（１１２）

　その頃、センターの東堂が３日連続で、吉池の事務所を訪れていた。
「私を相手にするのは、貴方でも十分ってこと。」
　吉池は苦笑いを浮かべて東堂に言い放った。
「そういう意味ではありませんが、担当が私ですので。」
「で、桜貿易の何を探っているのよ？」
「いえ、吉池さんが、どういう関係で桜貿易と関わっているか知りたいんですよ。」
「何故よ。」
「ま、正直言うと太平洋とも関係ある契約を持っていますし、某所から、ある情報を得て我々が調査しているんです。」
「へぇー、そうなの。」
　吉池は、組んでいる足を解き位置を変えた。
　ミニスカートから赤いショーツが見え隠れする。
　吉池も東堂の反応を確かめているのだろう。
　しかし東堂は動じない・・・・
「アンタ、意外とイカすわね・・」
「・・・・・？」
「仕事の話より私とデートしない？」
「・・・・いえ、結構です。」
「フンッ・・・アンタ、頭は切れるかもしれないけど度胸はないわね。」
　いささか、ムッっとした表情を見せた東堂だが落ち着いて対応をする。
「特に、貴女に迷惑のかかることではないんですけどね。」
「別に言う必要ないじゃない。言いたくないわ。」
「ま、それもそうですが、桜貿易も当社も損益を防止するための情報が欲しいだけなんですよ。吉池さんこそ直接は関係ないはずですよ。」
「ま、私には関係ないわ。帰って。」
「・・・・・ふぅー・・・・・・・また来ます。」

　センターに帰った東堂は、康平に澪との事を報告していた。
「局長、全くそっち方面に話を持っていけません。」
　康平は笑いながら東堂を慰めた。
「東堂、彼女はちょっと普通じゃないからな。情報分野を専門にしてきたお前にはちょっと理解に苦しむかもしれんが、デートの誘いは受けるべきだったと思うぞ。」
「ど、どういう事ですか？」
「寝る事も必要な時があるって事さ。間違っても結婚してくれなんていう女じゃない。」
「はぁ・・・そういうもんですか。」
「いや、東堂、変に勘違いするなよ。駆け引きさ。」
「というと？」
「・・・・ま、あくまで例だぞ・・・」
　東堂が小さく頷く
「例えば、ＳＥＸ中に相手をイラつかせるとか・・・・」
　そこまで言うと東堂が、康平の言葉を止める。
「局長、そんな事は僕には無理ですよ。」
「何だ、嫌いじゃないだろ？」
「いや、そういう問題じゃなくてですね・・・その・・・・」
「何だ？」
　東堂が咳ばらいをして答えた。
「・・・・その・・愛する女房に悪いですから・・」
　康平は下を向いて笑い出した・・・
「・・クッ、クッ、クククッ、」
「せ、先輩っ！」
「いや、悪い、悪い。」
「・・・先・・・ぁ・いや・・・局長、・・・その・・・・・見本見せてください。」
「・・・・え？・・俺がか？」
「正直、やっぱり手強いですよ吉池は。」
「・・・・ふーん・・・そうかな・・・。」
　康平は、代わりに黒田を当てようと思ったが、黒田も東堂と同じく女好きの割には堅物だ。遠藤は、そうでもないが若過ぎて吉池のほうが相手にしないかもしれない。
　ある意味、センターの業務遂行を考えると吉池澪は目の上のたんこぶのような存在になりかねないことは確かだ。
「ふぅー・・・・・・相手してやるかな。」
　康平が、チラっと東堂を見ると東堂は、視線をずらしわざとらしく呟く。
「あ、そういえば報告書類どうなったかな？・・・・じゃ局長お願いします。」
　東堂は、急いで局長室を出て行った。

（・・・・・と、東堂の奴・・・・）

　康平は、さほど急ぎでもなかったが、澪の現況も気になっていた事もあり東堂の変わりに吉池を相手にすることにした。
　早速、吉池に電話をする康平・・・・
「・・・・・もしもし、吉池さんかい？」
「あら、お珍しい・・・・遂に痺れきらして貴方の登場のようね。」
「痺れ・・・いや、全く気にしてないさ。別に君が喋らなくても時間さへ掛ければ解ることだからな。それに俺が本気だせば何て事ないよ。」
　康平は、すかさず澪より先に先手を打っていく。
「・・あ、あらそう。・・じゃ、何で電話なんか掛けてくるのよ。」
「ああ、この間の君の要望どおり薬無しで天国に連れて行きたくなってね。」
　電話の向こうで澪は、顔を紅潮させていた。
　しかし、そこは男勝りの吉池の事だ。康平には弱点を見せずあくまで冷静に康平の言葉に答えていく。
「・・・・あらまぁ、それは光栄ね。お誘いに乗るわ。期待していいんでしょ。」
「勿論だ。今夜、早速どうだい？」
「いいわよ。フフッ、私の身体が気になるんでしょ？」
　康平は、即答した澪に対し、羞恥と怒りをワザと買うような台詞を吐いた。
「ああ、それもあるが、もう一度君の亀裂から食み出る肥大したクリトリスと劈くような喘ぎ声が聞きたくてね。」
「・・な・・・ば・・・・・・・・」
　澪は、怒りで顔を真っ赤にしているのだろう。
　なかなか言葉が出てこない。
「じゃ、プリンスのロビーで６時に待ってるよ。」
「・・・・やっぱり行かない。行くのやめるわ。」
「ふっ、どうだか・・・・来ると思うがな。」
「絶対行かないわ。じゃ。」
　康平は笑いながら電話を切ると、ほぼ、澪を落としたと確信する。

