１２．

「あれ、まだ終わらないの？」突然の声に、はっとした。
（いやだ、私ったら何て想像してたんだろう）倉橋のセックスを回想していた身体は下着を濡らし、じんじんと疼いている。
　明彦が麻里子の後ろから首を伸ばし、シンクを覗き込む。「なんだ、ぜんぜん進んでないじゃないか。待ってたのに」
　背中に密着してきた夫に、自分の高ぶりを気取られそうでドキドキする。「あ…う、うん。すごく酔っちゃったみたい」ワインのせいにした。
「そっか…」つぶやくように言って、背後から麻里子に抱きついた。
「ごめんなさい。すぐ終わらせるから。もうちょっと待ってて」体にまわされた腕をふりほどこうともがいた。しかし、今度は容易に離れなかった。
　逆に腕に力が込められ、麻里子を羽交い絞めにした。下に下がった右手がスカートをくぐり、パンティの上から手の平で股間を包み込んだ。
「あっ、いやよ！…ね、やめて」（だめ、濡れてるのに…）あせる麻里子は、手を引きはがそうとしたが力が及ばなかった。
「いつもはそんなに嫌がらないじゃない。あ、またダメなのか？」股間に当てられた指先が、足の間に侵入する。
「ちょっと！　だめっ！」指から逃げようと腰をひねったが、吸い付くように張り付いた指は、熱い湿りにたどり着いていた。
「ねえ、これ何で？　びっしょりじゃないか」そう言って、パンティの上から花芯を探り当てる。それは明らかに存在を示していた。
「んぅ……あ、あなたが触るから…」
　明彦はいらついた。「そうじゃないだろ。じゃあ、どうしてこんなに尖らせてるんだよ」強い口調で、花芯を押し込んだ。
「ひぁあっ！　いやぁっ！」いきなりの衝撃にびくんと体が跳ね上がり、反射的に腰を引いた。明彦の手が麻里子から離れた。
「ぁ…あ、あなた、いやよ。こんなことしないで……」流し台に掴まり、肩で大きく息をした。「お、お願い…すぐに終わらせるから待ってて」
「ああ、洗い物続けてよ」妙に平坦に言う明彦が、冷蔵庫を開ける気配を背中で感じた。つまみになるようなものを探しているのか、しばらく冷蔵庫を覗き込んでいる。
　その様子にほっとした麻里子は蛇口レバーを開けた。手に当たる冷たい水が、火照らせた心と身体を落ち着かせた。

　ジャージャーと水音がする中、ふとスカートを上げる感触を感じ、はっとして首を振り向けた。
　背後で膝立ちになった明彦が、スカートをまくり、裾をウエストに挟み込んでいた。麻里子の白いパンティが露出する。「あ、あなた、何を…」
　そのパンティに手を掛け、膝までずり下ろす。「ちょ、ちょっと、変なことしないで。すぐ終わらせるから」
　その言葉を無視して、明彦は妻の太ももを力ずくで開き、股間に手を差し込む。手はヌルっと股間を滑った。「あぁ…あなた…ねえ、後でしましょ、ね」
　抜き出した明彦の手は、キッチンの灯りで光っている。その手が、傍らに置いてある黒い何かを掴んだ。（な、何？…）麻里子の目が、驚いたように見開かれた。
「あ、やめて」足を閉じようとしたが、明彦に止められてしまった。
「洗い物済ませるんでしょ？　気にしないで続けてよ」そう言うと、手にしたものを滑る秘口にあてがった。
「きゃっ、冷たいっ！　何なの？　やぁ、やめて」ひんやりと冷たいものが、何とかめり込もうと秘口を圧迫する。「あなた痛いわ…うっぅぅ」グリグリと押し付けられ、麻里子がうめいた。
