１５　金曜日の朝（２）

　急行電車は、異常なほどの混雑を見せていた。
　端の席に座った僕の前には、立っている乗客が雪崩れかかってきていた。
　おかげで僕の顔は、右側のドアのある空間を向かざるを得なくなっていた。
　僕の右側では、男が足元に荷物を置き、体をやや前倒しにして壁に手をついていた。
　男の作った隙間からは、僕に背中を向けた、佐藤美沙子の熟れた下半身が覗いていた。
　彼女の左側からは、彼女を横向きのままドアに押し付けている都築の手が伸びていた。
　その手は、濃紺のタイトスカートの上から、優しく佐藤美沙子の尻をとらえていた。
　僕は、欲情に支配される一方で、都築の手がそのまま動かないよう、かすかな望みを託していた。
　だが、その望みは、あっけなく砕かれた。
やがて、都築の手が、ゆっくりと動き始めた。
　佐藤美沙子は、わずかに身を固くしたようであった。
　しかし、身動きできない状況もあってか、抵抗のそぶりは見られなかった。
　都築の手は、彼女の尻の上を、生々しく動いていった。
　手をやや開き、濃紺のタイトスカートの感触を確かめるように、優しく円を描いていった。
　はちきれそうな濃紺のスカートは、都築の手で撫で回され、淫らな皺を作っていた。
　都築の手の動きは、繊細であった。
　そのソフトな手つきは、尻を攻められている女を、スカート越しとはいえ、間違いなく快感に導こうとする、強い意志の現われにも見えた。
　佐藤美沙子は体をがっちり固定され、都築の手によって、熟れた尻を好きなように攻められていた。
　僕は、無駄だとわかりながらも、佐藤美沙子が都築の手などに屈しないでほしい……そう祈りを込めながら、攻められている彼女の尻を覗いていた。
　だが、都築の指先が立てられ、蜘蛛のように尻を這い始めたときだった。
　佐藤美沙子が、身動きできない車内で、わずかに、互いの太腿をこすり合わせる動きを見せ始めた。
　その生々しい動きは、彼女を襲っている快感の大きさを物語っているように思われた。
　僕のかすかな望みは、絶たれてしまった。
　都築の手は、ますますソフトに、佐藤美沙子の尻を這い回っていった。
　這い回るたび、彼女の互いの太腿は、ますますこすり合わされていった。
　彼女のはちきれそうな濃紺のタイトスカートは、尻を愛撫する都築の手の動きと、懸命にこすり合わされる佐藤美沙子の太腿の動きとで、ますます、淫らな皺を作っていった。
　僕は首の動きを封じられていることもあって、その光景から、目をそらすことができなかった。
　僕にとって大切な女性が、女をゲームで弄ぶような軽蔑すべき男に電車内で痴漢され、しかもそれを見ていることしかできない……僕の状況は、かくも残酷であった。
　やがて都築の手が、スカートを這いながら、徐々に下へと降りていった。
　濃紺のタイトスカートの裾に、都築の指先がかけられた。
　スカートは、都築の器用な手によって、ゆっくりとたくし上げられていった。
　やがて、佐藤美沙子の、熟れきった見事な太腿が現れた。
　彼女は、ストッキングを黒のガーターで吊っており、太腿は素肌であった。
　僕は、その光景に、めまいを覚えそうになった。
　都築は、彼女の熟れた内腿に、ゆっくりと手を滑らせた。
　そのとき、佐藤美沙子が、都築の手を受け入れやすいよう、やや、脚を開いたように見えた。
　都築は、導かれた空間に手を入れ、いやらしく内腿をまさぐっていった。
　佐藤美沙子は、男の攻めに応えるように、もじもじと官能的に身をよじっていった。
　軽く指先を立てながら、蜘蛛のように、内腿から太腿の裏側へ、都築の手はまんべんなく這い回っていった。
　素肌の上からの都築のソフトな太腿攻めは、佐藤美沙子の下半身を、ますます淫らに動かしていった。
　太腿を撫でられるたび、彼女の下半身は、ピクピクと震えてしまっていた。
　都築の手が、さらに上へと伸びていった。
