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（８４）
沙良は、カメラを構える男の表情を緊張しながら見つめていた。
「んー・・・ソファに座ってくれるかな。」
沙良は、言うとおりにソファに腰掛ける。
「ＯＫ、それで股間が見えるように足を持ち上げて。」
（えぇー・・・マジィィー・・・）
しかし断わると紀子のように成りかねない。
沙良は、渋々、蜜壷が男に見えるように足を持ち上げた。
男は、沙良の前にしゃがみ込んで股間のアップや全体を数枚カメラに収めていく。
「どうも。服装を直して結構ですよ。」
男は、カメラをデスクのパソコンに繋げて今ほど撮った沙良の写真を保存しているようだ。
（・・・ははぁーん・・・あそこに、入っているのか・・・・）
男は、パソコンからディスクを取り出すとカメラと共にそれを机の下の引き出しに無造作にしまった。
「では、貴女への仕事の連絡は、ご主人に見つからないようにメールで送ります。基本的に、午前９時から午後６時までが、貴女の時間と考えてよろしいですね。」
「はい。」
沙良の面接は、これで終了した。
「では、ちょっと待っててください。貴女が着るコンパニオン用のユニフォームを持ってくるので。」
「え？」
「個人指名以外は、これを着てもらいますので。」
「そ、そうですか。」
男は、沙良を待たせて席を離れた。
（いきなりラッキーだわ・・・・）
沙良は、男が部屋を出て行った事を確認すると、先程カメラとディスクをしまった引き出しを静かに開いた。
中には、数台のデジタルカメラやＣＤ、ＭＯディスクが大量に入っている。
奥には、ビデオテープも沢山重なっていた。
（シメシメ・・・これで、一発解決・・・ウフフッ・・・）
沙良は、剛士から預かった磁気を発生させる小さな金属片を引き出しの上部に貼り付けた。
慎重に引き出しを閉めてソファに座りなおす沙良・・・・・
しばらくして、男が、ユニフォームを持って応接室に戻ってきた。
「では、これを。」
ビニール袋に入ったユニフォームを受け取る沙良・・・・
「では清水さん、よろしく頼みますよ。」
「はい。」
「あ、言い忘れましたが、いつでも、ここの待合室に来て暇を潰しても結構です。」
「待合室？」
「奥が、そうです。指名があったとき、時間の手間も省けるしね。」
（そうか・・・奥が、所属している女性の待合室になってるのか。）
「解りました。・・・・では・・・・」
沙良は返事をしながら立ち上がると、男に軽く頭を下げて応接室を出て行った。
（意外と、あっさり終わったわね。でもラッキーだったわ・・・・）
ビルの外に出た沙良は、急いで事務所に戻る事にした。
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「えぇぇーっ・・・・・本当なの？」
「ああ。」
事務所に戻った沙良は、剛士の話を聞いて驚いていた。
「黒木さんに、あの会社を紹介した友達が黒幕って事？」
「ああ。その友人の一人が、同じ会社に従業員として所属してるらしいんだが、それを苦にして大学側に相談をしたらしい。さっき、学長が相談にきたんだ。」
「学長が・・・」
「ああ。さっき話を聞いていたら、とんでもない事が判ったんだ。今日、お前が面接に行った会社は、単にダミー的な会社なんだ。実際は、高校生や大学生を中心にした秘密売春クラブらしい。」
「まあ・・・そうだったの。」
「月に、かなりの額を稼いでいるようだ。当然、収益を増やすため脅迫は当然ながら、チクリや密告防止のために悪どい事もしている。」
「ひどいわねぇ。」
「ただ、証拠がつかめないがな。」
「どういう女性なのかしら。」
「かなり、アホか、頭がキレるかどちらかだ。」
