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（２８）
剛士と幸三は、川澄良太が、津谷瞳と合うレストランに足を運んでいた。
既に、川澄から連絡を受け場所と時間を知らされていたのだ。
「そろそろ来る頃だな。」
剛士が独り言のように呟いた。
「でも、兄貴、結構、早い時間ですよね。」
「川澄が、電話で誘ったら、昼に早引きをしたそうだ。」
「そうですか。やはり、さっき兄貴が話していたように焦ってるからですかね？」
「それもあるだろうな。俺は、津谷は、妊娠してないと読んだ。つまり、今月中に実際に妊娠しないと、嘘は、ばれてしまう。」
「・・・・と、いう事は？」
「ま、それ以上の推理は、もうちょっと後で話してやろう。」
剛士は、ダンヒルをふかしながらワインに口をつけた。
「ところで兄貴、携帯に仕込む盗聴器は、持ってきましたがチャンスはありますか？」
「んむ、女性はバッグに入れるからな・・・一応、俺たちを見つけて後ろの席に座るように指示はしておいた。気を引かせるようにと。」
「この席は、前の観葉植物で死角になるから他の客にも気づかれ難いですしね。」
「ま、慎重にやろうぜ。」
「ええ。・・・ところで沙良さんは？」
「津谷瞳の聞き込みに行っている。」
「聞き込み？」
「ああ。彼女が勤めるＣＣ企画という会社にな。早引きした事が解ったんで直ぐに出かけたよ。」
「ＣＣ企画というと・・・・・」
「主にイベントコンパニオンを派遣するんだが、彼女は、ここの専用スタッフだ。沙良には、彼女の男関係や生活、性格を出来る限り集めて来いと言っておいた。」
「沙良さん、そういう事、得意ですもんね。」
「まあな・・・。」
そこへ、川澄が津谷を連れ添ってレストランに現われた。
「幸三、来たぞ。」
川澄は、目だけで、剛士を確認すると津谷を剛士たちがいるテーブル側に座るように腰掛けた。
川澄は、現われたボーイに料理を注文していた。
二人の雰囲気は、どことなく覚束ない感じである。
剛士は、何気なく津谷のバッグを確認した。
津谷の持っているバッグはファスナーは付いていなかった。
いま流行のフレアーカラーリングのトーチ風バッグだ。
中の仕切りに携帯電話がささっているのが見える。
しかし、直接、手を突っ込むわけにもいかなかった。
幸三が小声で剛士に囁く。
「兄貴・・・女が席を立たないことには無理ですよ。」
「んむ・・だが、女性は席を立つときもバッグを持っていくからな。」
「どうします？」
「・・・・よし、ちょっと待て。」
剛士は、席を立ってトイレに向かおうとした。
瞬間に川澄に視線を移し、指で誘う合図をする。
川澄は、津谷に断って席を立つと剛士の後を追いトイレに向かった。
剛士は、トイレの中で待っていた。
「伊武さん・・・なにか？」
「ええ・・実は、彼女の携帯電話に盗聴器を仕掛けたいんです。」
「盗聴器？」
「そうです。しかし、バッグに手を入れるわけにはいかないし席を立ったとしても、一緒に持っていく可能性は高いんです。」
「つまり・・・私が、仕掛けるチャンスを作れと。」
「そう言うことです。」
「時間は掛かりますか？」
「せいぜい、１、２分です。」
川澄は、暫し考えた後、剛士に自分の考えを具申してみた。
「解りました。では、こういう手はどうですか？」
川澄の考えた手は、ワザと小物を落とし津谷にテーブルの下を覗かせ、その一瞬の隙を狙って携帯を抜き出すという意見だった。
「・・・・・解りました。それでいきましょう。」
剛士は、その意見に承諾して先に席に戻った。
剛士は、席に戻ると抜き取りやすい格好で椅子に腰掛けた。
しばらくして川澄も席に戻ってきた。
津谷との会話が始まると、なるべく違和感がないように手に持っていた社章をテーブルの下の落とした。
「あ、しまった・・」
「どうしたの？」
「社章をテーブルの下に落としてしまったよ。瞳さん、見てくれるかな。」
川澄は、津谷に一緒に探すよう促した。
津谷が上体を屈め、テーブルの下を覗いてる隙に、剛士は急いで、津谷の携帯電話を抜き取った。
その電話を幸三に渡す剛士・・・・
幸三は、手際よくアンテナを付け替え剛士に返した。
その間、僅か１分・・・・
受け取った剛士は、自然を装いながら後ろを向いた。
元の場所に携帯電話を戻した剛士は、咳払いをして合図する。
「あ、瞳さん、あったよ。ズボンの裾に入っていた。」
「もう・・雄太さんったら。」
そう言って席に座りなおす川澄と津谷・・
剛士と幸三は、胸を撫で下ろしながら席を立った。
レストランを出た剛士は、川澄に電話をした。
「伊武です。」
『・・どうも・・』
「後は、今朝言ったとおりの言動をしてください。」
『・・わ、解りました。』
「いいですか、ごく自然に・・ですよ。」
『はい。』
剛士は、川澄に念を押して電話を切った。
「幸三、津谷の携帯の会話は全部録音しておいてくれ。」
「了解っす。」
「さて・・・今日は、これ以上何もする事ねぇーな・・・うち来て飲むか？」
「お、いいっすね。沙良ちゃん、居ます？」
「ああ、もう帰ってるだろう。」
剛士と幸三は、車に乗り込み事務所に帰った。
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「なに、そんな女なのか？」
