（１４７）

　康平は車の中で、恭平と修平から今件の説明を受けていた。
　恭平の話に修平と康平は息を飲む。
　修平が険い顔で恭平に声を発する。

「そんなに凄いものなのか、あのチップは。」
「ああ、親父自信が危険に思いデータを俺たち３人の息子に振り分けたんだ。」
　恭平の説明を修平と康平は黙って聞いていた。

　当時、父、良作が、環境保全のために、部下と開発した衛星監視レーダーを外部の強力部署が軍事武器に使おうと言う意見が出始めたのだ。
　衛星にレーザーや長距離破壊装置をつけることによって違う土地に居てもリモートさせる事が出来る画期的な発明だったのだが、危険に思った良作は、どうにか、それを阻止し隠滅できないかと考えていたようだ。
　そして、考え抜いた末に完成データを息子達に隠蔽することを思いついた。
　良作は、今までの履歴データを判らないように書き換えると直接の部下にその事を内密にさせ研究を打ち切ったのだ。。
　結局上部には知られず未完成として処理されたが、厳しいチェックを潜りぬけ良作は、そのデータを日本に持ち帰ったのだ。

　良作は、念を入れて３人の息子に、分割して自作のチップに埋め込み振り分けた。
　そのまま、誰にも言わずにデータを闇に葬ろうとしたのだ。
　一つは修平が屋根から落ちて足を骨折したときに足のボルトに入れ、康平は、歯に埋め込まれた。長兄である恭平は既に国連に居たため良作から直接手渡され、いかに危険で大変なものであるかを理解させられたのだ。
　しかし、２０年過ぎた今、何らかの形で当時の事を知るものから、この事が漏洩してしまったようだ。

「まさか、まさか、こんな事になるとは思わなかったし死ぬまでお前らの耳にも入れないでおこうと思った。」
「で、兄貴、誰なんだ。」
　修平が康平に追説した。
「俺や康平に埋め込んだ事を知ってる奴さ。俺も兄貴から聞いて驚いたがな。」
「だ、誰だ？」
　恭平が、続けて話をした。
「親父が直接俺に手渡した時に一緒に居た男で知っているのは俺を含め、この２人だけだ。」
「兄貴以外の・・・・・もう1人とは。」
「Ａ共和国の国防相だ。」
「！・・・・・・・な、なぜ？」
「親父の一番の理解者だったらしい。言ってみれば奴は親父の愛弟子だ。帰国後、奴は国の機関に入り研究者から軍事関係の所属になったんだ。親父が死んだ今、過去の恩を忘れ・・・いや現実を認識したんだろう。」
「・・・・・というと？」
「Ａ共和国は自国の危機に面している。理由はわからないがデータを武器に国の再構築を考えているんじゃないかな。」
「・・・・・」
「今回、俺が日本に来たのは仕事じゃない。わざわざ休みをとって親父の残した物を守りに来た。荒尾家の名誉と意志を貫くためにな。」　
　修平が、恭平に心配そうに尋ねた。
「兄貴、義姉さんや一樹たちは？」
「俺の仲間にかくまってもらっている。・・・・お前はどうした？」
「内調のトラップハウスに・・・」
「そうか、・・・礼子さんだけが・・・・・・康平、亜美はどうした。」
「礼子の姉さんに頼んで礼子たちの実家に行かせた。」
「そうか。」
　その時、康平に携帯電話が掛かってきた。大村からだ。

『荒尾か。判ったぞ。しかし何やら方程式らしきものが一杯並んでるだけだぞ。』
　康平は恭平を見た。
　恭平が指を下に向けて康平に合図する。
　頷く康平・・・

「大村、焼却してくれ。」
『えぇっ・・・いいのか？』
「ああ、頼む。」
『・・・・解った。』
　康平が電話を切ると同時に恭平が口を開いた。
「康平、その国防相が内密に日本に来ている。場所は石川県だ。礼子さんも、そこに居る。俺と修平は何とか奴を暗殺する。」
「・・・・・・！」
「奴も隠密で来てるんだ。暗殺すれば事は全て終わる。」
「当然、お前も来るよな。」
「・・・当たり前さ。兄貴や俺の命より大事な女なんだ。」
　修平が康平の頭をコツいた。
　恭平が話を続ける。
「小国でも国の軍事を預かる大臣だ。護衛も半端じゃない。礼子さんを救う事を手伝えないが、1人で大丈夫だろうな。」
「俺の女房だ。俺の手で助ける。」
　恭平は、康平に拳銃を手渡した。
　康平が、恭平を見ながら静かに受け取る。

