（２０）

　翌朝、事務所でコーヒーを啜りながら新聞を読む剛士の元にシーツを身体に巻いた沙良が怒りながら二階から降りてきた。
　そして、いきなり剛士の背中を両手で叩き始めた。
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカッ！」
「痛ででっ・・・や、やめろ沙良っ！・・・何するんだ・・・ったく。」
　沙良が、剛士の顔を睨んだ。
「剛士っ、私の買ったばかりの大事なショーツをココに詰め込んだまま寝たでしょ。」
「・・・あ、そうだったかな？　」
「そうだったかじゃないわよっ！」
「俺のが垂れてきてシーツが汚れると思ってな。」
「・・・・な・・・も、もう、とっくに剛士の愛撫で濡れてたじゃない。」
「ああ、感度いいからな、お前は。・・・・・いやぁー、最高だったぜ、沙良っ。」
「そ、そぉう？・・・でも、剛士も凄くよかったゎ。私も剛士じゃないと抱かれたって気がしないもの。」
「ハハ、セックスの相性が合うのかな。」
「そうね・・・・・・・・・・・・・って、そんな話をしてるんじゃないわよ。どうしてくれるのよ。乾いてバリバリになっちゃって抜くとき苦労したわよ。」
「フハハハハハハハッ。」
「笑い事じゃないってばさ。」
「また、今夜、やるか？」
「え、ホント？・・・・ぁ・・・・」
　沙良は、剛士の話のペースに嵌る自分に腹が立ってきた。
「剛士の馬鹿っ！」
　そして、剛士の背中を思いっきり叩いて浴室に歩いていった。

「・・・ったく・・お前ってやつは・・・」
　剛士は、苦笑いを浮かべるものの、昨夜の頭を過ぎった平岡一馬の事を再度、思い出していた。
（・・・・チッ・・・・何なんだ、俺は・・・）
　剛士は、頭を振りながら新聞の続きを読み始めた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　軽く昼食をとった剛士と沙良は、事務所を出て岡島と里子の調査に乗り出した。
「ね、剛士、どうやって調べるの？」
「岡島の居場所は、解ってるしな。直接、女房の里子を呼び出しても言いが・・」
「真相を聞くの？」
「ああ。しかし、逃げようと思えば逃げれるはずだしな。それをしないということは、やはり岡島に惚れたのか若しくは違う理由があるはずだ。それを調べないと。」
「亭主は、なんて言ってたの？」
「急に離婚したいって言われたらしい。慰謝料も好きなだけ請求してと。」
「へぇー。」
「里子は、ＫＫI食品の社長の娘なんだ。金はいくらでもある。腹は痛まんさ。」
「剛士は、里子が何で岡島から離れないと思うの？」
「んーむ・・・ま、薬だろう・・・」
「麻薬？」
「ああ、それとセックスだな。」
「じゃ、警察に言えば一発じゃない。」
「里子には、金がある。岡島が、仮に警察に捕まったとしても里子は、さして困らんさ。入手ルートを知っているからな。」
「それに、里子を取り戻したいと言う田口さんの依頼には反するわけね。」
「そういう事だ。ま、病院には入らなければいかんがな・・。」

−　中央警察署　−

　剛士と沙良は、中央警察署の刑事課に足を運んだ。
「おう、伊武、久しぶりだな。探偵さんが何のようだい？」
　剛士に声を掛けたのは、刑事課長の並木秀作だった。
「あ、並木さん、久しぶりです。ちょっと麻衣子に用があって。」
「小柳君に？　おい、伊武、彼女を誑かすなよ。」
「人聞きが悪い事を言わんで下さいよ。私用ですよ、私用・・」
「ふんっ、ならいいが・・・」
　そう言って、並木は、その場を立ち去った。
　そこへ、偶然、麻衣子が部屋から書類を持って廊下に出てきた。

