（５３）

　礼子は、ベッドから、なかなか出てこなかった。
「礼子、早く飯作ってくれよ。」
「こ、康平、・・・・・・今日、会社・・ゆっくりいくわ。・・・」
　礼子は、一昨日の鬱憤を昨夜、康平に要求したものの康平の執拗な責めで睡眠不足と身体の脱力感に襲われていた。
　康平が笑いながら礼子を叱責する。
「なんだ情けないぞ。」
「だってぇぇー・・あんな激しくされたら・・・凄かったんだもの・・康平・・」
「何言ってんだ。レベル上げてくれって言ってたじゃねぇか。」
「うぅーん・・・・でも、康平ってタフね。」
　康平が冗談っぽく礼子に答える。
「フッ、フッ・・今日もやるか？」
「今日だけは遠慮しておく。アソコが壊れちゃうわ。」
「フッ・・さ、飯だけでも作れよ。亜美も遅刻するぞ。」
「うん、わかった。」
　礼子がベッドから起き上がる。
　何も身につけていない身体にシルクのガウンを羽織った。
（ふーむ・・やっぱイイ身体してんな・・。）
　康平は、股間にむず痒さを感じながら礼子とキッチンに向かった。

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「じゃ、行って来るぞ。お前も遅刻するなよ。」
「はぁい。いってらっしゃい。」
（さぁ、今月も頑張るか）
　
　康平が会社に着くと美紀と恵美子が待ってたかのように、二人で近づいてきた。
「よぉ、おはよう。」
「おはようございます。」
　二人が何やら意味ありげな笑みを浮かべている。
「なに、笑ってんだ二人とも・・気味が悪いな。」
「ね、局長・・今夜暇ですか？」
　美紀が尋ねる。
「ああ、特に用事はないよ。３人で飯でも食いにいくか？」
　恵美子が答えた。
「ええ、それもいいんですが・・その・・この間から美紀と相談してて・・・」
「・・ん？・・なにを・・」
　言い難そうな恵美子に代わって美紀が説明する。
「あのね、局長。・・そのー・・・３Ｐやらない？」
「えっ？・・・・３Ｐ・・を、誰と？」
「私たちとに決まってるでしょ。」
　康平は、しばし二人の言ってる意味が解らなかったが仲のいい二人だし、お互いが康平と関係を持っているのを知っているために、こういう話になったのであろう。
　康平は、にやけながら即答する。
「絶対にやります。」
「ホラね、恵美子。」
　美紀が笑いながら恵美子に答えた。
　康平が怪訝そうに聞き返す。
「ホラね・・ってどういう意味だよ。」
「え・・いえ・・その・・局長は絶対断らないわよって恵美子に・・。」
「・・・・・美紀っ。俺が、まるで飢えたライオンみたいじゃねえか。」
「ふふ、でも、そのにやけた顔を見てると、そう思われてもしょうがないわよ、局長。」
　康平は苦笑いしながら、今夜の時間を指定した。
「解りました。じゃ終わったら駐車場で待ってます。」
「ああ。　よーしっ、今夜の為に身体を休めておこう。」
　そう言いながら康平はオフィスに向かった。

　席に座ると北原から電話が掛かってきた。
「おはようございます。」
［康平、至急、社長室に来てくれ。］
「・・はい。」
　康平は電話を切ると足早に社長室に向かった。
（何だろうな？　また厄介な話かな・・）
　社長室をノックし康平は中に入った。
　社長を中心に専務の町田、北原、新常務になる大阪支店長の立川が顔を揃えていた。
　康平が立川を見て声を掛けた。
「あ、立川さん、帰っておられたんですか。お久しぶりです。」
「ああ、お前も、元気そうだな。活躍は聞いているよ。」
「ありがとうございます。」
　立川は、康平の最初の上司で入社間もな康平を鍛え上げた男だった。
　当時、北原が建設課長で、補佐を立川が務めており北原とも気の知れた同士である。
　当時、立川は厳しいながらもひどく康平を可愛がり、康平が侵した失敗も全て立川が責任を負ってくれる親分肌の人間だった。それだけ康平に目を掛けてくれていたのだ。

