（１２３）

　夢野が頭を押さえながらベッドから起き上がった。

（・・うぅ・・ん？・・・あれ・・荒尾君・・・）

　その時、夢野の部屋の電話が鳴る。

『おはよう、夢野さん。飛行機に乗り遅れるわよ。』
「あ、ああ。・・・え？」
『もう、チェックアウトの時間よ。下のレストランで待ってるわ。』
「わ、わかった。すぐ行くよ。」
　夢野は昨夜の出来事がまるで夢のように感じていた。
　しかし、紛れも無い事実なのだ。
　夢野は急いで着替えて荷物をまとめると礼子の待つレストランに向かった。

　礼子が慌てて入ってくる夢野に微笑む・・・・
「荒尾君、すまない。」
「フフッ、よく寝れました？」
「あ、ああ・・・」
　夢野は不思議と恥かしさが無かった。
「荒尾君・・・その・・・昨日は・・・」
　礼子は、そっと人差指を口に当て夢野にウィンクをする。
　夢野は、照れながら椅子に座った。
「荒尾君、ありがとう。何か色んな意味で吹っ切れたよ。」
「また、今日から頑張りましょう。」
「ああ。頑張るよ俺は・・・・」
　そう言って二人は、笑いあった。

−　太平洋センター　−

「局長、まだ完璧じゃありませんが個人データだけは揃いました。」
「ほぉう、早いな。」
「榊原君が調査した私生活の資料は５枚目からです。赤線を引いてあるのが戸籍の判らない人物です。」
「そうか。」
　康平は東堂から資料を受け取ると一人一人、隈なく目を通していった。
　怪しい人物は黒田が気を利かせて交際関係までピックアップしてあった。
　康平の眉がかすかに動いた。
「東堂、まず、専務の松山の関係する人間を徹底的に調べてくれ。」
「はい。」
「俺は今から桜貿易に行く。」
「尾形さんに合うんですね。」
「ああ、ついでに松山の秘書の口を割らせてくる。何か出てくるはずだ。」
　康平は、東堂を残し黒田と出かけることにした。
　桜貿易に着いた康平らは受付に向かい筆頭専務の尾形にアポをとっていることを伝える。
　電話で取り次いだ受付の女性から７階の専務室で待っている事を伝えた。
　康平と黒田が７階へ向かった。

　秘書を通し康平らは専務室に通された。
「荒尾君、久しぶりです。」
「ご無沙汰してます。」
「君が製鉄の建築部にいた時依頼かな。・・・・ま、掛けてくれたまえ。」
「失礼します。」
「大体の事は、吉池君から聞いてます。彼女も災難でしたね。」
「ええ。」
　康平は、さっそく尾形に事の成り行きと詳細を説明した。
　もはや、李との一件も話さなければならない。
　康平の話を聞いていた尾形の顔が徐々に蒼ざめていく。
「荒尾君、本当なのかね、その話は。」
「事実です。」
「うちの他にも３社も・・・・・」
「ええ。」
「だから吉池君が人選をやり直すと言ったのか・・・・・・。」
「私が助言したんです。」
　更に康平は専務の尾形をはじめとする危険因子を暴くため今後、桜貿易の人間に関わる旨の了解を確かめる。
「・・・んーむ・・・」
「尾形さん、拒否されるのなら太平洋との関係を断たせて頂きます。」
　尾形は、困惑した表情で考え込んだ。
　康平の話を飲むという事は、少なからずデメリットがある。
　しかし、それ以上に先程の康平の話が恐怖だった。
　散々考えた挙句、尾形は康平の意見を了解した。
「荒尾君、この際、仕方がないことだ。君にお任せします。」
「ありがとうございます。知り得た秘密は漏洩しない事をお約束します。」
　尾形は頷いた。
「ところで松山専務は今日はいますか。」
「九州の支店に視察に行ってるんですよ。明後日までは不在で・・・。」
「そうですか。では松山専務の秘書は。」
　そう言うと尾形は電話で松山の秘書の確認を取ってくれた。
「荒尾君、松山専務が出張中、休みをとっているそうだ。」
「そうですか。わかりました。では、失礼します。社長に宜しくお伝えください。」
　康平は、尾形に挨拶をし専務室を出た。
　外で待っていた黒田が康平を見つめた。
「黒田、ＯＫだ。」
「わかりました。」
「黒田、俺は松山の秘書に会って来る。先に帰ってくれ。」
「はい。」

　康平は、センターに電話し松山の秘書の住所を確認する。
　電話に出た美紀が秘書の詳細を伝えた。
『局長、この女もとんでもない女よ。』
「というと？」
　美紀が早口で康平に伝えた。
　この秘書も松山の女で、会社の金を使うのは勿論、松山にも内緒で他の関連資料やデータを漏らして小遣いを稼いでいるらしい。
　やばい資料や松山から預かっている書類は全て自宅に持ち帰ってるようだ。
　生活は派手で休日も昼間は家にいるが夜になると遊びに出かけている。

『紺野静香　２６歳　マンション住まいです。住所は・・・・・』
「ＯＫ、わかった。夕方までには帰る。」
　住所を確認した康平は、タクシーで松山の秘書の家に向かった。