「あれ、大きすぎたかな。１番細いのにしたんだけど」さらに力を込めて明彦が押し込むと、先端が麻里子に侵入した。ぐちゅぅっ。「う、うぅっ、ああっ」
「あ、入った、入った。すごいね、麻里子のここ」嬉しそうに奥まで押し入れる。
　冷たい感触がズブズブと体の中心を上がってきた。「あぅ、ああぁ…」麻里子の背中がぴんと張った。
　わなわなと小刻みに白い尻が震えている。明彦は麻里子の膝に留まっていたパンティを引き上げ、その尻に穿かせた。立ち上がり、少し離れて麻里子の様子を見ている。
「んううう…はぁっ…」流し台につかまり体を支えている麻里子が、夫に聞いた。「何を…うぅ……入れた、の？」
「ああ、わからないのか。何だと思う？　あのね、ナスだよ、ナス。冷蔵庫にあったからさぁ」
（ナス！　嘘でしょ！）「いやあああ、いやっ、いやよっ！」強い嫌悪を感じた麻里子は、自分に侵入しているナスを取り出そうとパンティに手を掛けた。
　すかさず明彦が歩み寄り、麻里子の手を払い腰を押し上げた。「だめだよ。さあ洗い物続けて」
　洗い物なんて、とてもできる状態ではない。「ああ、そんな…や、いや……いやぁ……うう」苦しそうな麻里子の声が、酔った明彦を邪悪に刺激した。
「だめだなあ。それじゃ、いつまでも終わらないじゃないか」そう言うと、麻里子の横に寄り添い、パンティに手を掛けた。
「あぁ、あきひ、こさん…いや、よ、…んぁあ……」明彦の腕にすがりながら、麻里子が訴える。
「しょうがないな。支えてあげるよ」掴んだパンティを前後で持ち上げた。麻里子が吊り上るように背伸びをした。「くあぁっ！　いやぁぁぁ！」
「…いやぁ、離して！　あなた、やめてっ！　あぁぁ…」刺激から逃れようと、麻里子がつま先立つ。明彦は、薄い生地が引きちぎれんばかりに、さらに引き上げた。
「きゃぁぁ！　いっ、いやあ！」無理に伸ばされたパンティが、尻と敏感な縦線にキリキリと喰い込む。「ひぃぃっ！」悲鳴に近い声をあげた。
　麻里子の秘奥を圧迫するナス、花芯を強く擦り上げるパンティ……
「くっあぁ、あな、た…いやぁ、やめて……ああっ」パンティを引き上げている夫の手を、押さえる。明彦の手は緩まないどころか、麻里子をゆさゆさと揺さぶった。「ぐっあああっ！」強烈な衝撃が股間を襲う。
「んぁぁ…やめてぇ、うっうぅ…あなたぁ…おねが、い…あぁぁ」麻里子が悲痛な声で懇願するが、何かに憑りつかれたような明彦には、聞き入れられなかった。
　苦痛と恍惚がないまぜになった表情の麻里子が、明彦の手に合わせて揺れている。シンクの淵を必死に掴む指が白くなっていた。
　秘穴に込められたものが麻里子の中を責め、すっかり一筋の布と化したパンティが乱暴に花芯を擦り上げた。
「い、いやぁ…やぁ……あ、あぅ…こんな…いやぁ……あっあぁっ」麻里子は頂点を察し、必死に抗った。
「ああっ、いやぁあ…うぅ、あぁああ……いや、い…いや、うぅ…やぁあ」麻里子の体が弓反りになる。
「あ、や…ああああっ、ぐっくぁぁぅう……」つま先立ちで体を突っ張らせ、麻里子は果ててしまった。

　体を数回波打たせた後、絶頂の緊張が解けた体が力なく崩れ落ちる。明彦がゆっくりと床に降ろした。
「へえ、何ででもイっちゃうんだね」またも平坦な明彦の声がした。
　横座りにへたりこむ麻里子の股間には、役目を終えたナスが首を出し、薄い布を押し上げていた。「ん……ん」麻里子が鼻を鳴らし、パンティを引っ張ってそれを抜き出した。
