（２２）

−　週末土曜日　−

　康平は亜美の友達を連れて遊園地に出掛けた。
　礼子は、春先の洋服を買うため康平に亜美を頼んだのだ。

（康平には悪いけど一緒に来ると、ゆっくり買い物も出来ないからなぁ）

　礼子はデパートの開店に合わせるため早めに車で家を出た。
　デパートには、ちょうど開店と同時に到着した。
　礼子は、早々と店内を見て回る・・・・
　康平の下着や亜美の服などを先に買い、後は自分の仕事用のスーツと私服をゆっくりと選んだ・・。
　全て買い物を終えたときには既に昼近くになっていた。

「ふぅー、たくさん買っちゃったぁ。」

　礼子は駐車場に着くと荷物を積み食事をするために郊外へ車を走らせた。
　そこは、郊外と言っても食事が出来る店が多く、ちょっとしたグルメ街で多くの若者や会社のＯＬたちが集まる場所だった。

　礼子は近くの駐車場に車を止め和風のレストランに入る。
　店内は満員だったがカウンター式の席が一つ空いていた。
　礼子が店員に席を案内され椅子に座るとフライセットを注文した。

　礼子がカウンターを眺めていると横から男性客に声をかけられた。
「れ、礼子さん。」
　礼子が横を振り向くと・・・
「あ、甲斐さん。」
　礼子も甲斐も驚いた・・。
　まさか、こんなところで会うとは思っていない二人は笑いながら声を掛け合った。
「偶然ですね、礼子さん・・・あのぁー・・その節はどーも・・。」
「あ、はい、いえ。・・でもビックリしちゃった、こんなところで。」
「そうですね僕もですよ。今日は一人なんですか？」
「ええ、買い物をしにデパートに・・康平を連れてくると文句ばっかり言うので一人出来たんです。康平は娘の友達と今ごろ遊園地に・・・」
「ハハッ、荒尾も大変ですね・・。」
「甲斐さんは、今、仕事中なんですか？」
「ええ、でも先程終わりました。取引会社で談合があって。」
「そうなんですか。」
　礼子は甲斐と話をしながら食事をした。
　相変わらず甲斐の話は話題が豊富だ・・。
　礼子も楽しい時間を過している様子だ。
　甲斐が礼子を誘う。
「礼子さん、もし暇だったら私の会社に来ませんか？　会社と言ってもたいした事ありませんが・・・。ココからすぐなんですよ。」
　礼子は、買い物も済ませたし時間もまだ早かったので甲斐の誘いに承諾することにした。
　二人は店を出る。

　礼子は甲斐の後を車で着いていく。１０分もしないうちに９階建てのビルに到着した。
　礼子が車を止めて外に出ると甲斐が礼子をビル内に招いた。

「ココなんですよ。」
「へぇー、立派ですね。」
　若い受付の女性が甲斐と礼子に頭を下げる。
　礼子が甲斐とエレベーターに乗った。
　甲斐は５階のボタンを押す。
「私の部屋は９階なんです。」

　到着すると甲斐は自室に入っていく。
「さ、どうぞ。」
　甲斐に手招かれ礼子も中に入った。
　中は広々として清潔感にあふれている。

「礼子さん、どうぞ座ってください。」
「あ、はい。」
　礼子はソファに座る。
　甲斐が直々にコーヒーを入れてくれた。
　二人は色々な事を喋りあった。

「そう言えば、先々日、荒尾から電話貰いましてね・・」
「エッ、康平から？」
「ええ、また、酒もって遊びに来いと・・・言われました。」
　甲斐が笑いながら礼子に喋りかける。
　礼子は頬を染ながら返答した・・。
「ま、康平ったら・・・」
「しかし、礼子さん。相変わらず綺麗ですね。」
「そんな・・甲斐さん、お世辞が上手すぎるわ。」
「いえ、本心ですよ。」
　そう言うと甲斐は立ち上がって外の景色を眺めた。
「ここから見る町が好きなんですよ。」
　礼子も立ち上がり甲斐に近づく・・・
「ホント・・景色いいわね。」
「ここは、あまり高いビルが無いから夜になると街の夜景がよく見えて、とても綺麗なんですよ。」
　礼子が甲斐に話し掛けた。
「さっきの話ですけど。是非、また来てくださいね。」
　甲斐が礼子を見つめた。
「はい、ありがとうございます。是非、近いうちに・・。それに、礼子さんの裸が拝めるなら・・。」
　甲斐の言葉に礼子は頬を染ながら下を向いた。
　礼子がソファに戻り飲みかけのコーヒーに口をつける。

