（３０）

　幸三の店に着いた剛士は、先程までの事を説明した。
「そうっすか？」
「ああ、今ここに来る途中、四郎にも電話して部屋を取って貰った。」
「沙良さんは？」
「津谷を今日も尾行している。そろそろ帰ってるんじゃないかな？」
「そうすか・・・じゃ、俺も準備しなくちゃ。」
「頼む。今回は奮発するぜ。」
「楽しみにしてますよ。ランセルの女の子を全員制覇しようかな？」
「アホかいっ、もっと違う事に金を使え！」
「そういう兄貴は、いつも何に使うんですか？」
「俺か？・・・・んー・・・何かな・・いつの間にか無くなってるが・・」
「俺の事、言えないじゃないすか・・・」
「・・・るせぇー！・・・それより上手く頼むぞ。」
「俺は、失敗した事ないっすよ。」
「自信過剰は、命取りだぞ。」
「・・・わかったっす。・・・」
「お前が、仕掛け次第、俺が高須に連絡を入れる事になっているから。」
「でも、兄貴、いくら危険日だからって、そんなに簡単に妊娠なんてするんですかね？」「だから、ビデオを撮るんだろ。中で出している証拠さへあれば問題ない。」
「ま、そうですが・・・落とせますかね。」
「いいか、よく考えてみろ。何故、避妊せずに出す必要があるんだ？　そもそも、川澄に対する裏切り行為だぜ。あの女は、金の亡者だ。」
「でも、仮に魂胆がバレたとしても諦めますかね？」
「ま、任せておけ・・・」
剛士は、自信有り気に笑みを浮かべた。
「そうすか・・・・・じゃ、兄貴、俺は行くんで、これで。」
「んむ。・・・俺は、事務所に戻ってるからな。」
「わかりました。じゃ、終わったら電話します。」
「ああ。」
　剛士は、そう言って幸三の店を出た。

−　事務所　−

「何？　本当か・・・・」
「ええ、間違いないわ。」
　沙良は、先程まで津谷を尾行し、その内容を剛士に話していた。

「産婦人科に入った時は、ビックリしたわよ。本当に妊娠してるかと思ったわ。」
「しかし、よく判ったな。」
「馬鹿にしないでよ。私は、医者よ。薬を見ればわかるわよ。それに誘発剤を打つって事は、妊娠していないって事よ。」

　沙良は、処置室に入っている津谷を外の待合廊下で様子を探っていたのだ。
　その時、看護婦が、膿盆に入った薬剤を運んで来たのを沙良は、見逃さなかった。
　その看護婦に尋ねるフリをしながら、その薬を確認をしたのだ。
　薬は、排卵誘発剤だった。

「こりゃ、決定的だぜ。　いい証拠になる。よくやったな沙良・・・」
「フフフッ・・・ご褒美に抱いてね・・」
　剛士は、苦笑いしながら沙良のヒップを軽く叩いた。

　それから１時間後、幸三が、ビデオカメラの設置を終了した。

　連絡を受けた剛士は、その内容を川澄に電話をしていた。
『え・・・それで、その男性は？』
「ええ、承知しています。　そろそろ、ホテルに着く頃だと思いますよ。」
『伊武さん・・・』
「川澄さん、既に、半分以上の証拠は掴んであるんです。後は、ビデオ撮影が終了したら彼女を落とし始めます。」
『よ、よろしくお願いします。』
「いよいよ、大詰めです。結果は、後ほどお知らせします。」
　剛士は、電話を切ると一寝入りするため自分の部屋に入っていった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　クィーンズホテル　−

　フロントで鍵を預かった高須は、津谷とエレベーターに歩いていた。

「凄ぉーい、純一、いいの？　こんな高級なホテルで。」
「ああ、瞳ちゃんが喜ぶと思ってね。」
「嬉しいっ。今日は、うんと甘えさせてね。」
　津谷は、高須の腕を組んで、既に予約してある部屋に向かった。

