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〜あらすじ〜

　今から、40年程前の寒さの残る京都市での春先の物語・・・。
　木村一義(独身・28歳)は勤務していた地方銀行である京●銀行を、上司の営業方針に意義を唱えて自主退職した。元々質素に暮らしてので当面の金はある。しばらくノンビリしようと京都市左京区の岡崎にある疎水べりで夜釣りを楽しんでいた。その木村の20メートル程上流で投身自殺した娘がいた。その娘の名は山口あおい（独身・26歳）である。あおいは男運が悪く孕んで捨てられた挙句の自殺だ。木村は、直ぐに疎水に飛び込みあおいを救出した。睡眠薬も飲んでいるようで、命に別状はないが意識が無い。早速、竿と道具をしまってあおいを助手席に乗せた。乗せて自分のマンションに連れ帰って介抱することにしたのだ・・・。

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１．二人の出会い

　春先とはいえ、京都の夜は冷え込む。木村は、あおいの着てるものを全て脱がせて乾いたタオルで全身を拭いてやり、自分用のスペアのパジャマを着せて再び寝床に移した。暫くして、あおいは目を覚ました・・・。「ここは何処？ワタシここで何をしてるの？」木村は、あおいの身投げの状況説明を京都弁で優しくしてやった。あおいも合点がいったようだった。

『それで・・・。あんたはんも僕に救助されたのだから、何故身投げしたかの理由を話す義務ぐらいはあるで・・・』
「あっ、はい。有難う御座います。理由はちゃんと話します。けど、その前に・・・」
『その前になんえ？』
「ワタシがパジャマを着てるってことは、着替えは木村さんがしてくれたの？・・・」
『ああ、風邪でもひかれると困るさかい、それに部屋中びちょびちょになるし(笑)』
『心配せんでも、変なことはしてへんよ。カラダは見させてもらったけど・・・』
「・・・」
『綺麗なカラダやなぁ・・・ホンマに！』
「したい？・・。ワタシとしたい？いいのよ、しても。もう守るべきものなんか何もないから、ワタシには・・・」
『はい、そうですか！と直ぐにあんたはんを押し倒したいところやけどね、あいにく僕はそういう趣味ないねん』
「・・・」
『いや、変な意味違うて、自殺未遂するような心に傷がある女は抱けへんて。男として・・・』

　あおいは、身投げの理由を語り始めた。命の恩人に義務として話すのではなく、意識の無い状態の女体に木村が手を出さなかったからだ。あおいは横浜市出身で某貿易会社に勤務していた。そこで、恋仲になった上司、唐木幸三(５歳上の既婚者)に「妻と別れるから、付き合って欲しい」と頼まれ肉体関係を持った。唐木は当時営業一課の課長で名うてのプレイボーイとして通っていた。延べ４年付き合って、あおいは唐木の子を三度中絶した。その都度、もう直ぐに妻と別れるからと、唐木は逃げた。４度目の妊娠が分った時、唐木に露骨に別れを通告された。それだけではなく、唐木の取引他先の社長二人に差し出されて、あおいは輪姦されたのだ・・・。横浜市に住む自分が死に場所にしたかったのは、中学の修学旅行で来た岡崎界隈の風情が忘れられないから、気がついたら夜行列車に乗っていたという。
（当時の京都市はまだ市電が走っていた・・・）

　あおいは、一頻り泣いて全てを木村に打ち明けると、ちょっと明るい表情になった。

『あおいはん。辛いこと聞いてしもてゴメン。そやけどあんたもアホやなぁ。そこまで言わんでも、もうちょっと控え目に言うといたら僕を騙せたかも知れんのに・・・。何しろ、ここ一年は彼女がおらん状態やしね(笑)』

　あおいも釣られて笑った。笑って、喋った。

「そういう、素直な人に嘘は言えませんよ(笑)。どうします？ワタシとする？」
『いや。やめとく、今は。それより何か旨いもんで食べに行こか？失業したばっかりやし、贅沢はさしたげれへんけど・・・(笑)』
「木村さんに、全てお任せします(にこっ)」
『よっしゃ。ほな行こ。これ女物のスプリングコートや。前の女のんやけど、気にせんといて。屋台のオデンで最高なのがあるねん・・・。それ食べて暖ったまりな』

