（３５）

　既にイギリスに来て、５日が、経過していた。
　今日の剛士と沙良は、レディング、ウッドストック、ソールズベリと訪れた。
　土産を買い込んだり美味しい料理を堪能したりと心身ともにリフレッシュが出来た一日だった。
　いよいよ明日を最後に、２日後には帰国を控えていた。

「アゥゥゥゥ・・・・・・・・・アァ・・アァー、イィィィ・・・」
　沙良は、四つん這いにされ、剛士の肉棒に深く貫かれていた。。
　もう、イク寸前なのか、指を噛み目をきつく瞑っている。
「・・ゥゥゥ・・・ゥゥゥゥゥゥッ・・・・・・ウゥゥゥーッ！」
　沙良の菊門は、妖しく蠢いている。
　剛士は、その菊門を指で摩擦していった・・・
「アゥゥゥゥゥゥゥゥゥー・・・・つ・・・剛士ぃぃ・・・イヤァァァー・・」
　沙良は、腰を左右に振って悦びを表現している。
　そして剛士は、上から沙良の乳房を鷲掴みにした。
　沙良の身体が、少々、持ち上がり下半身を完全に預ける格好になると剛士は、強烈に肉棒を打ち込んでいった。
「アウッ、アウッ、アウッ、アァッァゥゥゥゥゥゥゥー・・・」
　沙良の口は、もはや閉じる事は出来なかった。
　突かれるたびに、艶声が吐かれていく。
「ウフゥゥー・・ぅぅ・・もう、イクッ・・イクゥゥッ・・・ぁぁぁ・・剛士ぃぃ・駄目・・・い、いやぁぁ・・・アゥゥ、イ、イックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーッ！」
　沙良の身体が激しく痙攣した。
　剛士も、それに合わせて分身を放出していく・・・
「クッ・・・・さ、沙良・・・・」
　沙良は、ガックリと前のめりになって荒い息を吐いていた。
　剛士の分身が、脈動に合わせて出るたびに沙良は熱い吐息を漏らしている。
「・・・ぁ・・熱い・・・剛士のが熱くて・・・・ゥゥゥ・・・・」
　剛士は、ゆっくりと肉棒を引き抜くと沙良の背中に倒れこんだ。
　沙良にとって、それは、まるで全身を包まれているような心地良さだった。
　剛士は、仰向けになると沙良を胸の上に抱き寄せた。

「・・・・・・・・剛士・・・今日は、楽しかったわ。」
「ああ・・・しかし、５日連続でお前を抱くのもかなりシンドイぞ。」
「だって、剛士に抱いてもらわないと寝れないんだもん。」
　沙良は、そう言うと、剛士の首筋に唇を這わしていく。
「・・・剛士、・・・・私、もっと・・・もっと、剛士が好きになった。」
「・・・ふっ・・・」
「それより、剛士・・・・別れた奥さんに会わなくていいの？」
「・・・何で別れた女房に会わなくちゃいけないんだ？」
「だって・・・・奥さんも剛士が嫌いになって別れたんじゃないんでしょ。」
「沙良、どういう意味で言ってるんだ？・・・・縁りを戻せって言ってるのか？」
「・・・・・うぅん、違う・・・・もっと、別の・・・・」
「何度も言っただろう・・・俺は、もう結婚はしないって。性格なんて変わるもんじゃないさ。まして、俺の資質は持って生まれたもんだ。状況が変わっても彼女の前では俺は以前と同じだ。それに、ケイトは再婚してるしな。」
「・・・・・・・そ、そうなの・・」
「スミスから誘いの電話があったときに教えてくれたんだ。それに、日本に帰ってくる時に、とっくに吹っ切れてる。」
　沙良は、そう呟く剛士の口をキスで塞いだ。
（・・・・剛士、私が、傍に居てあげる・・・）

　剛士の下半身に頭部を移動し二人の愛液が付着した肉棒に舌を絡めていく。
　沙良は、貧欲に舌を躍らせながら、２回目のプレーを求めていった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　翌朝　−

「じゃ、剛士、行ってくるわ。」
「おう、気をつけろよ。」
「うん。じゃ、夕方７時に、ソーホーのキングストリートで待ってる。」
「ああ、わかった。」
　沙良は、イギリス滞在時代の友人に会うためマンチェスターに出かけていった。