　シャワーを浴びて出てきた津谷は、既にベッドに寝そべる高須に抱きついた。
「純一・・・」
　高須は、津谷のバスタオルを剥がして胸に顔を埋めた。
「・・・ァァァァ・・・純一ぃぃー・・」
　高須は、津谷を仰向けに寝かせると唇を合わせながら股間に指を這わせた。
「・・・ンゥゥゥゥー・・・・」
　亀裂を撫で、津谷の湿度が高くなると指を蜜壷に挿入していく。
「アウゥゥゥゥゥゥゥー・・・・ク○ちゃんも、お願いぃぃ・・・」
　高須も、男の性なのだろうか、剛士に言われた事は、既に頭に無かった。
　身体を移動し、津谷の股間に顔を埋めていく・・・
「ハゥゥゥ・・・な、舐めて・・・もっと・・・もっと、吸ってぇぇぇー・・」
　津谷と高須は、没頭し始めた。
　互いの性器に舌を当て、激しく求め合っていく。
「ァァァァー・・・ク、クゥゥゥゥゥゥー・・・じゅ、純一・・・・き、きて・・」
「瞳ちゃん・・・・」

　高須は、津谷の足を大きく広げた。
　これ以上なく怒張した肉棒を津谷の蜜壷にあてがうとゆっくりと中に挿入していった。「ハァァァァァァァ・・・・・いい・・気持ちいいぃぃぃー・・・」
　高須は、根元まで埋めこむと、静かに出し入れを開始していく。
「ンッ・・ウゥゥゥ・・・・ァァァ・・・もっと、もっと強くしてぇぇー。」

　高須は、津谷の要求どおりスピードを速めながら激しさを増していった。
　湿った音とともに、摩擦する快感に酔いしれる二人・・・
「グッ・・・瞳ちゃん・・・・・気持ち良過ぎて・・・」
「純一・・・で、出るの・・・ァァァァ・・・」
「もう、我慢できないよ・・・・・・だ・・出していいかい？」
「いいわ・・キテ・・・思いっきり出してぇぇぇー・・・奥に・・深くぅぅぅーっ！」
「ウゥッ！」
　津谷は、高須の腰に足を絡みつけて密着した。
　根元まで埋まっている肉棒をしっかりと固定しようとする津谷・・・
「ぁぁぁぁ・・・入ってくるぅぅ・・・純一のがぁぁぁぁー・・・」
　津谷は、高須の分身を搾り取るように蜜壷を締め付けていった。
　高須は、津谷を抱きしめながら快感の余韻に浸っている。
　しかし、津谷は、冷静だった。
　高須に抱きついてはいるものの、天井を見て笑みを浮かべていた。

「純一・・・休憩後、今度は後ろからお願い。」
「え・・・？」
「純一に、バックからやって欲しいのよ・・」
「あ、ああ・・・・・いいよ・・・」
　高須は、複雑な心境で津谷にそう答えた。

　少々時間をおいて、二人は、２回目のプレーに入っていた。
　既に、高須も爆発の兆候が現われている。
「も・・もう、駄目だ・・・・」
「アグゥゥゥゥゥゥゥー・・・・・出してぇぇぇー、思いっきりぃぃぃぃぃーっ！」
　高須は、津谷のいうとおり、後背位からも分身を注入した。
「うぅぅぅっ！」
「気持ちいぃぃぃ・・・熱い、熱いゎー・・・」
　津谷は、子宮の奥に疼きを感じた。
　蜜壷に力を入れて一滴も分身を漏らさないようにしている。
「た・・・たまんないよ・・・」
「ァァァ・・・純一・・・・良かったわ・・・」
「・・・・俺も・・・最高だったよ、瞳ちゃん・・・」
　高須は、ゆっくりと肉棒を引き抜いた。
　津谷の蜜壷は、妖しい光を放ちながら蠢いていた。

　しばらくして、高須はシャワーを浴びに浴室に入った。
　その間、津谷は、シャワーを浴びずにティッシュを股間に当てると下着を穿き服を纏った。
　シャワーを浴び終わって部屋に戻ってくる高須・・・
　津谷は、備え付けのドレッサーで化粧をしている。