　立川は大阪での大規模な開発事業を終え太平洋製鉄に莫大な営業利益をもたらした功績が認められ、４月から新常務として帰ってくる事が決まっていたのだ。

「先日の内辞で、立川さんが帰ってくることを知って喜んでいたんですよ。」
「そうか、ありがとう。」
　康平は、社長に促され席に座った。
　険しい顔で社長が康平に声を掛ける。
「荒尾君、とんでもない事になった。」
「・・は？」
（・・やけに深刻そうだな。）
　専務の町田が早速、康平に話を始めた。
「荒尾君、漏洩事件といい、続くときは続くもんだ。また君に動いてもらいたい。」
「今度はなんですか？」
　専務が立川に康平に説明をするように求めた。
「実はな、康平・・・」
　立川が康平に説明を始めた。
　康平は、みるみる顔色が変化していく。
「な、何ですって・・イン・・サイダー・・ですか？」
　康平が、顔を強張らせて絶句した。
　話はこうだった。
　１７年度から始まる新空港建設に関連する事業で、内密に事務を進ていた太平洋グループの太平洋商事の専務がインサイダー取引をしている噂が大阪支店の立川の耳に入ったのだ。
　太平洋商事は大阪に本社を置いており立川の居た大阪支店とは目と鼻の先だ。
　太平洋グループの空港建設情報に接する立場にある太平洋商事の専務が、特別な立場を利用して新空港建設を含めた会社の重要な内部情報を、ある会社に流そうとしているという事だった。
　情報が公表される前に会社の株を売買しようとする動きを掴んだ大阪のある会社役員から立川に密告があり事が発覚したのだ。
　このような取引が行われると、一般の投資家との不公平が生じ、証券市場の公正性や健全性が損なわれるおそれがあるため証券取引法において規制されいる。

　社長の酒井が声を大にして言う。
「噂だけでも流れるのを阻止しなければならない。新空港建設は鉄鋼部門の我々が主導権を握る。入札を終えた時も各建設業界から期待の声が大きかった。
　国からも事業が始まる前に問題が起きないよう釘をさされたばかりなのだ。」
　町田が続く。
「そして６月の株主総会も無事にすませたい。しかし、もし事実だとしたら・・・」
　立川が康平に再度説明をした。
「康平、あくまで、まだ噂だ。真相はわからない。しかし事実となると入札も取り消される・・・」
「・・はい・・しかし、一人では無理な事ですね。」
「背後で動いている人間がいるということだ。」
「・・・・背後・・で。」
「康平・・大阪で、クビになった前常務の桑原を見たよ。奴らが絡んでいる。」
「えぇっ！・・」
「そして、飯田もだ。」
「あ、あの二人、まだ組んでいたんですか。」
「ああ、動きやすいはずだよ。この間までうちの役員だったんだからな。なんせ、桑原と太平洋商事の専務の近藤は同期で現在も仲がいい。」
　康平の顔が怒りで紅潮してくる。
「全く、懲りていないようですね。」
　北原が結論を言う。
「今後は１０年掛けて、これ以外にも大事業が続くんだ。太平洋関連会社であっても危険因子は全て排除する。太平洋商事とて例外ではない。荒尾君、やってくれるね。」
「当然です。今度は、ただでは済ませません。今回は手段を選ばずにやります。」
　康平が、冷笑して答えると、社長ら役員達の背筋が凍った。
　唯一、立川が成長した康平を見つめ目を細めている。
「荒尾君、一応、今回の武器として君を太平洋グループの役員理事に推薦しておいた。勿論、立川君もだ。これで製鉄は君を含め５人が役員理事を兼ねる事になる。」
「わ、解りました。」
　太平洋グループの役員理事とは少々驚いた康平だったが、今はそんなことを気にしている暇はない。
　その時、立川が康平に質問をしてきた。
「康平、何日で終われる？」
「あっという間に終わりますよ。せいぜい２、３日ってところでしょう。」
「よし、頼むぞ。」
「解りました。今から早速、大阪に飛びます。」
　康平は、デスクに戻ると礼子に電話し事を説明する。
「えぇぇー、また大変な問題に・・・」
「という事で今から急遽、大阪に出張することになった。。」
［分かったわ。　いつ帰ってくるの・・］
「んー、そうは長くならんよ。２、３日で終われる。」
［そう。くれぐれも気をつけてね、康平。］
「ああ。大丈夫だ。行って来るよ。」
　康平は電話を切ると、しばらく外を眺めて考え込んだ。
（んー、勉強の為に彼女らを連れて行くか。）
　康平は美紀と恵美子に連絡した。
　詳しい説明はせずに出張とだけ告げる。
　康平は二人の所属部長に説明をし許可を取った。
　そして二人に私服に着替えてロビーで待つよう指示する。
　康平は黒田と東堂にも連絡をし大阪に着くまでに桑原と飯田の居場所を確認しておくように依頼した。
　さっそく準備をし康平はロビーに下りていく。
　既に美紀と恵美子は待っていた。
「局長、出張って・・。」
「ま、新幹線の中で説明するよ。」
「着替えも何もないんですけど。」
「そんなもんは途中で買えばいい。でも、ノーパンでもいいぞ。」
　さすがに二人は、ムッとしたが康平との出張に気を良くしているのも事実だった。
　３人は会社の車で駅に向かった。
　駅に着くと大阪行きの切符を購入する。まだ乗車には４０分ほどあるため康平は美紀にカードを渡し必要なものを購入してくるように告げた。
「わぁ、局長、太っ腹ー。これで買っていいんですよね。」
「ああ、会社の経費で全部落とすからいいよ。セクシーな下着を買ってこいよ。」
　美紀と恵美子は舌を出して康平をからかう。
「じゃ、上に行って来ます。」
「乗車に遅れるなよ。」
「はぁーい。わかってます。」
　二人は、駅ビルのデパートに走った。
　康平は、待合室で腰を降ろしコーヒーを啜った。
　さっそく今回の作戦を練る。
　今回は、下準備はいらない。太平洋商事の専務から話を聞き事実を確認するだけでいい。ただ、口を割らなければ手荒い事も必要となる。なんせ桑原と仲がいいという事はその可能性も極めて高い。
　もし事実なら康平は、桑原と飯田を、かなり手荒く始末するつもりだった。