　都築の手とともに、佐藤美沙子のスカートが、さらにたくし上げられた。
　僕は、そこから現れたものに、目を奪われてしまった。
　僕の目の前には、佐藤美沙子の裸尻が現れていた。
　彼女は、下着をつけていなかったのだ。
　僕は、さっきの喫茶店の都築の話を思い出していた。
「約束は、守っていただいてますね……」
　その約束が、下着をつけずに、都築と会うことだったというのか……。
　都築の手が、目もくらむような裸尻に、優しく張り付いた。
　佐藤美沙子の裸尻が、ビクンと震えた。
　都築の手は、彼女の尻が裸であることを承知していたかのように、まったく慌てる様子をみせなかった。
　そして、スカートの上からと同じように、いや、よりソフトに、彼女の裸尻を撫で回していった。
　佐藤美沙子は、たまらないように腰をもじつかせ、脚をこすり合わせた。
　都築の手は、佐藤美沙子の裸尻を、蜘蛛のように、ソフトに、いやらしく撫で回していった。
　都築の手によって撫で回されるたび、彼女の裸尻は、ビクンビクンと震えていった。
　佐藤美沙子は明らかに、裸の尻を愛撫されることで、スカートの上から攻められるよりも、より大きな快感に襲われているようであった。
　都築の手が、さらに佐藤美沙子を追い詰めにかかった。
　裸尻の谷間に、都築の指先が、優しく滑り込んでいったのだ。
　佐藤美沙子は、たまらず身を固くした。
　だが、都築の指は、身構える彼女の体を解きほぐすように、優しく尻の谷間を撫でていった。
　中指をカギ状に曲げながら、裸尻の谷間を、執拗に、繰り返し、ていねいに撫で上げ続けていった。
　都築は慌てる様子もなく、裸尻の谷間に、５分以上も、愛撫を続けていった。
　そこまで執拗に攻められては、佐藤美沙子が、快感に狂わないはずがなかった。
　やがて、身動きできないはずの佐藤美沙子の腰が、がくがくと動き始めてきた。
　都築の指が、いよいよ、彼女の尻の谷間に沈み込んでいった。
　佐藤美沙子の体の震えが、大きくなった。
　恐らく、菊の形をした部分に指を触れられ、優しい肛撫を加えられているのだ。
　佐藤美沙子の腰が、都築に押し付けられたまま、さらにがくがくと動いていた。
　僕は、あの美しい、誇り高き佐藤美沙子が、軽蔑すべき男に尻を痴漢され、快感に溺れている姿を、嫉妬に狂った欲情の目で見続けていた。
　たまらなく悲しいはずなのに、僕は、好奇心から来る欲情を抑えられずにいた。
　やがて、電車が途中駅に入り、ゆっくりと停車した。
　開いたのは反対側のドアであり、人の乗り降りは、ほとんどなかった。
　しかも、止まっている車中で、都築の指は、非情にも、佐藤美沙子の尻を攻め続けていた。
　やがて、停車中の電車にも関わらず、佐藤美沙子に、至福の時が訪れてしまった。
　身動きできない状況で、執拗な優しい肛撫を続けられ、佐藤美沙子は、腰をがくがくと動かしてしまい、とうとう、痙攣とともに果てていった。

　電車は、終着駅を目指し、再びゆっくりと走り始めた。
　佐藤美沙子の下半身は、剥き出しのまま、上り詰めた余韻にかすかに震えていた。
　都築の手は、裸尻の上に、満足そうに置かれていた。
　その時、電車がカーブにかかり、車内が揺れた。
　その拍子に、僕の前に立っている男が、さらに覆いかぶさってきた。
　僕は、ほとんど後ろの壁に頭を押し付けた状態で、右側の光景を見つめることとなった。
　その視界は、僕がややのけぞり気味の姿勢になったことで、かえって開けていった。
　僕の目からは、２人の顔が、はっきりと確認できた。
　佐藤美沙子は、背中をドアに押し付け、正面から都築に攻められていた。
　都築は、自らの唇を佐藤美沙子の首筋に押し当て、念入りな愛撫を加えていた。
　佐藤美沙子は、目をつぶり、眉間に官能的な皺を寄せ、都築の行為を受け入れていた。
　唇はきつく結ばれていたが、これは恐らく、声や息を周囲に漏らさないようにしているのだろう。