（さてと・・・・俺も出かけるか・・・）

　剛士は、スミスに借りた、アストンーマーチンに乗り込み街に繰り出した。

　ダンヒルを咥えながらステアリングを華麗に操っていく。
　剛士は、メインストリートを飛ばし、ビックベンに通りかかった。

　ビッグ・ベンはテムズ河畔に建つ、ウエストミンスター宮殿(国会議事堂)の時計台の事で、タワー･ブリッジと並んでイギリスのシンボルだ。
　剛士は、車を停めて議事堂を見つめていた。

（そういえば・・・いつも、ここで待ち合わせをしていたな・・・）

　剛士は、別れた妻、ケイトと結婚する前に、いつも、この場所でデートの待ち合わせをしていた。
　この時計台は、１５分おきに、奇麗な音色の鐘を鳴らして時を知らせてくれる。
　ケイトは、この鐘の音が聞くのが大好きだった。

　昔を思い出す剛士・・・・

≪やあ、待ったかい？≫

≪ツヨシって、いつも２回、鐘がなってから来るのね。≫

≪よく言うぜケイト、鐘の音を聞いてからじゃないと、動こうとしないじゃないか。≫

≪・・・だ、だって、これを聞かないとツヨシとデートした気にならないんだもの。≫

　剛士は、そんな昔の思い出に耽っていた。

（・・・・・フッ、拘りも女の魅力の一つか・・・）

　何気に腕時計を見る剛士・・・
　あと、２分で大鐘がなる時刻だ。
　この時計台の鐘は２種類あって、毎時間に鳴る１４トンもの大鐘と１５分おきに鳴る小さな鐘の４つがある。

（聞いていくか・・・・）

　剛士は、静かに目を閉じて９５メートルの高さから鳴り響く大鐘に耳を澄ました。

　久しぶりに訪れる見慣れた町並みや景色を満喫しながら、剛士はカンタベリーに向かった・・・
　城壁の残る綺麗な町で、さまざまな見応えのある歴史的建造物が残っている。
　剛士が、ここに立ち寄ったのには訳があった。

　剛士は、車を停め、カンタベリー大聖堂によった後、もう一つの、小さな聖堂に足を踏み入れた。

（変わってないな・・・）

　剛士は、聖堂の前の花壇路をゆっくりと歩いて見て回った。
　日本人の男が、こんな場所に居る事自体が珍しいのだろう。
　若いアスピラントたちが、剛士をジロジロと見ている。
　剛士は、笑顔で彼女達に手を振った。

　流暢な英語で声を掛ける剛士・・・・
「こんにちは。修道生活大変だね。」
「・・・・・・・」
　最初は警戒をしていたものの、彼女らは、剛士の屈託のない笑顔と英語が喋れる事に気づき、興味深く近づいてきた。
「はは・・・怪しい者じゃないよ。」
「あの・・旅行の方ですか？」
「ああ・・・ま、そんなもんかな。」
「日本人？」
「ああ、そうだよ。でも昔は、イギリスに住んでいたんだ。」
　剛士は、若い修道生たちにそう答えた。

　彼女たちは、いつの間にか剛士に打ち解け、面白い話を聞かせる剛士に興味を抱いていった。
　彼女らは、焼いたばかりのジャムクッキーを剛士にさしだした。
「え？　俺に・・」
「ええ、食べて。」
「君達のおやつがなくなるよ。」
「いいの、面白いお話を聞かせていただいたんですもの。」
　笑いながら会話をする剛士たち・・・・
　そこへ、母院から一人のシスターが姿を現した。

「これ、あなたたち、聖読の時間は過ぎているのよ。」
「あ、ママ・・・す、すみません・・」
「早くしなさい。」
　シスターは、そういうと彼女らの背後に背の高い男が居る事に気づいた。
　老眼鏡を下げながら、彼女達の後ろに立つ剛士を見ると、シスターは持っていたベルを落としてしまった。
　そんな、シスターに、優しく笑みを送る剛士・・・・

「お久しぶりです、シスター・・・シスター・シャロン・・」
「・・・・・・ツ、ツヨシ・・・・ツヨシなのかい？」

　シャロンと呼ばれた女性は、ここでアスピランドを育てる修道女だった。
　すでに６０歳を超えているのだが、綺麗に伸びた背筋と落ち着いた雰囲気は昔のままだった。
　シャロンは、ゆっくりとした足取りで剛士の前に近づいた。

「本当に、ツヨシなんだね・・・・」
　そう言って剛士の両頬に手を当てていくシャロン・・・・・
「ええ。」
「何年ぶりでしょう・・・心配していたのよ。」
「すみません。５年前に日本に帰ったんです。」
「そうなの・・・いろいろあったようだね。」
「ええ。・・・しかし、今は元気でやってますよ。」
「そうかい・・・・・ツヨシ、あの時の子達は、私がしっかりと見守っているわ。」
「シャロン・・・それが気になって寄ってみたんですよ。」
「・・・・・こちらにおいで。」

