（４１）

−　専務室　−

「荒尾君、本当に良くやってくれた。」
　専務の町田が、今回の康平の行動を労らった。
　隣で北原も安堵の表情を見せている。
「それで、桑原常務は？」
「うむ、先程、社長室で懲戒を言い渡したよ。」
「そうですか？」
　北原が、話を続ける。
「午後に東洋鋼産業の取締役全員が直々に、こちらにに来るそうだ。」
「ほう、それは、それは。」
　町田が康平に問い掛けた。
「荒尾君、今後の君の扱いだが、局長職に推薦しようと思う。」
「・・・は？」
「役員職だよ。」
「え、えぇーっ、ちょ、ちょっと待ってください。私、まだ３じゅう・・・」
「年齢は関係ない。今までの君の業績、そして今回の働きを考えれば当然の事だ。それに他分野でも君の優秀さは飛び抜けている。誰も文句を言う者はいないぞ。」
　康平の会社には、４０代でも局長はいない。
　それが３０代の康平が、就任するという事は特例や抜擢というのを超えてしまっている。
　局長職は太平洋グループ内では取締役であるのだ。
「専務、他の管理職の手前、私もやりにくい部分があります。それに、内辞で４月から研究所に行く事になっていますが。」
　北原が、康平に詳追説明をした。
「研究所には、今回、手伝ってくれた君の同期の大村君を昇格させることにしたよ。」
　町田が続く。
「それとも他に、君は希望はあるのかね。勿論、局長職でだが。」
　康平は悩んだ。いくら専務の考えであっても、さすがに躊躇してしまう。
　しかし、ことわることは出来そうも無いようだ。
　康平は、今後の事を考え町田に具申してみる事にした。
「わかりました。・・・・・では専務、一つお願いがあります。」
「うむ、何でも言いたまえ。」
「出先へ行かせてください。」
「何・・・支店かね？」
「え、ええ、それでも結構ですが・・。」
「北原君、どこか荒尾君の適任である所はあるのかな？」
　北原は以前から康平が要望していた事を思い出した。横目で康平の表情を窺う。
　康平は北原に眼で合図を送った。北原は笑いを堪えて専務に説明をした。
「専務、荒尾君をセンターに行かせましょう。」
「なに、センターに・・・」
　センターとは、駅前にある４０階建ての総合センタービルであらゆる職種の会社が集中している企業ビルである。
　康平のいる太平洋製鉄が属する太平洋グループの全ての運営コンサルタントを中心にした業務をこのビルで遂行しており中心会社である太平洋製鉄の社長直轄付で運営センターと呼ばれていた。
　しかし、実質は太平洋製鉄を中心とした各グループや子会社の難題を処理するのが目的であり裏で動く関係会社の情報や経済状況を集約するのが目的であった。
「どうでしょうか？」
「んーむ・・・。」
　町田は、かなり考え込んだ。本社での康平の才能は欠かせない。
　しかし、康平の力と今後の会社運営にはセンターでの仕事も適任かもしれない。
　町田は、いずれ康平が本社に戻す事を条件に了解する事にした。
「いいだろう。しかし、あくまで局長職としてだ。」
「わかりました。」
「今のセンター長は、君の部署に行ってもらおう。」
「専務、もう一つよろしいですか？」
「なんだね？」
「センターの人員を全て私に選ばせて頂きたいのですが。」
「ふむ、いいだろう。」
「ありがとうございます。」
　康平は専務に礼を言い北原と一緒に専務室を出た。
　北原が康平の肩を叩き笑顔を見せる。
「ふっ、お前って奴は・・。でも、しっかりやって来い！」
「常務、ありがとうございます。」
　康平は、北原に礼を言って課に戻った。
（さてと、しばらく、ゆっくりとしていなかったな・・。）

