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（８３）
「まあ、それはかわいそうに。」
四郎は、ホットミルクにブランデーを少々垂らし、女性に差し出した。
「・・・ぁ・・有難うございます。」
「君、名前は？」
「・・・・・・・」
剛士の質問に無言でいる女性・・・
「君、決して俺たちは怪しい者じゃないぜ。俺は、探偵をやってるんだ。こいつらは、俺の仲間たちさ。まあ、言いたくなかったらいいんだが。」
「・・・ぃ、いえ・・・・・私、黒木紀子といいます。・・・大学の３年生です。」
「大学生？・・・・・何で、あの男たちに追われていたんだい。」
黒木紀子は、なかなか話を切り出せないでいた。
「あの・・・・・・私を・・・・助けてください。」
「助けるって・・・・・まず、話を聞かないことには、助けようがないし。」
黒木紀子は、ブランデーの入ったホットミルクを一口飲むと静かに喋り始めた。
「・・・・あの男たちに騙されて・・・・いえ、脅されて・・・」
「脅されて？」
紀子は、少々、落ち着いたのか詳しい内容を剛士達に話し始めた。
紀子は、１週間前、大学の友人に紹介され、エリアという出張コンパニオンを運営する会社の面接に出かけた。
親元を離れ、アパートで一人暮らしをしている紀子は、仕送りを助けるためと講義が終わってからの暇を持て余していたため、学業の傍らアルバイトとして、安易な気持ちで、この会社で働こうと考えた。
内容も、各宴会やパーティーと称する場に、コンパニオンの一員として出向き、客の相手をするという至って普通の社交接待業と思っていたのだが、面接をした男の話では、実態は、売春に近い内容を説明されたのだ。
その主な内容は、コンパニオンとして複数の女性が呼ばれる場合、基本的に下着の着用は認められず、また接待内容も客の注文や要望を必ず満たす、通称、ピンクコンパニオンと呼ばれるものである。
また個人で指名された場合は、指名されたホテルに出向き事に及ぶ売春だが、受け取る金額は個人の手取りになるとのことだった。
紀子は、それを聞いて直ぐに話を断わり、そこの会社を出ようとした。
しかし、逃げ出そうとする紀子を数人の男らに取り押さえられるとその場で強姦され、その様子をカメラやビデオで撮られた挙句、それを餌に脅迫をされ、強制的に身体を売り利益を得てくるように命じられていたのだ。
そして、今日、初仕事として出向いたホテルで、客の男性と交わる寸前やはり、恐怖と抵抗を感じた紀子は、それを拒否してしまった。
紀子に怒りを示した客が、電話で会社にクレームをつけたところ、そのホテルに会社の人間が乗り込んできたのだった。
「なるほど・・・それで下着一枚で逃げ出してきたのか。・・・・」
「・・・・はい。」
「でも、君以外の従業員も、それは知ってるんだろう？」
「・・・おそらく・・・・」
「何人いるんだい？ 女性の年齢層は？」
「従業員は、約５０人程います。大学生やＯＬ、主婦、中には高校生のような女の子もいます。話を聞くと、女性のほとんどが借金を抱えていたり、人に言えない事情から、内容を知ってて来たという人ばかりでした。中には単にお金を欲しいからという安易な気持ちで気軽に入店する子もいるみたいです。」
「ほぉー・・・なるほど。・・・で、辞めるに辞めれないわけだね。」
「・・・・はい・・・恥ずかしい写真を撮られていますし実家の住所も知られているんです。もし辞めると実家の親や大学に写真を送るって。」
「ヒドイ話ね・・・」
沙良の一言で紀子は、一段と身体を小さくしていく。
「ぁ・・・ごめんなさい。決して他人事という意味で言ったんじゃないのよ。」
「・・・いいんです・・・よく調べなかった私にも落ち度があったんだと思います。」
沙良は、落ち込む紀子に同情を示した。
「・・・・剛士・・・助けてあげてよ。彼女、可哀想だわ。」