　剛士は、シャロンに促されて聖堂に入っていった。
　聖堂の左右には、神に見守られた陶皿がいくつも置かれていた。
　シャロンは、その中で７個の陶皿が置かれた場所に歩いた。
　一枚一枚に、名前が刻まれている。
　剛士は、胸に手を当てて、その皿を一枚一枚丁寧に撫でていった。

「ツヨシ・・いつまでも、一人で傷を背負うんじゃないよ。」
「・・・・・・・・・ええ。・・・・・・解ってます。」
「ツヨシ・・貴方は、一生懸命やったわ。この子達の家族も貴方を恨んでいない。むしろ、感謝しているわ。いつも、ここに来る度に、貴方の話をしていくのよ。」
「シャロン・・・・・俺は・・」
「言わないの。貴方の事は、全て解っているわ。当時の貴方の部下だった人も毎年、ここに来て、お祈りを捧げていってくれるのよ。未だに貴方を目標にして、頑張っているみたい。貴方は、素晴らしい教訓を残していったのよ。」
「・・・・・・俺なんか・・」
「自分を責めては駄目よ。・・・・大丈夫、私がずっと見守っていきますから。」
　シャロンは、剛士の背中を優しく撫でながらそう答えた。
　剛士も、シャロンに振り向き小さく頷いた。
「・・・・シャロン・・・感謝してます。よろしく頼みます。」
「ええ。」

　剛士と、シャロンは、しばらく聖堂の中で話を交わした。
　久しぶりに見る互いの姿を喜びながら会話が続く・・・・

「シャロン、会えてよかった。・・・・・何より、元気そうで安心しました。」
「フフッ、貴方もね。」
「・・・・・・・じゃ、俺はこれで。」
「ツヨシ・・・後悔しない生き方をしなさい。」
「ええ。・・・・・そうします。・・・・」
「いつでも来なさい。待ってるわ。」
「・・・はい。」

　剛士は、後ろを振り向く事無く車に向かった。
　そして、シャロンも、剛士の所在や詳しい事を聞くことはしなかった。
　また、必ず剛士が訪れる事を信じてやまなかったからだ。

　剛士は、胸に熱いものを感じながらロンドンに戻った。

（３６）

　聖堂院を出た剛士は、暇を潰しながらロンドンに引き返していた。
　ふと、沙良との約束を思い出す剛士・・・
　時計を見ると、既に約束の時間が迫っていた。

（チッ、こんな時間か・・・急がんと間に合わんな。）

　剛士は、アクセルを強く踏み込んだ。

　ホテルに到着すると駐車場に車を入れ、沙良と待ち合わせのソーホーに急いだ。

　ソーホーは、ロンドン一の繁華街であり映画館、劇場、レストラン、パブやクラブ、娯楽施設等、とても賑やかな場所だ。
　キングストリートに到着した剛士は、周りを見渡した。

（なんだ・・まだ来てねぇーのか・・・）

　剛士は、息を整えながら路上に設置された
　ウッドデッキに腰を降ろしダンヒルを咥えた。
「遅せぇーな・・・・沙良の奴・・・」
　独り言を呟きながら街行く人を眺める剛士・・・
　ロンドン一の繁華街だけあり、綺麗に着飾った人が楽しく歩いているのが目に付く。

　剛士は、デッキの後ろにあるデリバリーカーで、ビールを買った。
「テディポーターを。」
「あいよっ。」
　威勢のいい中年男性が剛士に、サミュエルスミス・テディポーターを手渡した。
　イギリスの黒ビールで、泡立ちもしっかりしているし、味も良い。
　剛士は、デッキに座りなおし、テディポーターを飲みながら沙良を待った。

　夕方近くになると、派手なフィットドレスを着た女性が目に付く。

（お、綺麗なねーちゃんだな・・）

　街を歩く単独男性に、それとなく声を掛け誘っている姿が目立った。
　治安の良いイギリスでも娼婦はいる。
　一目見てそれとわかる女性も少なくなかった。
　その時、デッキに座る向かいの歩道で一人の女性が、中年男性を誘っている姿が目に入った。
　その男性は、女性を避けるように通り過ぎていく。

（ククッ・・・残念でした・・・・）

　剛士は、そう思いながら女性を見ていた。
　女性は、何事もなかったように次のターゲットを探し始めている。
　その様子を見ていた剛士は、女性と目が合ってしまった。
　女性は、剛士の顔を見て驚愕した。
　剛士は、一瞬、何事かと思った。

