| ５３歳・弓枝の日常 逆井逆道 作 |
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３年前のことである。 当時５０歳になった弓枝は、２年ほど、都心のある支店を長として任された。 まだまだ男社会の典型のような会社の中を努力で生き抜き、そこまでこぎつけたのだ。 仕事に理解を見せなくなった前夫と別れ、女手一つで育てた一人娘も、高校入学を迎えていた。 人生の後半に差し掛かり、仕事も家庭も、さらに充実の日々を迎えるはずであった。 それから２年、支店の業績は伸び、弓枝は郊外の本社勤務に復帰した。娘も順調に育ってくれている。 しかし、支店長時代に経験した２年間の長距離通勤は、弓枝に、長距離通勤そのものとは別の、考えもしなかった経験を与えることとなった。 ５０歳という年齢を迎えたその時になって、そうした経験を何度もすることは、充実した人生を送っていた弓枝の想像を超えるものであった。 その経験は、決して他人には明かせない苦しみを植え付けていた。 夜も更け、廊下を挟んだ隣室で娘が寝ている中、仕事と家庭の幸せに浸ろうとしながら、弓枝はベッドの中で、いつもの苦しみに襲われていた。 唇を噛み、情けなくて泣きたい気持ちを懸命に抑えながら、体をよじり、のたうち回らせていた。 しかし、２年間の長距離通勤で、何度も経験させられた忌まわしい出来事は、弓枝の脳裏に一度浮かんでしまったまま、去ってはくれなかった。 弓枝は今日も、自らの浅ましさに胸が潰れる思いで、下腹部へと手を伸ばしていった。 混雑した朝の通勤ラッシュは、当時の弓枝の日常であった。 弓枝は主に、黒や濃紺、グレーといった、タイトなスーツを身につけることが多い。 スーツを身にまとった弓枝の熟れた体は、ラッシュで身動きままならないのが常であった。 弓枝の向かいには、まだ２０代前半と思われる雰囲気の、スーツ姿の青年が、いつも向かい合わるように立っていた。 体は密着され、互いの顔は相手の肩に乗るような位置のため、互いの表情はうかがい知れない。 抱き合うようにも見えるその密着は、むろん満員電車が作り出すものだ。 それ以上の故意の接触は、むろん弓枝が望むものではなかった。 にもかかわらず、青年はいつものように、自分のものを誇張するように、ひそかに弓枝のタイトスカートの上から、弓枝の中心に、自らの密着を続けた。 青年の手は、弓枝のお尻に回され、タイトスカートの上でうごめいていた。 それが続けられるたび、弓枝の体はいつものように、屈辱的な歓喜に襲われ続けていた。 青年が弓枝の前に顔を晒すのは、いつも密着の直前であった。 青年の存在に気づいた時にはもう密着され、身動きができない状況に置かれる。 そして無遠慮に、弓枝の中心に自分を押しつけ、弓枝の体に存在を誇示していく。 大人の女性として誇り高い弓枝は、まだ年若い青年のそうした暴挙に、たまらない忌忌しさを覚える。 しかし、男社会の典型である会社にいる環境と、弓枝自身の誇りが邪魔する故に、周囲に痴漢被害を知られるような、大げさな抵抗を示すことが出来なかった。 痴漢に遭うのは隙があるからとか、自意識過剰であるとか、あるいは、相手は若い痴漢だから弓枝の方から誘ったのであろうとか、５０歳の女性だからこそ浴びせられるであろう理不尽な中傷を、どうしても考えてしまうのである。 回り回って、今の会社に知られる可能性を考えると、同僚が同乗している可能性のある通勤電車の中で、騒ぎを起こすことは躊躇われた。 怒張を密着させながら、青年は手を後ろに回し、タイトスカートの上から整った尻を捉える。 尻に青年の手がやんわりと触れられた途端、弓枝の体にはいつも悲しく電流が走り、そのたび、弓枝は情けなさに唇を噛んだ。 