（７６）

「穂波さん、元気になってよかったわね。」
「ああ。あと１週間で退院できるらしい。」
「それにしても、私も一週間、付き添ったけど壮絶だったわよ。とにかく、無意識に自慰を始めちゃうのよ。発作が起きると全身を縛るんだけど、可哀想で、とても見てられなかったわ。」
　剛士は、無表情で囁いた。
「まあ、しょうがない。・・・だから、ヤクは恐ろしいんだ。」
「・・・ええ・・・・そうね。」
「ま、大分良くなったし、元気そうでよかったぜ。」
「後は、内蔵の機能が元に戻れば、普通の生活できるって。」
「ま、退院の際は、みんなで飯でも食おう。」
「そうね。」
　そんな会話の中、豪が、事務所へ帰ってきた。
「帰りました。」
「おう、ご苦労・・・どうだった。」
「ええ。今日、やっと終わりました。やはり旦那の浮気でした。」
「そうか。ま、書類を作ったら報告に行ってやれ。」
「はい。」
　
　豪は、有紀に書類と録音カードを渡してタイプを頼んだ。
「豪ちゃん、字が汚くて読めないわよ。」
「るせー！急いで書くから上手でもそうなっちまうんだよ。見難かったら、カードに録音してきたからそれを聞けよ。」

　剛士と沙良は、二人を見ながら意味ありな笑いを見せていた。
「前は、私たちも、あんな風に喧嘩していたわね。」
「お前も要領が悪かったからな。・・・ま、今もだが。」
「なんですってぇぇーっ！」
　沙良は、剛士の頬を抓りながら怒りを露にする。
「痛ででっ・・・離せぇっ、アホォォォォー！」
　
　今度は、反対に豪達が剛士らを見て小声で話し掛けあっていた。
「俺たちも何年経っても、あんな感じなのかな？」
「・・・・私は、楽しいと思うけど・・・」
「・・だな。」
「ね、豪、それより今夜・・・・フフフッ・・・」
「お・・・そ、そうだな・・・・・ヒヒヒ・・」
　そこへ、沙良が、怒りながらデスクに戻ってきた。

「豪君、腕は別として、剛士みたいに女に無頓着な男になっちゃダメよ。」
「は・・・はぁ・・・」
「さ、今日は、もういいわよ。あとは私がやっておくから。」
「ぁ・・・はい。・・・じゃ・・・これで。」
「お疲れさま、明日は休みだし、ゆっくりしなさい。」
「はい。」
　豪と有紀は、後片付けをし事務所を後にした。

「沙良、ちょっと出掛けてくるからな。」
「え、何処に行くの？」
「飲みに。」
「私も行くぅぅー！」
（・・・・ちっ、しまった。黙って出かければよかったぜ。）
「ちょっと、まってて下着替えて来るから。」
「おい、なんで飲みに行くのに下着を替える必要があるんだ。」
「え・・・あ・・・そう、ひょっとして剛士が襲ってくるかもしれないから。」
「襲わねぇーよ。」
「剛士の、お馬鹿っ。私がやって欲しいのよっ。」
　沙良は、そう言うと急いで部屋に駆け上がっていった。
（・・・・ったく、あいつは・・・・）

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　剛士と沙良は、２件目の飲み屋を出たあと、四郎の店に行こうと路地を歩いていた。
　その時、一台の黒塗りの高級外車が剛士と沙良をかぶせながら停車した。
「・・・ん？・・・なんだ・・・」
　車内から、一目で、それらしき人間とわかる男が３人出てきた。
　特に表情を変えるわけでもなく、剛士は、ぶっきらぼうに言葉を吐いた。
「俺に何か用か？」
　男の一人が、剛士に頭を下げて喋り始めた。
「伊武さんですね。」
「そうだが・・・」
　男達の胸のバッジをみると、この地域一帯を占めている指定暴力団、暁会の者だった。
「いきなりで恐縮ですが、少々お時間をいただけますでしょうか？」
　チンピラと違い、言葉も態度も丁重で落ち着きがある。
　後の二人は、この男をガードしながら立っていた。
「依頼か？」
「そんなところです。」
「あんたは？」
「私は、暁会、城戸組の若頭で岩井孝と申します。」
「あんたの依頼か？」
「いえ。本人を車の中に待たせております。」
　剛士は、車内を見るが、ウィンドウにスモークが貼ってあり確認ができない。
「我々は、外で待っておりますので、お話を聞いて頂けますでしょうか？」
　沙良が、剛士の袖を引っ張っている。
　剛士は、心配するなと眼で訴えた。