「触る事自体初めてだろう。ベレッタＭ９２の改造型だ。使い方は解るな。」
「ああ。」
　康平はベレッタを後ろの腰に挿した。
「さぁ、行くぞ。」

　修平が車を運転し３人は、石川県に向かった。
　高速道路に入ると同時にスピードを上げていく。
　３人は、休憩もせずに無言で車を走らせていった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
石川県　輪島

−　某別荘　−

「隊長、チーフと連絡が取れません。」
「電池でも切れたんだろう。それより荒尾の末弟は捕まえたんだろうな。」
「はい。取り囲んだと電話が入りましたが、それ以降は連絡がないんです。」
「ま、じきにここへ連れてくるだろう。それより荒尾の女房はどうだ。」
「かなり、弱ってますね。３日前から何も口にしていません。」
「殺すなよ。台無しになるからな。あの女は荒尾康平の全てだ。」
「はい。」

　礼子は、別荘２階の一室で全裸にされ柱に固定されていた。
　二人の男が礼子の前で椅子に座って監視をしている。
　男の１人が、相方に喋りかけた。
「おい、しかし、いい女だな。」
「・・・ああ、そうだな。」
「どうせ、あの男は殺されちまうんだし俺たちで頂くか。」
「やめておけ。隊長に叱られるぞ。それに大臣もいるしな。何でも大臣が研究所時代の恩師の息子らしい。その女房だ。」
「チッ・・・お前も固いな。俺たちは所詮雇われだぞ。」
「何言ってるんだ。俺たちは退役こそしたが元軍人だぞ。お前もそうだろう。軍人なら、軍人らしく振舞えっ！」
「・・・・・・ふんっ・・・クソッタレが。」
　礼子は、二人が外国語で喋っているため、何を言っているのか全く解らなかった。
　それよりも不安に思っていたのは、康平と亜美の安否だった。
　そもそも、なぜ自分が何の目的で、誘拐されたのか全くわからなかったのだ。

（・・・康平・・・・亜美・・・・）

　男のトランシーバーに何やら連絡が入ったようだ。
　1人の男が立ち上がって部屋を出て行く。

「隊長に呼ばれたから行ってくる。変な真似するなよ。」
「・・・・・わかったよ。」
　残った1人の男は、仲間が出て行くのを確認して立ち上がった。

（ククッ・・・・・）

　柱に縛られている礼子の前に立つと無造作に乳房を掴んだ。
「ヒッ・・・」
　男は礼子にキスをしようと顔を近づける。
　礼子は、膝で男の股間を蹴り上げた。
「グォッ・・・・ク・・・・このアマ・・・」
　男は礼子の頬を平手で殴った。
「ウゥッ・・・」
　男が薄笑いを浮かべて礼子を睨んだ・・・・・・

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−　別荘入口　−

「ここか。」

　康平たちは、礼子が拉致されている別荘に到着した。
　別荘は、海を背にコンクリートで造られた要塞のようだった。

「修平、ここに停めておこう。」
　頷く修平は車を、見つからないように木林に停めると車から降り死角になる坂道から別荘に上がって行く事にした。
　塀まで到着すると、修平が康平に言葉を掛けた。
「康平、礼子さんは２階の一番奥の部屋にいるはずだ。俺と兄貴は、踊り場の裏口から入って国防相を殺る。」
「ん、わかった。」
　康平は修平の言葉に頷くと、さっそく塀にある排水口を伝って壁をよじ登った。
　小窓に足を掛け風避けガラスを外すと警戒しながら中に侵入した。

（礼子、待ってろ・・・・・）

（１４８）

　男が礼子の股間に手を持っていった。
　ニヤつきながらゆっくりと亀裂に指を這わし始める・・・・
「・・・ゥゥゥ・・・・」
　男は、指を礼子の蜜壷に無理矢理挿入した。
「グフフッ・・・・気持ちいいか・・・・おっと言葉が解かんねぇか・・・」
　礼子は絶対に声をあげないように歯を食いしばっていた。
　男は、礼子の股間に顔を埋めて舌で蜜壷を湿らせていく。
　礼子は、恐怖と悔しさで涙をこぼした。
　男は必死で礼子の蜜壷を舐めまわしている・・・・

