（８０）

　サングラスをはめ、素性の判らない服装で宮子は、ブティックから出て来た。
「遅くなりました。」
「本当に、大丈夫なんでしょうね。」
「勿論です。」
「騙したら、あの世行きだよ。」
「わ、わかってます。」
　剛士は、宮子を助手席に乗せると大きく息を吸って呼吸を止めた。
　そしてポケットからスプレーを出し宮子に吹き付ける剛士・・・
「ウゥッ・・・な・・・・ぁ・・・ぁぁ・・・ぅぅ・・・」
　宮子は、グッタリとして意識を失った。
　ウィンドウを全開にし車の空気を入れ換えると港の第８倉庫を目指して車をスタートさせた。
　車ごと倉庫の中に入る剛士・・・・

　中には、サングラスを掛けた岩井が剛士の到着を待っていた。
　周りには、組員が岩井を囲むようにして立っている。
「岩井さん、早いですね。」
「ええ、ビデオは、他の者に運ばせましたので。それから先程、姉さんがタクシーで帰宅したのを確認しました。今頃、浜田は発狂してるでしょう。」
「ふふっ・・・でしょうな。」
「先程、冬木という男が、カメラを設置していきました。」
「そうですか。」
「数分で帰ってしまいましたが、本当に録画できるんですか。」
「ええ、まあね。」
　剛士は、簡単に返事をすると車から宮子を降ろして素っ裸にした。

　ポケットから錠剤を取り出し宮子の口に入れるとギャグボールをはめ、宮子を天井に吊るしていく。
「さてと、じゃ、私は、これで。」
「いま、何を口に入れたんですか？」
「痺れ薬です。この女が喋るとやばいでしょう。」
「・・・・・・な、なるほど・・・」
「では、幸運を祈ります。」
「・・・伊武さんに言われたとおりに事を進めますので。」
「そうしてください。」
　剛士は、車に乗り込むと第８倉庫を後にした。
　頭を下げる岩井・・・

　岩井は、後ろを振り向くと組員に命令を出した。
「俺たちも一旦事務所に帰る。浜田の叔父貴から電話が掛かってくるはずだ。」
「はい。」
「孝、お前は、ここで女を見張ってろ。」
「はい。」
「兄貴っ、いよいよ正念場ですね。」
「・・・・・ああ。」
　岩井は、目を光らせながら車に乗り込んだ。

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「くっそたれがぁぁぁぁー・・・・・急いで、その男と女を捜せぇぇっ！」
　浜田は、発狂寸前に怒りまくっていた。
　妻、多喜子のガードを任されていた組員らは、半殺しの目に合い、浜田の足元に横たわっている。
「親父さんっ、他の組にも探してもらいやしょう。」
「んぐぐぐぐぐっ・・・や、・・・やむをえんな・・・」
　浜田の後に置かれているテレビから、妻、多喜子の喘ぎ声が耳に突き刺さった。
「今日中に探せっ！　男でも、その店の女店長でもどちらでもかまわん。見つけたら、見つけたら、わしに直ぐに連絡をせぇーいっ！ええのっ！」
　浜田組の組員らは、血相を変えて事務所を飛び出ていった。

　その頃、城戸組の事務所では、岩井を取り囲み組員らが緊張した面持ちで待機をしていた。
「兄貴・・・・」
「臆するな。手はずは万全だ。」
「おやっさんが帰って来る前に。」
「んむ。おやっさんが九州から帰ってくるのは３日後だ。それまでには、シナリオ通りに進めておかなければな。」
「兄貴ぃーっ！・・・浜田組から電話が入りましたっ。一斉に女の検索依頼が。」
「よしっ、行くぞ。」
　岩井は、立ち上がって事務所のドアを開けた。
　ドアの前には、清美が立っていた。
「・・・姉さん・・・」
「岩井・・・・頼んだよ。」
「・・・はい。」
　岩井と組員達は、再度、港の第８倉庫に向かった。

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「孝っ！」
「兄貴、いま、女が目を覚ましました。」
　宮子は、驚愕した目で岩井達を見つめている。
　ギャグボールからは大量に涎を垂らしていた。
「孝っ、外してやれ。」
　孝と呼ばれた男が宮子のギャグボールを取外した。
　宮子は、激しく首を振りながら叫んでいるが、剛士の入れた痺れ薬が効いているのか、舌が思うように動かず何を喋っているのか、全くわからなかった。
「よし、浜田組に連絡を入れろっ。」
「はい。」
　一人の組員が、浜田組に連絡を入れた。
「城戸組です。ブティックの店長らしき女を港の第８倉庫で見つけました。」
　組員の一人はそう言って、電話を切った。

