（１１８）

−　夕方　−

　康平は、愛子と恭子を伴いアルルのドアをノックした。
「いらっしゃいませ。・・・あ、お久しぶりです。」
　康平は、苦笑いをしながら初老の男の肩を軽く叩いてウィンクをした。
　愛子と恭子は、さすが常連になっただけありスタッフとも親しく会話を交わしている。
　３人は、ロッカーに入った。愛子と恭子は服を脱ぎセクシーな下着姿になると艶やかな仮面を着けた。
　愛子は、赤い皮製のショーツとブラジャーに同じく赤のブーツを履いていた。
　ブラジャーのトップは穴が開き乳首が露出しておりショーツも肝心な部分は開放され女芯のピアスからは細いシルバーのチェーンが垂れている。
　恭子は、全身を皮製の拘束帯を身に着け、臍には先程付けたばかりのピアスが輝いていた。そして、中型のアナルプラグが既に恭子に埋まっていた。
　アナルプラグの根元には豹の尻尾の様な飾りがぶら下がっている。
　更に、二人はグリーンのコンタクトレンズをはめ口紅も容姿に合わせていた。まさに女豹にピッタリのイメージだ。
「す、凄いな、君達・・・」
「康平さん、失神させてくださいね。」
「・・あ・・あぁ・・・」（出来るかな？それも二人も・・・・・）
　
　３人は、奥の大型ソファに座り、それぞれ好みの酒を注文した。
　康平たちが座ると、見知らぬ男性客や中年カップルが集まってきた。
　皆、愛子や恭子が目当てらしい。
　愛子が、なにやら親しく喋っている。
「ラブちゃん、今日は彼とかい？」

（ラ・ラブちゃん・・・愛子の奴、ラブって呼ばれてるのか。）

「そうよ。私のご主人様なの。」
　恭子も中年カップルの男の方に声を掛けられていた。
「デンちゃん、お臍にピアス入れたねー。」
「どう？似合うかしら。」
「似合う、似合う。いかしてるよ。」

（デンちゃん？）

　康平は、愛子に恭子が何故デンちゃんと呼ばれているかを聞いてみた。
「歯科医だからなのよ。」
「歯科医・・・・・・Ｄｅｎｔｉｓｔ・・・で、デンちゃんか・・・」
「そう。私は愛子だからラブ・・・」
「ふーん、なるほどね。しかし、お前はともかく恭子君のデンちゃんというのは、今ひとつパッとしないな。」
　愛子は笑いながら康平に寄り添った。

　中年カップルの男性が女房らしき女性の股間に手を入れている。
　女性は、特に恥かしがることなく声を露にしていた。

　恭子は、康平の前に移動し膝まづくとガウンをまくり肉棒にジャレついた。
　ワザと尻を突き上げ正面の男性に見せつけている。
　恭子のアナルに刺さったプラグが生々しい。
　康平は、根元についた豹柄の尻尾を掴み軽く引っ張った。
「アゥゥーン・・・・」
　愛子も恭子と共に康平の肉棒を舐めはじめた。
　代わる代わる口に含んでは康平の怒張した肉棒を堪能していた。
　恭子は、何言うでもなく公平に背を向けて腰に跨った。
　愛子が康平の肉棒を掴み恭子の蜜壷に導く・・・・
　そして恭子はゆっくりと腰を落としていった。
「ンアァァァァァァァァー・・・・イィィー・・」
　恭子の喘ぎ声で、康平らは一斉に視線を浴びた。
　愛子が結合部の正面に移り二人の結合部に舌を這わせる・・・
　恭子の女芯を吸ったり康平の袋部分を含んだりと舌を駆使した。
「ウッ、ウッ、・・・・ウゥゥゥーー・・・・気持ちいぃぃー・・」
　恭子の声は更に大きくなっていった。
　恭子も久しぶりに本物を挿入して気持ちが昂ぶっているようだ・・
　早くも昇天が近い・・・
「だ、駄目・・・・ま・・まだイキたくない・・・あぁ・・」
　恭子は一旦、腰を上げて康平から離れた。
　それを見た愛子が、すかさず肉棒に口を被せていく。
　愛子は激しく音を立てながら頭を上下し始めた。