　スプリングコートを肩にかけてくれた木村の手を、あおいは握り返した。同じ、男なのに唐木とこうも違う人がいるのか・・・再び涙が込み上げて来た。屋台のオデン屋は木村のマンションから歩いて５分程のところだった。

「っらしゃい、こんばんわ、毎度ぉ！あれ、今日は美人のお連れさんで・・・」
『ああ、僕のイトコですねん。あおいちゃん、何年ぶりや？わてら会うのんは？』
「えっと・・・」
『だいぶん前のことやしね。大将、こちらのお姫様は京都観光に横浜から来はってん』
『なんぞ美味しいモンを安く食べさせて、ここの屋台の宣伝を横浜でしてもらい！笑』

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２．繋がった二人

　屋台で一時間程過ごした。日本酒の熱燗で二人ともカラダが火照っていた。
　部屋に戻ると、木村は、あおいの為にベッドのシーツを取り替えてやった。木村のマンションは２ＬＤＫだ。自分は隣りの部屋で寝るという。そう言い終えて素早く自分の寝床をセットする木村を目で追った。

「木村さん・・・」
『何？』
「ワタシ、寂しい。このまま、別の部屋で夜を過ごすのが怖いの・・・。セックスしたくなけりゃしなくていいから、ワタシに添い寝して欲しいの・・・」
『分りましたよ。あおいはんが、そこまで言わはんるやったら・・・。その代わり、あんたの肌の温もりとか匂いで、気が変わって勃起して襲い掛かっても僕は責任取らへんで(笑)』
「良かった・・・嬉しい。いいのよ、気が変っても・・・(にこっ)」

　二人は天井を向いて眠ろうとしたが、あおいが木村の胸に顔を埋めてきた。あおいの髪の香りと肌の暖かさ、触れた乳房の感触でたちまち木村は勃起した。２０歳台の男女は欲情に点火する瞬く間に燃え上がる。木村は、あおいの形の良い乳房に武者ブリついた。耳にも熱い息を吹きかけた。この時代のセックスはマニュアル本など皆無に近かった。前戯はここまでにして、木村はショーツとパジャマのズボンを剥ぎ取った。コンドームをしないでそのままあおいの膣に挿入した。

　あおいは木村にしがみついて、木村の腰の動きに合わせた。

「木村さん、今日は助けてくれてありがとう・・・。会って直ぐ寝る女は好きにはなれないでしょうけど・・・、ワタシはあなたの事を好きになってしまいました・・・」
『ああ、僕もな。あ、アカン、もうイクッ！』

　せわしなく腰を動かして木村はあおいの中で果てた。
　朝まで、木村はあおいの中に出しまくった。妊娠しているあおいに避妊する必要がないのもあって、木村は彼女居ない歴一年分の精液と欲情をあおいの膣にぶちまけた。

　朝、十時頃二人はベッドから出た。目覚めの"朝立ち"に伴う勃起も、あおいの中に入れて諌めた。昼頃になって空腹の二人はマンションの近所の洋食屋に出かけた。"グリル富永"といってデミグラスソースで食べさせるハンバーグ絶品なのだ。人間、美味しいものを食べると幸せになるし、気持ちも前向きになる。

　ハンバーグを終えて、生ハムを突っつきながら二人はウイスキーのハイボールを楽しんだ。
　あおいが口を開いた・・・。

「ねえ、木村さん。ワタシって・・・、人生やり直しできるかな・・・」
「いえ、あなたに面倒見てって話じゃないのよ・・・」

　木村は、優しく微笑んであおいの目の奥を見て、ゆっくり話した。

『ああ。あんたまだ２６歳やろ？これからや！これから！』
「優しいのね・・・。でもね、４度も中絶した馬鹿な女なんてマトモな人は相手にしてくれないのよ・・・。世間って、世の中の男ってそういうものなのよ・・・」
『ほんなら聞くけどな、あおいはん。自殺した人間助けて、オデンを御馳走して、ハンバーグも現に今食べた。あんたの話もちゃんと真剣に聞いて相手にしてる僕は、マトモやあらへんのか？笑』
「いえ、木村さんは別です。ワタシが２６年間生きて出会った人で一番マトモで魅力がある男です！」
『まあ、ええやん！難しい話は止めてどんどん食べよな！笑』