（・・や・・・やめて・・・）

　その時、礼子の視界に海側のベランダで影が動くのが見えた。
　礼子が、影を確認すると驚きながらも安堵の表情を見せる。

（こ、康平っ・・・・）

　康平が、ジェスチャーで礼子に伝えようとしている。
　礼子は、顔は正面に向け眼だけで康平を凝視した。
　康平のジェスチャーに頷く礼子・・・

（・・・・・わ、わかったわ。）

　男は立ち上がってズボンのベルトを外し始める。
　怒張した肉棒を自ら上下しながら礼子を睨んだ。
「さて、味見させてもらうか。」
　そして礼子の片足を持ち上げ肉棒を蜜壷に入れようとした瞬間・・・
　礼子がもう片方の足で思いっきり男を突き飛ばした。
　男が、後ろにしりもちをつくと同時に康平がガラスを突き破って中に突入した。
　驚く男は、拳銃を取ろうと椅子に駈け寄る。
　康平は、男の足をめがけて拳銃を撃った。
　男は、呻き声をあげて後ろに倒れた。
　康平は、男を縛り上げると礼子のロープを解きはじめる。
「・・・康平・・・こ、怖かった。・・・・・」
　礼子の眼から涙が溢れ出す。
　康平は縄を解くと礼子をきつく抱きしめた。
「すまん。大丈夫だったか。」
　康平にしがみつきながら何度も頷く礼子・・・・
「礼子、急いで服を着ろ。」
　礼子は、言われるとおりに服を着ると康平に質問をした。
「康平、何でこんな事に・・・・」
「俺の親父に関係した事なんだ。とんでもない事になっている。兄貴も殺されかけたし義姉さんたちも、危なかったらしい。」
「え、えぇっ？・・・・」
「兄貴達は二人とも、下の部屋にいる。」
「・・・・い、いったい。」
「とにかく詳しい話は後だ。ここを出るぞ。」
「うん。」
　その時、激しい爆音と共に家が揺れ柱が崩れ始めた。
　拳銃を打ち合う音が、聞こえてくる。
　外を見るとベランダは、無残に破壊されて逃げられない。

　康平は礼子の肩を抱きながらドアから出ようとした・・・・・
　その時・・・縛り上げた男が、康平をめがけて発砲した。
　肩口に当たり出血している・・・
「グッ・・・」
「い、いやぁぁぁぁぁぁーっ・・・」
　悲鳴をあげる礼子・・・・・康平が、男に弾を打ち返す。
「康平ぇーっ・・・」
「だ、大丈夫だ・・・・・行くぞ。」
　崩れた階段を降りていく康平と礼子・・・
　下では数人の軍服を着た男たちが倒れている。

　奥の部屋では、まだ激しく銃弾が飛び交っていた・・・・

（兄貴・・・・）

「康平っ！」
　康平と礼子を確認した修平が二人に声を掛けた。
「まだ表側は危ない。俺たちは、こいつらを片付けるから岸壁の方に行ってろっ！」
「わ、解った。」
　康平は、礼子を連れて裏口に回った。
　礼子が康平の肩にハンカチを当てながら後をついていく。

　康平の額からは、脂汗が流れていた。
　心配そうに康平を見る礼子・・・・・
　二人は、慎重に別荘から離れ海側の岩影に身を隠した。
　小岩に腰掛ける康平と礼子・・・・
「・・・・康平、大丈夫・・・・出血が・・・・・・・」
「・・・・ああ、だ、大丈夫だ・・・」
　康平は、そういうとポケットからボディーチェーンを取り出し礼子に手渡した。
　礼子が、康平を見つめながら受け取る。
「・・・・こ、・・・これ。」
「・・・ああ。お前をさらった男が持ってた。」
　礼子は、ボディーチェーンを握り締めた。
「・・・・よかったゎ。・・・・ちゃんと残ってて・・・・」
　その時、別荘から２度目の爆発音が鳴り響いた。
　礼子が、別荘の方を見ながら呟く・・・・・
「お義兄さんたち大丈夫かしら・・・」
「死なないさ・・・・兄貴達は。」

　恭平と修平は、国防相を追い詰めていた。
「修平っ！」
　恭平の声が下の階の部屋に響いた・・・・
「兄貴、俺はここにいる。・・・・・・後、残りは？」
「国防相と側近1人だけだ。奥の部屋だろう。」
「そうか。兄貴、康平が撃たれている。早く片付けよう。」
「よし、解った。」
　恭平が、修平に手で合図をした。
　修平は合図に頷くと、ゆっくりとドアの前に立ちノブに手を掛ける。
　恭平がドアの真ん前に立ち銃を構えると、修平は、恭平に目でサインを送り勢いよくドアを開けた。
　恭平が、銃弾を発砲し、転がりながら部屋に侵入した。
　すかさず後ろから修平が銃を構える側近の男の腕を狙って発砲する。
　髭を蓄えた国防相が、唸り声を上げて倒れる男を見ながら立ちすくんだ。