「・・・ま、話だけなら。」
「ありがとうございます。その前に・・・お体を・・・恐れ入ります。」
　岩井が、剛士の身体を検査するように手を当てた。
　凶器を持ち合わせていないか調べているのだ。
「失礼を致しました。」
　岩井が、そう言って後の男達に合図をした。
　剛士に頭を下げながら、後部座席のドアを開ける。
「どうぞ。」
　剛士は、車内に身を入れた。
　和服を着た女性が、剛士に視線を向ける。
「始めまして。私、暁会の城戸組組長、城戸重雄の妻で清美と申します。突然、こんな形で、お呼び止めしてしまいまして申し訳ございません。」
「いえ・・・・・・で、お話とは？」
　清美は、一呼吸置くと内容を剛士に話し始めた。
「実は、大変、お恥ずかしい話なのですが、ある男性に脅迫されておりまして。」
「脅迫？」
「ええ。」
「失礼ですが、暁会ほどの組織なら、私でなくとも十分解決できるのでは？」
「ところが、相手は、同じ暴力団関係の人間でして・・・・・」
「え？・・・・身内ですか？」
「いえ、対抗勢力の・・・・・・・・青葉会の人間なんです。」
「・・・ほぉー・・・つまり抗争になるのを恐れていると？」
「いえ・・・それだけではないんです。」
「実は・・・・・」

　清美は、７年前、組織とは全く関係のない弁護士の主催するパーティーの席で、その男と関係を持ってしまったのだ。
　地方で行われた事と、一夜限りという気持ちもあってか、つい心に隙を作ってしまったのが原因だった。
　ところが、その相手は、青葉会直系、高津組組長の高津信二といい暁会とは、敵対する巨大対抗勢力の人間だったのだ。
　当然、お互いが驚いたのは言うまでもなかった。
　高津も、清美も刺青を施しており、一目で、その筋の人間である事が判ったからである。
　高津は、大笑いをしながらも清美を抱き始めた。
　清美は、酔いも手伝ってか、高津の責めに女を表現していったのだ。

「正直言って、自分で呆れてしまいました。あの男から、離れられなかったのです。」
「・・・・・な、なるほど・・・・つまり、７年前から・・・未だに・・？」
「・・・はい。」
　剛士は、清美の話を聞いて驚いた。
　暁会直系の組長夫人が、他の組織の男性と、それもトップクラスの組長と関係を続けてきたからである。
「・・・・・」
　清美は、話の続きを喋り始めた。

　高津は、清美を無性に気に入ってしまい数年間に渡って秘密の交際を続けてきた。
　しかし、清美自身は、高津と交際をしていたものの、夫の城戸を裏切るつもりは毛頭なく、むしろ、高津とは、単に身体の関係だけを楽しむ相手と自分に言い聞かせていたのだ。

　高津は、清美を専属の女にしようと前々から企んでいたのだが清美の亭主は、対抗勢力の直系組長、それも次期、暁会を仕切る組長候補とあり迂闊に、横取りなど出来るはずもないと考えていた。
　ところが、昨年、暁会の組長が引退宣言をし、その次期組長候補の話で組織が揺れ動いてる事を高津は知り得た。
　高津は、内部抗争という絡みを通じて清美の夫、城戸重雄を殺そうと考えた。
　当然、高津は、清美にも話をして了解を得ようとしていたのだが、清美が、納得するはずもない。