（東堂よ。怒らすタイミングと虚を突く言葉がポイントなんだぜ・・・）

　康平は、煙草に火を点け天井に紫煙を吐き出した。

（１１３）

「お疲れっ！」
「局長、早いですねー。もう帰るんですか。」
　東堂が、康平に声を掛けた。
「お前の代わりに吉池と会うんだよ。」
「・・・そ、そうですか。」
　東堂はバツが悪そうに咳ばらいをした。
「ま、明日に桜貿易との事をお前に聞かせてやろう。」
　そう言うと康平は、センターを出てタクシーを拾うとプリンスホテルへ向かった。

　タクシーを降りた康平がロビーに向かおうとフロント前を通り過ぎると吉池が待合ロビー横のトイレに入っていくのが見えた。
　康平は、吉池の後に続きトイレの入口に足を運ぶ。
　中は、奥に広く彫刻造りの柱が左右に並んでいる。
　康平は、柱に背をつけ吉池澪が出てくるのを待った。

　しばらくして用を済ませた澪が女性用トイレから出てきた。
　康平の姿は柱に隠れて澪からは見えない。
　ゆっくりこちらに歩いてきた澪が康平の前を通り過ぎようとした時、康平が澪の肩と腰を引き付けた。
　ビックリした澪だったが、すぐさま康平と気付く。
　声をかけようとした瞬間・・・・・
　康平は澪の唇を奪いスカートに手を入れて股間を弄る・・・・
「・・ん・・・ムッ・・・グッ・・」
　澪は康平を突き離そうとするが康平の接吻で全身の力が抜けていき抵抗できないでいた。抱き合う二人の横を他人が過ぎていくが康平は、お構い無しに続ける。
　澪は自然と康平の首に腕を回し身を預けていく・・・・
　康平が、ショーツの横から指を入れようとした瞬間、澪は正気に戻り康平の手を振り払った。
「・・な・・何なのよ。一体・・・」
　康平は、指を澪に見せて言い放つ。
「フッ、俺を待ちながら濡らしていたな・・・・・来ると思ったぜ。」
　澪は、バッグで康平を叩こうとするが軽くかわされてしまう。
「そう、怒るなよ。俺流の挨拶さ。」
　康平は、そう言いながら再度、澪の唇にキスをした。
　赤く頬を染める澪は、照れを隠そうと康平を押し払い先に歩いていく。
　笑いながら後を追う康平・・・・