　ふと、前のカップボードを見ると女性の写真が飾ってあった。
　礼子がその写真を見つめると中の写真の女性が礼子に微笑んだような気がした。
　錯覚だろうか・・・礼子は軽く頭を振る。
（・・疲れてるのかな？）
　しかし礼子は気になってしょうがない。
　失礼かとは思ったが写真の事を甲斐に尋ねてみた。
「甲斐さん、あの写真は・・・」
　甲斐がボードを見て答えた。
「・・・彼女が亡くなった私の女房ですよ。」
「え、あっ、すいません。失礼なこと聞いてしまって・・。」
「いいんですよ。そんなこと。」
　礼子は口を閉ざした・・・。無言の時が流れる。
　礼子は機を見て立ち上がった。
「じゃ、甲斐さん、そろそろ私はこれで・・失礼します。」
「そうですか。わざわざ誘ってしまってすいません。」
　礼子がドアに向かう。
　甲斐が先に出てドアを開けた。
「甲斐さん、ここでいいです。後は一人で行けますから。」
「そうですか。暇な時は、また来てください。」
「はい。ありがとうございます。」
　礼子は、ドアを閉めてエレベーターに向かった。
　訳のわからない複雑な気持が礼子に沸いてきている。
　エレベーターのボタンを押した瞬間・・・・・
（帰らないで・・）
「エッ？」
　礼子が回りを見渡すが誰も居ない・・・
（確かに女性の声が聞こえたんだけど・・・やっぱり疲れてるのかな・・・？）
　礼子はエレベーターに乗り込んだ。

　甲斐は部屋で、何か想い耽った様子で外を眺めていた。
　部屋がノックされる。
「はい、どうぞ。」
　ドアが開いた。甲斐が振り向くと礼子が立っている。
　甲斐が驚いて声をかけた・・
「れ、礼子さん。どうしたんですか？　忘れ物でも・・。」
　礼子が少し間をおき甲斐に呟く・・
「ごめんなさい甲斐さん、自分でもわからないんだけど・・また来てしまって・・」
　甲斐は不思議な顔をして礼子を見た。
「甲斐さん、・・家に来る前の前哨戦・・・今から・・私としませんか・・・。」
（えっ、ヤダ・・私・・何言ってるんだろう・・）
　甲斐がビックリしたような態度をとった。
　礼子はドアを閉め甲斐に近づく・・・
　礼子が甲斐に抱きついた・・・。
　礼子は自分でも不思議な行動をとっていると思った・・・。
（何故・・どうしたんだろう・・私・・・・あの・・写真のせい・・）
　礼子は、ボードを見る勇気が無かった。
　甲斐は礼子を抱き寄せる。
　礼子は自らソファに倒れた。甲斐が礼子のスカートを捲りショーツに手を掛けた。
　礼子は腰を浮かせて手伝う。甲斐もベルトを外しズボンを脱いだ。
　甲斐が礼子の股間に顔を埋めてくる。
　礼子の身体は、敏感に反応する。
　甲斐の丁寧な愛撫に次第に蜜の量も増えてきた・・・
　甲斐は礼子に挿入した・・。
「ァァ、甲斐さん・・・私の・・・ココを虐めてぇー・・」
　甲斐は激しく礼子を責める・・
　礼子は身体がが軽くなったような錯覚を覚えた・・・・。
「ああ、あなた・・気持いいぃ・・」
　甲斐が一瞬動きを止めて礼子を見た・・・
（きょ、キョウコ・・？）
「ァァ・・・ど、どうしたの？・・か、甲斐さん・・やめないで・・。」
　礼子が甲斐の唇に舌を絡めた・・・
　礼子が、ふと甲斐を見ると先ほどとは顔つきが変わっていた・・
　・・・遠くを見つめているような・・・