「・・・いえ・・・・私・・探偵さんに依頼するお金なんかありませんし自分で何とかします。・・もう、どうなったっていい・・・ゥゥゥ・・・」
投げやりの言葉に自分自身がうんざりしたのか、嗚咽を漏らす紀子・・・
「剛士っ、お願い。助けてあげてよ。」
「・・・んだな・・・・余りにも気の毒すぎるな。」
一方、豪は、剛士に気をきかせたのか横から口を出してきた。
「でも、沙良さん、無報酬でって事だと他の顧客の手前・・・・・」
「いいのよ。剛士は、お金なんか腐るほど持ってるから。」
「アホォォーッ！ 表で、そんな事を言うなっつーの。」
「ご、ごめん・・・」
「・・・・まあ、しかし・・・助けるって言ってもなぁ・・・・他の従業員にもある意味迷惑をこうむるぜ。中には、自ら望んで働いてる女性もいるわけだし。」
「だって、彼女の場合は騙されて脅迫されてんのよ。」
「俺が言いたいのは、いくら悪党でも順序を踏まないと、後々、面倒な事になるって事さ。」
「・・・何か、いい手を考えてよ。」
「よし、とりあえず短期でケリをつけないと彼女も学校があるし落ち着いて生活も出来ないからな。潜入作戦をとって、彼女の写真とビデオを盗み取る。」
「そうね、それが手っ取り早いわね。で、誰が潜入するの？ ・・やっぱ、剛士か豪君よね、何かあっても大丈夫だし。」
「男の売春なんて聞いたことねぇーぞ。必然的にお前だ。」
「えぇぇーっ！」
「えぇー、じゃない。そもそも、お前が言い出しっぺだぞ。」
「・・・で、でもぉ・・・・」
沙良は、紀子の辛そうな表情が目に飛び込んだ。
「・・・・・わ、解ったわ・・・・私がやる。」
「心配するな。何処かの宴席に出向くときは豪がガードするから。」
「えぇーっ！・・・俺がですかぁーっ？」
「豪ちゃん、やりなさいよ。 鼻の下伸ばしておぶってあげたくらいなんだからさ。」
有紀は、嫌味を込めて豪に言い放った。
（グッソォー・・・・・おぶるんじゃなかった・・・）
「皆さん、すみません・・・・すみません・・・・・」
紀子は、カウンターに顔を伏して涙を流した。
「ところで、剛士、彼女をどうしよう。」
「んー・・・・」
剛士は、暫し考え込むと四郎を見た。
「剛士君・・・・・まさか・・・」
「その、まさかだ。暫く匿ってくれ。」
何かを言いたそうな四郎だったが、紀子の辛そうな姿を見て思い止まった。
「まあ、剛士くんの頼みなら聞くけど・・・でも、彼女が納得するかしら？」
紀子を見る剛士・・・・・
「黒木さんって言ったな・・・・暫くここで身を隠しておくんだ。」
「・・・・・・は、はい。」
紀子は、四郎の顔を見ながら曖昧な返事をする。
「心配すんなって。コイツは女を襲わないから。」
「・・・・・ぇ・・？」
「さっきまで、取り乱してたから気付かなかったかもしれんが、コイツは、オカマなんだ。ここは、ゲイバーで奴は店長さ。」
「・・・そ・・・そうなんですか・・・・」
剛士は、紀子を説得させ、四郎の店で匿ってもらう事にした。
− 翌日 −
「剛士、黒木さんみたいに面接で襲われたらどうしよう。」
「彼女の話では、話を聞いて、断わったから強姦されたと言っている。お前は、演技で、待ってましたと言わんばかりに直ぐ承諾するんだ。」
「つまり、生活に困ってて、むしろ、それを望んでたって所を見せるのね。」
「ああ。潜入すれば、こっちのもんだ。彼女のビデオや写真だけを探しだすのは難しいだろうし、いっそのこと全部破壊してやればいい。所詮は、５０人分の記録しかないしな。それに、大事に取って置くほどのものでもないだろうさ。」
「うん。・・・ま、私なりに頑張ってみるわ。」
「あと、今日中に終わらなかったら困るんで仕事へ行くときは、豪をガードにつけさせる。」
「剛士は？」
「それまでに、写真程度、見つけだせるだろう。俺が出るほどの事じゃないぜ。」
「そうかなぁ？」
「ああ、直ぐ済むさ。それから、これを使え。簡単だから。」