　康平が２杯目のコーヒーを飲み終えると美紀と恵美子が買い物を済ませて戻ってきた。
　康平は目を丸くする。二人が肩から大きなバックをぶら下げていたのだ。
「な、なんだ、そのでかいバッグは？」
　恵美子が答える。
「フフッ、スーツも２着買っちゃった。」
　美紀が、色っぽい目で続いた。
「でも、ちゃんとセクシーショーツも買ってきたわよ。」
「き、君らな・・・下着はいいとしても・・スーツまで・・・・」
　康平は、それ以上は言葉が出てこない。
　苦笑いしながら女の図太さに呆れていた。
「さぁ、ホームへ上がるぞ。」
　康平ら３人は、ホームに上がり列車を待つ。
　間をおいて康平の携帯電話が鳴った。東堂からだ。
「もしもし、んむ。そうか・・・・わかった。メールで住所を入れておいてくれ。」
　東堂が桑原の居所を掴んだようだ。
　居場所さへ判れば後は会いに行くだけである。
　康平は真後ろの売店でビールを購入した。

「局長、仕事に行くのにお酒飲むんですか？」
「ああ、君たちも飲むか？」
　美紀と恵美子は怪訝な表情で見詰め合う。
「本当に出張なんですよね、局長・・」
「当たり前だ。遊びで経費を使う訳が無いだろう。」
「そ、そうですよね。」
「それに、さっきのカードも俺のカードなんだぞ。」
　二人は康平の言葉に恐縮したようだ。
「ま、君等の為になら、金は惜しまないがね。・・お、来たようだぞ。」
　二人は康平の言葉に喜びを隠せなかった。
　列車が到着し３人は新幹線に乗り込んだ。
　席に座ると恵美子が出張の内容を聞いてきた。
　康平はビールの栓を抜き一口飲むと、丁寧に説明をし始めた。
　全てを聞き終えた二人は、相当驚いているようだ。
　美紀が口を開く。
「局長・・そんな大変な仕事を私たちが手伝うんですか？」
「なんだ、センターの係長になろうって者が、ビビッってるのか？」
「い、いえ・・あまりにも大変そうね・・・難しいような・・。」
　康平が笑いながら答えた。
「いいか、前も言ったが実際には、センターの係長以上は裏家業の様な仕事だ。今回は見てるだけでいいが　一応、勉強のために君たちを連れてきたんだよ。」
「そ、そうだったんですか。」
「ま、ビックリする事もあるかも知れんが、よく俺のやりかたを見ておくんだ。」
「はい。」
　二人は頷きながら返事をした。
「ところで、飲むか・・ビール・・」
　美紀と恵美子が目を合わす。
　康平の話を聞いて興奮と驚きが混同したのであろう。
　喉も渇いたようだった。
「じゃ・・１本だけ頂きます。」
　康平が話を切り替える。
「そう言えば今夜だが・・」
　二人が康平を見る。
「今日は餌だけ撒いて、今朝の約束どおり３Ｐを・・・ククッ。」
　二人は康平の、切り替えの早いおどけた態度に、やっと笑みを浮かべる。
　しかし、美紀も恵美子も本当に夜を期待しているようだ。
　仕事外の話に熱中していたのか、あっという間に１時間半ほど過ぎ、新幹線は新大阪駅に着いた。
「さ、とりあえずホテルに荷物を置いてこよう。」

