(６)

−　翌朝　−

「じゃ、行ってくる。」
「今日は、いつもとおりの時間？」
「ああ。」
　礼子は、康平を見送ると亜美を幼稚園に送り、そのまま会社に向かった。
　半ば礼子は憂鬱だった。（んー、やっぱり行きにくいものね・・。）

　礼子は電車の中でも考え事をしていた。妙に山岸の顔が浮かでくる。
　昨々日からの山岸との情事が鮮明に蘇ってくるのだ。

「荒尾係長おはようございます。」
「おはよう。今週も頑張ってね。」
　デスクでは、早くもみんな仕事に取り掛かっている。
　礼子は、ふと課長席を見た。
　まだ山岸は出社してないようだ。
「森野さん、課長は？」
「今日は、本社会議と契約会議で出社できるか分からないそうです。。」
「そ、そう。」
　礼子は、ちょっとホッとした。
　席につくと、今週のスケジュールを確認し仕事に取り掛かかる。
　礼子の忙しい１日が始まった。
　仕事中は一切、他事を考える暇が無いほど忙しい。
　今日はいつになく、時間が進むのが早かった。
　ふと時計を見る。
（あぁー、もう５時か。）
　結局、山岸は会社に顔を出さなかった。
　礼子は、後片付けを始めた。
「係長、お先に失礼します。」
「ご苦労様、私も、もう終わるわ。」
「それなら係長、たまには一緒に飲みに行きませんか？」
　部下の女性３人が礼子を誘ってきた。
「ありがとう、でも今日は帰るわ。また今度・・。」
「そうですか、残念です。」
「また誘って。」
「分かりました。じゃ失礼しまーす。」
　礼子は、そんな気分ではなかった。
　妙に心が落ち着かないでいたのだ。
　山岸のこと・・？いや康平に対しての後ろめたさ・・・？
　そんなことを考えながら礼子は、帰宅についた・・・。

　礼子が家に差し掛かると康平もちょうど車を車庫に入れてるところだった。
「あっ、康平、お帰り。」
「よっ、ご苦労さん。今日は早いな。」
「うん、ねぇ、私のバッグ持っていって。亜美を迎えに行ってくるわ。」
「ああ、優子さんに、何時もスマンなって言っておいてくれ。」
　優子とは、礼子の姉で、自宅からすぐの所に住んでいる。
　姉夫婦には子供がなく康平も礼子も働いているため日中はよく亜美の面倒を見てもらったり幼稚園の迎えを頼んでいるのだ。
　亜美も優子に慕っており、一人でも姉のところへ遊びに行ったりしている。
　子供のいない優子たち夫婦にとって亜美は自分の子の様に可愛がってくれていた。