／／／／／

　その後、東洋鋼産業は康平のいる太平洋製鉄の提携会社となる事が決定したが実質的には、太平洋製鉄の吸収合併であり東洋鋼産業は子会社となる。

　康平は来週早々に辞令を受け４月からは総合センタービルの勤務となる。
　久しぶりに早く家に帰った康平は、さっそく礼子に今回の件を話した。

「ただいま。・・・礼子、帰ったぞ。」
「あら、お帰り、今日は早いわね」
「例の仕事、やっと終わったよ。」
「まぁ、良かったじゃない康平・・で、どうなったの？」
「それがな・・。」
　康平は、礼子に今回の事件の解決と自分の辞令の事を詳しく話した。
「えぇー、取締役・・・・・康平が・・きょ、局長・・・・？？」
「ああ、この歳でＡ管になっちまったよ。」
「す、凄ぉーい。」
「それだけ責任が増えるだけさ。」
「でも一応、お祝いしなきゃね。」
「別に、いいよ。・・」
「でも、普通の主婦は喜ぶんじゃない？」
「俺もお前も普通じゃないだろう・・。」
「・・・・ど・どういう意味よ。」
「おい、それより今度こそ甲斐にＯＫ出さんとな。」
「そう言えばそうね・・甲斐さんもイラついてるかも・・。。」
「後で、甲斐に電話するよ。」
「うん、それより亜美と先に、お風呂に入って。まだ夕食の準備してないの。」
「ああ、わかった。」

　康平は娘の亜美と久しぶりに一緒に風呂に入った。
　亜美からは案の定、本を読まされる約束をされる。
　亜美を風呂から出すと、康平は、ゆっくりと湯に浸かり今回の事を回想した。
（ふぅぅーーーっ・・忙しい１ヶ月だったな・・・）
　久しぶりに、ゆっくりと風呂で身体を癒した康平は、気分を入れ替えまた明日からに備える気力が漲ってきた。