　恭平と修平が、ゆっくりと国防相の前に進んだ。
　覚悟を決めたのか溜息をつきながら二人に喋りかけてきた。
「・・・・・・・君達が荒尾博士の御子息か。」
「そうだ。」
「フム。・・・よく似ている。」
「息子だからな。」
「・・・・・・・」
「我々は貴方の命を頂きに来た。何故だかお解りですね。」
　国防相が、観念した表情で頷いた。
「・・・・今、私は非常に後悔している。あの世で博士に謝ろう。」
　国防相の男は、倒れている側近の手から拳銃を取った。
　咄嗟に身構える修平・・・・・。
　しかし恭平が修平を手で制止した。
「君達の手は煩わせたくない。あの世で博士に会わせる顔がないからね。もう１人の弟さんにも申し訳ない事をした。謝っておいてくれたまえ。」
　そういうと国防相は、拳銃をこめかみに当てトリガーを引いた。
　腰から崩れ落ち国防相は、自ら命を絶った。
　恭平と修平は拳銃をしまうと静かに頷きあった。
「・・・ふぅー、終わったな。」
「ああ。」

　修平が、部屋の窓を開け岸壁岩にいる康平を呼んだ。
　康平が肩口に手を当てて立ち上がった。
　手を振る修平に安堵しながら礼子を伴って別荘の方に足を運ぶ康平・・・・・

　修平が、康平に笑顔を見せながら冗談っぽくからかってきた。
「康平、俺たちより大事な礼子さんも無事でよかったな。」
「ふっ、兄貴・・・・・・・感謝してるよ。」
　恭平は、心配そうに修平の横から声を掛けてきた。
「傷はいいのか？」
「ああ、不思議と血も止まってるよ。」

（・・・・・弟ながら大したもんだ。気力で止めてるな。）

　礼子が、恭平と修平に礼を言った。
「お義兄さん、本当にありがとうございました。お義兄さん達がいなかったら康平も私も今頃は。」
　恭平が、礼子の言葉を制止するように答えた。
「いや、俺たちの親父の事で礼子さんまで大変な迷惑を掛けたんだ。礼を言ってもらうこと自体が間違いだよ。本当に済まなかったね。」
　礼子は、首を振りながら涙を流していた。
　その時、礼子が思い出したように康平に話し掛けた。
「康平、携帯電話もってる？亜美に電話したいの。」
「ああ、あるぞ。」
　康平は電話を礼子に渡した。
　さっそく実家に電話を掛ける礼子・・・・
「あ、お姉ちゃん、礼子よ。」
『礼子っ・・・無事だったのね・・・よかった、よかったぁー。』
「心配掛けてごめん。お姉ちゃん、亜美いる？　代わってくれる。」
　電話口に亜美が出た。
「亜美っ、ママよ。ごめんね、寂しかったでしょ。・・・うん、パパもいるわ。今から帰るからね。」
　礼子は、涙を浮かべながらも懸命に明るく振舞おうとした。
　康平が電話を代わった。
「亜美かい。泣かなかったか？」
『うん、おばあちゃんも優子おばちゃんもいたしね。』
「そうか。今から迎えに行くからな。待ってるんだよ。」
『うん。はやく来てねー。』
　康平は、亜美の言葉に何度も頷くと電話を切って胸ポケットにしまった。

　恭平が、微笑みながら皆に帰り支度を合図した。
「さぁ、じゃ行くか。ところで修平、ここはどうするんだ？」
「ああ、直に俺の部下が後片付けに来る。」
「そうか。派手に壊したからな。」

　康平ら４人は、車を停めてある場所に歩き出した。
　その時、礼子がポケットに入れてあるはずのボディチェーンが無い事に気付く。
「あれ、康平ちょっと待って。さっき受け取ったチェーンがないの。」
「何やってんだよ。」
「さっき居た岩の所に落としたのかも。」
「・・・ったく、おっちょこちょいだな。取ってきてやるから待ってろ。」
　康平は、３人を待たせて岸壁に歩いていった。

　その時・・・・・・・・
　修平が撃ったはずの側近の男がよろめきながら拳銃を持って立ち上がっていた。
　窓側の入口に歩き出している。

　康平が、岩下に落ちているチェーンを見つけて手に取った。
　礼子の方を見ると笑顔を見せながらチェーンを持って軽く手をあげた。

　その瞬間・・・・・・