（９５）

　康平は、礼子に手を上げてＩＫ観光を出た。
　センターに戻るためタクシーを拾おうと中央通りに出ると、一台の車がクラクションを鳴らし康平の横で止まった。
　康平を車内から呼ぶ一人の男・・・
「荒尾さん、よかったら送りましょう。」
　中を見ると先ほどの小野口という男だった。
「・・貴方は・・先ほどの・・。」
　小野口に興味の沸いていた康平は軽く誘いに応じた。
「では、お言葉に甘えて。」
「どうぞ。」
　康平が小野口の車の助手席に座る。

「センターわかりますか？」
「ええ。それより急ぎでなければお茶でもどうです？」
　康平は、考えた。
（何か面白い話でも聞けそうだな。）
「いいですよ。じゃ、センターには駐車場もありますし、下がカフェになっていますのでそこでどうです。？」
「ええ、いいですよ。」
　小野口はセンターに車を走らせた。
「あ、荒尾さん、失礼しました。あの・・はじめまして小野口と言います。」
「こちらこそ、失礼しました。荒尾です、先ほど妻から聞きました。よろしく。」
「その・・驚いたでしょ？　急に送るなんて車を止めてしまって。」
「ええ、まぁ・・・・」
「実は、荒尾さん。私、最初から貴方を誘うつもりでいたんです。」
「・・・？」
「実は、貴方が今日壇上に立つまでは、感じなかったんですが・・・・その・・・ちょっと普通の人間とは違うなと感じまして。」
「・・・・違う人間とは？」
「荒尾さんは、本当に太平洋グループに勤める企業人ですか？」
「・・・ええ。そうです。」
「そうですか・・・私と同じタイプの人間に見えましたので・・・」
　康平は小野口の質問が理解できなかった。
（何を言ってんだコイツ・・）
「実は私、貴方をスカウトしたいんです。」
（・・・やはり・・・・・何か・・・あるな。）
「はは・・・・芸能人にですか・・それとも・・」
「荒尾さん、話は真剣なんです。」
「・・・・」
「我々に力を貸して欲しいのです。」
「我々？　個人的にですか？」
「荒尾さん・・・・貴方を信用していいですか？」
「信用とは？」
「今から話す話を黙っていてもらえますか？」
「・・・・・即答できませんね。私の会社に関する事ならＮＯと言うかも。」
「決してご迷惑はお掛けしません。」
（この男の雰囲気といい俺を見抜く眼力といい只者では無いな・・・）
　そうこうしている内に、車はセンターに到着した。
「ま、小野口さん、お茶でも飲みながら話を聞きましょう。」
「・・・ええ、わかりました。」
「部下に早退すると言って来ます。すぐ戻りますので。」