　だが、それにも関わらず、彼女の唇は、時々、都築の攻めに耐え切れないように、何度も開かれていった。
　その表情は、たとえようもないほど淫らで、美しかった。
　しかも、彼女が攻められているのは、首筋だけではなかった。
　都築の右手が、たくし上げられたタイトスカートの下から、佐藤美沙子の秘部へと伸びていた。
　都築は手のひらを上に向け、指先で、下から撫で上げるように、ていねいに秘部を攻めていった。
　秘部を攻められるたび、佐藤美沙子は、切なげな表情で、何度も唇を開いていった。
　都築は、彼女の剥き出しの股間に手を差し入れながら、唇を首筋に這わせ、さらに、こちらからは見えない、彼女の右耳のあたりをとらえた。
　たまらず、佐藤美沙子は大きく息を飲み、のけぞった。
「はうっ！」　
　その呼吸の大きさに、僕は心臓が飛び出しそうになった。
　しかし、周囲に変わった様子はなかった。
　他の客にしてみれば、今の彼女の呼吸は、電車の走行音か何かの空耳に聞こえたのだろうか。
　だが、２人の淫らな光景を目の前にしている僕にとっては、佐藤美沙子が悶えた声以外の何者にも聞こえなかった。
　一度聞こえてしまった僕の聴覚は、彼女の行為に、たまらなく敏感になっていった。
　騒音で聞こえるはずのない佐藤美沙子の息遣いが、僕には、まるで手にとるように聞こえていた。
　都築は、時間をじっくりかけて、佐藤美沙子の耳を唇で愛撫し、秘部を指先で撫で上げていった。
　攻め続けられるたび、佐藤美沙子は、顔をしかめながら、切なげに喘ぎをもらしていった。
　その艶っぽいハスキーボイスと、淫靡な表情に、僕は、自分自身が激しく興奮し、硬直してしまうのを、抑えることができなかった。
　都築が、佐藤美沙子の耳と秘部を同時に攻めてから、５分ほど経ったときだった。
　耐え切れなくなったのか、佐藤美沙子がかぶりを振り、左手を都築の背中に回した。
　そして、都築を自分の体へと抱き寄せていった。
　佐藤美沙子の腰は、再び、がくがくと震え始めていた。
　都築は、佐藤美沙子の求めに答えるように体を寄せ、顔を重ねていった。
　すると、待ちきれないように、佐藤美沙子の方から唇を求めていった。
　佐藤美沙子の秘部は、相変わらず、都築の手によって、ていねいに愛撫されていた。
　２人の唇は、互いを激しく求め、むさぼり合うようにうごめいていた。
　２人の舌は、妖しく妖艶に絡み合い、互いの口の中を欲望のままに犯しあっていた。
　さらに、佐藤美沙子の右手が、ゆっくりと都築の下半身へ伸びていった。
　右手の先には、いつの間にか剥き出しになっている、都築の逞しい分身が待ち構えていた。
　佐藤美沙子は、それを右手で包み込むと、いとおしそうに優しく上下に滑らせていった。
　僕は、たまらず暴発しそうになるのを、必死で抑えた。
　まるで自分自身が佐藤美沙子に握られ、愛撫されているような気になってしまったのだ。
　都築の硬直は、佐藤美沙子の手にふわりと包まれたまま、滑らかな刺激を加えられていた。
　だが、都築の方が、佐藤美沙子を追い詰めていた。
　秘部を攻めている都築の指が、やや、奥へと差し込まれたように見えたときだった。
「あぐっ！」
　佐藤美沙子が、唇を都築から離し、のけぞって喘いだ。
　おそらく、都築の指が中に侵入し、敏感な部分をとらえたのだ。
　都築はそのまま、出し入れするように、指をゆっくりと往復させていった。
　佐藤美沙子は、耐え切れないように何度も唇を開き、食いしばった歯の隙間から、絞るような喘ぎを漏らしていた。
「あ……あぐ……う……うあ……」
　その間にも、都築の冷静な指は、佐藤美沙子の中へ侵入し、中をかき回しながら、秘部を犯し続けた。
　とうとう、佐藤美沙子は、耐え切れないように、都築にしがみついた。
　その時、佐藤美沙子が何か言葉を発して、懸命に都築に話しかけているのが聞こえた。
　一方の都築の声は、冷静な様子がうかがえるだけで、はっきりとは聞こえなかった。