剛士は、小さな四角い金属製の塊を沙良に渡した。
「なに、これ？」
「強力な磁気を発生させる物だ。１０畳間くらいの部屋に置いてある記憶媒体なら、簡単に内容を破損させる事が出来るんだ。これをカメラとビデオテープが隠してある部屋に見つからないように置け。」
「うん、解った。」
沙良は、それを受け取り、面接に出かける支度をすると、さっそく、その会社に向かった。
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沙良は、エリアがあるビルを見上げた。
１２階建ての貸しビルで、見る限り変わった様子はない。
（・・・ここね・・・・・）
沙良は、一度大きく深呼吸をするとビルの中に入って行った。
エレベーターボタンを押す沙良・・・・
８階で降りた沙良は、受付にいる中年の女性に面接に来た事を伝えた。
「お待ちください。」
その女性は、そう言い残しオフィスの中に入っていった。
数分後、受付の女性が戻ってきた。
「そちらの入口からお入りください。」
「はい・・・」
沙良は、オフィスとは別にある、奥の入口ドアをノックする。
「どうぞ。」
沙良は、ドアを開けて軽くお辞儀をした。
中には、テーブルを挟んで大きなソファがあり、中には、３０代くらいの男性が煙草を吸いながら資料をめくっていた。
「面接ですね。」
「はい。」
「どうぞ、お掛けください。」
沙良は言われるとおり、男の前に座った。
「早速ですが、こういう仕事は初めてですか？」
「い、いえ・・・・・以前は、別のところで・・・・」
「なるほど。経験者は大歓迎ですよ。説明も要らないですしね。ところで、貴女は、何故ここの会社の存在を知ったんですか？」
「・・・え・・ええ・・・ここを利用したお客さんに話を聞いて。」
「なるほど、そうですか。解りました。」
「それでは、ここに履歴を書く用紙があるので記入してくれますか。」
「はい。」
沙良は、ペンを受け取って用紙に記入した。
書き終わった書類を男に差し出す沙良・・・・・
男は、それを読みながら沙良に話し掛けた。
「清水沙良さん・・か。解っていると思うけど、身体売って儲ける商売ですよ。」
「え、ええ・・・」
「失礼ですが、何故、こういう仕事を？」
「ぇーと・・・・・ぁ、はい・・・主人に黙って借金を・・・」
「なるほど、そういう事情でここに来る人は多いですよ。」
「そうなんですか。」
「ということは、ご主人は、貴女の仕事を知らないんですね？」
「はい。バレたら、とんでもない事に・・・」
「どうか、ご安心を。その点も、我々はサポートさせてもらいますので。」
「はい。」
「基本的に、コンパニオンで行く場合は、回数を給料として支給します。個人指名の場合は、客から受け取る金額は、すべて貴女の手取りです。」
「解りました。」
「さっそく、明日からお願いできますか。」
「も、もちろんです・・」
男は、立ち上がるとデスクの引き出しからデジタルカメラを取り出した。
「それから、口止めって訳じゃないんだけど。 貴女の身体の写真を撮らせて貰いますので。」
「身体・・・ですか？」
「ええ・・・それも裸のね。」
（ここは、言うとおりにしておかないとヤバイかも・・・）
沙良は、危険な目に遭うことを恐れて男の言うとおりにした。
「わかりました・・・・・ここで・・ですか？」
「ええ。ストッキングと下着を脱いで足を開いてください。」
「えぇぇー・・・ア、アソコを撮るんですか？」
「そうですよ。・・・・・なに、私共の保険です。悪用はしませんから。」
「・・・・・は・・・はい・・・」
（もぉぉー・・・まさか、こんな事まで・・・・）
沙良は、緊張しながらスカートをたくし上げると、ストッキングとショーツを膝まで降ろし、ゆっくりと足を開いていった。
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