　康平は、小野口をセンター下のカフェに待たせ小野口が座った席を確認すると一旦デスクに戻った。
「遠藤っ。」
「はい。」
「接待室の７番テーブルの会話を録音してくれ。」
「はい。」
　接待室とは、センター下のカフェの事であり、警戒する客の眼をごまかすためセンターが経営する直営のカフェレストランであった。
「録音モニターを通して局長室の康平のスピーカーから小野口が何者かと電話で会話する声が聞こえてきた。」
［いま、センターの荒尾局長と接触しました。・・・はい・・・］
　一緒に聞いていた東堂が康平に問い掛ける。
「局長、誰です？　また何かあったんですか？」
「それを今から確認して来る」
　その時、スピーカから金属が剥がれるような異音が聞こえた。
「きょ、局長・・・」
「気付かれたようだな・・。ま、いいさ。・・行ってくる。」
「気をつけてください。」
「ああ。」
　康平は、下のカフェに向かった。
　店内に入ると小野口が康平を見つめた。かすかに笑い顔を見せ、手に持った小型マイクを軽く上に上げている。
　康平は小野口の前の席に腰掛ける。
「・・やはり、この店もセンターの一部でしたか。」
「ふーむ。貴方・・・・・何者です。」
「先ほども言いましたが是非、荒尾さんに協力をしてもらいたいことがあるのです。」
「・・・・・話を聞きましょう。」
　小野口は、康平を暫し見つめた後、ゆっくりと話をはじめた。
「私の本職は、ある組織に属する始末屋なんです。」
「始末屋？」
「ヒューマンハンターといえばお分かりかも・・。」
　康平の眼が鋭くなった。
「・・・簡単にいうと殺し屋ですか。」
「時には、そういう場合も無きにしも非ずですが・・実質はターゲットを社会復帰させないように処理する仕事です。言うなれば世界平和に寄与する仕事とでもいいましょうか。」
「ま、同じ事ですな。・・・・で、私に協力とは人殺しを手伝えと？」
「いえ。新会社を作って欲しいのです。」
「新会社を？　　何で？・・何故、私に・・。」
「貴方の実力は、既に我々組織の中では有名です。」
「私が・・・ですか？」
「貴方の実績、そして実力を全て調べさせてもらいました。」
「・・・・・」
　康平の雰囲気が更に変貌した。周りの空気が一瞬にして凍りつく。
　しかし、小野口も動じなかった。康平とは種類の違う凄みを発し康平と火花を散らしている。
　小野口が口を開く・・・・
「さすがですね。私と対等に視線を合わせれるとは。」
　康平は思った。
（・・・・・・並大抵の男ではないな。）
　康平は、この男と会った以上、全てを知らなければ気が済まなくなった。
　まして、自分の事を全て知っている限り、これだけでは終われない。
「・・・貴方の組織を詳しく知りたい。」
　小野口は、康平の心を探るように、じっと見続けていた。
　視線を外さぬ康平・・・。
「わかりました。話しましょう。・・・・・・・今、世界中では紛争が絶えない。そう戦争です。我々の組織は、それらの国家から極秘依頼を受けて武器を調達し提供する橋渡しをしているのです。それには世界にも応対できる貴社の・・・」
「太平洋重工ですか・・」
「・・・の小会社を中国のある場所に作ってもらいたいのです。」
「馬鹿げた事を・・・・正直、聞く耳を持てませんね。」
「太平洋グループに金銭面は負担をかけさせませんよ。すべて我々の組織が持ちます。そして作って直ぐに正規譲渡売買という形で手放し、一切関係が無い事にしてもらえばいいんです。貴方ならできるのでは？」
「・・・・なるほど。読めた。うちの会社を使えば疑いなく大工場が出来る。そして世界の諜報機関にも、さほど疑われる事無く生産が出来るから、と。」
「さすがですね。その通りです。」
「なぜ、ＩＫ観光にもぐりこんだんです？」
「貴方の奥様に近づくために・・・。」
「ふ、以前にも、そのようなことがありました。アメリカのワールドハーバーの人間が私をスカウトしようと妻に近づいて策略を立てたんですが失敗しましたよ。」
「吉竹章さんですね。」
「ほぉぅ、知ってるんですか？」
「彼にも依頼しました。しかし断られたので・・・・・・消えてもらいました。」
「・・・！」
　小野口は、かすかに口で笑いを見せた。
「・・・・・小野口さん、今日は、これで失礼します。」
「荒尾さん、よくお考え下さい。」
　康平は、席を立つとセンターを出た。
　ちょうど礼子たちがセンター前の居酒屋に入ろうとしていた。
　康平に気付いた礼子が康平に声をかける。
「康平っ！」
　康平は、小野口の事に頭が一杯で礼子の声に気付かない。
　礼子が歩道を渡って康平に近づいてきた。
「康平ったら！」
「お、おう・・今から行くとこだったんだ。」
「もう・・・・私達も今来た所なの。」
　康平が目を向けると皆が頭を下げた。
　康平も軽くお辞儀をし礼子と歩道に歩いていった。

　センターのカフェから二人を見る小野口・・・・
（・・・・仕方が無い・・・あの手を使って荒尾の女房を・・。）

（９６）

「康平ったらっ」
「ん？　あ、すまんすまん。」
「どうしたのよ。さっきから考え事ばっかりして。」
「いや何でもない。」
　康平は礼子の部下達に囲まれながら次々と酒を注がれていた。
　みな、康平の話を聞きたがって色々と質問をしてくる。
　康平も気分を変えて、その場に順応していった。

　それから数時間、時計は１０時をさしていた。
　そろそろ、お開きにしようと礼子が言葉をかける。
　みな、若い連中ばかりで、場に乗って大騒ぎしている。
　そのまま、２次会に行く事になり康平たちも誘われたのだが、礼子が気を利かしたのだろう。体よく断って康平は礼子とタクシーに乗った。
「・・・康平、調子悪いの？」
「え、い、いや別に・・・」
　康平は、小野口の事、そして吉竹が死んだ事を礼子に話そうか迷っていた。
　しかし、話しても礼子には、訳がわからないだろう。
　まして、この間の事もあり心配を掛けたくない。
　康平は、今後の想定を立てることが出来ない事にイラつきを覚えた。