「あ、伊武さん、沙良さんも。」
「お、ちょうどよかった。お前に頼みがあるんだ。」
「頼み？」
「ああ。調べてほしい事があってな。」
「何を？」
「岡島邦夫という、元暴力団員の前科と、現在の繋がり。生活全般だ。出来れば警察が知っている情報全てを。」
「ふぅーん・・・・」
「調べてくれるか？」
「いいわよ。デートしてくれるんなら。」
「ちょっと、麻衣子さん、それってないでしょ。」
　沙良が、慌てて麻衣子に突っかかっていく。
「個人的に情報を公開するのよ。見つかったら減給じゃ済まないんだから。」
「で、でも・・・」
「まあ、まあ・・・・。よし、解った。麻衣子、約束しよう。」
「本当？」
「ああ。」
「つ、剛士ぃっ！・・・・」
　沙良は、膨れっ面で剛士を睨んだ。
　剛士は、ウィンクをして沙良を静ませる・・・
「じゃ、麻衣子、至急調べてくれ。」
「解ったわ。直ぐ調べる。」
「頼むぞ。」
「任せておいて。」
　剛士は、麻衣子に念を押して中央警察署を出た。

「剛士っ、なんでデートの約束なんかするのよ。」
「何だ、妬いてるのか？」
「当然よ。」
「ククッ・・・昨日、医学生とやってきたくせにか。」
「そ・・それは・・・・・・もぉぅっ、とにかく剛士は、私のものなのっ！」
「離島の彼氏は？」
「ぇ？・・・・か、一馬は、一馬、また別問題よ。」
「お前、無茶苦茶言ってるな。・・・ま、いい。とにかく早く仕事するぞ。」
「絶対に麻衣子さんとデートしちゃ駄目よっ。」
　隣でしつこく喋りかける沙良を尻目に、剛士は、岡島のマンションに足を運んだ。

「何階だ？」
　沙良が資料を捲って剛士に答えた。
「５階の５０２号室。こっちから見ると右から二つ目よ。」
　剛士は、周りを見渡し、ベランダ側を観察できるビルを探した。
「沙良、あのビルにいこうぜ。」
　剛士が指さしたのは、本通りにそびえ立つ２０階建ての産業貿易会館だった。
「ここなら、自由に入れるし岡島の部屋の中も見えるぜ。」
「そうね。」

　剛士と沙良は、早速、産業貿易会館に入りエレベーターに乗り込んだ。
　二人は、１１階の飲食店が集中する階でエレベーターを降りた。
「剛士、こんなとこで降りて見れるの？」
「ああ。窓拭き用のための踊り場があるだろう。」
「・・え、ええ・・・・」
「ここは、荷物を置くための場所なんだ。」
「え・・・ま、まさか・・」
「その、まさかだよ。一緒に来い。」
「やだぁー、怖いわよぉ。落ちたらどうするのよっ？」
「ちゃんとフェンスがあるから大丈夫だ。」
「で、でもぉ・・・」
「じゃ、いい。俺一人で行くから。」
「ま、待ってよ。・・い、行くわよ、私も。」

　沙良は、剛士の服の裾を掴んで後をついていった。
　ロビーを抜けると業者専用の出入り口がある。
　剛士は、細い金属の棒で、いとも簡単にロックを外し中に入った。
　後に続く沙良・・・
　剛士は、内側からロックを掛けると踊り場に出るための小さなドアを開けた。
　外の風が激しく吹き込んでくる。

「出るぞ。」
　剛士は、そう言って踊り場に出た。
　沙良も顔を強張らせながら剛士の後に続いた。
　横の開口部から下を見る沙良・・・・

「いやぁーっ・・・怖いぃぃーっ。」
「うるさいぞ、落ちる事はないからじっとしてろ。」
「だ、だって・・凄い高いんだもの・・」
「当たり前だ。１１階なんだから。」
「・・・つ、剛士は怖くないの？」
「俺は、元々、特殊空挺任務部隊なんだぞ。この程度怖がってたら仕事にならんぜ。」
「わ、私は一般人だったのよ。剛士と一緒にしないでよ。」
「だから、一人で行くからいいって言ったじゃねぇーか。」
　その時、強いビル風が吹き上がり、沙良の身体が軽く煽られた。
「キャァァー・・・死ぬーっ！」
　剛士に、しがみ付く沙良・・・
「ったく・・・沙良、もういいから中で待ってろ。」
「ゴ、ゴメン・・・・・大丈夫。剛士と一緒にいる。」
「じゃ、座って、麻衣子からの電話を待ってろ。」
「うん。」