「あれ、瞳ちゃん、シャワーは？」
「うん・・・あの・・・いいの・・」
「・・・・・・そ、そう・・・」
「ね、純一、出ようか？」
「あ、ああ・・。」
「約束どおり、お店に、同伴してあげるわ。」
「ああ、ありがとう・・・」
　化粧を終えた津谷は、高須にキスをした。
「行こっ。」
　そう言って、津谷は、高須の腕を組みながら、ホテルの部屋を出た。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　ホテルに設置したカメラを取り外した幸三が事務所にやってきた。

「お、ご苦労っ！」
「少し会話を聞きましたが、男の店に一緒に行ったみたいですよ。」
「そうか・・・。さっき、川澄グループの社長秘書に電話をしておいた。」
「え？」
「明日、津谷に結論を出すための席を設けてもらうことになった。」
「結論？・・・兄貴も同席するんですか？」
「当然だ。そこで、津谷に、川澄側の決定意見を伝えるのさ。」
「つまり、そこで・・・」
「ああ、産婦人科に言った事も、ビデオも流すつもりだ。」
「驚くでしょうね。」
「あんな悪い女は、恥じかかすだけじゃ物足らんが、ま、川澄側の要求は、そこまでで十分らしいから。」
「しかし、兄貴、女ってのは、怖いですね。平気で男を騙すんだから。」
「そんな女ばかりじゃないさ。」
「・・・・さて、兄貴、俺、用があるんで行きます。」
「どこへ？」
「ヒヒヒ、ランセルに・・・」
「キャシーちゃんか？」
「ええ。」
（・・・俺も行こうかな・・・）
　剛士は、幸三の卑猥な笑みを見て、ふと淫心が揺らいでいく。
　そこへ、沙良が部屋から降りてきた。

「あら、冬木さん、帰るの？」
「ああ、一発抜きにね。クククッ・・・」
「馬っ鹿じゃないの・・・ねぇ、剛士・・・」
「ぁ・・・あぁ・・・そ、そうだな・・・」
　剛士は、沙良の言葉に一気に、欲心が萎えた・・・
「ハハハッ、兄貴、沙良ちゃん、お疲れっす。」
　幸三は、照れ笑いをしながら事務所を出て行った。

（３１）

−　翌朝　−

　朝食を食べ終わった剛士は、新聞を読みながら煙草をふかしていた。
　片付けを終えた沙良が、カップにダージリンを入れて剛士にさしだす。
「お、サンキュー。」
　薄いブルーの地に白の天使画が施された洒落たカップだ。
「ほぉー、ジャスパーウェアか・・・・イカすな。」
「割らないでね。高いんだから。」
「なら、湯飲みで出せばいいじゃねぇーか。」
「剛士の、お馬鹿っ！　お茶は味や香りだけじゃないのよ。器も大事なの。」
「・・・・・・ま、そうかも・・・・な・・」
「その日を快適に過ごすには、始まりが大事なんだから。そう言う意味では、普段、使う物も、拘りは大切よ。」
「じゃ、俺のココもか？」
　剛士は、指で股間を指して沙良に冗談を飛ばした。
「もぉぅ！・・普段使わせてもらうほど、やってもらってないじゃない。」
「アホォー、昨日まで、６回連続で、やったじゃねーか。」
「回数だけじゃ駄目なの。・・・・・・・気持ちをくれなきゃ。」
　沙良は、そう言いながらソファに座る剛士の傍に近づいた。
　剛士の隣に座り身体をもたれさせながら、ダージリンを啜る。

