１

　 雪が降った日、帰宅途中で忘れ物を思い出しました。
　 今日、買ったばかりの、ナイトクリーム。

　 このところ、乾燥した空気のために、顔の肌がカサカサしてきたのです。
　 デパートの憧れの化粧品のブースにいって
「私には高価かな？」
　 と思っていた商品を思い切って購入しました。

　 それなのに職場のロッカーに置き忘れていたのです。
「寒いけど取りにもどろう。」

　 横殴りの雪の中ですが、思い切って来た道を戻ります。
　
　 この秋に、つきあっていた彼に突然振られてしまい、なんだかウツウツとした日々を過ごしていました。
　 だから、
「高級なナイトクリーム」
　 を買った自分の気持ちがうれしかったのです。
　 それで
「どうしても今日はあのクリームを使って寝たい」
　 と強く思いました。

　守衛室に挨拶して鍵をかりようとすると、私の所属のチームで残業をしている職員が居るとの話です。

　職場の裏口をそっと開けると、蛍光灯のしたパソコンに向かっていたのは愛木君でした。

2

「愛木君、残業していたんだ」
　 と声をかけました。
「あれ、田村さん、どうしたんですか？」
「忘れ物しちゃって取りに戻ったの。愛木君こそ、どうしたの？ひとりで残業ごくろうさま」

　 愛木君は昨年採用された社会人２年生。
　 もの静かで、若いのに落ち着いた雰囲気のある男性です。

「明日上に出す報告書、数字があわないんで確認とっていたところなんです。今、調度わかって、訂正を入れてました。」
「なあに、どれどれ。これって、川村さんの仕事じゃない、なんで愛木君がやってるの？」
　 愛木君がうれしそうに答えます。
「川村さん、お子さんが熱出しちゃって帰らなくちゃならなかったんです。で、僕なら、遅くなってもとくにかまわないので引き受けたんですよ。
　 田村さんが戻ってらしたとき、ちょうど発見したのでホッとしました。
　 実は、途方にくれてたところなんです。
　 ありがとうございます。」
「え、なんにもしてないわよ私」
「いいんです、田村さん、僕の幸運の女神なんですから。」
「それは、ちょっと大げさじゃない。でも、よかったね、見つかって。雪も積もり始めているから、早く帰ろう。」

　 雪が降ると、オフィス街はいつもより明るくなります。
　 白い雪に街燈や窓の明かりが反射するためです。

「あ、田村さん、ちょっとここの数字みてもらえませんか？これ、田村さんのとこから上がってきたデータなんですがＡ欄の数字とＢ欄の数字逆転してませんか？ふつうだとＡ欄が大きいんですが。」
「え、どれどれ　あ、ここは、この月はこれでいいの。Ｔ社から実は返品になったせいで入金がなかったのね、でかわりに納品した商品の代金は次の月に入っているんでこここんなふうになってるのよ。よくこんなところまで見てたわね。さすがだわ。」
　 すると後ろの愛木君の手が私の肩にのりました。
「え、」
　 とふりかえると愛木君が緊張した顔で私を見ています。
　 私も急に緊張しました。
　 ぐいっと肩をひかれて、すっぽりと胸に抱き寄せられました。

3

「あの、残業していたご褒美にキスさせてください」
「え？」
　 びっくりした私の口に愛木君の口がかぶさりました。
　 整髪料のにおいがします。
　 ちょっとざらりとしたヒゲの感触。
　 あんまりびっくりしたのでゲホゲホせきこんでしまいました。

「ごめんなさい、いやでしたか」
　 パッとはなれてと愛木君がうなだれました。
「あ、嫌じゃないよ、大丈夫。急だったんでびっくりしただけ。て、ゆうか、息ができなかったの。」

　 え、愛木君涙ためてる？
　 うそでしょ、なんで泣くの！
「すみません、へんなことしてしまって」
「って、なんで愛木君涙目になってんのよ。大丈夫っていっているじゃない。」
　 ハンカチで顔をそっとふいて、私のほうからキスをしました。
　 首から手をまわすと、愛木君の大きな背中は暖かです。
　 そっと、愛木君の胸に身体を寄せてくっつけました。
　 ネクタイが、私のコートの胸の部分でくしゃっとなりました。

　 いま、もっと愛木君と居たい気持ちがわいてきました。

　 愛木君が唇をちゅっと吸いました。
　 それからそっと私の口を舐めます。
　 私は口を少し開いて愛木君の舌を招き入れました。
　 男性の大きな舌が口の中に入ってくると、上あごがしびれるように感じます。
　 くるくるっと回転する愛木君の舌を、そっと歯でやわらかくかみます。
　 根元から舌先に少しずつづらしながらちょんちょんと歯を当てていくと
「あ」
　 と愛木君が声を出しました。
「痛かった？」
　 と口を離すとさっきとは又違う、ちょっと、とろりとした表情の愛木君の顔がありました。
「いいえ、ぞくっと感じちゃったんです。もっとご褒美ください。田村さん。」
　 と、甘えた声で言います。
「うん、いいわよ。モニターを消してね。」