−　翌日夜　−

「康平、今日ね接遇顧問とかいう人が会社に来たのよ」
「へぇー、やっぱり観光会社だから、そういう人も雇うんだろうな。」
「うん。ま、私達の部署には、あまり関係ないんだけどね。」
「開発関係だからな。」
「だけど、その人、どこかで見たことあるのよねー。」
「・・・・ま、そんな事はいくらでもあるさ。」
「・・・・・そうよね。」
　康平は、それより小野口の事が聞きたかった。
　昨日、小野口とカフェレストで喋った事を、まだ礼子には話していない。
　いや、どうやって何を話したかという説明をし難かったのだ。
「礼子、今日、会社で変わった事は無かったか？」
「ええ、別に。・・・・・珍しいわね、康平が私の仕事の事聞くなんて。」
「そうか？」
　礼子は、康平の首に手を回し唇を合わせてきた。
　康平が潤った礼子の股間に手を入れる。
「康平・・・抱いてっ・・・」
　康平は、苛立ちを振り払って礼子を抱き上げるとベッドに向かった。

（とりあえず、会社と礼子に害が及ばない限り様子を見るか・・）

　康平は、礼子の愛撫に身を委ねていった・・・・・

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　ＩＫ観光　−

「岡本部長、資料室に行ってきます。」
「ああ、さすがやる気になってるな。ま、頑張りたまえ。」
「はい。」
　礼子は、資料室に向かった。

（・・ぁー・・腰がだるいわ・・ちょっと康平に甘えすぎたかな？）

　礼子は、昨夜の康平の責めを思い出しながら顔をほころばしていた。
　資料室に入って資料を見る礼子・・・
　１時間ほどたっただろうか・・・気が緩んだ礼子に眠気が襲う・・・
　小さくあくびをする礼子・・・
　軽く背を伸ばすとドアをノックして人が入ってきた。

　・・・・・・小野口だ・・・

「失礼、お邪魔していいかな？」
「あ、小野口次長・・どうされたんですか？」
「ああ、私も調べ事があってね。・・・眠そうだね。」
「ええ、活字を見ると・・」
　礼子は恥かしそうに答えた。
「ちょっと待っていたまえ。」
　そう言うと小野口は資料室を出て行った。
　しばらくして、カップコーヒーを二つ持って戻ってきた。
「ははっ、実は私も眠くてね。ここの資料室でサボろうと思ってきたんだが。君がいて、それも出来なくなった。」
　そう言って微笑むと小野口は、礼子にコーヒーを差し出した。
「コーヒーを買ってきたんだ。ブラックだがいいかな？」
「す、すいません。ありがとうございます。」
　礼子は、礼を言ってコーヒーを口に運んだ。
「はぁー・・美味しい。眠気が覚めます。」
「ははっ、ところで何を調べてるんだい？」
「ええ、経済手法の勉強を・・・」
「ほぉぅ、難しそうだね。」
「ええ、まったく次元が違う分野なものですから・・。」
　そう言うと、礼子は、急に眩暈を感じた。

（え？・・ん・・・どうしたのかしら。）

　礼子は身体に異変を感じた。
　壁が歪んで見える。そして身体が熱く火照ってきた。
　しばらくすると宙に浮いたように身体が軽くなり眼も虚ろで夢の中にいるような錯覚に陥った・・・・・。
　完全に意識は遠のいていく・・・・・

（・・・効いてきたようだな。）

　小野口は、資料室に備えてあるビデオカメラを礼子に向けて回した。
　そして礼子に近づき乳房を鷲掴みにする。
「ァァーッ・・・」
「気持ちいいのか？」
「・・アアァ・・・・イィ・・気持ちいい・・・」
　小野口は、礼子の状態を確かめるようにゆっくりと言葉をかける。
「荒尾君、立つんだ。」
　礼子は小野口の言うとおり立ち上がった。
「スカートとショーツを脱いで机に座れ。」
　礼子は言うとおりにスカートを脱ぐとストッキングと一緒にショーツを降ろし、そして机の上にあがった。
「足を大きく開いてマ○コを広げろ。」
　礼子は小野口の命令どおりに足を開くと指で蜜壷を大きく広げた。
「自分でオナニーしろ。」
　礼子は、頷き指の腹で女芯を擦り始める・・・
「ア○ルにも指を入れるんだ。」
　礼子は机に寝転んで下から手を回し菊門に指を挿入していった。
「・・クゥゥゥー・・・ンアァァァ・・いやぁぁぁぁぁー・・・イィィィィィー」
「俺を見ながらやれっ！」
　礼子は腰を上げて股の間から小野口を見つめた。
　礼子の蜜壷からは異常なほど蜜が垂れてきている。
　まだ数分も経たないのに机の上は水を零したように液体が広がっていた。