　甲斐は、再び腰を動かし始めた・・
「アァ、アァ、、イイ・・ウゥゥゥゥー」
　二人は激しく身体を絡ませる・・・
　礼子の蜜壷の閉まりに甲斐も我慢が限界に来たようだ・・・・
　甲斐は容赦なく礼子の蜜壷のなかで果てた・・・

（キョウコ・・・）
（ぁぁ・・あなた・・気持ちよかった・・）
　甲斐はボードの写真を見た。・・。（キョウコ・・俺は・・）
　礼子は、ソファに持たれながら女芯を摩る。

「ァァ、、甲斐さん・・私・・なんで・・・こんな・・・」
　礼子も不思議な感じを覚えていた・・・
　突然、自分の意思に反した言葉や行動をとったり・・違う声が聞こえたり・・・・
　礼子は息を弾ませながらボードを知らず知らずに見てしまった。
　女性が、また礼子に微笑みかけている・・・・
　その瞬間、どこからなく声が聞こえた・・・
（礼子さん、ありがとう）
「えっ、・・・な・・・」
　礼子は声を口に出そうとしたが黙っていた・・。

「礼子さん、どうした・・？」
「い、いえ、何でもないわ・・・」
　甲斐が礼子から身体を離す。礼子は不思議な感じに迷いながら乱れた服を直した。
　甲斐が礼子に話し掛ける・・。
「礼子さん、何か身体に感じませんでしたか・・・。」
「・・ええ、・・・・・なにか・・・」
　しばらく無言の後、甲斐は、何かが吹っ切れたように礼子に話し掛けた。
「礼子さん、やっぱり素晴らしかった。私も、もう一度伴侶が欲しくなりました。」
　礼子が微笑みながら返答する。
「甲斐さんほどの男性なら、寄って来る女性は沢山いるわ。」
　甲斐は、礼子の言葉に微笑みながらボードの妻の写真を見た。
　礼子は甲斐が写真の妻に何かを語りかけているような気がした。
　甲斐は、なぜか優しく、さっぱりとした顔をしている・・・・

　礼子は甲斐の部屋を出た。
　もう妙な声は聞こえない。礼子は車に乗り込むと車を走らせた。
　運転をしながら今の事を思い出そうとするが甲斐との行為も、あまり覚えていない。
（んー、・・・何だったんだろう？　変な気分だったわ・・・）
　礼子は、結局、よくわからないまま家路に着いた。

−　寝室　−

　康平は、会社から持ち込んだレポートを読んでいた。
　礼子が康平のグラスにビールを注ぐ。
「おっ、サンキュー！」
　康平はレポートを整理し、鞄にしまった。
「お前も飲むか？　って、・・なんだ、もう飲んでるのか。」
　礼子が口にグラスを付けたまま康平を見つめる。
　康平は、様子のおかしい礼子に問い掛けた。
「おい、礼子・・どうした？」
「エッ・・・、あ・・うん・・あのね・・・甲斐さんの事なんだけど・・」
「甲斐？」
「うん・・実は今日、甲斐さんと会ったのよ・・。」
　礼子は買い物帰りに偶然グルメ街で甲斐と会い、ついでに会社を見せてもらいに甲斐の経営する会社まで行った事を康平に話した。
　そして甲斐の様子がおかしかった事や寂しそうな態度で窓の外を眺めていたことなど・・しかし抱かれたことは康平には、まだ黙っていた。
「ふーん、そうか・・・。」
　康平は、いま礼子の話を聞き、いずれ礼子に聞かそうと思っていた甲斐の事情を話す決心をした。
「実はな、甲斐の奴、前々から自殺を考えていたんだよ。」
　礼子は驚きながら康平を見る。
「甲斐を家へ誘う前に２度ばかり会ったって言ったろ。」
　礼子が頷く。
「その時に、飲みながら奴の悩みを聞いたんだ。その時は、よく解らなかったんだが、人生観に悩んでいたようで自殺を仄めかすような言葉を何度も言うんだよ。おそらく原因は、奥さんのことさ。甲斐は超がつく愛妻家だったからな。」
「・・・・」
「ま、その時は、馬鹿な事言ってんじゃねーぞって、怒ってやったんだが・・」
「・・それで？」
「うん、信用してくれるか解らないが、その夜、俺の夢に奴の奥さんが出てきてな・・」「・・・え・・・」
「甲斐を救ってやってくれって・・・」
「・・・・」
「奇妙な夢に俺も驚いたんだが、甲斐から、そんな話を聞いた後だからかな・・と思ってさして気にしていなかったんだけどな・・・。」
　礼子は甲斐に抱かれたことを康平に話そうと思った。
「それがまた、さっきも甲斐の奥さんの夢を見たんだよ。」
「えっ？」
「いや、風呂から出たあとソファでウトウトしてたんだ。で、また不思議なことを夢の中で俺に言ってるんだ。」
「な、なんて言ったの・」
「それがな、お前にお礼を言っておいてくださいって・・。良くわからない夢だったなぁー。」
　礼子の眼から涙がこぼれた・・・・