「よし、お前ら、打ち合わせどおりに頼むぞ。」
　岩井は、そう言って宮子を見つめた。
　恐怖で、身体は震え顔面も蒼白していた。
（悪く思うなよ、高津の奥さんよ。・・・・・全ては､テメェの旦那のせいだ。）

　３０分後、浜田組の連中が飛び込むように倉庫に入ってきた。
　浜田が、組員を押しのけて先頭で歩いてくる。
「い、岩井か・・・」
「叔父貴、お久しぶりです。」
　岩井は、丁寧に頭を下げて浜田に挨拶をした。
「んむ・・・よく見つけてくれたな。・・・しかし、何だ、この格好は？」
「へい。実は、我々が来る前に、どこぞのチンピラ風情の連中がこの女を甚振ってまして。話を聞いたら返済を渋ったとの事で。」
「返済？・・・金を借りてたってことか？」
「おそらく。」
「そいつらは、どうしたんだ。」
「叔父貴が来る前に追い返しました。今から起こるであろう事を加味しまして。」
「・・・・・気が利くのう、岩井よ。・・・よし、もう、ええ、お前達も帰れっ。」
「へい。」
「礼は、城戸に直接言っておく。」
「わかりやした。」
　岩井は、組員を連れて倉庫を出て行った。

　岩井は、一人の組員に声を掛けた。
「おい、浜田の女房のビデオをダビングして全部の組に配れ。」
「へい。」
「くれぐれも、アシはつくな。」
　岩井は、心の中で、ほくそ笑みながら帰途に着いた。

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「剛士っ。」
「なんだ？」
「ちょっと、疑問に思うんだけどさ。」
「何が？」
「だってさ、剛士がやった事なんて、時間掛ければ城戸組でも出来たんじゃないの。」
「実はな、昨日、岩井が帰った後に、白鴎会の会長が事務所に俺を訪ねてきたんだ。俺は、驚いたんだが、実は、今回の事をかなりの割合で把握していたんだ。」
「えぇっ・・・そうなの？」
「ああ。」
「聞かせてよ。」
「んむ。・・・・高津の女房、宮子はな、白鴎会会長の実の孫じゃないんだ。」
「・・・・え・・・」

　白鴎会会長、蓑田源次は、早いうちに女房を病気で無くしていた。
　息子夫婦も抗争で亡くし、ある施設から宮子を養女として引き取っていた。

　蓑田は、１０年前に引退したのだが、絶大な力と発言力をもち本州連合の重鎮である事から、各親分衆の絶大なる推薦で相談役を務めるようになっていた。
　ちょうど、その頃、宮子は、青葉会の高津と縁を結んだのだが、青葉会と暁会の初期の抗争が勃発したため、蓑田が孫の宮子を終身という形で縁を組ませることによって事を治めたのだった。
　ところが、宮子は、それを恨んでか蓑田を散々苦しませてきた。
　意思の疎通は全くといっていいほどなく、酷く憎まれていたのだ。
　宮子は、高津を唆し密かに復讐を狙っていた。
　その後、宮子は、蓑田に内緒で、高津と共謀し暁会をまとめる話を進めていた。
　その話が、蓑田の耳に入ったのが、ちょうど一年前だったらしい。

「つまり・・・・・白鴎会の会長は、宮子を・・・」
「んむ・・・・・・自分の命が、高津に狙われている事を知ったんだ。必然的に、将来、高津自身が白鴎会をまとめる存在になってくる。その前に、暁会を誑し込めて、統一しておこうと言うのが、高津と、宮子の考えなのさ。浜田は、そんなことは知る由もないだろうがな。」
「でも、なんで、城戸組が関係あるの？・・・」
「宮子を青葉会の高津に嫁がせた理由は、もう一つあるんだ。」
「え・・・なに？」
「聞いて驚くな。城戸組の清美は、蓑田の妾の子なんだ。」
「えぇぇぇぇぇーっ！　うっそぉぉぉーっ。」
「だから、驚くなっていったろ。」
「驚くわよっ！」
「じゃ、ついでに、もう一つ驚かせてやろう。」
「なに、なに・・・何よ・・・・早く言って。」
　身体を乗り上げて効いてくる沙良に剛士は、呆れながらも話の続きを喋った。
「清美は、若頭の岩井とデキてるんだ。」
「いやぁぁぁぁぁぁー、そんなぁぁぁぁぁー。」
「うるさいぞっ、小声で驚け。」
「だ、だってぇぇぇー。」
「ついでだ、もう一つ言うと、それを旦那の城戸も知っているんだ。」
「うぅぅーっ、もう、いやっ。」
　沙良のジョーク交じりの驚きように、小首を傾げて呆れる剛士だが話を続けていく。