（フフッ・・・いい女だ・・）

「俺のモノが欲しいか？」
　礼子が激しく首を縦に振る。
　小野口はスラックスを降ろし怒張した肉棒を礼子に見せ付けた。
　そして、なにやらクリーム状の液体を肉棒に塗り礼子に舐めるよう促す。
　礼子は、飛びついて小野口の肉棒を口に含んだ。
　数秒後、礼子が淫声を発した。
「んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー・・美味しいィィィィー・・」
　小野口が礼子から離れる・・
　礼子は離れていく小野口の肉棒を握りながら口を開けて追っていた。
「イヤァァァー・・咥えさせてぇぇぇー・・」
　小野口は礼子を突き飛ばした。
「欲しければ腰を振って俺を誘え。」
　礼子は、充血した眼で腰を屈めると後ろ向きに腰を突き出し小野口に蜜壷を見せた。
　そして円を描くように腰を降り始める・・
「あぁぁー・・入れてぇぇー・・入れてぇぇー・・ぶち込んでぇぇぇぇぇぇぇぇー」
「こっちを向いて壁に背中をつけろ！」
　礼子は言われるまま背中を壁に付き小野口を見た。
「足を開いて腰を振れ。ちゃんと中を見せろよ。」
「ぁぁ・・は、はい。」
　礼子は蜜壷を広げながら腰を振った。
　床には、止め処なく蜜が滴り落ちていく・・・・

「そこで立ったまま放尿しろ！」
　礼子は躊躇することなく放尿を開始した。
「見えないぞ！」
　小野口の言葉に礼子は腰を更に突き出し首だけで壁にもたれかかると蜜壷を突き出す。礼子の小水が弧を描いて数メートル先まで飛び散った。

「そのまま座れ！」
　礼子が、蹲踞の様な格好で座り込む。
　小野口が礼子の目の前に肉棒を突きつけた。
「美味そうにシャブるんだ。」
　礼子は、小野口の肉棒を口に入れると激しく音を立てながら舌を駆使していった。
「舌使いが上手いな・・・・・どうだ俺のコックは？」
「んあぁぁぁー・・美味しいぃぃ・・・」
「何が美味いんだ？・・・ん・・言ってみろ・・」
　礼子は小野口を下から見上げて囁く・・・
「これが・・このオ○ン○ンが美味しいのぉー・・・・もっと入れてぇーー」
　小野口は礼子の口の奥に根元まで肉棒を埋めていく・・・
　難なく受け入れる礼子・・・

（この女、スロートが出来るのか・・・くくっ・・気にいったぜ。）

　小野口は礼子の後頭部を髪ごと掴むと腰を思いっきり打ち込んでいった。
　小野口の先の部分が礼子の喉にまで到達する。
　しかし礼子は苦痛を見せない・・・

（こりゃ、こりゃ・・慣れてやがるな・・・・）

　康平を落とすつもりで礼子に近づいた小野口だったが、それ以上に礼子を自分の女にしたいと考えていた。

（９７）

（凄いぞ、この女は・・）

　小野口は礼子の秘部に早く入れたい衝動に掻き立てられた。
「立て！」
　礼子が立ち上がる。唇の縁からは唾液が垂れていた・・・目は相変わらず虚ろだ・・
「壁に手を付け。」
　礼子が、小野口の言うとおり壁に手を付いて腰を付き上げる。
「俺を誘ってみろ。」
　そう言うと礼子は、小野口を見ながら腰を振りはじめた。
「あぁぁ・・早くぅー・・早く入れてぇぇぇー・・」
　礼子の蜜壷からは、全く止まることをせずに愛液が流れていた。
　小野口が礼子の腰を持ちゆっくりと肉棒を挿入していった。
「アゥゥー・・・ァァ・・・イィィィィー・・・」