青年の手は、やんわりとタイトスカートの上を動き始める。 手のひらで何度か触った後、すべての指先を軽く立てて、尻の全体を確かめていく。 指先による尻の確認は、執拗に何回も繰り返されていく。 弓枝は、巧みだと思ってしまう青年の手の動きが、たまらなく憎らしくなる。 しかし、車内の混雑は、周りに気づかれないように弓枝が逃れる術を許さない。 弓枝のはしたない尻の疼きは、青年の指が、タイトスカートの上から尻の谷間に這い始めた時から、恨めしいほどに高まってくる。 弓枝は尻を痴漢されながら、何度も青年に責められたことで条件反射のように体が反応するよう慣らされたことを、嫌でも自覚させられる。 弓枝は、生意気な年下の青年の指を尻に感じながら、懸命に息遣いを整える。 卑劣な青年の指の動きは、タイトスカート越しに生々しく弓枝の神経を逆撫でし、混雑した車内の限られた空間で、官能に耐えきれない弓枝の体をよじらせてしまう。 その弓枝の卑猥な反応は、その反応を最も知られたくない相手の青年に対してのみ、その密着を通して確実に伝わっていく。 青年の、尻の谷間を撫でる指使いが、尻全体を撫でまわす手つきを時々交えながら、間断なく弓枝に伝えられていく。 弓枝は、たまらない悔しさを抱えながら、スカート越しに尻を撫でられただけで電車の中で上り詰める覚悟をさせられる。 中心に不躾な怒張を、尻に卑猥な指を、ともにスカート越しに受け続けながら、支店長まで上り詰めた５０代の弓枝は、懸命に声を押さえながら、はしたなく満員電車の中で果てていく。 青年の手は、そのまま下ろされていくのが常であった。 かといって、そのままスカートの中へ侵入するわけではない。 タイトスカート越しの攻めが、まだ続くのである。 それはまるで、スカート越しの攻めで十分に果ててしまうような卑猥な熟年女性であることを、まるで弓枝に知らしめるかのような行為であった。 尻に回されていた手がそのまま下り、スカート越しに、熟れた腿の裏側を捉える。 腿の裏側を、撫で回したり、撫で上げるようにして攻めていく。 一度果てた体は、スカート越しの腿の攻めでさえ、卑猥な手つきとして弓枝の浅ましい官能を刺激していく。 やがて青年の手が、タイトスカート背面のスリットから差し入れられ、内腿を弄っていく。 指先が徐々に上まで這わされ、脚の付け根付近の内腿を集中的に撫で続けられていく。 弓枝は、青年に密着させられながら唇を噛んで身をよじり、再び果てるのが近いことを、その卑猥な動きで口惜しくも青年に知らしめてしまう。 青年は心得たように無言で内腿を弄り続け、弓枝はまた、浅ましく青年の指に陥落していく。 青年の痴漢行為は、ほとんどがスカートの上からの、尻と腿への攻めであった。 それを時間を掛けて受け続けさせられ、それだけで狂ってしまうことが、よけいに弓枝の屈辱・羞恥を高いものにしていった。 そんな青年が、年に数度、それ以上の攻めを弓枝に行うことがあった。 それはほとんどが、鉄道事故による遅延を伴う場合であった。 それは主に、事故により駅間で数分の停車を伴う時に行われた。 停車開始を合図にするように、尻や腿を攻めていた手が、もう片方の手と一緒に下ろされ、タイトスカートの裾に掛けられる。 慌てずに、ゆっくりとタイトスカートを揚げられていく感触が、腿を通して、リアルタイムに弓枝に伝えられていく。 弓枝は自分の状況を自覚させられながらも、混雑した車内で、青年に体を密着させることしかできない。 走行時よりも静かな、停車した車内では、少しの動きも周囲に怪しまれてしまうのだ。 青年の指先が、下着とストッキングに掛かり、徐々に時間を掛けて下ろされていく。 