　一方、恭子は正面の単独男性に足を大きく開いて蜜壷を見せ付けていた。
　蜜壷を開き女芯を指で愛撫している・・・・・
　男性らは引き付けられるように恭子の股間の正面に顔を近づけた。
　男性客らの卑猥な言葉に恭子は興奮している。
　自らの股間を露にし男性らに言葉を発してもらうのが恭子の楽しみなのだ。
　恭子は、更に股間を突き上げ男性らに見やすくサービスしている。
　男性らの興奮する眼つきに拍車がかかり両指の人差指で内部を開き秘穴の奥の暗闇を見せ付けた。
「デ、デンちゃん・・・凄いよ・・・凄い、丸見えだっ。」
　恭子は、目の前にいる男たち３人に蜜壷を愛撫してもらうよう告げる。
　男の一人が、真っ先に恭子の蜜壷に吸い付いた。
「ンォ・・アァァァァー・・・・感じちゃうぅぅぅー・・」
　代わる代わる恭子の蜜壷を責める男達・・・・
　ガウンが肌け、いきり立った肉棒が激しく躍っている。
　そして機を決し、男の一人が、恭子に拝むように祈願した。
「デンちゃん、お願いだ・・・頼むから一度だけ入れさせてくれないか。」
　恭子が唇を舌で舐め上げながら淫艶な眼差しで男を見つめる。
「駄目よ・・・私のココは彼の物だから・・・。」
　恭子が康平を見つめた。
康　平が恭子の視線に気付き振り向くと男達が恨めしそうに康平に視線を送っている。

（ま、参ったな・・・）

　いつの間にか、康平に跨って腰を振っていた愛子が恭子に呟いた。
「恭子さん、いい経験になるかもしれないわよ。」
「おい、おい・・愛子・・・」
　淫媚な摩擦音を結合部から発しながら愛子が言い放つとそれを見た恭子は、幻想に似た眩暈を覚えた・・・・
　恭子は男達を見つめて囁いた。
「・・・・・いいわ・・・・でも今日だけよ。」
　それを聞いた愛子が、恭子に追言した。
「恭子さん、おじさんたちを虜にしちゃいなさいよ。」
「そうね・・・でも、出来るかな。」
　恭子は男達に言い放つ・・・
「サックはつけてね。」
　それを聞いた男達は、テーブルの籠に入っているスキンを奪い合うように手にすると急いで自らの肉棒に装着した。
　恭子は男達に真後ろの板張りのスペースに誘う。

　恭子は、アナルプラグをゆっくりと外し、仰向けになると男達の方に蜜壷を向けて上下に腰を降り始めた。
　男達が一斉に恭子に飛び掛っていく。
　乳房を吸う者、股間に顔をうずめる者、そしてアナルにも指を入れてくる。
　恭子は３人の男が一斉に自分の身体を求めて責めてくる行為に新たな興奮を見つけたようだ。
　身体中を愛撫されて恭子は全身を震わせた・・・
「ングゥゥゥゥー・・・アァァ・・アァ・・アァ・・・アァァァァァー・・・そ、そんな・・・・・アァァ・イィィー・・・気持ちいぃぃぃぃぃぃー・・」
　恭子は、もはや興奮と気持ちよさで頭の整理が出来ないでいた。
　大きく足を開くと男達に挿入を促す・・・
「ウグゥー・・来て･･来てぇぇー・・・ぶち込んでぇぇぇぇー・・」
　男達は順番に恭子の蜜壷に肉棒を埋めていった。
　待ちきれない男の一人が恭子の乳首を吸うともう一人は恭子の口に肉棒を近づける。
　恭子は、自然と肉棒を口に含んだ。
　下からは激しく腰を打ち付けられ口にも咥えさせられたうえに乳首までも愛撫をされた恭子は、あっという間に絶叫と共にいってしまった。
「ングゥ・・ングァァァァァァァー・・アァー・・・ンアァァァー・・・」
　男達も既に遠慮という言葉は消えていた。
　代わる代わる交代しては恭子の蜜壷に打ち込んでいく・・・・
　３人の男が果てた頃には既に３０分が経過していた。

　恭子が荒い息を繰り返しながら上半身を起こすと男達が半立ちの肉棒を恭子の目の前に差し出した。
　恭子は、真ん前の男の肉棒を口に含むと両側の男達の肉棒を掴み引き寄せた。
　順番に舌を絡ませていく恭子・・・

　康平は、その行為を目を丸くして眺めていた。

（凄ぇな、恭子君・・・・）

　康平の隣りでは、愛子が肉棒に舌を這わせている。
　たった今、久しぶりに康平の熱い爆弾を注がれて満足に舌を絡めていた。

　しばらくして恭子が、興奮冷めやらぬ感じで康平に近づいてきた。
「康平君、プレールームに行こうよ。」
　愛子が、ゆっくりと起き上がって恭子に同調した。
「あ、あぁ・・そうだな・・・・・・・じゃ行くか。」
　３人は、立ち上がると静かに奥の個室に入っていった。