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３．あおいの過去の整理と復讐計画

　翌日も翌々日も、あおいは木村のマンションから出なかった。
　時間潰しに難儀した木村は、あおいを奈良ドリームランドに連れて行った。童心に返して未来を生きるエネルギーをつけてやる為だ。二人は遊園地のアトラクションに大いに感動してよく笑った。

　遊び疲れて、二人は喫茶室にいた。
　木村から切り出した・・・。

『一つ聞きたいんやけどな、あおいはん。まだ、その、唐木って男に未練はあるのか？』
「ありません。ある訳ないでしょう！取引先の男二人に輪姦までされたのよ、ワタシ・・・」
『ほんなら、分った。どうや？唐木に復讐して見る気ないか？僕が全部やったるさかい』
「・・・」
『ええのんか？このまま泣き寝入りしても！過去から逃げて、過去を整理できない人間には明るい未来は来ないよ、悪いけど・・・』
「ふ、復讐って？」
『そうやね・・・。具体的に言うとあんたに対する慰謝料をぶんどって、唐木の地位を滅茶苦茶にする、ってのはどないよ？』
「・・・。できるの？そんな事・・・」
『ああ。これでも、京●銀行の法人渉外課長やったしね。一週間前までは(笑)。弁護士にも興信所にも顔が広い！』
「べ、弁護士まで動員するの？」
『当たりマエダのクラッカーよ！笑』
「その代わり、少しばかり金がいる。僕の退職金が入るのは来月やしね。５０万円くらいなんとか都合つかへんか？」
（当時はうどん一杯\40、市電が\20で乗れた時代である。50万円は大金なのだ）

　だが、あおいは金のことはどうでも良かった。100万円くらいは結婚資金として貯めていた。
　木村が今しがた話した『過去から逃げて、過去を整理できない人間には、明るい未来は来ないよ、悪いけど・・・』この言葉に、心酔していた。木村という天から降ってきたような男に任せてみる決心をした。

　この日は、いつもオデン屋の熱燗でカラダを暖めて、部屋に戻った。若い二人が部屋に戻るとする事は決まっている。前日までの弱者と救済者という関係ではなく、木村はあおいを『戦友、同志』と呼んでやった。探偵や弁護士に大金を投じて木村が動きまわっても、最後の最後にあおいに弱腰になられては困るのだ。完全に闘う気になったあおいのセックスには自分の意志が漲っていた。木村はヘトヘトになるまであおいに精液を搾り取られた・・・。

　翌朝、あおいは出町(河原町今出川)にある都市銀行の富●銀行の自分の口座から気前よく100万円降ろして全額木村に託した。

　金を手にした木村はその瞬間からあおいの為に動き始めた。

　弁護士には、
　■唐木幸三を山口あおいの結婚詐欺で告訴してもらう。万一、唐木が渋るようなら時間差で、唐木幸三の勤務する会社、鶴●貿易の社長を「唐木幸三監督不行届き」で同様の訴訟をする。
　民事裁判として慰謝料は300万円。

　探偵には、
　■唐木幸三が、（山口あおいにした）同様の結婚詐欺まがいの事をしていないか調べさせる。
　その証拠を弁護士に委ねて係争材料にしてもらう。

　それから４日後、横浜市の探偵事務所から電話が木村に入った。"同様の結婚詐欺まがいの事"を唐木はあおいの他に２名の女にしていた。一人は中絶３回、一人は２回。探偵は二人に会い共闘を求めたところ、中絶２回の安藤幸枝(29歳・独身)がそれに応じた、という。報告書は京都の弁護士に書留速達便で送った、と探偵は木村に報告した。

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４．復讐そして新たな人生

　ここまでくれば、木村にとっては後は寝て待つだけだ。
　京都の右京区に住む弁護士・梶原一郎は"この手"の案件は無敵を誇っている・・・。

　梶原一郎は、訴状を唐木幸三の自宅に直接持ち込んだ。
　応接間で待つ、弁護士の訴状と説明を聞き、自分の悪行がしたためられた興信所の報告書見て唐木は一瞬で凍った。

　もし、唐木個人が和解（慰謝料の支払い）に応じなければ、「間髪居れず、この足で、鶴●貿易の社長宅に、あなたの所業の責任を取ってもらいに行きます」と述べて帰ろうとした。
「ま、待って下さい。明日中に200万円作ります。後の100万円は来月ということで・・・」
　と梶原一郎の腕に縋ったという。弁護士は、その場で唐木に調停書にサインさせた。