　急に立ち止まった澪が康平に振り向いた。
「抱かれたくて来たんじゃないからね。」
「ほう、じゃ何故？」
　澪は、苦しい言い訳を放つ・・・
「そ、それは・・・・・・そ、そう仕事の話よ。どうやって私から聞き出すのか興味あって。」
「なるほどね・・・・・・・ま、いいさ。　食事でもしようぜ。」
　康平は、地階にある割烹料理店に澪を誘った。
　店に入った二人は仲居に奥の座敷に通される。
「さて、何が食べたいかな？」
「お任せするわ。」
　頷いた康平は、仲居に刺身の盛り合わせと鮑の和風ステーキ、そして海産焼きを注文する。
「酒は、何でもいけるかい？」
「ええ。」
　康平は、冷酒をボトルで注文した。
　澪は康平を見つめて何かを喋ろうとしているが、なかなか話題が出てこない。
　澪の視線に気付いた康平が言葉を掛けた。
「フッ、何か俺の顔についてるかい？」
「・・・・・」
　康平は、警戒してるであろう澪の心内を察知しシュミレートしてきた事を試しはじめた。
「そういえば、うちの東堂を散々からかってたようだな。」
「ふん、あの男じゃ、私を相手にするには役不足よ。」
「奴は優秀だぜ。例の君の件だって全ての情報は奴が集めたんだ。」
「じゃ、桜貿易の事だって調べれるんじゃないの？」
「企業人だぞ。警察の世話になれってか？」
「・・・・・アンタなら出来そうだけど。」
「桜貿易がうちと同じ単独で情報部署を作ったそうだな。それに君が関わっていると言う事までは調べたんだがね。」
「言った筈よ。法は犯してないしアンタには正攻法で挑むって。」
　今の澪の一言で、桜貿易の情報部署をかなり本格的な組織にしようと力を入れている事がわかった。
「んむ、そうだったな。しかし勝てるかな俺に・・。」
「やってみなければ判らないでしょ。」
「・・・そうだな。・・・・・一つ情報をやろう。」
「・・・？」
「桜貿易を含む貿易４社に海外のある組織の人間が何年も掛けて潜伏している。」
「・・・・え？・・・・どういう意味・・・」
「とても説明が出来ないし、仮に説明出来ても君は信用しないかもしれないが、簡単に言うと日本の企業にとってはありがたくない地下組織が利益以外にも日本企業の実力を利用して大きい企みや計画を何年、いや何十年も掛かって実行しようとしているのさ。」
「で・・・・・それが私と何の関係が・・・」
　康平は呆れた顔で澪を見つめた。
　止む無く、先日の金龍社の件とそれらの組織が潜入している桜貿易以外の南部通運・東州運輸・鹿島空輸の話を澪に聞かせた。
　さすがに馬鹿ではない澪の顔が蒼ざめていく。
「ほ、本当なの、その話？」
「ああ、兄貴達がいなかったら俺は今ここに居ないかもしれない。」
「・・・・・・」
「桜貿易が情報部署を作るのは一向に構わんさ。しかしだ、もし奴らが潜入していたとしたら損失は桜貿易だけではなく我社を含む関連企業全体の情報が流れてしまうんだ。だから軽はずみに協力などして欲しくないんだ。」
「・・・・・」
　そこまで話すと料理が運ばれてきた。
　康平は酒を受け取ると澪のグラスに冷酒を注いだ。
　澪も康平に注ぎ返し軽くグラスを合わせる。
　仲居が部屋を出て行くと更に康平は話を続ける。
「俺に勝つとか程度の低い事を言ってないで、世界を見つめろ。」
　澪は、一口酒を口に運んだ。
「解ったわ。忠告ありがたく受け取っておく・・・」
「言えよ。君と桜貿易との関係を。」
「それとこれとは話は別よ。」
　澪は、そう言いながら康平に酒を注いだ。
　康平は、とりあえず話題を変え、澪からベッドに誘わせようと言葉を探る。

「ところで雪子さんは、元気かい？」
「・・・・・ええ、一緒に暮らしてるわ。」
「そうか。雪子さんの前で、あまり男遊びをしないほうがいいぞ。」
　ムッとした顔で康平を見つめた後、一気にグラスを開ける澪・・・・
「一緒に暮らすようになってから私生活を変えたわ。風俗店も売却したし男遊びもやめた。雪子も大学院が終了するんで職見つけるって頑張ってる。」
「ほぉー、そうか。　じゃ、今までの欲求で結構身体が男を求めてるな。」
「・・・・それって、私がアンタに抱かれたいって言ってるって事？」
「違うのか？」
「ば、馬鹿にしないでよ。男なんてアンタ以外にも、いくらでもいるわ。」
「でも君は来た。そして、セクシーなシルクのショーツも身につけてきた。トイレの前で俺に抱きつかれてキスをされたら亀裂から甘い汁も流した。」
　澪は、康平の言葉に急激に顔を赤く染めていく・・・・
「な、・・・ば、馬鹿言ってんじゃないわよっ！」
「でも、抱かれるつもりはあるんだろう。」
「全く無いわ。そんなに飢えてないの。」
　康平は、おどけながら澪を見ると酒を注いでやる・・・
　渋々グラスを持った澪が一気に酒を喉に流し込んだ。
「も・・・もう一杯頂戴っ！」
「大丈夫か？」
「いいから頂戴っ！」
　康平が酒を注ぐと澪は今度はゆっくりとグラスに口をつけた。
　康平も自分で酒を注ぎ刺身に箸をつける・・・・・
「トイレに行ってくるわ。」
　澪は、席を立ってトイレに向かった。

（相変わらず本音を吐かん女だな。ま、しかし断る事は無いだろう。）

　康平は、携帯でホテルのフロントに電話を入れ部屋を予約した。
　しばらくして澪は戻ってきた。少々、顔が強張って見える。
　ゆっくりと康平に近づく澪・・・・・・
　そして、いきなり康平の背中から抱きつき、後ろ越しにキスをしてきた。
　突然の澪の行動に意表をつかれた康平だったが、密かに胸の内で笑みを浮かべていた。
　静かに離れる澪・・・・・・・

「・・・・・・強情で素直じゃない女って嫌い？」
「まあな・・・・・しかし、俺に抱かれた女は素直でいい女になるぜ。」
「私をそういう女にする自身ある？」
「試してみるかい？」
　澪は応える代わりに再度、康平に抱きついた。

（フッ、フッ・・・東堂君、・・既に半分は手中にいれたぜ。）

「え、何？」
「・・あ、いや・・・・・じゃ、出ようか？」
　康平は、澪を伴って店を出た。