　剛士は、話の途中で清美に問い掛けた。

「その男は、貴方が断わっても、ご主人の城戸さんを殺るつもりなんですね。」
「はい。」
「・・・・・・・」
「仮に、私が主人に正直に話しても、この時期に抗争となると大変な事になりますし、組に迷惑が掛かるどころか解散に。」
「でしょうね。・・・で、どうしたいんですか？」
「非は、もちろん私にもあるのですが、私は、高津が何故主人を殺そうと思うのが疑問でした。他にも手はあると思ったんです。」
「普通は、そうですよね。」
「私は、何か裏があると思い色々と調べたんです。」
「・・・・」
「驚いた事に、同じ暁会の者で、同じく組長候補の浜田組の浜田龍治と手を組んでいたのです。浜田は、私の経営するクラブに顔を出して個人的に話を仕掛けてきました。当然、高津との事は知っていました。」
「・・・何となく読めてきました。」
「・・・・浜田は、高津から暁会の次期組長就任を協力するかわりに私を説得せよと依頼されたのです。私は、断わる事すら出来ません。何も知らない主人が、私のために落とされる事は屈辱でもあります。」
「それも、そうですが、浜田という男がそれを知ってしまった以上、既に、暁会次期組長は、自分だという事を確信しているようですね。」
「はい。ただ、本人も今は迂闊な事を言えないと解っています。私が、敵対する組織の者と浜田組長が、関係していると言えば、とんでもない事になるどころか、破門程度では済みませんから。」
「そうでしょうね・・・ま、要約すると組織を使っての解決は無理な訳ですね。」
「はい。・・・何とか助けて頂けないでしょうか？」
「しかし、何故、私に依頼を？」
「○○党の相澤先生から、ご紹介を受けました。」

（・・・あのクソジジィか・・・・余計な事を。）

　相澤とは、以前、剛士が、依頼を受けた人間だった。

「かなり前に、先生から貴方のお話を伺った事を思い出しまして。」
「・・・そうですか？」
「・・・やって頂けますでしょうか？」
「・・・・・」

　剛士は、悩んだ。
　確かに客としての依頼ではあるが、暴力団を嫌う剛士にとっては即答できる内容でもなかった。

「伊武さん・・・貴方が、我々のような人間を嫌っている事は十分解っております。」
　清美から意外な言葉が返ってきた。
「え？」
「いえ、話でも伺っていますが、私には、貴方の性格が解るんです。」
（この女・・・・・・・）
「伊武さん、一個人の依頼として、どうか考えて頂けませんでしょうか？」
　剛士は、妙に清美に興味が湧いてきた。
　ある意味、面白い仕事と思えてきたのである。
（・・・・・遊んでみるか・・・）
　剛士は、ある条件を提示した。

「清美さんでしたね・・・」
「はい。」
「引き受けるに当たって条件があります。」
「どんなことでも、お引き受けするつもりです。」
「まず、高津と近々、関係してください。」
「え？・・・・で、でも・・・」
「その様子をビデオに撮らせて頂きます。」
「・・・・・・ほ、本気で言ってるんですか？」
「勿論です。」
　清美は、剛士を見つめて心を探ろうとしている。
　しかし、剛士は、表情を変えることなく清美を見つめ返した。
「・・・・わ・・・・・解りました。」
「それから、全て私の言うとおりの行動をしていただきます。」
「・・・はい・・・承知しました。」
　剛士は、清美に頷くと電話番号を書いたメモを渡した。
「私に直接掛かる電話番号です。何か動きがあったら随時、連絡してください。」
「解りました。」
「では、私はこれで。」
　剛士は、車から降りると沙良の元へ歩いた。

「剛士・・・遅かったじゃないのさ。物凄く居心地悪かったわよ。」
「すまん、すまん・・・」
　そこへ岩井が背後から声をかけてきた。
「伊武さん。」
　振り向く剛士・・・
「どうか、姉さんをよろしくお願いいたします。」
「・・・ああ。」
　岩井は、表情を崩さず剛士に頭を下げると車に乗り込んだ。
（・・・・あの男・・・）
　岩井は、清美の座る後部座席に乗り込むと猛スピードでその場を走り去って行った。
　車を見つめる剛士は、岩井と言う男にも何かあるような感じを受けた。

（７７）

　沙良は、剛士に後から蜜壷を貫かれながら絶叫をしていた。
「剛士ぃぃー・・・・アゥゥゥゥゥゥ・・・・」
　見え隠れする剛士の肉棒は、沙良の流す蜜の摩擦によって泡立っていた。
「だ・・・だめ・・・も・・・もぉぅ・・・・だ・・・・・・・・め・・・」
　沙良は、ベッドに顔を押し付け身体を硬直させた。
　背中が極端に反りあがり、蜜壷が急激に収縮していく。
「ングゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー・・・・」
　顔を押し付けたまま、沙良は昇天した。
　剛士も同時に分身を放出していく。
　まるで搾り取られるように、沙良の蜜壷が運動を繰り返していた・・・・・