　康平たちは、タクシーに乗り、東堂が予約しておいてくれたホテルに向かう。
　１０分ほどで到着すると美紀たちがフロントに鍵を受け取りにいった。
「はい、局長、鍵です。」
「お、サンキュー。さっそく太平洋商事に出向くから、１０分後に、ここへ来てくれ。」
「わかりました。」
　康平ら３人は、部屋に荷物を置き再度ロビーに集まる。
　康平の携帯に東堂からメールが入った。
　早速確認して薄笑いを浮かべた。
（ほぉう・・これはこれは・・。）
　美紀と恵美子がロビーに現れ、３人はタクシーで太平洋商事に向かった。

　到着した３人は、受付にいき康平が社長の在席を確認する。
「太平洋製鉄の荒尾と言いますが、既に連絡を取っていますので社長に確認をお願いしたいのですが。」
「お疲れ様です。お待ちくださいませ。」
　受付嬢が確認を取ると早速、秘書がロビーに現れ康平たちを案内した。
　秘書がドアをノックする。
「失礼します。太平洋製鉄の荒尾様がお見えになりました。」
「お通しして。」
「どうぞ。」
「失礼します。太平洋製鉄の荒尾です。」
「遠い所、申し訳ない。今朝方、酒井社長から連絡を頂いて愕然としたよ。」
　康平たちはソファに座り早速、今回の内容を社長に説明し康平が行う役割を話した。
「うーむっ・・で、荒尾君は、まだ専務とは会っていないんですね。」
「ええ。」
「しかし、彼がねぇ・・・」
「とりあえず当社の前常務の桑原と密会している事は間違いありません。」
「可能性は？」
「私の部下が、調査していますが漏洩情報を捕らえたという話は、まだ無いようです。」「そ、そうか。」
「恐らく、今はまだ、前の段階を踏んでいるのでしょう。」
「せめて、なんとか未遂で終わらせたいものだ。」
「太平洋グループとしては噂だけでも流したくないというのが本音です。」
「うむ。その通りだね。で、荒尾君どうする？」
「近藤専務に会社を辞めていただきます。」
「な・・しかし、まだ証拠が・・。」
「社長、危険因子を全て排除するというのが太平洋グループの考えです。部下が色々な面から近藤専務を、調べましたが、なかなか曲者ですよ。」
「・・・・」
「一昨年、専務に昇格されてから計３回の資金流用も確認しました。」
「な・・ほ、本当かね？」
「はい、ざっと億単位です。」
　商事の社長は、驚きを隠せなかった。
　そして、美紀と恵美子も聞きながら驚いていた。
　わずか、２時間ほどの間に東堂と黒田が調べたのであろう。
「んーむ・・荒尾君、全て君にお任せする。よろしく頼みます。」
「はい。とりあえず今日は専務とは接触を控えます。」
　
　康平たちは、太平洋商事を出た。
「俺は、ちょっと寄る所があるから君たちはホテルに帰ってもいいよ。」
「はい。じゃ先に帰ってます。」
「ああ。」
　康平は、二人と別れると東堂が携帯に送ってくれた桑原の住所を確認し、住まいを見に行く事にした。
　タクシーを使って近くまで行くと康平は歩いて場所を探す。
（ん、ここか？）
　そこは住宅街にあるマンションだった。
　康平が立ち止まって煙草に火を付けると見覚えのある女性が前から歩いてきた。
（ん？・・・飯田の女房・・・・・）
　女は飯田の妻、千賀子に間違いなかった。
　千賀子がマンションに入っていった。見渡せる廊下のため康平が、しばらく監視しているとノックしたドアの中から桑原の顔が確認できた。
　千賀子が桑原に抱きつく。
（ん？・・・いまいち状況が掴めんな。・・ひょっとして。）
　康平は、社に電話し東堂を呼び出す。
「東堂か。」
［あ、局長。どうですか、そちらは。］
「ああ、妙な感じがするんだ。桑原の電話番号はわからんか？」
［携帯なら、わかりますよ。大阪支店に掛けたときの着信が残っているようですから。］「直ぐ教えてくれ。」
［わかりました。一旦切ります。］
　数分で東堂から返信が掛かる。
「ＯＫ、わかった。」
［それから局長、桑原ですが離婚しているようです。］
「ふむ、やはりそうか。」
［えっ？　そうかって・・」
「恐らく桑原と飯田の女房は出来てる。その線で調べてくれんか？」
［はい、わかりました。］
　康平はとりあえずホテルに帰る事にした。