　 マウスをカチカチと操作して、愛木君がひょいと私をかかえました。
　 そのまま部屋の隅にかかえていって応接コーナーのソファーにそっとおろしてくれました。
　 ちいさなファンの音がしてパソコンのモニターが落ち、あたりはもっと暗くなりました。
「田村さん」
　 しっかりと肩を抱いてキスをします。
　 さっきと同じように甘く舌を噛むと愛木君は
「ふっ」
　 とため息をついて
「感じちゃってダメです」
　 と耳もとでささやきました。
　 それから私の首にキスをして耳たぶをそっと噛みました。
　 ビクンと身体が震えます。
「ここにもご褒美くださいね」
　 愛木君が耳たぶを舐め始めました。
「あ、そこはダメ」
　 ビクビクっと身体が反応してしまいます。
「そんなこと言わないでください。やめませんよ」
　 あごと舌と唇の感触を耳で受けると身体の芯から力が抜けてソファにズルズルと倒れこんでしまいます。
「今度は、こちらを」
　 とさっきとは反対の右耳をちゅっと音を立てて吸いたてられて
「あぁ」
　 と高い声をあげてしまいました。
「いい声です。感じますか？」
　 耳元でささやかれ、ますますゾクゾクしてしまいました。

４
　
　 愛木君がコートの胸のボタンをはずして、手を差し入れてきました。
「田村さん、ここもご褒美にください。ね。」
　 とゆっくりと揉みはじめました。
　 耳に唇の感触をうけて、胸をもまれると、自分でもはずかしいくらい快感がつきあげてきました。
　 がまんが出来ずに声がでてしまいます。
　 耳から首筋に刺激する場所を移して、愛木君が言いました。
「生でご褒美ください」
　 今度は私のコートのボタンを全部はずすとセーターをたくし上げてしまいました。
　 フロントホックのブラジャーをあっというまにはずしてしまい、両手でぐいぐいさわりはじめました。
「あん、ああああっ」
　 自分でもビックリするような嬌声を出してしまいました。
「感じますか？すごく素敵ですよ。もっと声をだしてください。」
　 ！とんでもない声出したら守衛さんが飛んできちゃいます。
　 すると乳首をキュとつままれて
「アン」
　 と大きな声を出してしまいました。
「田村さん、じゃあ、ここももっとご褒美くださいね。」
　 左の胸をゆっくりと揉みながら愛木君はねっとりと右の胸をなめはじめました。

　 私はお腹の下から快感がせり上げてきてなにかにつかまっていないと飛んでいってしまいそうです。
　 愛木君の頭を手でまさぐります。
　 乳首を指と舌でころがされて又声が出てしまいました。
「ああ、あん愛木君ダメ」
「ダメですか？」
「愛木君、私我慢できない」
「我慢できない？なにが」
　 声に出せないので愛木君の手をとってスカートの中にあてがいました。
　 その手をぎゅっと脚ではさんで腰をグイグイとこすりつけました。
「あ、あ、あ、あん」
　 太い男性の指の感触を股間に感じて、もうそれだけで、どうにかなりそうです。
「田村さんもご褒美がほしいんですね。」
　 と言うと愛木君が手を離して、私のストッキングと下着をスルリと脱がせてしまいました。
　 そして私の足を片方ソファの背もたれにひっかけると脚の間に手をあてがい、まさぐり始めました。
　 全体で撫でるようにしてから
「ここを触るといいですか？」
　 と指を深く入れてきました。
「あ、あ」
「入りやすくなってますね。」
　 と敏感になっている小さな突起をクルクル指で撫でながら指を深く出し入れします。
　 沼のようになってしまっているのが自分でもわかります。
「こんなにいい感触になっている。僕も、もう我慢できません」

５

「今、ゴムつけますからいいですよね。」
　 手を休めずに聞いてきます。
「私、我慢できないですぐ行っちゃいそうなのイイ？」
「もちろんですよ」
　 私のコートの、前を合わせてから、身体を離した愛木君。
　 ズボンや下着を脱いで、お財布からゴムを出して着けています。
　 着衣のままのセックスなんて初めてです。
「お待たせしました。ああ、大丈夫こんなになってる。」
　 と感触を確かめてから両手で太ももを持ち上げて私の身体に乗ってきました。
　 愛木君が力強く入ってくる感触がして、
「あああ」
　 と又声が出ました。
　 愛木君が動くにつれてなんだか身体が溶けていくようです。
　 目の前が白くなって
「あ、愛木君いっちゃう、いっちゃうよ！」
　 と私が叫ぶと
「ああ」
　 と愛木君の顔がゆがんで身体が震えました。
　 又、ビクンビクンと身体が震えます。
　 そして、動きが緩慢になってずっしりと体重が私にかかってきました。

6
　
　 その後、愛木君のアパートに泊めてもらって、たっぷりとお互いをむさぼりあいました。

　 高級なナイトクリームは結局ロッカーに忘れたままになっちゃったのですが、翌朝はお肌がツルツルになってました。

「雪じゃなければ、残業している愛木君と二人ですごす事はなかったかも。」
　 そう思うと、降る雪に感謝しています。