（１１９）

「ングゥゥゥゥゥー・・・・・・アゥ・・・アゥゥーオァァァァァーッ・・ゥ・・・・・・ィ、ィク・・イクゥ・・イッチャゥゥゥゥゥー・・・」
　恭子のけたたましい絶叫が部屋に鳴り響く・・・・
　初めて康平の爆弾をアナルへ受けたのだ・・・・
　蜜壷の中では恭子自らの指が踊っていた。

　横では、先に昇天させられた愛子が、座禅縛のまま仰向けの状態で目を向いて小さな呻き声を上げていた。
　蜜壷からは静かに分身が流れている。

（ふぅぅー・・・シンドかったぜ・・・）

　康平は、恭子の腰を支えながら静かに床に寝かせた。
　ビールを瓶ごとラッパ飲みすると大きく息を吐く・・・。
　愛子に縛った縄を解くと簡易ベッドに腰掛けて煙草をふかした。
　二人を見つめる康平・・・・・

（この先、マジ不安になってきたぜ・・・愛子はともかく恭子君の変貌振りは・・）

　二人が正気に戻った時には、既に３時間近く経過していた。
「そろそろ、行こうか。」
　愛子と恭子は頷いた。
　３人は丁寧にシャワーで身体を流し服に着替える。
　スワンを出ると愛子の運転で帰宅の途についた。
　車内で恭子が康平に話し掛けてきた。
「やっぱり康平君って凄いわ。また誘っていいでしょ・・・」
「ぅ・・・あ、あぁ・・・そ、そうだな・・・・・ひ、暇あらば・・・」
　恭子が後ろでグッタリする康平を見ながら微笑んだ。
　愛子は、ミラー越しにクスクスと笑っている。
　康平は、今後二人と会うときは体調万全のときに・・・と誓った。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　翌日　−

「康平、私先に行くわよ。」
「ああ。」
「ね、康平、今日は、早く帰ってくる？」
「ああ、用がなければな。でも、なんで？」
「何でって・・・」
　礼子が意味ありげに微笑んだ。

（・・・ん？・・・・ゲッ・・・今日は礼子か・・・・）

「じゃ、行ってきます。」
　康平は、新聞をたたんで溜息をついた。

（どうなることやら・・・）

「パパー、バスが来ちゃうよー。」
「おう、すまん、すまん。行こうか。」
　康平は、亜美と一緒に玄関を出た。
　ちょうどバスが到着し康平は迎えの先生に挨拶をする。
　若い先生がバスから降り亜美と手をつないだ。
「お願いします。」
「パパ、いってきまーす。」
　康平は、バスに乗った亜美を見送った。
　手を振る亜美に康平も応える・・・・

（・・・・・ふぅー、さて、俺も行くか。）

―　ＩＫ観光　―

　礼子は、談話室で夢野に資料の内容を見てもらっていた。
　しばらく無言で資料を捲っていく夢野・・・・・・
　一連のデータに目を通した夢野が礼子に口を開いた。
「荒尾君、助言や訂正するまでもないよ。完璧じゃないか。」
「そうですか。ホッとしたわ。」
「これなら荒尾君の後に僕も仕事がしやすいよ。」
　礼子は、心の中で南に感謝した。
　夢野は、資料を礼子に返すとお茶に誘ってきた。
「荒尾君、食堂でコーヒーでも飲まないか。」
「ええ、いいですわ。」
　二人は食堂に向かった。