　剛士は、バッグからフィールドスコープを取り出した。
　軍用の高性能スコープで２キロ先のウサギの交尾が確認できるほどのものだ。
　剛士は、スコープにコードを装着しバッグの中にあるビデオに繋いだ。
「沙良、録画するからスイッチを押せ。」
「うん・・」
　剛士は、身を乗り出して５０２号室に照準を合わせた。
「あぁー、危なーい、剛士ぃぃーっ！」
　沙良が、剛士の足首を持って押さえた。
　呆れながら言い放つ剛士・・・
「だから、沙良っ・・・大丈夫だって。」
「ひょっとして落ちたらどうするのよっ。死んじゃうじゃないのさ。」
「ったく・・・・その時は、その時だっ。」
「お馬鹿っ、残った私はどうするのよ。」
「お前には、医学生もいるし、愛しの平岡一馬って男性もいるじゃないか。」
「・・・え？」
「お互い医者だし、彼を手伝いながら仲良く島で・・・・・・」
　沙良の顔が、一気に翳りを見せた。

（し、しまった・・・俺とした事が・・・・・つ、つい・・）
　ほんの冗談で言ったつもりだったが、沙良は、そう受け取っていないようだ。
「ぁ・・いや、すまん、沙良・・・・・そういう意味で言ったんじゃ・・・・」
　沙良は、剛士を寂しそうな目で見つめていた。

　つい、口を滑らせてしまった剛士は、バツが悪そうに沙良から視線を外しスコープを岡島の部屋に向けた。

（２１）

　剛士は、焦点が合わないままスコープを覗いていた。
（チッ・・・何で、あんな事を言っちまったんだ俺は・・・）
　剛士は、昨夜の沙良との行為の後、眠っている沙良を見つめていた時、平岡一馬の幻影が過ぎった事が原因だと思った。
　まだ、どこかに、平岡の事が頭の隅に残っており、知らず知らずのうちに、つい口にしてしまったのだ。
（男らしくないぞ・・・・剛士。）
　剛士は、スコープを下げ沙良に視線を戻した。
「沙良、スマン・・・全く悪気はないんだ・・・つい・・・・・・・・ぇ？」
　剛士は、沙良がジーンズのベルトを外している姿が目に入った。
（ま、まさか・・・・ここで、やるってか？）
　沙良は、ベルトを外すと、片方の足を剛士と交差させた。
　そしてベルトを二人の足に巻きつけフックを止めて固定していく。

「これでいいわ。剛士が落ちたら、私も一緒に落ちていくから・・・・」
「・・・沙良・・・」
　沙良は、下に俯いたまま喋りだした。
「剛士・・確かに、私は、一馬さんの事を好きよ・・・愛しているかもしれない。でも、剛士も・・・私は、大好きなの・・・・・・好きで好きで堪らないのよ。」
「・・・・・」
「・・でも、一馬さんを思う気持ちと、剛士を思う気持ちは、どこか違うのよ。私は、剛士が好き。今、互いの足を縛ったけど、一緒に死んでもいいと思ってる。私、・・これ以上、上手に・・・解りやすいように、剛士に説明できないの。」
「沙良・・・解った。もう、いいんだ。・・・俺が馬鹿な事を言ったばっかりに。」
　沙良は、浮かべていた涙を手で拭ると剛士に言い放った。
「剛士、早く見ないと・・・」
「あ、ああ・・・」

　剛士は思った。
（俺は、嫉妬心で口走ってしまったのか？・・・いや違う・・じゃ、何だ・・好きな男が、複数いるうちの一人という事に惑わされている怒りなのか・・。）
　剛士は、何故あんな事を言ってしまったのか自分自身が不思議でならなかった。
　沙良が、自分以外に身体の関係をもつ男がいることは、前から知っていたはず・・
（・・・剛士、もう、考えるのはやめろ・・・・）
　剛士は、気を取り直してスコープの照準を合わせた。