　風呂を出て家族全員で食事を済ますと康平は亜美の部屋に向かい約束の本を読み聞かせる。
「パパ、今日はねー、これ読んでー。」
「どれどれ、ふーむ。・・・よし、目を瞑って聞くんだよ。」
「うん。」
　康平は、１時間ほど亜美に本を読み聞かせ亜美が眠りに入ったのを確認し寝室に向かう。
　ちょうど礼子が、風呂から出てきたところだった。
「あら、亜美もう寝たの？」
「ああ。」
「ね、甲斐さんに電話した？」
「おっと、そうだったな。さっそくするよ。」
　康平は甲斐に電話をする。
　礼子がドレッサーの椅子に座って康平の方に振り向くと足を広げて康平を挑発し始めた。
　それを見て笑いながら甲斐と話をする康平・・・・。礼子が指で蜜壷を広げている。
「じゃ、今週の土曜日にな。ああ、わかった。酒忘れるなよ。」
「礼子、電話中に何やってんだよ。」
「フフッ、康平が立つかなと思って。」
「それより明後日に決定だ。料理のほうも頼むぞ。」
「はぁーい。」
　礼子は、髪を乾かし始める。
　康平はビールを飲みながら礼子を見ていた。
　礼子が康平の視線に気付くと言葉を掛けてくる。
「康平、前哨戦やる。？」
「ああ、いいぜ。でも、ほどほどにな。」
「なんで？」
「ここ１ヶ月やりっぱなしだったからな。」
　礼子が櫛を投げてきた。
「絶対に駄目っ、許さない。今日は私も満足させてもらうわよ。」
　康平は苦笑いをしながら応える。
「わかったよ。」
　髪を乾かした礼子が康平の上に跨いできた。
　ガウンの下はショーツ１枚だけだ。
　康平は、礼子をベッドに寝かせて囁く。
「礼子、今日は軽いＳＭにしよう。ちょっといいもの見て研究してきたんだ。」
「えっ、どういう？」
「まあ、待ってろ。」
　康平は礼子のガウンを脱がすと両手両足をベッドの下の足に固定した。
　礼子が大の字の状態で康平を恨めしそうに見つめていた。
　康平は小箱からクリップつきの小型ローターを取り出し礼子の乳首に挟むとスイッチを入れた。
　礼子が小さく声を上げる。
　更にショーツの上から固定式のクリ用バイブも取り付けスイッチを入れた。
「あぁぁぁー・・・」
　康平は礼子にアイマスクを嵌めギャグボールを咥えさせた。
「ンーッ、グッ、グッ・・・」
　康平は礼子を完全に固定すると首筋から足先まで丁寧に唇を這わせていった。
　身体をくねらせて礼子は悶えている。
　見る見るうちに礼子のショーツの中心が染みを作っていくのがわかる。
　康平はアナルバイブを取り出しショーツをずらして菊門を愛撫した。
「んぉぉーー・・ンァァーー・・ソコ・・イィィー・・」
　礼子は激しく頭を左右に振り、声を荒げた。
　蜜壷から垂れる液体をバイブで掬って滑りを良くすると康平は礼子の菊門にゆっくりと挿入していった。
　礼子が腰を上げ背中を反らすと康平は、バイブをピストンし始める。
　バイブが淫厭な音を立てながら礼子の菊門を刺激していた。
　口からは涎が流れている。
「どうだ礼子・・感じるか？　」
「ンーッ・・ゥッ、ウッーー・・」
　康平が礼子のギャグボールを外す。
「ンッ・・ッ・アァァー・・康平・・もうイヤァー・・入れてぇぇぇぇー」
「礼子、まだだ。我慢しろ。」
　康平が礼子の菊門に刺さったバイブのスイッチを入れると礼子は絶叫した。
「ンアァァァァァァァァーーー・・・・・くぅぅぅぅーー・・・」
　更に康平はバイブを挿したり抜いたりして礼子を刺激する。
　礼子は腰を激しく突き上げて悶え狂った。
　康平が礼子のショーツを引き千切る。
　礼子の蜜壷が露になった。
　腰を上げたまま円を描くように腰を振る礼子。
　康平が指を蜜壷にいれ膣内の天井部分を軽く撫でる。
「クゥゥゥゥゥゥゥゥ・・アァァァァァー・・・」
　礼子は感じる部分の全てをバイブと康平の指で責められていた。
「こ、康平・・康平・・入れてぇーー・・イカせてぇぇぇぇぇー・・アァ、アァ、アァー・・」
「最初は指でイカせてやる・・・」
　康平が更にＧスポット部分を器用に愛撫した。
　礼子は、目を剥けて絶叫した・・・・・・
「イッ、クゥゥゥゥゥゥゥゥー・・・・ッ」
　そして礼子が、足のつま先だけで身体を支え恥丘を突き上げたと思うと声を押し殺して潮を噴き始めた。
「ウゥーーーーー・・ゥッ、ゥッ、ゥッ・・・」
　３度、４度と礼子の尿穴から飛沫が上がる。
　康平は、菊門に刺さったバイブを根元まで押し込んだ。
「グゥゥゥゥゥゥーーーーーー・・ンアァァァァァァァー・・」
　礼子が朦朧とした眼で天井の一点を見つめ激しく腰をベッドに落とした。
　胸と腹が大きく上下している。
　康平は礼子に縛ったロープを全て解いた。
　礼子の蜜壷からは、まだ淫汁が流れている。
　康平が軽く指先で汁を掬うと糸を引いて指に纏わりついた。