（・・・・・まさか・・）

　剛士の予想通り、カップを置いた沙良は剛士の股間に手を伸ばしてきた。
　立ちあがろうとする剛士を押さえて唇を差し出してくる。
「・・・・おい、沙良・・・・朝から・・・」
「キスしてくれるくらい、いいじゃない。」
　沙良は、剛士の首にしがみ付いて自ら唇を近づけた。
　剛士の口を割って舌を入れていく沙良・・・
　柔らかく生暖かい沙良の舌の感触に、剛士の自制が警鐘を鳴らした。
「だぁぁぁーっ・・沙良のアホォーっ！」
　剛士は、沙良を抱きかかえて腰の上に乗せた。
　スカートを捲し上げショーツを思いっきり横にずらししていく。
「アンッ・・・」
　沙良は、甘い声を漏らしながら剛士の肉棒をスウェットの上から掴んだ。
「これを頂戴っ・・・」
「どうも、最近、朝が多いな・・」
「・・・ンゥゥ・・いいじゃない、朝だって・・・」
　剛士は、スウェットを脱ぎ、既に濡れている沙良の蜜壷に肉棒を挿入した。
「ァァァァァァ・・・・」
　沙良は、剛士の頬を両手で掴みディープを楽しんだ。
　執拗に舌を絡めてくる沙良・・・
　自然と腰を降り始め、湿った摩擦音が聞こえ始める。
「ウァァァァァァァァー・・・・剛士ぃぃぃぃー・・」
　剛士は、沙良のヒップを支えながら腰を突き上げた。
　指は、器用に菊門を撫で上げている。
「いやぁ・・・気持ちいぃぃー・・・・ハァァァァァー・・・」

　結局、数分後には、二人は、着ている物を全て脱ぎ捨てていた。
　次第に、プレーの激しさが増していく・・・・
　互いの股間が当たるピードラムと、沙良の漏らす声により８ビートの演奏が続いた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「じゃ、行ってくるからな。」
「うん。」
「濡れたパンツ洗っておけよ。」
「馬鹿っ！」
　剛士は、そう言って怒る沙良に手を振り事務所を出た。

　向かう先は、川澄グループのビルだ。
　剛士は、車に乗り込み、エンジンを掛けた。
　ダンヒルを咥え、ジッポで火を点けるとゆっくりと車をスタートさせた。

−　川澄グループ　−

　剛士は、受付で名前を告げると、社長秘書が直々に迎えに降りてきた。
「伊武さん、この度は・・・ありがとうございます。」
「いえ・・それで、彼女は？」
「はい、先程、到着しました。本部長と応接室で待っています。」
「では、行きましょうか。」
「はい。・・・それで、無事にカタがつくんでしょうか？」
　剛士は、資料とビデオテープを見せて答えた。
「これで、駄目なら諦めましょう。」
　そう言いつつも、自信有り気な剛士の顔を確認すると秘書は、剛士を上階の応接室に案内した。

「こちらです。」
　秘書は、部屋をノックして剛士とともに中に入った。
　怪訝そうな表情で剛士を見る津谷・・・
「お待たせしました。」
　秘書の声に津谷も表情を元に戻した。
「それでは、津谷さん、当方の決定した内容をお話させていただきます。」
「ええ。」
「貴方がご要望された、慰謝料、生まれてくる子の川澄グループの血縁登録は全て、お断りさせて頂く事に致しました。当然、養育費を含めた仕送りも一切、致しません。ただし、本部長と身体の関係を持った事は事実ですのでそれ相応の謝金は、少しですが、お支払いさせて頂くつもりではいますが。」
　津谷は、唖然とした表情で
「な・・ど・・・どういう意味よ。・・じゃ、おなかの子供はどうしてくれるのよ！」
　秘書は、剛士の顔を見ながら言い放った。
「こちらの方から、説明させていただきます。」
「・・・だ、誰よ。あなたは・・」

　剛士は、軽く咳払いをして挨拶をした。
「始めまして。伊武と申します。　私立探偵をしておりまして・・・」
「た、探偵・・・」
　津谷は、川澄の顔を見て呟いた。
「ゆ、雄太さん・・・私を調べたの？」
　川澄が答える代わりに剛士は話を開始した。
「津谷さん、貴女、妊娠したなんて嘘でしょう。」
「な、何を言ってるのよ。もう２ヶ月も生理がないのよっ！　私は、一度もくるったことなんてないわ。証拠でもあるの？」
「では、何故、川澄さんが、病院に誘っても応じなかったのですか？」
「・・そ、それは・・・いいわ。じゃ、今度、行きましょうよ。」
　剛士は、笑いを堪えながら話を続けた。