「そうなのよ。仕事仲間の女性達からも、相当、煙たがれてるわ。」
剛士は、沙良の説明を聞いて、少々、驚きを見せた。
沙良が、津谷瞳の仕事仲間から聞いた話は、想像を超えていた。
津谷瞳は、男遍歴が多く、詐欺に近い形で何度も男を騙していた。
仕事柄、合コンも多いのだが気に入った男がいれば身体を許す行為は頻繁にあるらしい。
容姿とも抜群であり人気も高いのだが、仕事仲間いわく付き合う男性を一人に絞れないという事だった。
沙良の追問に、ほとんど毎日デートに明け暮れているという。
そのほとんどが、津谷に貢ぐ男性ばかりで、水系の男性が中心だという事だった。
「その付き合う男というのは？」
「基本的にお金持ってる男よ。ホストクラブにも行くらしいんだけど貢ぐんじゃなくて貢がせる何かを津谷瞳は持ってるんでしょうね。」
「確かに美貌だし、スタイルもいいからな。」
「仲間には、大金持ちと結婚する自信があると豪語しているらしいわ。」
「・・・ほぉー。で、津谷の男は、解るのか？」
「津谷と同じイベントに出る女性から聞いたんだけど、シェリーというホストクラブに頻繁に通っているらしいわ。ここのホストをほとんど喰ってるっていう話よ。何でも、 シェリーは、芸能人も来るっていう人気店らしいの。かなりのエッチ好きな彼女の絶好の遊び場のようね。中でも、トミー、アキラ、レンドル、っていう源氏名のホストとは、プライベートで、よく会ってるみたい。彼らも彼女に惚れてるようね。」
「シェリーか・・・」
剛士は、津谷の今後の行動をシュミレートしてみた。
川澄を今日のデートで、誘おうとするのは間違いない。
しかし、打ち合わせたとおり、誘いには乗らないように剛士は指示した。
津谷の構想の半分は、既に成功している。
後の残りを成功させるためには、妊娠するしかない。
剛士は、念のためにシェリーのホスト達を手の内に入れておく必要があると判断した。
その時、剛士の事務所に電話が入った。
「はい、伊武探偵事務所です。・・・・あ、はい、お待ちください。」
「剛士、川澄さんから電話よ。」
受話器を受け取る剛士・・・・
「伊武です。」
『・・川澄です。今、少し席をはずして電話してるんです。』
「で、・・・・どうでした？」
『・・・・はい、一応、前回と同様に、君とは結婚は出来ないと話したんです。彼女は、生まれてくる子供の認知はどうなったと、しつこく聞いてきました。私は、まだ結論を出してないと答えたんですが、その後、話が変わり案の定ホテルに誘われたんですが、体よく断りました。彼女曰く、妊娠しているし避妊しなくていいと言ってきました。今日、抱いてくれたら諦めるとも・・・』
「ほぉー、しかし、誘い方が怪しすぎるし、かなりの低レベルな女性ですね。」
『私も、そうは思ったんですが、何分、彼女は強気でして・・・』
「でしょうね。・・・で、例の血液型の話はしましたか？」
『言われたとおり、Ａ型と嘘の血液型を言っておきましたが。私から話題に上げなくても、彼女の方から聞いてきました。お互いの相性を調べたいとかで、いかにもという感じでした。』
「フッ、フッ・・・やはりね・・・・・ま、川澄さん、高い確率で安心して下さい。」
『え・・・は、はぁ・・』
「川澄さん、大変でしょうが、今日は遅くまで彼女と付き合ってください。」
『え？・・・・遅くまでというと・・？』
「深夜まで。・・・出来れば彼女の家に送って上げてください。」
『は、はぁ・・・・・わ、解りました。』
電話を切った剛士は、すぐさま、四郎に電話をした。
「四郎か？」
『あ、剛士君・・どうしたの？』
「また、頼まれてほしい事があるんだが。」
『ウッフン・・何でも言ってよぉー。』
「す、すまんな・・・・。お前、ホストクラブのシェリーって知ってるか？」
『ええ、知ってるわ。有名ですもの。それに、支配人の孝ちゃんは、親友なのよ。』
「そうかっ！・・・実はな・・」
剛士は、シェリーに勤めるホスト全員の血液型を四郎に調べてもらうよう依頼した。
『お安い御用だわ。何ならいまから、孝ちゃんに聞いてみてもいいけど。』
「頼む。」
『はぁーい。待っててね。好きよ、チュッ！』
（チュッは、余分なんだよ。）
電話を切った剛士に、沙良が質問をしてきた。
「剛士、深夜までって、どういう意味なの？」
「つまり、川澄は、そのまま津谷とのデートを終わってしまうとシェリーに行く可能性が高くなる。川澄に聞いた血液型の合う男と、今から関係を持つと、俺たちの今後の行動に支障を来す。」
「なるほどね・・・接触する前に、こちらが買収する・・・ということね。」
「ああ。津谷瞳が、他に特定の男が居ないとすれば、いまのところシェリーのホストしか考えられない。」
「そういう事か・・・・」
「相手がわかれば、俺が直接説明して協力してもらうつもりだ。」
「でも、急がないと。」
「ああ、しかし、四郎の連絡を待ってからでも遅くはない。幸三が津谷の携帯の内容は録音するから特定は出来るし。」
「任せてください。直接ハードに録音するから１週間分は余裕っす。」
そう言って、幸三は、余裕でビールを飲んでいた。
いずれにしろ、剛士は早い段階で、事が起きるだろうと予想していた。
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