　５０２号室には、里子が下着だけの姿でソファに座ってテレビを見ているようだ。
　表情は、穏やかだ。特に緊張している様子はない。

　３０分ほど、観察を続けたが変化はなかった。
　こういう仕事は根気が第一だ。
　変化がないといっても簡単に次の行動に移る事は出来ない。

　更に１時間ほど経過した時、里子が後方に振り向いた。
（・・・？）
　岡島が帰ってきたのだろうか、里子は立ち上がって玄関に向かったようだ。
（・・・・帰ってきたな。）
　剛士は、そう思いながらスコープに集中した。
　そこへ岡島が、一人でリビングに入ってきた。

「沙良・・・岡島が帰ってきたぞ。」
「やっと来たの・・・待ちくたびれちゃったわ。」
　沙良は、自分のバックからタスコの単眼スコープを取り出した。
　更に倍率を上げるためネジ式のレンズを装着し、ゆっくりと立ち上がる。
「・・・ぅぅぅ・・怖いわ・・・」
　そう言いながらも、更はスコープを目に当てて部屋に焦点をあわせた。

　岡島は、ソファに座ると何やら奥に向かって喋りかけている。
　里子に何やら話し掛けているのであろう。
　そして、ビールを持った里子が、笑みを浮かべながらリビングに戻ってきた。
　ビールを注ぎ岡島に手渡す里子・・・
　里子は、下着を全部脱ぎ捨てると、ソファに座る岡島のベルトを外し下着ごと足首まで下ろした・・・
（おっ始めるな・・・）
　里子は、岡島を下から見上げながら元気のない肉棒を口に含んだ。
　頬を膨らませたり窄めたりしながら、自らも股間に手を持っていく・・・・
　岡島は、ビールを飲みながら里子の奉仕を上から眺めていた。

　岡島は、ビールを一気に飲み干すとグラスをテーブルに置き里子の髪を掴んで肉棒から引き離した。
　里子は、妖艶な表情で岡島を見つめていた。
　岡島は靴下を脱ぎ足を里子の口に持っていく。
　里子は、岡島の足の指を１本１本、丹念に口に含んでいった。
「いやぁ・・剛士ぃ・・・見てるだけで気持ち悪いゎ・・」
「水虫だったら最悪だな・・・」
「言わないでよぉ・・想像しちゃうじゃない。」

　岡島は、里子を立たせてテーブルに手をつかせた。
　里子は、膝を軽く曲げながら岡島の顔に向けて腰を振り出している。
　岡島は、里子の蜜壷に指を入れて愛撫し始めた。
　里子は、股間の間から顔を覗かせて蜜壷に指を入れる岡島を見ていた。

「でも、剛士、これだけ見てると、やはり岡島に惚れてるとしか見えないわね。」
「いや・・・それは断言できんぞ。」
「え・・・？」
　剛士が、そう言ったときだった。
　岡島は、セカンドバックからアルミケースを取り出すと中から注射器を取り出した。
　小瓶に粉を入れて液体を注ぐ岡島・・・
　注射針から液体を吸うと、岡島は里子を振り向かせテーブルの上に座らせた。
　里子は、足を岡島に向けて投げ出した。
　岡島は、里子の足の甲に浮かぶ血管に注射針を射した。
「見ろ・・・覚醒剤だ。」
「・・・・・」
　注射が射ち終わると、里子は、そのまま足を大きく広げ蜜壷を岡島に向かって突き出した。手を伸ばす岡島・・
　里子の蜜壷からは、大量の液体が零れ出している。
　尿ではなく、薬によって得た快感で流す愛液だった・・・
「す、凄い・・・・剛士・・・信じられない・・」
「お前は、薬使わなくても量は凄いぞ・・・・昨日も・・・」
　沙良は、剛士の背中を思いっきり手の平で叩いた。
「アタタタァー・・・・バカヤロー、スコープを落とすじゃねぇか！」
「フン・・」