（グッ・・す、凄いぜ・・・・吸い込まれていく・・・・こりゃ最高だぜ。）

　小野口は、一気にボルテージが上昇し爆発を余儀なくされた。
　礼子に腰を叩きつけていく小野口・・
　そして礼子の一番奥深くに分身を発射していった・・・
「ングゥッ・・・」
　小野口は爆発後、礼子に口で綺麗にするよう命令する。
　礼子は、小野口の肉棒を口に含み、こびり付く液体を舌で舐めあげていく・・。
「お前はＳＥＸが好きなのか？」
「ぁ・・・・・ええ・・・は、はい・・」
「そうか。・・・よし椅子に座れ！」
　礼子は、言われるがまま椅子に座った。
「足を大きく開いて、お前の中に出した俺のものを掬えっ！」
　礼子が蜜壷に指を入れて小野口が放った分身を掬い取った・・・
「舐めるんだ・・」
　礼子は、蜜壷から流れる液体を掬っては口に運んでいった・・

（ククッ・・・いい眺めだ・・　）

「・・ウゥゥ・・ンゥゥ・・・」

（しかし、全くいい女だ。連れて帰りてぇーな・・）

　そう思った小野口だが、まだ仕事は終わっていない。
　まだ、いくらでもチャンスはあると思い今日のところはこれで終わる事にした。

「ショーツを穿いて服を着ろっ！」
　礼子が、頷きショーツとスカートを穿き身だしを整えた・・
　椅子に座った礼子は、頭を押さえて呻き声を上げる・・・
「・・・・ぅ・ぅぅぅ・・」

（薬が切れてきたか。）

　小野口は、資料室の脇にあるロッカーからモップを出すと礼子の放尿で汚れた床や机を急いで拭きはじめた。
　部屋を全て最初と同じ状態に戻すと礼子の飲んだコーヒーの残りを窓から捨てビデオカメラからテープを抜いて資料室を出て行った。

　礼子は椅子の背にもたれ掛かってグッタリとしている・・・
　気を失ったようだ。

　小野口は資料室を出ると屋上に向かった。
　階段室に向かう途中、男が前から歩いてきた。
　ＩＫ観光が派遣依頼した接遇顧問の武藤だった。
　お互いが軽く会釈をする。

　小野口は、武藤とすれ違うときに全身に鳥肌が立った。
　恐怖に似た戦慄を全身に感じたのだ。
　発作的に身構える小野口・・・・・
　しかし武藤は、何気なく歩いていく。

（・・・・・アイツ・・・何者・・・だ？）

　小野口は気を取り直して屋上に向かった。
　屋上に上がった小野口は、携帯で電話を掛ける。
　何者かに電話をしているようだ。
「わかりました。とりあえず続けます。」

　その頃、武藤は資料室を覗いていた。
　椅子でグッタリしている礼子の口に指を入れて唾液をフィルム状のシートにつけると胸ポケットにしまい部屋を出て行った。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　その頃、山岸は礼子のオフィスを覗いていた。

（・・いないな・・ひょっとして、また資料室かな？）

　山岸は、資料室に向かった。

　部屋をノックする山岸・・・
　返事がないためドアを開ける。
　中では、礼子が椅子に座り寝ているように見えた。
「あれ？・・礼子君、居たのかい。」
（・・・・・）
「礼子君・・・寝ているのかい。」
　山岸は、部屋の中の甘酸っぱい匂いに気付いた。

（礼子君がつけてる香水かな？）

　礼子を揺り起こす山岸・・・
　礼子が小さな声でゆっくりと返事をし目を覚ました。
「・・え・・ぁ・・部長・・・・え・？？・・私・・一体・・小野口さんは・・？」
　身体中に倦怠感を覚える礼子・・・まだ意識が覚束ない・・・
　さらに口の中が、粘っこい・・。
　そして股間に異様な違和感を感じた

「・・・・ゥ・・・え・・・・な・・・」
「どうしたんだい、礼子君・・？」
「い、いえ・・・・何でもありません。」
「あのー・・・・・、礼子君、ちょっと話があるんだが。」
「すいません。ちょっと気分がすぐれないので・・。」
　礼子は、山岸を残して資料室を出て行った。