「夢野さん、航空チケットは私が預かっていますので。」
「すまんね。経理に足を運ぶのが苦手でね。ただでさえ予算を使う部署だから。」
　礼子は笑いながら夢野に同調する。
「でも、それだけ会社に尽くしてるんですもの。気にしなくていいんじゃないですか。」「ははっ、そうかな。」
　話題が続かず、無言が続くと礼子は気を使って他愛もない話をし始める。
「夢野さんって、私と同い年なんですね。」
「ああ、そうらしいね。でも僕は大阪支社の採用だから、それを知らなくてね。つい最近、君と同期入社って知ったんだよ。でも、もっと年下かと思った。」
「ま、お上手ね。」
「・・・・・・・君みたいな人と結婚したかったよ。」
「ま、お世辞はそれまでよ、夢野さん。」
　礼子は照れ笑いをする。しかし夢野の顔は翳りを見せていた。
　夢野は、コーヒーを一杯啜ると、ゆっくりと話を始めた。
「女房とは再婚同士なんだ。僕の前の女房は病気で亡くなってね。今の女房は旦那と離婚したばかりだったんだが、彼女の会社を接待した席で一緒になってね。お互い気が合って結婚にまで至ったんだ。女房は、会社でも幹部に結構評判らしくてね。でも、僕が思うにさほど大した能力はないと感じているんだ。家事もあまりやらなくてね。僕の世話など全くって状態さ。当然、夫婦の関係など無縁に近いし、いや、ほとんどないかな。」
　突然の夢野の話に礼子もなんと言ってよいか解らなかった。
「そ・・・そうなんですか。」
「浮気してるんだよ。亭主の僕には抱かれないくせに。それが悔しくてね。」
「・・・あ・・あの・・・」
「女房が出世したのは、社の幹部に身体を提供してるからなんだ。」
「え・・・・・・で、でも・・・」
「いや、それだけじゃないんだよ。専務の愛人なんだ。それも・・・・・・それも僕と結婚する前からね。」
「そんな・・・・」
「先月、電話が掛かってきた相手に僕が居るにもかかわらず平気で愛してるなんて言葉を連発している始末なのさ。」
　礼子は、もはや言葉が出てこなかった。
　夢野が、時おり見せていた曇った雰囲気の原因はこれだったのであろう。
「ふっ、もう未練など全くないよ。別れてやるさ。でも何とか仕返しをしないと気が済まなくてね。」　
「・・・・・・・・・」
「・・・あ、すまない。変な話をしちゃって。」
「い、いえ。」
「さ、僕はもういくよ。」
「はい、あの・・・ご馳走様でした。」
　夢野は、軽く手を振って食堂を出て行った。
　礼子は、デスクに戻ってからも妙に気になって仕方がなかった。
　しかし反面、そんなことがあっても仕事に支障をきたさず業績を伸ばしている
　夢野の精神力とでもいうのか・・・・人間的な強さに礼子は興味を抱いていた。

（１２０）

　康平が、ベッドで仰向けに倒れていた。
　礼子も康平の抱擁に満足したのか胸に顔を当ててグッタリとしている・・・・
「礼子・・・もう、今日は駄目だ・・・・・・。」
「・・・どうしたの？」
　康平は、先週の澪、昨々日の仁美と昨日の愛子たちとの事を話した。
「まぁ・・・そうだったの。」
　礼子は、笑いながら康平の肉棒を擦っていた。
「康平、ビール持ってきてあげようか？」
「ああ、頼む。」

　礼子はキッチンからビールを持ってベッドに戻ってくると今日の夢野の話を康平に話した。
　ビールを飲みながら礼子の話を聞く康平・・・・
「へぇー、そりゃ気の毒だな。しかし業務成績を落とさんとは夢野って課長も大したもんじゃないか。なかなか出来んぞ。」
「そうなのよ。ある意味尊敬するわね。」
「しかし、とんでもない女房だな。」
「ほんとに、そう思うわ。」
「歳も３０前だろ。いくら専務の愛人だからって課長職勤めるのは不自然すぎるぞ。」
「詳しくは知らないけど夢野さんも奥さんに不信を抱いてるみたい。」
「んむ・・・だろうな。でも大丈夫か出張は？彼と一緒に行くんだろ。」
「その点は大丈夫よ。割り切る人だから。」
「そうか。ま、難業を無難にこなす人間のようだから心配はないと思うけど。」
「そうね。」
「・・・・・さて、俺は寝るよ。もう死にそーだ。」
　礼子は、笑いながら康平にキスをすると部屋の電気を消した。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　翌週　−

　礼子と夢野は、ホテルの会議室から満足気に出てきた。
　休憩なしで５時間にわたる会議だったのだが二人は疲れを見せていなかった。
　夢野が礼子に握手を求める。
「荒尾君、大成功だよ。」
「夢野さん、ありがとう。事前会議でいきなり仮契約なんて嘘みたいだわ。」
「ああ、君の宣伝効果が即効したのさ。」
「違うわ。夢野さんの業務指針の説明が認められたのよ。」
「ははっ、さっそく社に電話してくるよ。」
「ええ。」
　夢野が途中で立ち止まると礼子に叫んだ。
「荒尾君、今夜は乾杯しよう。」
　礼子は夢野に指でＯＫサインを出した。