　岡島は、里子をテーブルから降ろし跪かせた。
　立ち上がって肉棒を里子の口に強引に突っ込んでいく。
　一瞬、顔を顰めたものの、里子は、乳房を揉みながら岡島の肉棒を容易に受け入れていた。
　岡島は、里子の頭部を両手で掴み、まるで蜜壷に出し入れするように激しく腰を前後させている。
　しかし、里子は苦痛の表情も見せずに、それを受け入れていた。
「・・・・見てるほうが窒息しそうだわ・・・」
「薬が効いて苦痛が無いんだ。」

　岡島は、ソファの背もたれに里子を押し倒した。
　いきり立った肉棒を蜜壷に挿入し数回擦りあげると岡島は肉棒を引き抜いた。
　何やら里子に喋り掛けている。すると里子は、腰を高く突き上げ両手で尻の割れ目を左右に開いた。
　岡島は、里子の菊門に肉棒を当て一気に挿しこんでいく。
　大きく頭を後方に仰け反らせる里子・・・

　岡島は、里子の菊門に埋まった肉棒を遠慮なく、そして激しく前後させていた。
　里子も、自ら蜜壷に指を入れて刺激している。そして徐々に埋まる深さが大きくなり、遂には、手首まで蜜壷の中に隠れてしまった。
「信じられない・・・・海外のハードコアを見てるみたいだわ・・・」
　沙良は知らず知らずに股間に手がいってしまった。

　岡島の動きが止まった。
　どうやら、そのまま放出しているようだ。
　里子は大きく口をあけて悶えている。

　岡島はゆっくりと肉棒を引き抜いた。
　そのまま、尻餅をついた里子の前に歩き汚れた肉棒を突き出した。
　里子は、全く躊躇せずに肉棒を咥えると丁寧に舌で舐めあげていった。
　岡島は、里子の髪を引っ張り愛撫を止めさせた。
　里子は、立ち去る岡島を横目に一人で自慰を開始する。
「よし、沙良、録画スイッチを切っていいぞ。」
「ぁ、う、うん・・・」
　沙良は、バッグの中にあるビデオのスイッチを切った。
　剛士は、スコープをしまい、踊り場を出ようと沙良に合図した。
　その時、麻衣子から電話が入った。

『伊武さん？・・小柳です。岡島邦夫の詳細が解ったわ。』
「そうか、いま喋れるか？」
『大丈夫よ。車の中だから。』
　剛士は、麻衣子に岡島の詳細を聞き始めた。

　岡島邦夫、　元広域暴力団、清心会室田組幹部　８年前の抗争相手であった葵組の組長を殺害した容疑で逮捕されたのだが、証拠不十分で不起訴となる。
　しかし、別件の麻薬所持及び服用で逮捕され５年前に出所していた。
　麻薬売買では、ブラックリストに載るものの、巧みな証拠隠滅で罪を逃れている。
　元、大物歌手の坂井奈美子が自殺した事件で、麻薬が原因と報道されていたのだがこの、岡島が絡んでいたという情報が、裏組織でかなり流れていた。
　少年時代からレイプ・恐喝・強盗と人生のうち半分は刑務所で暮らしている男だった。
　現在も定職を持っておらず、巧みな話術と甘いマスクで金持ちそうな主婦を狙い金を巻き上げているという話が、元同業者から噂されていた。
　家族・親族は居らず、住まいも定期的に転々としているようだ。

「麻衣子、サンキュー、助かったぜ。」
『ちゃんと、約束を守ってよ。伊武さん。』
「おう、わかった。また連絡するぜ。」
　剛士は、そう言って電話を切った。

「そうか、思い出したぜ。あの女性歌手を弄んだ野郎だ・・・」
「そうなの？」
「ああ、自殺という事で、証拠不十分にはなったが、岡島が絡んでいた事は、ほぼ間違いないだろうな。」
「ふぅーん・・・でも確かに色男よね、あの岡島って男・・・」
「それに騙される女が多いんだ。・・・お前も気をつけろよ。」
　剛士は、沙良のヒップを叩いて踊り場からビルの中に入っていった。