「ふぅ・・・」
　剛士は、息を吐きながら肉棒を引き抜いた。
　沙良は、腰を上げたまま余韻に浸っているのか腰を振りながら分身を押し出した。
　蜜壷から押し出されるように剛士の液体が流れ落ちてきた。
　沙良は、そのまま腰を降ろし仰向けになると剛士を見つめた。

「・・・剛士・・・・気持ちよかったぁ・・・」
「・・・しかし、お前はタフだな・・。」
「そうかしら・・・普通だと思うけど。」
「普通ねぇ・・・」
　剛士は、煙草に火をつけると、ゆっくり煙を吐き出していく。
「ねぇ、それより、さっきの話だけど、引き受けて大丈夫なの？」
「大丈夫って？」
「だって、普通のヤクザとは訳が違うわ。」
「まあ、任せておけ。」
「しかしさぁ・・・・やっぱ、迫力あるわね、本物って。」
「上っ面だけの奴もいるぜ。しかし、真から漢な奴もいるがな。」
　剛士は、そう言うと、先ほどの岩井と言う男を思い浮かべた。
（・・・あいつは・・・・後者のようだが・・・）
「ねえ、どうやって解決するの？」
　
　剛士は、ベッドから降りると冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
　栓を抜き、半分ほど喉に流し込むと、沙良に続きを喋り出す。
「さっき、麻衣子に話を聞いたんだが、城戸は、暁会の中でも、かなり義理人情に厚く、子分どもの面倒もいいらしい。麻衣子が言うにはヤクザにしておくのには勿体無いほどの器量も持ち合わせていると言っていた。他も尊敬しているようだ。」
「へぇぇー・・」
「一方、浜田は、暁会の中でも陰険な男で自分のために子分が命を失うのは、屁とも思ってない性格のようだ。浜田の女房も夫の子分を顎で使うらしい。四郎に言わせると、奴の女房は自分が親分のような性格と言っていたがな。」
「そうなの・・・・・でもさ、どんな手で？」
「浜田に濡れ衣を着せようと思っている。」
「・・・・出来るの、そんな事？」
「浜田が、俺が考えている以上にアホならな。」
「でも、浜田は、同じ暁会だから警戒も薄いかもしれないけど高津はどうするの？」
「問題は、そこだ。高津は女房のおかげで出世したといわれている。女房の親父は、本州暴力団の中立を維持する白鴎会の会長の孫娘だ。」
「そうなの？」
「ただ、祖父と違い、それを鼻にかけて悪事遣り放題だ。」
「ははぁーん・・・つまり。」
「そう、互いの女房を使わせてもらう。そして両方を潰す。まず、浜田に高津の女房と関係させようと思っている。」
「そんなことが出来るの？」
　剛士は、意味ありげな笑いを見せて残りのビールを空にしていった。

−　翌日　−

　剛士から連絡を受けた清美は、高津と密会する日を３日後と伝えてきた。
　その前に何とか高津の女房を誑しこめる必要があった。
「沙良、今から高津の女房に会いにいってくる。」
「一人で大丈夫なの？」
「ああ、女房の経営する店に行くだけだ。単なる下調べだしな。しかし、出来れば何とか誘い出して、連れ出したい所だが。」
「えぇーっ、ヤクザの女房なのよ。」
「ああ、ま、心配はするな。李から媚薬を貰って来た。」
「媚薬？・・・どういう？」
「ククッ・・・ま、今度お前にも試してやるよ。」
「変な薬なんでしょう。」
「いや、まともな薬なんだが、なんでも興奮剤を調合してあるらしい。」
「発情するの？」
「さぁ・・・使ってみないと判らないが・・・ま、害はないということだから。」
「ふぅーん・・・・じゃ、準備して待ってる。」
「あほぉっ、別に今日じゃなくてもいいんだよ。」
　剛士は、そう答えると高津の女房が経営するブティックに出掛ける事にした。