　ちゅっぽっと音をたてて引き出されたナスは、濃い液を滴らせヌメヌメと黒光りしている。秘穴からはとろりとした屈辱の液が溢れて、パンティをさらに濡らした。
　手にしたナスを床に投げ捨てた。床に転がっているそれは、麻里子とのセックスで歪に変形している。（…ナスで犯されたなんて…）冷めた目で呆然とそれを見下ろしていた。
「あれ、すごいな。変な形になっちゃってる。ほんとすごいね、麻里子って。へえぇ」追い討ちをかけるような、残酷な夫の言葉は耐えられなかった。
「あなた、ひどいわ。こんな乱暴な…何か怒ってるのなら口で言って！」きつい口調で言い放ち、麻里子は夫の目を強く見返した。
　今までにない麻里子の冷たい目にたじろぎ、酔いが一気に醒めた明彦は我に返った。「あ…ああっ、ごめ、ごめんよ。どうかしてたんだ…」
「いやっ…こんな、ひどすぎるわ」
「すまない、本当にごめんよ、許してくれ……そ、その、最近の麻里子ちょっと変だったから…夜のアレをさ、すごく嫌がって拒否したこともあっただろ。今日もそうかと思ったんだけど。今までそんなことなかったからさぁ」
（拒否って…あ、山根に抱かれた日…）自分の犯した過ちに落ち込んでいたし、山根を受け入れてしまった体など夫に触れてもらいたくなかった。
（それが夫を悩ませていたなんて。なのに私ったら、倉橋さんを想って濡らしてしまった。それも明彦さんの傍らで……）
「悦んで感じてくれるようになったけどさ。いきなり拒否された後、すごく乱れたりもしたし……麻里子がなんか心配で」
　自分がしてしまったことを悔いて、情けなさそうに身を小さくしている夫に、申し訳なく思う気持ちがこみ上げてきた。先ほどの行為は許せなかったが、夫の怒りは自分が招いたものなのだ。
　泣きそうな顔でしょげかえる夫に麻里子が言った。「あのね、ワインのせいだと思うんだけど、すごくしたくなってたの。あんなに飲んだの久しぶりだったし。恥ずかしいけど…濡れちゃってたでしょ」
　思わぬ妻の言葉に、うなだれていた明彦がぱっと顔を上げた。「あ、それで…」
「あなた、ナスなんかじゃいや。ねえ、これからしてくれる？」本当はすぐにでも湯に浸かって、心と身体をゆっくりと癒したかったが、他にこの状況を好転させる方法が思いつかなかった。
　明彦の表情が明るくなっている。「う、うん。もちろん僕はいいけど…大丈夫なのか？」
「ええ、ちょっとだけヒリヒリして熱いけど。でも、待ってたのよ。だから、う〜んとやさしくしてくれる？」
「ご、ごめん。痛かっただろう。ちょっと見せてごらん」そう言って妻のパンティを脱がせ、両ひざを押し開いた。（いやっ！）口をついて出そうになった言葉を呑み込み、流し台を背に大きくひざを開かれた麻里子は、嫌がる気持ちを隠すように目をつぶった。
「ああ、こんなに赤くなっちゃってる。ごめん、ごめんよ」覗き込んだ明彦は、そこにやさしく舌を這わせた。「あっ、んん……」
「麻里子、ごめん」謝罪の言葉を言いながら懸命に舌を遣う夫。気の済むようにさせるのがいいのだろうが、麻里子は早く終わらせてしまいたかった。
「ぅんん……あなた…ベッドに行きましょ。もう欲しくなっちゃった……」
「そ、そうか。じゃあ行こ」嬉しそうな夫に手を引かれる麻里子には、これからされる行為は苦痛でしかないことがわかっていたが、夫を欺いた自分への罰と受け取っていた。