−　太平洋センター　−

「局長、吉池の妹から電話です。」
「雪子君か？」
　康平は、首をかしげながら電話をとった。
「もしもし、荒尾です。元気かい？」
「・・・あ、荒尾さん・・・・・」
　電話の向こうでは雪子が泣きながら康平に喋りかけてきた。
「ゆ、雪子君、どうしたんだい。」
「お、お姉ちゃんが・・・・お姉ちゃんが・・・」
　康平は泣きじゃくる雪子の言葉に内容をなかなか聞き取れないでいた。
　落ちつかせて、やっと詳細を把握する。
「なんだってっ！」
　澪が、暴漢に襲われて重傷を負ったらしい。
　現在、救急車で病院に運ばれて処置を受けているらしいが雪子もまだ病院には向かっておらず詳しい事が判らないでいた。
「わかった。私は直接行くから君はタクシーで来なさい。」
　電話を切った康平は、東堂を伴って吉池が運ばれた病院に向かった。
　東堂も先日、康平が澪を落としたと話を聞いたばかりであり、これで大人しくなると胸を撫で下ろしたばかりだったのだが違う意味で驚きを隠せなかった。

　病院に着くと既に澪は治療が終わり病室に移動していた。
　ノックをして病室に入る康平と東堂・・・
　澪は康平を見たとたん涙を浮かべたが、隣りの東堂に気付き食いしばった。
　とりあえず大事には至ってないと判断した康平が東堂を外に出す。
　康平は簡易椅子に座ると澪に声を掛けた。
「澪・・・・・誰にやられた？」
　澪は首を横に振った。
「見当もつかんのか？」
「・・・・・・ええ。・・・・ただ・・・」
「ただ・・・ただ何だ？」
　康平は、澪に詳しく聞いてみた。
　先日、康平に助言されたとおり桜貿易での情報部を作り直すため人選を白紙にするよう筆頭専務の尾形に依頼し了解を得た澪だったのだが当然の事ながら反対する人物がいた。　３人いる専務の一人、松山という男だ。
　澪は、松山と激しく口論を交わしていたのだが埒があかないと判断した澪が筆頭専務の許可を得た事を松山に話した。
　黙ってしまった松山だったが相当な形相で澪を睨んでいたようだ。

　その後、澪は、桜貿易を出て車で帰宅したのだが、森林公園の出口付近でいきなり前方に車をかぶせられて停車させられたのだ。
　中から出てきた３人の男達に車から引き出されるといきなり殴る蹴るの暴行を受けたらしい。
　そして澪のバッグから書類を奪って逃走してしまった。
　澪はいきなりの事で男達の顔も覚えておらず記憶も曖昧だった。

「どういう書類を盗られたんだ。」
「大した書類じゃないわ。桜貿易の社員名簿と履歴よ。直接、私が話を持って説得しているから必要で・・。」
「そうか。」
「・・・・・証拠はないけど、松山に依頼されたのは違いないわ。」
「ま、可能性は大だな。」
「私、こんな事で負けないわよ。」
「・・・・ああ、その通り。尻尾巻くなど、お前らしくない。」
　澪は康平の、その一言で涙を流す事を堪えた。
「・・・・・・私は大丈夫、もう帰って。」
　そう言って康平に背を向ける。
「・・・・ああ、何かあったら連絡しろ。」
　後ろ向きに小さく頷く澪・・・・・
　康平は、席を立つと澪の頬に軽く手を当てた。
　病室のドアに手を掛けた時、康平が振り向いて澪に囁く・・・・・
「・・・・・澪、俺の女をこんな目にあわせたんだ。敵はとってやる。」
　そう言って康平は、病室を出て行った。

　澪は、康平の言葉に我慢していた辛抱の糸が切れてしまった。
　ドアが閉まると同時に大粒の涙が頬を伝っていった・・・・・

　東堂が、病室から出てきた康平に様子を尋ねる。

「んむ、命には別状ないが・・・・・それより気になる事がある。」
「え？　なんですか。」
　康平は東堂に説明をした。
「なるほど。つまり情報部を作り直そうと動き出した吉池に反対勢力がいるという事は人選を白紙に戻すことによって不利益か損失を被る人間がいるということですね。」
「ああ、まさかと思うが前回の件と関連していたとしたら非常にやばい。」
「・・・・・」
「東堂っ」
「解りました。さっそく調べます。」
　康平が東堂と病院を出ると、ちょうど雪子がタクシーで駆けつけてきた。
「荒尾さん。」
「雪子君、落ち着きなさい。お姉さんは大丈夫だよ。」
「本当に・・・」
「ああ。ただ数箇所、骨折はしてるが命に関わるほどじゃない。心配しなくていいよ。」　涙を浮かべる雪子に康平は早く澪のところへ行くよう促した。
　急いで病院に入っていく雪子・・・

　康平は、雪子の背中を見ながら、また一仕事やる事になると覚悟を決めた。