　僕の耳に、搾り出すような佐藤美沙子のハスキーボイスが聞こえてきた。
「あ……だ……だめ……いかせて……先に……いかせて……」
「……………」
　都築の声は聞こえなかったが、冷静な口調で喋っているのは、疑いようがなかった。
　再び、佐藤美沙子の懸命な声が聞こえてきた。
「や……だめ……我慢……できないの……お願い……先に……先にっ……」
「……………」
「あう……や……そんなこと……いや……言わせないで……」
「……………」
「ああ……そ……そんな……言わないと……だめだなんて……いや……」
「……………」
「いや……あ……だめ…………言う……言うから……許して……先に……先に私をっ……」
その後、ためらうような一拍があり、佐藤美沙子から哀願の言葉が漏れた。
「お……おま○こ……して……」
　僕の頭に、痺れるような衝撃が走った。
　誇り高く美しい佐藤美沙子が、満員電車の中で、官能の渦に溺れたいがために、卑猥な言葉を発してしまった……その言葉を発してしまうほどに、彼女は、都築の指による快感を欲しがっていたのだ。
　だが、そんな言葉を発してまでも、彼女の姿は、妖艶な美しさを保っていた。
　やがて、にっこりうなずいた都築の指が、佐藤美沙子の中を往復していった。
　その動きがだんだん早くなり、佐藤美沙子は腰を震わせながらそれを受け入れていた。
　再び、都築の唇が佐藤美沙子の唇に重ねられた。
　彼女の限界は、あっけなくやってきた。
　上下の口を塞がれた佐藤美沙子は、逃げ場のない官能に身を任せ、声を出せないまま、腰を卑猥に動かしながら、再び、痙攣とともに果てていった。

　僕は、目の前で２度も上り詰めた佐藤美沙子の姿を、呆然と見つめていた。
　淫らに狂った彼女の姿は、それでもなお、妖しいほどに美しかった。
　やがて、佐藤美沙子の右手が、再び動き始めた。
　都築は、佐藤美沙子を抱いたまま、彼女の手の動きに身を任せていた。
　今度は、彼女が都築を満足させる番なのだ。
　佐藤美沙子は、はちきれそうに膨張しきっている都築の怒張を、優しく包んだまま、何度も、いとおしそうに愛撫していった。
　都築の形を確かめるように、何度も全体に手を這わせながら、リズミカルに上下に手を動かしていった。
　僕は、再び佐藤美沙子に愛撫されているような錯覚に陥り、自分の爆発を抑えるのに必死であった。
　都築の体も、快感のために、心なしか震えているように見えた。
　そのとき、都築が何かを佐藤美沙子にささやいた。
　佐藤美沙子は、それを聞くと、ゆっくりとうなずいた。
　その次に彼女のとった行動は、僕の想像を絶するものであった。
　混雑した車内で、佐藤美沙子が、ドアに背を向けたまま、ゆっくりと、腰をおろしていったのだ。
　電車の床に、立てひざをついた佐藤美沙子のこぼれた脚は、たまらなく魅力的であった。
　佐藤美沙子の正面には、都築の怒張が待ち構えていた。
　佐藤美沙子はそれを確認すると、自らの顔を近づけ、その怒張を口に含んでいった。
　彼女は、咥えた口を、怒張にそって、ゆっくりと上下に動かし始めた。
　彼女のその行為には、ある種の愛情があふれているように見え、僕はますます嫉妬の感情に駆られていった。
　佐藤美沙子は、何度か口を上下に動かしたあと、いったん口を離した。
　そして、改めて亀頭に顔を近づけ、いとおしそうに舌をチロチロと這わせていった。
　佐藤美沙子は、亀頭を口に含むと、転がすような動きを見せた。
　恐らく、含んだ口の中で、舌を使って亀頭を転がしているのだろう。
　ていねいに亀頭を転がしたあと、今度は口を離し、亀頭の表面から雁首のあたりにかけ、淫らに舌を這わせた。
　さらに、裏筋にかけて、ていねいに舌で往復させていった。
　佐藤美沙子のていねいな愛撫に、都築自身も、耐え切れないように見えた。
　それを確認すると、佐藤美沙子は、髪をかき上げ、ゆっくりと怒張を口に含もうとしていた。
