・・・私のために？）
　山根の言葉に違わない美味しい食事をしながら、それ以上に、温かい心遣いを心底うれしく思った。
「思い切って、来てよかったです。山根さん、ありがとうございます」
「いやいや、礼なんて。喜んでもらえて、お誘いした甲斐がありましたよ」

　昼食を終え、会社に向けて車を走らせていた山根が、高速の上り口の手前でふいに車を止めた。
「あら、山根さん、どうかしたんですか？」
「すみません。なんだか眠くなってきましてね。昨日、遅かったもので・・・年ですねぇ」山根があくびをした。
「それはいけませんね。私が、運転できたらいいんですけど・・・あの、高速のパーキングエリアで仮眠を取ったらいかがですか？」
「それが、社用車だと窮屈で寝られないんですよ。こんな時はホテルで休んでいるんですけどね」
　確かに大柄な山根には、小さな社用車での仮眠は辛いかもしれない。かと言って、ホテルは・・・・・
　麻里子は、少し奥まった場所に建つ、色とりどりのホテル群を見上げた。
「社長に、そう言われているんですよ。まあ、年寄りに事故されちゃ大変だから、仕方なくでしょうが。それに、ホテルって言っても、今はファッションホテルとか言って、きれいなもんなんですよ」ちょっと照れたように言う。
「・・そうですか・・・・」
「でもねえ、いくらなんでも奥さんと一緒じゃまずいですよね」山根は大あくびをした。
　麻里子は、迷った。
　いつもはホテルで休息を取っていると言う高齢の山根に、自分がいるために、このまま運転を強行させるわけにはいかない。
　仮眠をとるため。別にやましい理由ではない。
　それに、親しい人物であり、親子ほど年の違う山根を、信用できないみたいに変に意識するのは失礼だと思った。
　麻里子は、ホテルで休んで下さいと告げた。

「まあ！」部屋に入り、麻里子は白と濃淡のピンクで飾られた室内に驚いた。
　室内には、想像していたけばけばしさが、微塵もない。
　部屋の中央の大きなベッドも、フリルのついた可愛いカバーで被われていた
　興味深げに見回す麻里子に、「さっそく失礼させてもらって、私は１時間ほど寝かせていただきます」と言って、山根はベッドに横になった。
「どうぞごゆっくり。しっかり眠気を取って下さい」麻里子は、きょろきょろ見回しながら言った。
　麻里子のイメージしていたラブホテルと大きく違い、メルヘン風な雰囲気に興味津々だった。
　ドアを開けると、ピンクのトイレ。別のドアは、淡いピンクのバスルーム。タオルまでピンクだった。
（ロマンティックな女の子のお部屋って感じ。あら、このガラスのドアは何かしら？）
　開けてみた。そこはジャグジーだった。バスタブはピンクのハート型だ。
「わぁ、可愛い！」思わず弾んだ声を上げた。

「可愛いのは、奥さんですよ」いきなり、後ろから抱きつかれた。
　寝ていたはずの山根が、いつの間にか背後にいたのだ。
「や、山根さん？　なに？」麻里子は、不意を衝かれて体を硬くした。
　小柄で細身の麻里子は、大柄な山根に、片手で軽々と両腕ごとウエストを抱えられてしまい、身動きがとれない。
「どうしたんですか？　離して下さい」振りほどこうともがくが、山根の力は強かった。
　もう一方の手が、悠々とブラウスのボタンを外しにかかる。
「ちょっと、何するんですか！　やめて下さい！」
　ボタンを外し終わると、ブラに手を掛け、上にずり上げた。
　プルンとこぼれた白い胸に、山根の手が這いずる。「あ・・や・・・・・」
　乳房を揉まれ、乳首をつままれるが、感じまいとこらえた。
　首筋には、山根の生温い舌の感触があった。
「だめ、やめてっ！」
　山根の手は、麻里子の胸を弄ぶ。
　腰に押し当てられた硬いものを感じ、麻里子は焦った。（うそ・・山根さん、どうしちゃったの・・）
「や、山根さん、眠らないと運転が・・・・」
「奥さん、乳首・・・硬くなってますよ」耳元で囁く。
「い、いやっ！・・・や、やめて下さい！・・・・」
　山根の腕から逃れようとするのだが、麻里子の力では及ばなかった。
　スカートをたくし上げ、山根の片手が股間に伸びた。
「せっかく美人の奥さんとホテルで２人きりなのに、寝てなんていられませんよ」
　ストッキングとパンティの上から、ねっとりと秘部を擦る。
「ひどい！　嘘だったの？・・・あ・・・・お願い、やめてくだ・・・あ・・・・」
「やっと出来たチャンスなんですから」そう言って、山根は耳を舐めた。
「チャンスって・・・だめ・・あ・・・だめ・・・はぁぁ」
　麻里子は、甘い息を漏らす。
　山根は、秘部へのタッチを強くした。
「気持ちよくさせてあげますから、おとなしく任せて下さいよ」
「くっ・・はぁ・・・いや・・やめて・・んん・・・うんんん」
　くちびるを噛み、必死に喘ぎ声をこらえる。
（お願い、やめて！　火を点けないで）
　山根は、存在を現し始めた花芯に、指の腹を当て小刻みに振動させた。
「ああっ・・・やっ・・・・・あああん」とうとう声を上げてしまい、麻里子は身悶えた。
「そうそう、素直になって。あんなゴムのバイブなんかじゃなく、本物をあげますから」
「えっ！・・・・何て？　今、何て言ったの？」
（バイブって、何で知ってるの？　まさか、明彦さんが？・・・・・・はっ！）
　瞬時に、麻里子は酔った夫と山根が、一緒に帰って来た時の事を思い出した。
　あの時、明彦にバイブをされながらも、いつもと違う空気を感じた。
（そんな・・・・・見られていたんだわ）
　信じられない思いに、麻里子は我に返り、拘束されている腕から逃れようと夢中で暴れた。
「あの時、山根さん、見たのね！　ひどい、非常識だわ！」
　麻里子の思わぬ抵抗に、山根は指の振動を強くした。
「ああっ、やっあああっ・・・・んんあああ・・・・・あああっ」
　尖った花芯に、強い刺激が加えられる。
「いやああ・・・やめ・・てぇ・・・・あっあああ」
　腰を引き、足をすり合わせてなんとか耐えようとするが、長くは続かなかった。
「あああ・・・やっ・・ああっ、くうっぅぅ・・・・・」
　強烈な刺激は腰全体に広がり、意に反して、麻里子は登り詰めてしまった。
　ふっと、ひざの力が抜けて、体がずり落ちる。
　股間に当てられている指に体重がかかり、花芯が強く押し込まれた。
「ひっ！　ああっ！・・・・」声を上げて、麻里子がびくっと飛び上がった。
　がくがくと腰を震わせて、前のめりに倒れる体を、ウエストにまわされている山根の腕が支え、ゆっくりと床に下ろす。
　山根は股間の手を抜き、ぺたんと座り込む麻里子に見せた。
「ほら、こんなになってますよ」目の前に差し出された指は、蜜で濡れて光っている。
　見るまでもなく、屈辱の思いで、麻里子は秘穴から漏れ続ける液体を感じていた。
（山根さん、何でこんなこと・・・どうして・・あの時、見てしまったからなの？）
「立ってられないじゃないですか。さ、奥さん、横になって」
　そう言って山根は、呆然としている麻里子を抱え上げ、ベッドに横たえた。