（ここか？）

　康平は、マンションのエントラスホールに入り紺野の部屋のチャイムを鳴らした。
『はーい、誰っ』
　無愛想な声で返事が返ってくる。
「松山専務からの預かり物を届けに来ました。」
『預かり物？なに・・』
「さぁ、私にも・・・」
『わかったわ。開けるから運んできて。』
　紺野静香はそういうとエントランスのロックを外した。
　康平は、紺野の新聞受けにある封筒を１冊とると、それをもって中に入りエレベーターで部屋に向かう・・・・・・・
　部屋の前に着いた康平が紺野の部屋をノックする。
　しばらくしてドアが少し開き康平を確認するとチェーンロックが解かれ紺野静香が出てきた。
　康平は咄嗟に中に入り紺野静香を突き飛ばした。
「な、何よ、あんたっ・・・・警察呼ぶわよ。」
「ああ、お好きなように。でも警察呼ぶとやばいのは、おたくのほうじゃないかい。」
　紺野静香は、康平を睨みながら怒鳴った。
「あんた・・・・何者なの？　スワンの回し者・・・・」
「スワン？・・・・ほー、聞き捨てならんな。」
　康平は静香を睨んだまま部屋のロックを掛けた。

（１２４）

　康平は静香を奥に追いやるとソファに腰掛けた。
「紺野さん、スワンが何だって？詳しく聞かせてもらおうか。」
「あんた何よ。こんな事してただで済むと思ってるの。一体、何者なのよ。」
「俺か、俺は太平洋グループ、センター長の荒尾だ。」
「太平洋グループ・・・・・荒尾・・・」
　静香の顔色が一気に蒼ざめていく。
「ほぉー、お前の様な馬鹿な女でも俺の名前は知ってるようだな。」
「・・・・・で、何よ。何しに来たのよ。」
「松山の身辺を探りたい。協力しろ。」
「馬鹿じゃないの。・・・・・黙っててあげるから出て行ってよ。」
　康平は、こういう返事が返ってくることは想像していた。
　周りを見渡すとノートパソコンがキッチンテーブルの上に乗っている。

（あれだな。）

　康平は立ち上がるとテーブルに近づきパソコンを操作した。
「な、何してんのよぉー！」
　静香が怒鳴りながら康平に飛び掛かっていく。
　康平は、静香を突き飛ばした。後ろに派手に転ぶ静香・・・・・
　康平は、ドライブに入ってるファイルを調べ始めた。

（ん？・・・これだな。）

　Ｄドライブに英数字一つだけ書かれたファイルが数列並んでいた。
　試しに一つを開いて確認すると案の定、不正を働いて引き出した金額と資料提供した会社名が羅列してある。
「ほー、これは、これは・・・・」
　康平は、静香に振り向いて微かに笑いを見せた。
「ど・・・・・どうするつもりよ。」
「さて、どうしたもんかな・・・・・・・・・ま、警察に渡せば、あんたは檻の中だろうな。」
　静香が顔を強張らせて康平に囁く。
「ね、・・・・ねぇ、取り引きしない。」
「ん？　取り引き。」
「私を好きな時に抱いていいわ。お金も好きなだけあげる。」
　康平は、笑いを堪えた。
「やはり、とことんアホだな。今まで会った女の中で、お前ほど馬鹿な女は始めて見たぜ。よく会社にばれなかったもんだな。」
　康平の言葉に静香の顔が歪んでいく。
「あいにく、あんたより金も持ってるし女性にも全く不自由していないよ。」
　康平はそう言うと胸ポケットから李の件で恭平から貰った薬を取り出した。
　静香が怪訝な表情で康平を見る。
　康平は静香に近づき薬を鼻につけると口を閉じて腹部にパンチを見舞った。
「ンッ・・グッ」
　顔を紅潮させて苦しむ静香・・・
　康平は、何事もなかったように椅子に腰掛てパソコンのデータを読み始めた。

（こりゃ、派手にやってやがる。・・・・）

　康平は、ここでは内容を把握出来ないためフロッピーにデータを落とし始めた。
　後ろで呻き声をあげる静香・・・・・
　康平はフロッピーをポケットにしまうと薬が効いてきた静香に命令をした。
「全裸になれ。」
　言う通りにする静香・・・・
　薬の効用なのか、ショーツを脱ぐ時に亀裂から糸を引いて蜜が垂れた。
　康平は、テーブルに置いてあったコーラの缶を静香に渡し自慰をするよう言い放つ。
　静香は、コーラの缶を手にとり蜜壷に入れ始めた。
　しかし濡れているとはいえなかなか太い缶が入っていかない。
　康平は、缶の根元を軽く蹴った。
「ギィィィィーッ・・・グオォォー・・・・ウゥゥゥゥゥー・・・・」
　最初は叫んだものの静香は、缶を握り締めると無造作に上下し始める。
「グフゥー・・・ウゥゥ・・・アァー・・・オ○ンコがぁぁぁー・・」
　康平が静香に馬乗りになり額を押さえて動きを止めた。
　携帯を取り出しセンターに電話を掛ける。
　電話には遠藤が出た。
「遠藤か。俺だ、今から紺野静香が言う声を録音しろ。」
『はい。わかりました。』
　康平は静香に命令をした。
「松山に服従している人間をいるだけ言え。」
「・・・・ぇ・・・ぇぇ？」
「奴と組んでいるメンバーだ。言え。」
　静香は、ゆっくりと喋り始めた。
　康平が電話を静香の口に近づけた。
「じょ、常務の・・う、宇野と・・・・海・・海外部長の・・・大田・・課長の夢野・・・・施設管理の・・く・・・梅木・・・に・・・・・・」
「スワンの吉池澪を襲ったのは誰だ？」
「ま、松山が雇った・・・・男・・た・・・ち・・」
　康平は、一通り聞くと遠藤に確認をする。
「遠藤、録音したか。」
『はい。大丈夫です。』
「よし、今から帰る。」
　康平は、電話を切ると、もう一塗り薬を静香の口に塗りこみ再度命令をする。
「俺が言いというまで続けていろ。」
　静香は、充血した目で頷くと激しく缶を出し入れし始める。
　康平は、何事もなかったように部屋を出ていった。