　しばらくして礼子が康平に甘えた声で囁く。
「ねぇ・・・今度は康平のモノでイカせて・・」
　礼子は康平の肉棒に舌を絡めながら乳房を揉んでいた。
　康平の表情を確認しながら舌技を駆使する礼子・・・。
「康平・・・姦ってぇぇぇー」
　そう言うと、うつ伏せになり腰を高く上げて康平を誘う。
　毛の無い綺麗な大陰唇がふっくらと盛り上がっていた。
　康平は舌で亀裂を舐め上げた。
　礼子は自分の蜜壷を康平が舐め上げるのを見て確認している。
「フゥゥゥーー・・・ァァー・・・」
　礼子の割れ目から液体が噴き出す。菊門が強く締まり減り込みを見せた。
　礼子は乾いた唇を舌で舐め上げ、更に腰を高く上げた。
　康平は立ちあがり礼子の蜜壷に肉棒をあてがうと一気に根元まで挿入した。
「グッ・ッ・ハァァァァァァーーーー・・・ッ・・・」
「グッ・ッ・ハァァァァァァーーーー・・・ッ・・・」
　激しく腰を打ち突ける康平・・手の平を叩くような乾いた音が何十、何百と続く。
　礼子は、激しい康平の責めに口を閉じる事が出来ない。
　何分続いただろうか、礼子が身体を限界まで反り始めた。
　康平は、下から手を回し女芯を摘む・・・・
「イヤァァァァーーー・・イク・イクッ・イクゥ・・・イックゥゥゥゥゥゥゥゥゥー」
　康平も礼子の蜜壷の心地よさにタンクが空になりそうなくらいに爆発させた。
　康平はゆっくりと肉棒を抜いた。礼子は果てた状態のまま腰を上げて動かない。
　礼子の蜜壷が呼吸と合わせて閉じたり開いたりしている。
　康平は礼子を静かに仰向けにして寝かせた。
　無意識に礼子の蜜壷がゆっくりと閉じていく。

（おい、おい、出さずに寝るなよ。）

　康平は、礼子をそのままにし、ベッドを降りた。
　バーボンを手に取るとボトルごと口に含み一口喉に流し込む。
　康平は礼子にシーツを掛けて、今度はグラスに酒を注いだ。
　ガウンを羽織り椅子に座りながら、礼子の表情を見る。
（礼子・・・・お前は最高の女だよ・・・俺は・・お前のために・・頑・・張る・・・ん・・だ・・ぜ）
　康平も心地良さに身を浸され意識が遠のいていった・・・・

／／／／／

「康平、起きてよ。」
「・・・お、おぅ・・」
　礼子の声で康平は眼を覚ました。
　既に朝食の準備も出来ているようだ。

　礼子は髪を乾かしていた。
「なんだ、風呂に入ったのか・・。」
「うん、シャワー浴びたの。それより、アソコから康平のが凄い出て来たわ。」
　礼子が笑いながら康平に話した。
「そのまま、寝るなよな。」
「だってぁ、あんなに激しくされたら動けないわよ。」
「じゃ、次からレベル下げるか？」
「ううん、もっと上げて。」
　二人は笑いあった。
　康平もシャワーを浴びに浴室に向かう。

　朝食も済まし康平は先に会社に向かった。
　礼子も少しおいて亜美を幼稚園のバスに乗せ、そのまま会社に向かう。
　礼子は、ふと思い出す。
（そう言えば、今日、内辞の日だったわね。）
　２月１日は、礼子の会社の異動内辞日だった。
　観光関連の会社は、申し送りを徹底するために２ヶ月前に発表されるのだ。
　礼子は通勤電車の中で山岸のことを考えていた。
　山岸が、どういう反応を示すかが気掛かりだったのだ。
（課長、ビックリするだろうな。）