　その時、一連の動作の流れで、彼女の顔が僕の方に向けられた。
　そして、佐藤美沙子の視線が、僕とかち合った。
　佐藤美沙子は、激しく驚いたようだった。
　彼女はそのまま動かず、じっと僕を睨んだままであった。
　その時の僕の表情は、嫉妬と欲情の混じった、世にも情けないものであったに違いない。
　だが、彼女が僕に気づいたことで、この淫らな行為をやめてくれる……そんなかすかな希望もあった。
　僕は、はかない希望を抱えたまま、彼女を見つめていた。
　やがて、佐藤美沙子が、悲しそうな笑みを浮かべ、首を振った。
　そして、再び都築に顔を向け、怒張を口へと含んでいった。
　僕は、絶望的な気持ちで、彼女の口撫を見続けていた。
　やがて、佐藤美沙子の口の動きが、早くなった。
　激しく口を上下させる佐藤美沙子の動きに、とうとう、都築も限界を迎えた。
　ヒクヒクと都築が腰を動かすと、佐藤美沙子が、むせかえるようにうめいた。
　「うむむっ……んぐ」
　そのうめきと同時に、佐藤美沙子の頬が、不自然に膨らんでいった。
　恐らく、彼女の口の中に、都築のものが吐き出されていったのだ。
　だが、都築は、怒張を佐藤美沙子から離そうとしなかった。
　佐藤美沙子は、口に吐き出されたものの行き場を失っていた。
　やがて彼女は、意を決したように、口の中のものを、喉を鳴らしながら、ごくんごくんと飲み干していった。
　その時の佐藤美沙子の顔は、たまらなく妖艶で、美しかった。
　僕はもう、限界になっていた。
　大事な女性が、軽蔑すべき男に痴漢され、快楽に溺れてしまった……その姿を、ひたすら無力に眺めながら、僕は、座席に座ったまま、射精してしまっていた……。

　電車は、終着駅に着いた。
　２人は、すっかり体勢を整え、駅に降りたようだった。
　しかし僕は、２人を追っかけるには、あまりに情けない状況であった。
　僕は自己嫌悪にかられたまま、ふらふらとホームに降りた。
　駅構内のコンビニを見つけ、下着を買い、トイレを見つけて下着を替えた。
　汚れた下着は、トイレのゴミ箱に捨ててしまった。
　下着を替えながら、僕は、さっきの佐藤美沙子の姿を思い出していた。
　口では何といいながらも、都築の求めに応じ、官能の渦に身を任せた佐藤美沙子。
　そこには、僕がとうてい入り込めない、ある種の屈折した愛情があるように思われた。
　誰が何と言おうと、彼女は都築を求めているのだ。
　だが、なぜ都築なのだ。
　なぜ、都築でなければいけないのだ。
　いや違う。都築でなくてもいいのだ。
　電車の中で乱れる彼女……彼女も、水原教授や僕と同じく、所詮、同じ病に見せられた女なのだ。
　だから、相手が僕であってもいいではないか。
　水原教授だって、僕の手に落ちたのだ。
　佐藤美沙子だって、落ちないはずがない……。
　そうだ。これから佐藤美沙子の画廊に言って、今朝のことを話してみよう。
　彼女だって、僕に、仮にも電車の中で男性自身を口に含んでいるところを見られたのだ。
　それは彼女にとって、大きな弱みに違いない。
　僕を裏切って、都築に身を任せた代償は、大きくつく。
　彼女には、僕の奴隷になってもらおう。
　そうして、帰りの電車の中で、僕の手で乱れてもらうのだ。
　僕だけの女に、なってもらうのだ。
　いや……奴隷などと、贅沢なことは言わない。
　ただ、いてくれればいいのだ。
　あんな、よりによって都築などという男に……くれてやるものか。
　彼女は、僕だけの女だ。
　頼む。僕だけの女でいてくれ。
　土下座でも何でもするから、僕だけの女でいてくれ。

　会社へ行く最終日であることなど、僕の頭の中からは、吹き飛んでいた。
　僕は会社に目もくれず、取り憑かれたように、佐藤美沙子の画廊に向かっていた。
　僕は、嫉妬と狂気で、もはや正常な神経を失っていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）