　ホテルに戻り部屋に入ると美紀と恵美子が康平の部屋にいた。
「お帰りなさい、局長」
「おう、居たのか。何処かへ行けばよかったのに。」
　恵美子が答える。
「一応、私たちも仕事できたんですけど。」
「はは、そうだな。」
　その時、康平の携帯がなった。
「ああ、俺だ。・・・ふむ・・・ほぉう、なるほど・・・」
　しばらく康平が東堂の話を聞いている。
　そして、笑い出した。
「よし、わかった。専務に簡単に終わると言っておいてくれ。」
　康平は電話を切った。
「局長・・・どうしたんですか。」
　康平が美紀と恵美子に説明をした。
　飯田は東洋鋼を懲戒免職になってから年齢的にも働き口が無く桑原に相談をもち掛けたのが始まりだった。
　同じく桑原も懲戒になった後、女房に愛想をつかされ離婚をしており苦悩の果て、仲の良かった大阪支店の専務を尋ねたのだが、ある事から近藤が資金流用している事を桑原は偶然掴み、反対に近藤を脅して誑し込んだのだった。
　黙っててやる代わりに流用の一部を自分に回す事を条件に・・・・。

　一度、大金を手にすると、もっと欲しくなるのが桑原のようなタイプである。
　さらに桑原は近藤に知恵を貸して共謀し、インサイダー取引を近藤に持ちかけ、自社株と近藤本人が個人で持つ株の差替えを助言したのだろう。
　たぶん近藤は、桑原に流用を密告されるのを恐れ言いなりになっている。
　しかし近藤も馬鹿ではない。恐らく桑原の要求を実行するか迷っている段階と康平は判断した。

　一方、羽振りのいい桑原を飯田の妻、千賀子は見逃さなかった。
　歳も飯田とは、かなり離れており結婚してから何一つ不自由しない生活をしてきたため今の暮らしに不満をもっているのは事実だ。
　しかし、夫とは反対に桑原の金作りの上手さと優雅な生活に目が眩み夫に隠れて桑原と密会を繰り返していたのだ。
　桑原は自分に近づく千賀子を飯田に帰したくないのだろう。
　もはや桑原は飯田に対し、助けようと気持ちは全く無い。
　もともと千賀子の身体に惚れＳＭクラブで痴態を繰り返していた仲だ。
　千賀子も口の上手い桑原に乗せられたと判断してもいいかもしれない。
　美紀が口を開く
「ふーん、その飯田って人も気の毒なものね・・。」
「ま、確かにな。しかし飯田の女房も女房さ。悪党は彼女だろう。」
「で、局長、さしあたってどうするんですか？」
「んむ、明日、近藤専務と会う。」
「それで？」
「近藤は今、恐怖で怯えている。奴を囮にさせ桑原を誘き出す。そして今回の真相を暴露させる。当然そこには俺もいる。」
「なるほど。」
「ま、その場所で解決できるだろう。」
「それだけですか？」
「ふっ、懲りない桑原には、ちょいと痛い目にあってもらう。当然、飯田の女房もだ。」「面白そうね。」
「美紀、呼び出す場所を段取りしておいてくれ。俺は近藤専務を連れてその場所に行く。」
「はい。」
「恵美子は、黒田と連絡を取って株主全員の売買を確認し変動を調査した後、調整を検討しておいてくれ。」
「はい。」
「さて、俺はシャワーを浴びて少し寝るから頼むぞ。あっ、今夜は下の料亭で飯でも食おう。」
「やったー。」
　二人が歓声を上げる。
「その後は、お楽しみの・・ククッ・・」
「もう、局長ったら・・この大変なときに・・。」
　そう言うと二人は自分達の部屋に戻って早速、康平の指示に取り掛かった。