　正午に近い時間だった。剛士は、ブティックが立ち並ぶ繁華街の一角に足を運んだ。
　高津の女房、宮子が経営するブティックは、繁華街のほぼ中央にある「ローズ」とい店だ。
　ウィンドウ越しに中を覗く剛士・・・
　宮子であろう女性が、小さなテーブルを前にジュースを飲みながら雑誌を見ている。
　剛士は、普通の客を装って店内に入っていった。
「いらっしゃいませ。」
　剛士は、服やバッグを見る振りをして誘い出す方法を考えた。
　宮子は、剛士に近づいてくる。
「奥様のプレゼントですか？」
「いや、俺は独身でね。彼女にさ。」
「そうですか？バッグをプレゼントするんですか？」
「ああ、服はサイズが判らないから。しかし、バッグも好みは知らないんだ。」
「おいくつくらいの方ですか？」
「３０代の女性なんだ。」
「そうねぇ・・・色々あるし・・・」
「私は、全くセンスがないから、貴女に選んでもらおうかな？」
「いいんですか？」
「ええ、出来ればお願いしたいな。金額は、とわないので。」
　こういう店で働く女性は、頼りにされると実力を発揮するものだ。
　宮子も例外でなく、また上客である事を喜んでいるようだ。

　宮子は、数点のバッグを手にしてボードに並べてみた。
「これなんかシックでいいと思いますよ。」
　宮子は、明るいベージュ色のバッグを手にとった。
「ほぉー、なかなかいいですね。」
「私もこれはお勧めできますわよ。和服にも合いますし。」
「そうですか・・・それじゃ、それを包んでいただこうかな。」
「ありがとうございます。」
　宮子は、バッグを持ち、レジのあるカウンターに足を運んだ。
　剛士は、宮子に気づかれぬよう飲んでいたジュースに李から貰った媚薬をグラスに入れた。
（しまった・・・余分に入っちまったぜ。・・・・ま、いいか・・・）

　剛士は、宮子の包装を見ながら声を掛けた。
「貴女は、ここの店長さんですか？」
「ええ、以後、ご贔屓に。」
「しかし、綺麗ですね。女優みたいですよ。」
「お客様、お口が上手ですわ。」
「いや、本当にそう思います。貴女のような人と一緒に居ると皆が注目しますよ。」
「お客さん、それ以上、からかうと怒りますよ。」
　宮子は、そう言いながらも満更でもない顔をしつつ謙遜した様子で手を動かしていた。
「お待たせしました。」
「どうも・・・おいくらですか？」
「１２万と消費税を頂きます。」
　剛士は、現金で支払うことにした。
「どうも、選んでもらって助かりました。」
「こちらこそ、購入していただきありがとうございます。」
　剛士は、バッグを受け取って店を出た。

　反対側の歩道に渡って、宮子の店を窺う剛士・・・・
　宮子は、飲みかけのジュースを全て喉に流し込んでいた。
　多少顔を顰めてグラスを見つめる宮子・・・
　しかし、特に疑う様子もなく椅子に座ると読みかけの雑誌に目を落としていった。
（・・・・・李の奴、約１０分待てと言ってたな・・・）
　剛士は、１０分経過するまで近くを散歩しながら時間を潰す事にした。

　しばらくして、剛士は、時間を見計らい宮子の店の前に現われた。
　中を覗くと宮子は、妙に落ち着かない様子で椅子に座ったまま、スカートの上から股間に手を当てて身体を動かしている。
（よし・・・いいかな・・・）

　剛士は、再度、店内に足を踏み入れた。

「・・・あ、あなたは、さっきの・・・」
「すみません。ついでに、もう一つブローチのような小物を買おうと思って。」
「そ、それは、どうも・・」
　宮子は、立ち上がってアクセサリーコーナーに剛士を案内した。
　ケースを指さして剛士に説明する宮子・・・・
「最近入れ替えした、新しいアクセサリーばかりですのよ。」
「そうですか・・」
　剛士は、ケースを見ながら宮子に話を始めた。
「いや、彼女にプレゼントを上げると、セックスの時のサービスがいいんです。」
「そ・・・そうなの・・・・」
　ちらりと宮子を見る剛士・・・
　明らかにセックスと言う言葉を聞いて全身が反応していた。
「これ、どう思います？」
　剛士の指さすアクセサリーを見ようと隣に近づいてくる宮子・・・
「・・・そ、そうですね・・・いいんじゃないかしら。」
「んー・・・しかし、悩むな・・・」
　宮子の呼吸が、異様に荒くなってきた。
「ん？・・・どうかしましたか？」
「い、いえ・・・ごめんなさい・・・ちょっと、体調が・・・直ぐ戻ります。」
　宮子は、そう言って奥へ入っていった。
　剛士は、静かに宮子の後を追っていく。