　その女性が、こちらにゆっくりと歩いて来る。

（ん？・・俺を知ってるようだな・・・）

　女性は、デッキに座る剛士の前で立ち止まった。

「・・・・・・・・」
「？・・・俺に何か？」
　女性は、剛士の問いに無言でいる・・・・
　そんな女性に剛士は、ぶっきらぼうに答えた。
「・・・・すまんが、人を待ってるんで。」
　女は、気持ち俯き加減で言い放った。
「・・・ツヨシ・・・・・・わからない・・私が？」
　剛士は、怪訝に思いながら、立ち上がって女性を見つめた。
「！・・・ケ・・・ケイ・・ト・・・・・か？」
　それは、紛れもなく、剛士と別れた妻、ケイトだった。
　露出の多いドレスを着込み、化粧も濃く・・・そして、荒れた肌・・・。
　頬が以前よりこけ、この４年間の正常ではなかった経過を物語っている。

（・・・・・か・・・変わり果てた・・・な・・・）

「・・・お久しぶりね。・・・・座っていい？」
「・・・・・」
　ケイトは、剛士の返事を待たないまま、デッキに座った。
「驚いた？　これが、いまの私の姿・・・」
「なぜ？・・・・・・・再婚したって、スミスに聞いたぜ。」
「ええ、そうよ。飲んだくれのアホ亭主よ。・・・・騙されてね。」
「騙されて？・・・・それで、こんな事をして君が稼いでるのか？」
「・・・・・・・ロミーのためよ。」
「ロミー？・・・・・君の子供か・・」
　ケイトは、小さく頷いた。
「貴女と離婚しなければ今ごろ、ハッピーな生活をしていたかも。」
「・・・・・・・・・・・・」
　そこへ、沙良が、キングストリートの中央を小走りに急いでいた。
　剛士の姿を見つけた沙良が、焦りながら駆け寄ってくる。

「ごめんっ・・・つよ・・・・し・・・・・ぇ？・・・」
　沙良が、声を掛けようとした時、隣に座る女性の姿が目に入った。

（ん？・・・剛士・・・・・・・誰？）

　様子がおかしいと感じた沙良は、見つからないように、剛士と一緒にデッキに座る女性の背後に回った。
　デリバリーカーの陰に身を潜め二人の会話に聞き耳を立てる沙良・・・

「ねえ・・・ツヨシ、いま何やってるの。」
「日本で、探偵をやってる。」
「・・・・そう・・・」
　沙良は、その女性が、剛士と別れた妻と直ぐに判った。
「・・・ツヨシ・・・結婚してるの？」
「・・・いや。」
「そ・・そう・・・」
「君は、ご主人と上手くいってないのか？」
「・・・・・・・」
　ケイトは、一瞬、無言になったが、直ぐに剛士に喋りかけた。
「・・・ねぇ・・・・・もう一度、・・・・貴方とやり直せないかな？」
　剛士は、視線を前に落としたまま呟いた。
「・・・・・・・何を言ってるんだ。君は、俺との生活が耐えられなくて離婚を決意したんじゃないか。　いまさら縁りを戻すといっても無理さ。」
「そ、それは・・・・・・でも、・・・でも、確かに貴方を愛していた。」
「俺は、日々、苦闘し続けた。君を苦しめていたのは事実かもしれない。だが、時の経過が、俺と君の鎖を切ってくれたんだ。これは運命だ。」
「・・・・・自分を哀れんでるの・・・それとも・・・私を・・」
「・・・ケイト・・俺は、お前には相応しくない。」
　剛士のそんな言葉に、ケイトは声を荒げた。
「もう、こんな生活は、嫌なのっ！・・・亭主とも別れるわっ。」
「・・・・・馬鹿な・・・子供だっているだろう。」
「子供は、どこか施設に預けて日本に着いて行く。」

　剛士の身体が、訳の判らない怒りで震え出した。
　全身から憤りを迸るように、ゆっくりと囁く剛士・・・・
「施設に預けるだと？・・ケイト・・・自分の子供じゃないのか？　お前は、さっき子供のために、こんな仕事をしていると言ったな。自分の身体を売ってまで、育てるほど愛してるんじゃないのか？」
「いいのっ！・・・親が居なくても子供は育つわ。・・私は・・」
「馬鹿やろぉーっ！」
「キャッ・・・」
　剛士の平手が、ケイトの頬を痛打した。
「・・・・ケイトっ・・・・・これは、俺の怒りと共にお前の子供、ロミーの・・・・悲痛の叫びと思えっ！」
　ケイトは、頬を押さえながら下に俯いていた。
　後ろで、沙良が、二人の様子を恐々と伺っている。