「つまり、清美が本当の娘で、宮子は養女、つまり、蓑田は、表立って暁会にテコ入れできないから、俺に相談してきたんだ。そして蓑田は俺に構想を漏らしてくれた。城戸を白鴎会に就かせ、若頭の岩井を将来、暁会の会長にさせる事をな。なかなかどうして、凄い爺さんだ。」
「ということは・・・・」
「蓑田は、高津を落とす名義大分ができる。つまり・・・・・」
　剛士は、手で首を切る真似をした。
「・・・・・・こ、怖っ。」
「現、暁会会長は、蓑田と盃を交わした兄弟分、青葉会会長も本州連合を苦労しながら二人で一緒にまとめた同士なんだ。」
「つまり、両方とも自分から手を加える事はできないから・・・・という事？」
「ああ。蓑田は両方とも縁があるんだからな。」
「でも城戸組の親分さんは気の毒よね。」
「蓑田は、清美が城戸と一緒になったときに、既に本人に説明をしたらしい。」
「え・・・どういう事？」
「つまり、城戸に白鴎会を継がせるために、計画結婚をしろと。」
「・・・・・そんな・・・じゃ、城戸は・・・」
「ああ、知っている。そして将来、暁会を継ぐ可能性がある岩井は、自分の懐にある。つまり、暁会と青葉会を両方とも視界に入れられる訳だからな。岩井も、その件は、城戸から了承済みで、清美と関係を持っているんだよ。勿論、清美は、そんな事を一切、知らないだろうがな。だから城戸は、清美との間に子供を作らなかったんだ。」
「なんか、凄いわね・・・」
「何処の世界にも計略や策略はつきものだ。」
「そうよね・・・」
「それから清美と高津のビデオを蓑田に見せた。」
「・・・・・」
「顔を真っ赤にして怒りを露にしてた。俺や暁会が何もしなくても、高津は、もう、終わりだろうな。」
「でも、何で剛士は、蓑田にも協力する気になったの？」
「ま、理由は色々ある。恩義も与えられるし、俺の今後の仕事にも有利だ。だが、実際はな、互いの組の危険因子を潰す事になるってのが本音だ。」
「高津と浜田の事？」
「ああ。・・・・あいつらをのさばらせると危ないからな。なんせ、香港マフィアと手を組む計画をしてるんだから。」
「そ、そうだったの。でも、なんでそんな事知ってるの？」
「蓑田が教えてくれた。だから、一役買うことにした。」
「へぇー・・・でも報酬もかなり入るわね。」
「清美から１億、蓑田が口止め料込みで２億・・ククッ・・・もう、探偵やめようかな。」
「えぇぇっ！・・・す・・・凄い・・・・・」
　剛士は、沙良の驚く顔をよそ目に、今頃起こっているであろう宮子への仕打ちを思い出していた。

（８１）

「おい、テメェは、何者だっ！」
　浜田が宮子の乳首を強く摘みながら声を張り上げた。
「アァァァ・・・・ハァァ・・・アゥ、アゥゥゥゥゥ・・」
　宮子は、喋ろうにも舌が痺れて口をきけなかった。
「なんだ、この女は・・・・・聾唖者か？」
「おやっさん、何か飲まされたのでは、舌が真っ青になってますし。」
「ケッ、まあいい。おい、お前ら全員でこの女を犯せっ！」
　浜田の命令で、組員の一人が、吊るされている宮子を降ろした。