あえて時間を掛けられることで、弓枝は青年に、満員電車で下着を脱がされている リアルな羞恥を長く浴びせられ続けることになる。 膝上まで下着とストッキングが下ろされ、青年の手は、タイトスカートの上に戻り、尻を撫でまわしていく。 タイトスカートの中で、尻を裸にして受け止める青年の手は、さらなる羞恥を弓枝に加えていく。 やがてスリットの間をぬって、青年の手が入ってくる。 青年の手は、性器には見向きもせず、熟れた裸尻全体を撫でまわし、尻の谷間にじかに何度も指を這わせていく。 まるで、性器やクリトリスを攻めるのはまともな女性にする行為であり、痴漢対象としての自分は、尻や腿だけで果てさせる相手なのだと主張せんばかりの攻めに、弓枝には思えた。 静かな満員電車の中で、弓枝だけが、その尻を通して、青年が卑劣な行為を行っていることを承知している。 その卑劣な行為を、黙って周りに知られず受け止めるのみならず、懸命に卑猥な反応を抑えなければならない状況であることに、疼いた弓枝の体は狂わんばかりであった。 停車中の電車の中で、若い痴漢に裸の尻を攻められ果ててしまう姿など、絶対に気づかれたくない。 いや、それ以前に、そんな卑猥な反応をしたくない。たかが若い痴漢に…… そう思えば思うほど、弓枝の体は、終わりが近いのを止めることはできない。 懸命にうめき声を抑えながら、弓枝は若い痴漢に体を密着させ、尻を震わせて果てていく。 弓枝はベッドの中で、手を下腹部に伸ばしていった。 仕事に打ち込む姿、娘との幸せな家庭を浮かべようとしながらも、いつも弓枝を苦しめた卑劣な青年は、弓枝に逃れられない恥ずかしい苦しみを植え付けていった。 弓枝の手が、下腹部に届きそうになる。 その時点で、より卑猥な電流が弓枝の体を襲った。 いつものことだ。なぜ、いつもこんな思いを…… 弓枝は、促されるようにベッドから起き、クローゼットに向かった。 娘に気づかれないよう、音を立てないように注意を払いながら、クローゼットを開ける。 中から取りだしたのは、いつも仕事に着ていく、黒のタイトスーツであった。 弓枝は、ゆっくりと黒のタイトスーツに着替え、ストッキングを履いた。 そのまま廊下に出た弓枝は、娘の部屋の前まで歩みを進め、部屋のドアの前で立ち止まった。 そこは家の中で、もっとも他人の気配を感じる場所であった。思春期の娘の部屋の前である。 弓枝は、スーツ姿のまま、娘の部屋のドアに向かって体を預けた。 少しでもドアがきしむ音がすれば、娘に気づかれる恐れがあるのに、弓枝はそうしないではいられなかった。 弓枝は、自分の浅ましさに、ドアに体を預けながら、小さな声で呻いた。 「いや……いや……」 懸命に自分と戦いながら、弓枝の手は、操られたように徐々に下へと伸びていった。 しかし、伸びた先は下腹部ではなかった。そのままスカートを這いながら、お尻に回された。 そう、弓枝はこの３年、痴漢も含めて、性器やクリトリスには、一度も触れたことがないのだ。 これが、いつもの方法なのだ。抗いたいのに抗えない、いつもの方法なのだ。 タイトスカートの上からお尻に手のひらが張り付いたと同時に、弓枝の体に電流が走った。 そして、その刺激に口惜しさを感じながら、いつものように、 「やめて……やめるのよ……やめてちょうだいっ……」 そう呻きつつ、自らの尻を撫でまわし、尻の谷間に指を這わせながら、懸命に娘の部屋のドアに体を擦りつけていった。 |
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| 2021年1月15日掲載 |
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