（・・・やはり嫌われたかな？）

　がっかりと肩を落とす山岸も溜息をつきながら部屋を出た・・・・・・・・・

　デスクに戻った礼子は、必死で今までの事を思い出していた。
　しかし記憶が遡れない・・

（確かに小野口さんが資料室に入ってきたんだけど・・コーヒーを飲んで・・・）

　礼子は、全く思い出せなかった。

　その頃、康平は太平洋グループの取締役会に出席していた。
　太平洋グループの各社の幹部が集まる月一の定例会議だ。
　先ほど、３月期決算の処要説明が終わり臨時提議に入った。
　あくびをしながら聞いていた康平だったが、次の議題で一気に眠気が覚める。
　太平洋重工の専務が新規事業拡大案として各社幹部に詳細を説明している。
　そして海外に工場を新設する具体案として中国の名が発表されたのだ。

（・・・な、なにぃーっ・・）

　全ての説明終了後に、各関連ポストの幹部に意見を求めた。
　真っ先に挙手を示す康平。
「センター、荒尾局長どうぞ。」
　議長である太平洋電工の専務が康平を指した。
「ただいまの重工の大川専務が提示した意見はセンターとしてお勧めできません。」
　会議室がざわめいた。
　さすがの北原と立川も康平の隣りで驚きを隠せない。
　太平洋重工の専務は、海外進出にかけては豪腕を振るってきたやり手の人間だ。
　そして太平洋全体からの信頼も厚く将来は太平洋グループの主権を握るとまで言われている。
　しかし大川も康平の実力はよく知っている。ここまで言うには何か訳があるに違いないと冷静な態度で康平に意見を求めた。
「荒尾君、理由を聞かせてくれたまえ。」
　康平は、まだ具体的な説明が出来なかった。
「みなさん、まだセンターとしては具体的情報をつかんでいないのですが、国機関同士の和解契約として、いずれ売り渡してしまう事になります。」
「何故、そんな先の事まで君がわかるのかね。」
「・・・・・・」
　康平は説明をしたかったが、敢えて口を閉ざした。
　いくら機密を確保できる幹部の集まりであるとはいえ既に買収されている人間が、この場に居ないとも限らない。
　ざわめきが収まらないでいたため議長が一旦休憩を促した。

　康平に声を掛ける大川・・・
「荒尾君、ちょっといいかね？」
「はい。」
　二人は、隣りの事務室に入っていった。
　大川が康平に問い掛ける。
「荒尾君、君程の男が言うくらいだ。実際は何か掴んでるね。」
「・・・はい。」
　康平は、大川に小野口の誘いのあった件と全容を聞かせた。

「・・な・・何っ・・・・・ほ・・・本当かね、荒尾君・・」
「そういう理由で、今、幹部連中に説明が出来ませんでした。」
「・・・・で、できるわけ無いさ。当然だ。・・・しかし・・」
「大川専務、どこから、この件が発案されたんですか？」
「・・・・んむ・・実はな・・」
　大川も嘘偽り無く康平に説明をはじめた。
　内容は、ありきたりだったが共同企業体で頭を執る事になる太平洋重工には当然、経営顧問が存在する。２年前から契約社員として大学の専門教授を雇用していた。その教授の意見だという。
　確かに、今、中国は魅力だ。しかし、あくまで主要都市近辺に進出するのが基本である。重工が提起した土地は、生産発信地の北京からは、程遠い場所であった。

「教授・・・・ですか？　どういう人間なんです。」
「女性教授なんだが、４０歳前後だろうか・・ハーバードを出て北京大、そして３年前から企業大学の客員講師として教鞭をとっていたようだ。」
「・・・北京・・？」
「しかし企業庁からの推薦だったし疑わなかったんだ。」
「大川専務、実際、計画通り実行しても太平洋には恐らく損失はありません。」
「・・・え？」
「・・しかし・・違う意味で世界中から太平洋はバッシングを受けます。　なぜならば・・・」
　康平は、更に詳しく大川に説明をしていく・・・・・

　大川は、康平の言っている意味を即座に理解した。
　そして全身を震わせながら顔が蒼ざめていく・・・・・

「荒尾君・・・・どうすれば・・」
「話はどこまで進んでいるんです。」
「・・んむ、進行起案段階だ。」
「解りました。まだ間に合うと思います。匂わせるだけ匂わせどんな理由でもいいから、この件を引き伸ばしてください。」
「わかった。」
「この話は、統者幹部だけに話します。」
「スパイが居るという事かね。」
「それは解りませんが・・・」
「んむ、いずれにせよ、この後の会議では私が上手く終わらせる。」
「お願いします。」