　会社に着くと社員がソワソワしているのが感じ取れる。
　礼子は広報部の席につくと1ヶ月掛けて作ったマニュアル帳を確認した。
（これ、誰に渡すのかな。）
　開業ベルが鳴り終わると社内放送が掛かり社員全員が最上階の大会議室に集められた。　礼子たちの部署も全員で大ホールに移動を始める。
　役員がホールに現れると一斉に雑談が止まった。
　常務の進行で異動内辞が発表された。
　新役員に２名が昇格のあと部長昇級が行われる。
　山岸は、課長職から、そのまま広報部の部長に昇格した。
　全員が納得の雰囲気で山岸に注目している。
　いよいよ課長職の順番だった。
　４名の発表の後、新課の説明がされる。
　名前は、開発情報課、主に新企画の政策やプランの進行、そして他社との比較研究と製作を担当する。
　常務から課長名が発表された。
「広報部広告係長、荒尾礼子」
　一斉にざわめきが起こる。一つ飛び越しての礼子の昇格に全員が驚いた。
　しかし中には礼子を慕う社員から拍手が起きる。
　そして課長補佐として同じく礼子の同期２名が昇格した。
　宮口里美と遠藤順子だ。
　宮口と遠藤は新課が軌道に乗るまで係長職も兼務する事となった。

　課長職の辞令を受け取った礼子が山岸をチラッと見る。
　山岸も相当、驚いているようだ。
　しかし辞令を受けてる中で身体を震わし礼子を睨んでいる者がいた。
　ＩＫ観光で、唯一の女性管理職である庶務課の課長補佐、名倉元子だ。
名倉は礼子より７つ年上で現在までは、ＩＫ観光の女性陣ではトップの位置にいた。
　ＩＫ観光では女性は課長職になると親会社に出向になるのだが、今回新設の情報課はＩＫ観光に常設され初の女性課長が在中となるのだ。
　名倉は、てっきり情報課長は自分だと思い込んでいた。
　しかし、明らかに礼子の実力の方が上であり、周りもそれを認めているのだが女性の補佐は自分以外に居らず、まさか自分を一つ飛び越して礼子が課長となるとは夢にも思わなかったのだろう。名倉の顔は悔しさで引きつっていた。

　全ての辞令が終わり社長の訓示を受けた社員はざわめきながら部署に戻った。
　礼子は同期３人とロビーに残って話し合っている。
　里美と遠藤順子が礼子に言葉を掛ける。
「礼子、おめでとう。」
「礼子、頑張ろうね。」
「ありがとう。色々と手伝ってね。」
「ええ。私達は、一心同体よ。仲良くやりましょうよ。」
　順子が思い出したように礼子に忠告した。
「でも、礼子、気をつけてよ。あの名倉が黙っていないわ。」
里美も順子に続いて喋る。
「そうそう、新課が出来る話があったときに女性課長を置くと噂されていたから名倉さんは、てっきり自分だと思い込んで皆に触れ回ってたらしいわよ。」
「そうなの？」
「ええ、名倉さんは自分の同期連中が、ほとんど本店勤務になってて焦っているみたい。」
「特に情報課は女性ばかりだから気をつけないと。」
「そうね。」
　礼子が里美と順子に小声で囁く。
「ね、今度３人で飲みに行きましょう。」
　二人が相槌を打った。
「作戦会議ね。」
　３人は、小さく笑いあった。
　礼子たちは、各部署に戻っていった。

　礼子が、デスクに戻ると山岸が課員に昇格の報告をしていた。
　山岸が礼子に気付き皆に促すと広報部の課員が一斉に礼子の昇格を祝った。
「荒尾係長、おめでとうございます。」
「あ、えぇ・・ありがとう。あの、この部署からは私以外に情報課の異動は無かったけど会社の為に一生懸命頑張りますので今後も皆さん・・よろしくお願いします。」
　全員から再度拍手が起こった。