　宮子は、トイレに入ったようだ。
　剛士は、少々間を置いてトイレのドアを開けた。
「アハァァー・・・・」
　宮子は、ショーツを下ろし自慰をしていた。
　ドアを開け、剛士が入ってきたというのに驚きもせずに性器を丸出しにして指を動かしている。
　目は、遠くを見るような感じで虚ろだ・・・
「ゥゥゥゥ・・・・抱いて・・・・私を抱いて・・・・」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　宮子は、ブティックの２階で真っ裸で天井を見ていた。
　剛士は、下着を穿くと服を着ながら宮子に喋りかけた。
「いやぁ・・まさか、貴女のようなきれいな人を抱けるなんて最高でした。」
　宮子は、起き上がって剛士の足にしがみ付いた。
「ねぇ・・・あんた・・私が誰か知ってる？」
　宮子は、先程とは言葉づかいも態度も全く変わっていた。
「え？・・・ここの店長さんでしょ。」
　宮子は、煙草を咥えて火をつけると剛士を見つめた。
「私はね、青葉会、高津組の女房よ・・・」
「え？・・・た、高津組・・・・ま、まさか・・・く、組長の・・・・・女房・・・」
　剛士は、いかにも驚いたという態度で演技を始めた。
「そうよ。」
「えぇぇー・・・・・わ、わたしは・・」
「驚かなくていいわ。・・・でも旦那に知られたら、アンタは、終わりね。」
「そ・・そんな・・・・」
　宮子は、足を広げて股間を剛士に見せつけた。
「黙っててあげるわ。」
「・・・・・・」
「その代わり、たまに来て・・・」
「えっ？・・・・し、しかし・・・」
「殺されたくなかったら来る事ね。あんた、なかなか上手だわ。旦那のセックスより、あんたの方が私の身体にあってるみたい。」
「なんで・・・ですか・・・」
「正直、ヤクザの女房やってると他の男を抱けないんだよ。旦那は、好き勝手に違う女を誑しこめてるくせにさ・・。」
　剛士は、心の中でほくそ笑みながら、シュミレート通りに事を進めていく。
「あ、あの、こう言っちゃ何ですけど・・貴女も、かなり好きそうですし、よろしければ、もっと凄い男性を・・ご紹介させていただきますけど。」
「あんた、私を馬鹿にしてんの？・・・・あんたが良いって言ってるんだよ。」
「すいません・・ただ・・・その・・・本当に最高のセックスが体験できるので・・」
　宮子は、剛士の最高のセックスと言う言葉にひどく心が動いた。
「あんた、そういう関係の仕事をしてるのかい？」
「い、いえ・・・その・・・つまり・・・・・そういう事に詳しくて・・」
「ふぅーん・・・・確かに興味はあるけどさ・・・・でも、嘘だったらアンタをただでは済まさないわよ。」
「そ、それは、もちろん・・・」
「・・・で、どういう男なの？」
（シメシメ・・・のってきたぜ・・・）
　剛士は、宮子に、そそるような話を聞かせ股間を疼かせた。

「へ、へぇー・・・・・」
　宮子は、かなり興奮気味のようだ。
「で、いつ出来るんだい？」
「連絡を取ってみないと分かりませんが・・・・まあ、近いうちには・・・」
「わかったわ。私の電話は教えられないから、この店に電話して。」
「ええ・・・わかりました。」
　宮子は、立ち上がって剛士に抱きついた。
　そして、ズボンの上から肉棒を握り小声で囁いた。
「騙したら、一生セックスが出来ない身体になるよ。」
「わ、分かってます・・・・」
　剛士は、十分な説明と巧みな演技で宮子を信用させる事に成功した。