・・・・・

　食事を済ませ家事を終えた礼子は、風呂から上がり寝室に入ってきた。
　康平は、ウィスキーを飲みながらニュースを見ている。
　康平が礼子の方に振り向き酒を勧めた。
「おっ、お前も飲むか？」
「んー、ちょっと貰おうかな。」
　二人は軽くグラスを合わせウィスキーを飲りはじめた。
　康平はニュースに没頭していたが、礼子はタイミングをはかり例の件を話し掛けようとしてい。
　その時、康平は何かを思い出したように礼子に喋りかけてきた。
「そう言えば礼子、この間、俺が福岡にいってた日に・・」
　礼子は一瞬胸が締め付けられた・・・。
「な、何？」
「何やってた？」
「・・・えっ？」
　礼子は、既に康平が全て分かっているような様子を感じていた。
　そして、一瞬言葉が出てこなかった。
「ふっ、隠さなくてもいい、正直に言えよ。」
「え・・・な、、、」
「おい、おい、ビックリするなよ、別に怒ってるんじゃないぜ俺は。」
「私も・・別に・・。な、何？」
「実は会社の友人が日曜日の朝、お前と中年の男が駅裏のホテルから朝出てくるところを見たって言ってたんだ。」
（ァ・・・・。）
「礼子、正直に言えよ。」
　礼子は、言い逃れるつもりは一切ない。
　それに嘘をついても何時かバレるし康平に隠し事はしたくない。
　礼子は言われるとおり正直に康平に打ち明けた。
「・・あの・・実は・・ね、会社の上司と・・・一緒に・・・」
「寝たのか？」
　礼子は康平の率直な質問に、しばらくの沈黙していたが・・・
「・・・・・・・・・・　ゥン！」
「そうか。上司とか。」
「・・・うん、同じ広報部の、、課長・なの・・・。怒ってる・・・よね。」
　康平はしばらく言葉を考えた後、真剣さの中にも笑顔で答えた。
「礼子、前にも言っただろう。俺はな、お前を愛してる。・・たぶんお前もだろう。」
　礼子は康平の言葉に反射的に答えた。
「ええ、もちろんよ。」
　礼子は真顔で応える。
「でも、愛意外にも・・愛し合ってるというだけじゃなくＳＥＸも異常なくらい好きだ。」
　礼子は顔を赤くした。
「間違いなく俺とお前の愛が永遠なら、絶対に二人で愛の終着を迎える自信があるなら、俺はお前が他の男と寝て違う快感を得るのも二人の為じゃないかって、実は前々からずっと考えていたんだ。」
　礼子はやはり、、と言う思いがあったが今一度、康平の本音を聞きたかった。
「それは色々な経験って・・こと？」
「ああ、そうだ。」
「・・本心。」
「ああ、本心さ。あくまで俺自身の考えだけどな。」
「・・・」
「何、ムッっとしてるんだ。事実お前は俺以外の男と肌合わせてるじゃねえか。」
　礼子は康平の言葉に下を向いた。
「ま、今回のことは本当に怒ってない。っていうか俺自身がそれを期待していたのかもしれない。」
　礼子は、康平の言っている意味がよく理解できなかった。
「どういうこと？」
「んー、何と言うか・・・、今の話の続きになると思うんだが・・・」
　康平は少し間を空けた後・・
「そうそう、たとえば自分の女房が他の男と寝てるのを想像したりするといわゆる怒りや嫉妬心を超越した性・・快感を感じるっていうのかな・・。」
「・・・」
「もちろん、それは、お互い夫婦が理解した上でのことだけどな・・・」
「・・・・」
　礼子は、今、康平の言った言葉を必死で考えていた。
　そして康平の口から迷いを解き放す言葉がでた。
「俺はな・・見たいんだ。俺たちの・・・愛欲の向こう側が・・・・。」
　康平が話してる最中に礼子が割り込んだ。
「康平、解ったわ。」
「ん？」
「私もＳＥＸは好き。特に結婚して康平に色々教えられるまでは・・そして性に関する考え方まで・・。私は康平を愛してる。私の康平に対する気持はエンドレスよ。」
「ああ、俺もだ。」
　礼子は自分の気持を伝えた。そして康平の考えも理解できた。
　礼子は思った。康平の願望は礼子の中にも存在していたのでは・・と。
「あのね、課長と一緒の時、思ったの。」
「何を？」
「たぶんバレても康平は怒らないだろうなって・・。」
「ん、それで？」
「一緒にいて、康平の考えや雰囲気で何となく察しがついていたわ。」
　康平は礼子の言葉を黙って聞いていた。
　康平も礼子がどこまで自分の性を示し発展するのか興味があるからだ。

　しばらく礼子の話を聞いたあと・・・
「で、礼子から誘ったのか・・。」
「うん。・・・でも不思議だった。自分の意思に反して無意識に誘っていたのよ。」
　康平は少し笑いながら答えた。
「ふむ、何となく理解できるな。」
「急にそういう気分になっちゃったの。私、おかしいかしら・・・？」
「いや、誰しも男女問わずに愛する人以外と肌を合わせたいっていう願望は持ってると思う。」
「康平もそう？」
「ん、まあな。」
「ね、浮気したことある？」
「独身時代にある。」
「えぇーー、私と付き合ってる時？初めて聞いたわ。」
「ま、いいじゃないか。そんな昔のことは・・。」
「じゃ、結婚してからは？」
「残念ながら無い。」
「・・・・」
　礼子は康平が嘘をついてるとは思わなかった。
　今回の事からも、そして仮にそうなら康平の性格からして正直に言うはずだ。
「何だよ。」
「ううん、別に何でもないわ。」
　礼子は胸のつっかえが取れたのか康平に寄り掛かってきた。
　そして微笑しながら康平に甘ったるい声で語りかける。
「康平、私の身体調べてくれる？」
「・・・」
　康平は礼子の言動を無視して・・
「ところで礼子、やっぱ男として聞いておきたいんだけど・・。」
「何？」
「その上司って上手かったか？」
　礼子はクスクス笑いながら答えた。
「全然康平とは、Ｈのレベルが違うヮ」
「ん？」
「んー、なんていうのか、康平とのＨは、失神しちゃうくらいだし、それに興奮度も凄いし期待はずれなんか全くないけど・・。課長は、もうオジさんだし雰囲気で感じるっていうのかな・・、チョット上手く言えないわ。」
「ふーん。じゃ、その課長を夢中にさせてやったら？」
「えぇー・・・？」
　康平は、話を切り替え言った。
「ま、俺も明日から頑張ってハンターになるかな。」
「康平が他の女性を抱いたら、私にするみたいな事やるの・・？」
「さぁー、どうかな？」
　康平は礼子を見ながらウィスキーグラスに口をつけた。
　礼子は康平に抱きつき唇を合わせた。
　その夜、礼子は康平に淫極の世界に連れて行かれていった。