　余韻を残し全員が仕事に取り掛かる。
　礼子は、新しい広告係長に内線を入れ申し送りをする日を相談していた。

　山岸は、電話を切った礼子を確認して席を立つとオフィスの外から礼子を誘う。
　礼子は、外で自分を促す山岸に気付き席を離れた。
「礼子君、ちょっといいかい？」
「ふふっ、何のお話かしら・・。」
　山岸が苦笑いをしながらロビーに誘った。礼子も後に続く。
　二人は自販機のあるソファに座った。
「礼子君、全く想像もしなかったよ。まさか情報課とは・・・。」
「すみません、実はもう専務から通告されていたんです。」
「えっ、そうなのか。」
「はい。・・・これから課長とは顔を会わせる機会が減りますね。」
　山岸が、礼子の言葉に慌てていた。
　企画部には山岸の同期で同じく今回、部長に昇格した岡本が管轄する部署だ。
　昔からプレイボーイでならした岡本に山岸は少なからず不安を持っていた。
　岡本も山岸と共に業績は抜群で女性にも人気があり女性社員も慕っている。
　悪い事に２、３年前、課長会で岡本と酒席を同じくした時に岡本から礼子をモノにしたいという話を聞いた事があったのだ。
「れ、礼子君。・・そのぉー・・・つまり・・・」
「なんですか？」
「い、いや・・つまり情報課の管轄は今度、私の同期の岡本が受け持つんだが・・」
「ええ、そうですね。」
「その・・なんて言ったら・・つまり・・」
　礼子は山岸の言いたい事が簡単に理解できた。
　山岸の心配は岡本の誘惑に礼子が乗ってしまうのではないかという不安だった。
「課長、私はＳＥＸは好きですけど、それなりのポリシーを持っていますわ。」
「・・・・？」
「つまり、成り行きでそうなる事は有り得ません。でも・・・・」
　山岸の顔が引きつる・・・
「で、でも・・何だね・・」
「Ｈ好きの私の事ですから・・・愛欲を探るためなら・・フフッ、脅かしすぎかしら？」　山岸は、居ても立ってもいられない。
　何とか礼子を自分だけのモノにしたいと必死であった。
「れ、礼子君・・・」
「課長、今からは無理よ。色々仕事があるし。」
「ぅ・・・・」
「それに、もうじき最後の大仕事で専務と課長を含めて各企業のお偉いさん達と親睦研修会に同行しますし、・・・その時にも私を抱けるじゃないですか・・・。」
「れ、礼子君・・・しかし・・・」
「課長、会社から居なくなるわけじゃないんですよ。そんな顔しないでください。」
「あ、ああ。」
　礼子は、そう言うと課長にウィンクをしてロビーを後にした。
（フフッ、課長ったら・・・おっかしい・・・。）

　礼子が廊下を歩いていると庶務課の課長補佐、名倉元子と偶然行き違う。
　礼子は平然としていたが名倉のほうが態度に変化を見せた。
　礼子は軽く頭を下げて通り過ぎようとしたが、名倉のほうから声を掛けられた。
「荒尾さん・・・今回は昇格おめでとう。」
「ありがとうございます。」
　名倉は嫌味たっぷりに礼子に言葉を掛けた。
「一応部署は違うけど貴女は、私にとっても上司になるわね。」
「・・・・・はぁ・・。」
「ま、せいぜい頑張ってね。かげながら応援してるわ。」
「・・・ありがとうございます。」
　そう言って名倉は、冷笑し階段を下りていった。
　礼子は心なしか嫌な予感がした。
（また、一悶着ありそうだわ・・。）
　苦笑いしながら礼子もデスクに戻った。
　広報部に戻ると企画部長になる岡本が山岸と喋っていた。
　山岸は礼子を見て声を掛ける。
「荒尾君、岡本課長が挨拶に来たよ。こっちへきたまえ。」
　礼子は、山岸の上ずった声に笑いを堪えて応接室に入る。
　礼子は岡本に頭を下げてソファに座った。
　岡本が礼子に声を掛ける。
「荒尾君、情報課を宜しく頼むよ。」
「はい、頑張ります。」
「私も新課だし解らないことが多いが、一緒に勉強していくつもりだ。女性が主流の課だが私も出来る事は何でも協力するから遠慮なく言ってきてくれたまえ。」
「有難うございます。頼りにしてます。」
　礼子の一言で山岸がピクピク顔を引きつらせている。
　礼子は横目で山岸を見て思わず笑いで顔を崩しかけた。
「しかし山岸、相変わらず荒尾君は別嬪だなぁー。」
「あ、ああ。そうだな・・」
「まさか、荒尾君に手を付けてるなんて事はないだろうな・・・？」
「ば、馬鹿言ってるんじゃないぞ・・岡本。」
　山岸は慌てて言い返す。
　礼子は山岸の慌てぶりに遂に声を上げて笑い出した。
　岡本は続ける。
「しかし、荒尾君はスタイルも崩れんなぁ。君みたいな人は男が放っておかないだろう」　礼子が微笑する。
「そうですか？お世辞でも嬉しいです。」
「お世辞じゃないさ。今度、私の誘いに付き合ってくれるかね？」
　山岸が咳ばらいをして岡本を制した。
「荒尾君、仕事があるだろう。もう席に戻りたまえ。」
「はい。」
　礼子は、笑いながら応接室を出た。
　しかし山岸の気の使いようは尋常ではなかった。
　よほど岡本の下で働く事を心配しているようだった。