　梶原一郎は横浜のホテルに宿泊し、自分の口座に200万円が送金されたのを確認してから横浜を後にした。翌日、梶原は自分の（着手金を引いて）成功報酬を差し引いた分180万円を山口あおいが待つ木村のマンションに届けた。
（クドイようだが、うどん一杯\40、市電が\20で乗れた時代の180万円だ！）

　唐木は梶原一郎の件は会社には内緒で通しおおせた。だが、山口あおい一派の請求の成功を見た安藤幸枝は、一ヶ月後にあおい達とは別個で、別の弁護士を立てて訴訟を起こした。しかも、唐木個人は無視して最初から鶴●貿易の社長に「唐木幸三監督不行届き」で500万円もの慰謝料を請求した。500万円などと途方な額を提示し社長のみに訴訟するということは、慰謝料欲しさではなく唐木の社会的地位を抹殺する為に的を絞った行動な訳だ。
　しかして、過去の唐木の悪行は社長に全て露見し、唐木は会社を解雇となった・・・。

　山口あおいとしては、金額の大小は問題では無かった。死に損ないのホロボロ女の自分の為に、ここまでしてくれる男が地球上にいることが嬉しかったのだ・・・。梶原がいるのに山口あおいは感謝と感激の涙で嗚咽した・・・。

　それから、数日、あおいは尚も木村のマンションを出なかった。
「何もお礼ができないから、あなたの性欲発散の為にワタシのカラダを使って下さい」
　それが、あおいが残る理由だ。木村は次の職を決めるまで有り難くあおいのカラダを貪った。
　あんまり激しくあおいのカラダを攻め立てたので、とうとうあおいはお腹の子を流産してしまった。中村はあおいを産婦人科に３日入院させてやった。

　山口あおいは、医師から告げられた。「今回は残念でしたが、あなたはまだお若い。十分妊娠できる体ですから、次の妊娠の時は３〜４月目のセックスは控え目にして下さいな」

　どういうことだろうか？
　あおいは考えた。木村のペニスで激しく子宮を突かれて、憎い最低男の唐木の子を流産させたのだろうか？いずれにしても、また妊娠できる体なら助かったわ。女としてやり直しができる・・・。産婦人科の病室であおいは嬉し涙を流していた・・・。

　退院して、木村と更に３日ほど過ごし、あおいは木村に抱かれた。

「ねえ、ねえ。木村さん」

　放出後の木村はけだるそうに返事した。

『ああ・・・』
「ワタシって、木村さんから見たらどんな女だった？」
『だった？って過去形で言うといういうことは、出ていくのか？ここを』
「うん。ワタシはずっと一緒にいたしけど、迷惑でしょう・・・」
『迷惑なんかかけてないよ！そうやね、僕から見たらあおいは"天使"かな？ちょっとくたびれた(笑)』
「くたびれた、天使ね・・・。嬉しいこと言ってくれるのね」
『くだひれた、ってのは、唐木との事を精算するまでの話や！笑』
「じゃあ、今は？」
『ただの、天使・・・。いや、新品の天使かな！』

『ところで・・・』
「何？」
『行くあては、あんのんか？ここ出て・・・』
「なんで？置いてくれるの、もうちょっと・・・」
『あおいが居たけりゃ、いてええで。』
「いつまで？」
『好きなだけ・・・天使様♪』

　あおいは嗚咽した。木村の胸にすがって泣いた・・・。

　それから、数ヵ月後、あおいは木村の子を宿した。
　父親のいない子にはできない。

　これを機会に、木村一義は（戦後の混乱期に）分家に養子縁組されていた木村姓を離脱して元々の本家であった中村姓を名乗ることにした。「中村一義」と「中村あおい」の誕生である。翌年、元気に生まれた男の子には武と命名した。「中村武」は今は神奈川県のＨ市でネット関係の仕事をしている三児の父である。

　中村一義とあおいは、京都の二人の出会いの思い出の地である岡崎界隈でこじんまり京懐石店を営んでいる。一人息子の武を東京の私立大学に入れたのだから、それはそれで二人の出会いと再起の人生は成功だったのだ・・・。一義にとってあおいは「天使」だったのだ・・・

【 完 】