　宮子は、必死で逃げようとするが、数十人もいる男たちから逃げられるはずもなかった。
「アァァ・・アァッァァ・・・アウゥゥゥゥゥゥゥゥゥー！」
　宮子は、頬を何発も殴打され地面に這い蹲らされた。
　ズボンを脱ぐ組員・・・・
　動かないように、別の男たちが宮子を押さえ始める。
「よし、順番に犯していけ。」
　浜田組の組員らは、順番に宮子を犯しはじめた。
　中には、菊門へ挿入する者もおり宮子は屈辱と怒りで涙を流し始める。
「くくっ・・思い知ったか。わしを怒らせると、こういう目に会うんじゃ。」
　浜田は、ズボンのチャックを下ろすと宮子の顔を目掛けて放尿を始めた。
「どうだ・・・美味いか？」
　もはや、宮子は、抵抗する気力を完全に失なっている。
　涙は枯れ、一人一人の男を頭に焼き付けるように見入っているのが精一杯だった。

−　翌日　−

　岩井が、剛士の事務所を訪れた。
「伊武さん・・・・」
「先程ビデオを見ました。かなり、こっ酷くやられていましたよ。」
「そのテープは？」
「先程、届けました。いまごろ高津組は大騒ぎでしょうな。」
「どうなります？」
「恐らく浜田は、殺られるでしょうね。」
「し、しかし、抗争に・・・・」
「くくっ・・・岩井さん、心配はご無用です。」
「いま、青葉会の会長と暁会の会長が蓑田さんに呼ばれています。」
「え・・・な、何故・・・」
「それは、お話できません。とにかく、高津組と浜田組はなくなるでしょう。」
「・・・・・・・」
「これで、清美さんと岩井さんは、堂々と表に出れる？」
「！・・・・・伊武さん・・・・どういう意味ですか？」
「もう、隠さなくてもいいでしょう。彼方が、清美さんと出来ていることは知っているんです。全ての事実もね。」
「！・・・・・・そうだったんですか。」
「次期、暁会会長は、城戸さんになる。そして、近い将来、白鴎会の会長に・・」
「なんですってぇっ！」
「そして、貴方が暁会をまとめる存在になるでしょうな。」
「両会長が・・・白鴎会に呼ばれたのは・・・・・」
「さて・・・・そこまで私には・・・」
　岩井は、剛士の目を直視できなかった。

「岩井さん、内緒にしておきたかったんですが、一つだけ漏らしましょう。高津と浜田は、互いの組織を組む事が本当の目的ではなかったんですよ。奴ら二人は、香港マフィアと手を組み、組織拡大を狙っていたんです。」
「・・・・な・・・なんですって・・・・本当なんですか？」
「ええ。・・・つまり、蓑田さん曰く、任侠道を無視した行動と言ってました。」
「そ・・・そのとおりです・・」
「しかし、私は、そんなことは全く関係ないんですよ。私が協力したのは貴方達が考えている以上に、香港マフィアの日本進出が恐怖なのです。
　奴らの組織は尋常ではありません。それを知らない無知な高津と浜田に強い怒りを感じたからこそ、協力をしたんです。解っていただけますか。」

　岩井は、剛士の思考、そして洞察力に一種の恐怖を覚えた。
　ただの探偵が、ここまで考えるはずがないと思ったのだ。
　さらに、指定暴力団の幹部を前にしても怯まない態度、自信に岩井は、剛士の本性を知りたかった。
「・・・・・・伊武さん・・・・」
「何も聞かない。・・・・岩井さん、それを約束してください。」
「・・・・・・・・わ、解りました。」
　そこに、岩井の携帯電話がなった。

「・・・俺だ。」
『兄貴っ・・・・・浜田組長が殺られました。』
「なにっ！・・・で、今どうなってる。」
『それが・・・か、会長が、一切、出るなと・・・今ほど、幹部が召集されました。』
「・・・・・・解った・・・・・直ぐ行く。」
　岩井は、予想をしていたものの急速な展開に動揺を隠せなかった。
「伊武さん・・・それでは近いうちに・・また、お邪魔させていただきます。」
「お待ちしてます。」
　岩井は、平然とした剛士の態度を見て、自分の心臓を直接、手で握られているような錯覚に陥った。

　その頃、青葉会の高津も会長の命で組織内の組員に引導を渡されていた。
　宮子は、命は助かったものの、全国の暴力団関係者に終身破門を通知された。

　暁会、青葉会の両組織は、会長自らが今件の事は、一切、闇に葬るよう通告され、高津、浜田の二人の葬儀も密葬とし組はそれぞれ直系の幹部組に吸収される事になった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−　３日後　−