「ほぉう・・・そうですか。でも、本当に川澄さんの子供なんですか？」
「当たり前じゃないっ！　彼としか関係を持っていないのに。」
「そうですかね。私が調べたところによると、貴女はシェリーというホストクラブに頻繁に通っているそうじゃないですか。そこの、トミー、アキラ、レンドルという男達と、身体の関係があるそうじゃないですか。ちゃんと調べ上げてるんですよ。」
「・・・・そ・・・わ、私だって遊びくらいするわよ。でも、その人たちと、身体の関係なんか全くないわ。」
「そうですかね？」
　剛士は、ビデオテープを秘書に渡しテレビに映してもらうことにした。

　津谷は、顔を強張らせながら、秘書の行動を見ていた。
　テレビには、腕を組んで部屋に入ってくる津谷とレンドルこと高須の姿が映し出された。
「・・・ぇ！・・・・そ・・・そん・・・・な・・・」
　テレビには、津谷と高須の痴態が、映し出されていた。
　全員が無言でテレビに見入っていた。
　ただ、津谷は、身体が震えて声を出すことが出来なかったのだろう。
　淫らな姿で、隠語を使い避妊具無しで射精されたシーンもはっきりと映っている。
　津谷は耐え切れずに立ち上がって、ビデオを停止した。

「な、何よっ、これぇっ！　卑怯じゃない。」
「卑怯？・・・クククッ、変わった事を言われますね。どちらが卑怯なんですか？　貴女、思いっきり出して、と叫んでいたじゃないですか。妊娠するためにでしょ？」
「・・・ち、違うわよ。」
「川澄さんと結婚を要望している人が、他の男性とセックスをするんですか？　そして、妊娠していると嘘をつき、大金を騙し取ろうとしてるんでしょ。」
　津谷の顔が、見る見る蒼ざめていった・・・

「・・・・そ、それは・・・・・雄太さんが誘っても抱いてくれないからじゃない。」
「そんなのは、理由になりませんな。」
「それに、間違いなくお腹の子供は、雄太さんの子よっ！　雄太さんに抱かれてから生理が来なくなったんだから。」
「貴女って人は・・・・ここまで見せても、諦めないんですね・・・」
「・・・・・・」
「いいでしょう・・・・・川澄さん、貴女の血液型は？」
　川澄は、剛士の質問に答えた。
「Ｂ型です。」
　津谷の眼は、飛び出るような勢いで大きく開いた。

「まあ、川澄さん、とりあえず彼女に産んでもらいましょうか。血液型で確認できますし、仮に同血液でもＤＮＡ鑑定をすれば全ては明らかになります。津谷さん。当然、産むつもりでしょ。」
　津谷は、呆然とした表情で肩を落としていた。
　剛士は、川澄と秘書の顔を見て、ゆっくりと頷く。

「津谷さん、もう、諦めなさい。すべて確認しているんです。」
「・・・・」
「貴女が、昨日、産婦人科医院に行き、排卵誘発剤を注射した事もね。川澄さんの血液型をＡ型と思い込んで、同じＡ型である高須純一をターゲットに選び、本当に妊娠をすることで信用させようとした。」
　そこまで喋ると、津谷は、この場に居る事に耐えられなくなったのか唇を震わせながら、ドアも閉めずに応接室を飛び出していった。

　秘書は、開いたドアを閉めると川澄に頷き伊武に礼を言った。
「伊武さん、本当にありがとうございました。」
「いえ、正直、こんな簡単に済んでよかったです。」
「なんとお礼を言ったらいいか・・・・・後ほど謝礼の方はお届けにあがります。」
「解りました。離宮の方も、今後ともご贔屓に・・。」
「それは、もう・・・」
「それでは、私は、これで失礼します。」
　秘書と川澄は、もう一度、剛士に頭を下げて剛士を見送った。

　応接室を出た剛士は、エレベーターホールに行くため廊下を歩いていた。
　ふと、視線を外に向けると、ビルを出て走り去っていく津谷瞳の姿が目に入った。
（・・・・・津谷瞳か・・・治らねぇーだろうな・・あの性格は・・）
　剛士は、アクビをしながらエレベーターのボタンを押した。