／／／／／

　あっという間に一日が過ぎていく。
　礼子も仕事を片付けて帰る用意をしていた。
　山岸は、何度も礼子に声を掛けようとしたがキッカケがない。
　結局、落ち着く事が出来ないまま週末を迎えることとなった。
「じゃ、良い週末を・・。」
「ご苦労様ぁー。」
　全員が定時に会社を出た。
　山岸は部屋を出て行く礼子の腰を見て思わず唾を飲み込んでしまった。

　礼子は明日の為に途中買い物をしワインも数本購入する。
　帰りに優子の家に亜美を迎えに行き二人で帰宅した。
「ただいまぁ。あっ、康平。」
「おう、俺も今帰ったところだ。」
　娘の亜美が康平に抱きついてくる。
「パパ。明日、優子叔母ちゃんちに泊まりに行っていいのぉー？」
「ああ、そのかわり夕方からな。」
「えぇー、だって叔父ちゃんが動物園に連れてってくれるって言ったもん。」
　礼子が詳しく康平に説明をした。
「そうなのよ。義兄さんが絶対連れてってやるぞって亜美に。」
「そうか。じゃ後で電話しておくよ。」
「お姉ちゃんも楽しみにしてるみたいよ。」
「優子さんか・・・しかし、有り難いな。」
「来月からは隣同士だからね。余計と甘えちゃいそう。」
　康平たちは、来月に引越しをする事になっていた。
　礼子の姉夫婦が隣の土地を康平たちに譲ったため将来の利便を考えて隣に家を新築する事にしたのだ。
　町内は同じだし、姉夫婦の強い要望もあり康平たちは同じ敷地で生活する事になった。
「お姉ちゃん達もそうだけど、亜美が凄く喜んでるのよ。」
　康平は笑いながら礼子に答える。
「家に帰って来なくなる・・・・・なんて事はないだろうな。」
「フフッ、でもファミリー感覚でこういうのもいいんじゃない？」
「ああ、そうかもな。・・・さて、明日の為に今日はゆっくりしようぜ。」
「うん。私、ご飯の支度するわね。」
「ああ、亜美と風呂に入ってるよ。」
「うん、お願い。」
　康平たち家族３人は、週末の夜をゆっくりと楽しく過ごした。

　亜美が寝てからも康平と礼子は久々に色々な事を語り合っていた。
　寝室に入ると礼子の昇格話に耳を傾け、康平は色々な事を礼子に助言する。
　礼子は会社での事も康平に話した事によって少しは不安が取れたようだった。
「さ、そろそろ寝るか？」
「そうね。」
　康平がベッドに入ると礼子が横に割り込んでくる。
　礼子は康平の胸に額を預けゆっくりと眼を閉じていった・・・・・