「・・・ツヨシ・・・私は・・・・」
「俺は、人を犠牲にして、自分だけが幸福になるなんて絶対に考えられない。まして、愛する子供を捨て、男についていく女など、俺は好きになれない。」
「・・・・・・ゥッ・・ゥゥ・・」
　剛士は、そう言うとポケットからカードを取り出してケイトに手渡した。

「旦那と別れても、しばらくの間、子供と二人で生活出来るだけの金がある。もう一度、立ち直って懸命に生きろ！　お前は、そんな女じゃないはずだ！」
　ケイトは、ゆっくりと立ち上がって剛士と向かい合った。
　そして、カードを剛士につき返すと小さな声で呟いた。
「ごめんなさい。・・剛士を試したかったの。子供を捨てるつもりなんて毛頭ないわ。でも、主人とは別れるわ。私は、私は、ロミーと二人で、一生懸命に生きていく。」
　ケイトを見つめる剛士・・・・
「・・・・・・ああ・・・・そうしろ・・・・」
　ケイトは、気丈な顔に戻っていた。
　そして、剛士に、言い放った。
「貴方の事は、決して忘れないわ。二度と、会う事もないでしょうけど。元気でね。」
「・・・・ケイト、お前との記憶は、俺の脳裏から消える事はないが・・・・思い出す事もないだろう。・・・・・・これが最後の愛だ。」
　そう言ってケイトの頬に軽くキスをした。
　ケイトは、剛士の言葉に一瞬、翳りを見せたが、剛士の真意を読み取って小さく頷いた。
「あ、ありがとう・・・ツヨシ・・・・・じゃ、行くわ。」
　ケイトは、そこから立ち去ろうとした。

「ケイト！」
　ケイトは、前を向いたまま立ち止まった。

「今日・・・・・ビックベンの時計台の鐘を聞いてきた・・・・・」
「！・・・・・」
「もう一度、あの鐘を聞いてた頃の自分に戻るんだ。」
　ケイトの瞳からは、止めどない涙が零れ始めた。
「・・・・うん・・・・・・・・・うん・・・・」
「・・・幸せは、自分で掴み取れ！」
　ケイトは、肩を震わせていた。
「・・・・・わかった・・・・わかったわ、ツヨシ・・・」
　ケイトは、そう言って涙を流しながら走り去った。
　決して、後ろを振り向く事無く・・・・・・・・

（グッバイ、ツヨシ・・・私が、一番愛した人・・・）

（さよならだ・・・ケイト・・・）

　剛士は、ケイトが見えなくなるまで後姿を目で追った。
　人ごみに消えたケイトを確認すると、剛士は、声を上げた。

「沙良・・・・出て来い。」

（・・・え？・・・・・）

　沙良は、デリバリーカーの影から、ゆっくりと姿を現した。

「・・・・ゴメン。黙って聞いてて。・・・でも、よく気づいたわね。」
「・・・判るだろうが、普通は・・・」
「・ァ・ハ・ハ・・・・でも、剛士・・・良かったの？　あれで・・・」
「ああ、いいんだ。彼女は、へこたれないさ。・・・俺が、一度は惚れた女なんだからな。」
「・・・・・・・」
「さ、行くか。」
　剛士は、沙良の肩に手を回して、予約したレストランに歩き始めた。
　沙良は、剛士を気遣ってか口数が少なかった。
　何より心配だったのは、剛士の心が動いたのではという不安だった。

「あの・・・剛士・・・私・・・・」
「言うんじゃねぇ・・・・・・・」
「・・・・・・」
「俺は、大丈夫だし何ともない。・・それに、今の俺には・・・・・・沙良・・・」
「・・・・・・ぇ・・」
「・・・・・お前が・・いてくれる。」
「・・つ・・剛士・・・」
　沙良は、剛士の言葉に、身体の奥から熱いものが込み上げてきた。
　一気に鼓動が早くなり、剛士の全てを独り占めしたい衝動に駆り立てられる。
「剛士、今日は、最後の夜だから、夕食、食べ終わったら・・・」
「・・ククッ・・・立てないくらい虐めてやるぜ。」
　自分の肩に手を回す剛士の腕を両手で掴みながら二人は、夜の賑わいを見せるリージェントカットに消えていった・・・・・・・