「い・・・い・・・・・い・・・伊武さ・・・・伊武さんっ！」
　豪が、真っ青な顔をして事務所に飛び込んできた。
「何だ。はっきり喋ろよ。」
「そ・・・そ・・・外に・・・・・こ、こ、怖い人が・・・一杯・・・います。」
「怖い人？」
　剛士は、立ち上がるとドアを開けて外を眺めた。

　外には、黒塗りの高級外車が何台も停まっており、その中央の車から白鴎会の蓑田と暁会会長の中岸辰男が降りてきた。
　後部車からは、城戸組組長の城戸重雄と清美そして岩井が事務所に歩いてきた。
　蓑田がドアに立つ剛士に頭を下げた。

「また、大所帯で来たもんですね。」
「伊武さん、今回は、色々とお世話を掛けました。」
「いえ・・・・・ま、どうぞ。」
　剛士は、蓑田を始めとする５人を中に招いた。
　ガードする組員が、事務所の建物の入口を一斉に取り囲んでいく。
　ソファに座った蓑田、中岸、城戸、清美、そして岩井が剛士に面した。
　口火を切って暁会会長の中岸が言葉を発した。
「お初にお目にかかります。私、暁会をまとめます中岸と申します。この度は、色々と、ご迷惑をお掛けしたようで感謝しております。」
「いえ。・・・あくまで仕事として引き受けたまでですので。」
　蓑田が、今回の終決結果を剛士に話し始めた。
「伊武さん、青葉会の高津と内の浜田は闇旅に出しました。」
「そうですか。」
「昨日、幹部会を開き、暁会会長の中岸と今後の構想を相談しましたので、お礼かたがた、お邪魔した次第です。」
「それは、どうも。」
　蓑田は、剛士に今件の事を極秘にして欲しいという依頼を兼ねて青葉会を含む構想を剛士に説明した。

　暁会会長は、予定通り引退をし、城戸が、来年早々、会長に就任する事が決定した。
　さらに城戸組は名を残し、他の組長の満場一致で岩井に２代目を継がせる事になった。
　また、青葉会の現会長と城戸が盃を交わし、事実上、両組織は一つの母体をつくり長年続いた因縁の仲に終止符を打つ事となったのだ。

「近い将来、青葉会会長を両組織のトップに持っていきます。それと同時に城戸に白鴎会を任せ、しいては、現青葉会の会長の後を任せる事になると思います。」
「そうですか。ま、私には関係のない話ですけど。」

　中岸が、岩井に視線を向けた。
　岩井は、大型のアルミ製のケースを二つテーブルに置いた。
「色々な意味を含めての報酬が入っております。」
「色々な意味ね・・・」
「伊武さんの口添えで香港マフィアを止めて頂かなければとんでもない事になるところでした。有難うございます。」
「ま、私にも影響があることなので。」
　５人は、剛士に丁寧に頭を下げた。

「ところで、蓑田さん、城戸さん、清美さんに本当の事を話してあげたら。」
「え・・・・本当の事って・・・？」
　清美が、蓑田と剛士を交互に見つめた。
　蓑田は、一瞬、表情を崩したが、城戸の納得した視線を受け頷いた。
「・・・そうですね・・・・ま、帰ってからゆっくりと。」
「そうしてください。スッキリすると思いますよ。」
「ええ。」
「それから、ちょっと横着な質問をしますが・・・・清美さんは、岩井さんとは？」
　城戸が、剛士の質問に恐縮そうに答えた。
「一応、他の組員の手前もありますし、最後まで公には出来ませんが、清美には、このまま、城戸組に残しておこうと考えているんです。」
「そうですか・・・・失礼ですが・・・城戸さんは？」
「今朝、清美には話しましたが・・・・」
　城戸は、言い難そうに言葉を詰まらせた。
「城戸さん、結構です。所詮、男と女は、どんな世界に身を置こうとも色々ありますからね。すみません、失礼な事をお聞きしてしまって。」
「・・・・・・」
　蓑田が、機を察し腰を上げた。

「それでは、伊武さん、我々はこれにて失礼を・・・」
「わざわざ、どうも。」
　岩井が、急いでドアを開け外で待つ組員に声を掛けた。

「伊武さん、失礼します。」
「どうも・・・」
　組員らは、一斉に５人を囲むようにして車に導いた。
　剛士は、走り出した車を目で追った。
　目の前を３台目の車が通り過ぎていく。
　後部座席に乗る清美が、剛士に振り向いた。
　その眼は、始めて見たときの光と全く輝きが変わっていた。