　康平の話を聞き礼子は思った。あの時の女性の声・・やっぱり聞こえてたんだと。
　そして信じた。同じ女性として、この世からいなくなっても愛した人の人生を狂わせないように見守っているのだと・・・・
（甲斐さんの奥さん、私の身体を使ったんだ・・・・）
　甲斐の部屋を出るとき甲斐が写真に向かって何か言っていたのは・・・・たぶん・・

「礼子・・おい、礼子！」
　礼子が康平の声で我に返る・・
「どうした、なに泣いてるんだ。」
　礼子は、えっ？っというような表情で自分が涙をこぼしているのを気付く。
　礼子は康平に、今日の一部始終を話した。
　康平は、まさかという感じで礼子の話を聞いている。
　礼子が話し終わったとたん康平は身震いをした・・
「ま・・まじか・・その話・・」
「うん、不思議な感じだったけど・・でも怖さは無かった。」
「ンーッ、・・・・・あるんだな。そんな事が・・・」
「康平、私、思ったわ。もう甲斐さん大丈夫のような感じがする。」
「なんで・・なぜ、そう思う・・。」
「んー・・何となく・・ね。」
「・・？？」
　その時、寝室の電話が鳴った。康平が受話器を取る。
「もしもし。・・か、甲斐っ！」
　礼子が康平を見た。康平が甲斐の話を聞いているようだ。
　そして急に康平は大声で笑い出した。
「解った。また段取りつけるよ。ああ、横にいるよ。」
「ああ、期待していろ！」
　康平が電話を切る。
「康平、甲斐さん、なんだって。」
「ああ。・・今度はいつ誘ってくれるんだ・・とさ。えらく元気な声だった。」
　礼子も笑った。
「ホラね。言ったとおりでしょう。」
「ん、そうだな。」
　礼子が康平に寄り添った。
「ねぇ、康平・・もし・・もしよ。私が死んじゃったらどうする？」
「んー・・・そんなこと解んねーよ。」
「ねーっ、言ってよ」
「いつも、俺に抱かれた後、死んでるじゃないか。」
　礼子が康平をつねった。
「痛タタッ。」
「まじめに答えて。」
　康平は、真顔で答えた。
「ん。いや、俺はお前を死なさせないよ。二人で最後まで人生を全うするんだ。」
「・・・・」
　礼子は康平を抱き締めた。そして一人心の中で思った。
（私は・・康平のためなら死ぬ覚悟だってあるわ・・）
　康平が礼子に呟く・・・
「礼子、今、お前が考えてること俺には解るぞ。」
「ぇ・・？」
　礼子が康平を見つめる。
「俺も・・お前と同じ気持ちだ。そして、それが俺の答えだ。」
　礼子は康平の凄さを改めて知った。
　この間の順平の質問に答えられなかったように康平の男としての魅力をとても他人には説明できないのだ。
（康平・・私・・本当に幸せよ・・・）