「しかし、まさか女性とはねぇ・・・・・それも学生でしょ？」
「んむ。・・・・ま、とにかく事情を聞いて依頼を引き受けた。」
「えぇ・・・・引き受けたって？」
「いま、豪が、その女の自宅を探りに行ってる。」
「ええ、もう調べてるの？・・・剛士、やっぱり、警察に連絡した方が・・・」
「アホっ。よく考えろ。」
「え？」
「つまり、脅迫されている女性らに罪はない。しかし、その女が警察に捕まるような事があれば、公になってしまう。そうなると。彼女らの将来に影響するんだぞ。それだけじゃない。彼女らの家族や親戚にも関わってくる。という事で沙良・・・・しばらく、続けてもらうぞ。」
「えぇぇぇーっ・・・・・そ、そんな・・・」
「大丈夫だ。相手も判ってるし早めにカタをつけるから。」
「もう、行く事はないと思って、さっき貰ったユニフォーム捨てちゃったわよ。」
「アホォッ！ 拾ってこい。」
「そ・・そんなぁ・・・・」
「心配するなって、俺も動いてやるから。」
「・・・・・・・・・」
沙良は、がっくりと肩を落としながら立ち上がった。
（・・・なんで、そんな依頼を受けるのよ・・・もし、指名があったら・・・）
沙良は、心の内で文句を言いながら捨てたユニフォームを渋々拾いに行く事にした。
− 夕方 −
事務所に戻った豪が、剛士に調査報告をしていた。
「伊武さん、学生の分際で高級マンションに住んでましたよ。」
「そりゃ、そうだろう。で、名前は？」
「近藤薫って名です。しかし、意外と美人な女でしたよ。」
「綺麗な薔薇にはトゲはあるんだよ。」
「なんですか、それ？」
「・・・・・・・ま、いい。説明が無駄だ。」
「は、はぁ・・・」
「豪、明日から、その近藤薫を付きっきりで尾行してくれ。」
「わかりました。」
「どんな細かい事でもいいから、俺に連絡を入れろ。」
「はい。」
「俺は、今から李のところに行ってくる。」
「え？」
「妙に嫌な予感がする。・・・・今回の件は、この近藤という女だけに留まらない様な気がしてな。・・・ま、あくまで俺の勘なんだが・・。」
「で、李さんの所には、どんな用でですか？」
「その、近藤とかいう女学生の家族構成と今までの経歴を調べてもらう。」
「出来るんですか、そんなこと？」
「出来るんですよ、豪君・・・」
剛士は、ジョークっぽい口調で、そういい残して事務所を出ていった。
− 翌日 −
事務所には、沙良をはじめ、豪、有紀、そして幸三が集まっていた。
剛士の横には、李も座っている。
剛士は、皆に説明していた。
「昨日、李に近藤薫の事を調べてもらったんだが、とんでもない事がわかった。」
「とんでもない事？」
沙良の言葉に頷きながら、剛士は、話の続きを喋り始めた。
「今件は、宗教がらみだ。」
「・・・・ほぉぉー、宗教っすか？」
豪が、すっとんきょうな声を出した。
剛士が、目だけで豪を見ながら問いかける。
「豪、ちょっと話は逸れるが、宗教って知ってるか？」
「し、知ってますよ、馬鹿にしないで下さい。」
剛士は、薄笑いながら質問をした。
「そうか・・・・・・ちなみに世界の三大宗教を言ってみろ。」
「え・・・よ・・・三大宗教っすか・・・」
「ああ。知ってるんだろう。」
「も、勿論ですよ。」
「んむ・・・・・聞かせてみろ。」
「は、はい・・・・ぇぇーっと・・・・・・ぶ・・・ぶ・・・仏教・・・」
「お、いいぞ。次は・・・」
「え、・・・ぇ・・えっと・・・・・・・・・ブ、ブードゥー教・・」
皆が、意味ありげな視線を豪に向ける・・・
豪は、困惑顔で皆を見渡した。
「・・・・・・続けろ・・・」
「・・・・・・ぅ・・・・・お・・・・・・・・・・お、お経・・・」
皆がシラケ切った顔で沈黙した。
「伊武よ・・・お前、こんな男を雇ってるのか？」
李が、溜息をつきながら、そう言い放った。
有紀は、顔を真っ赤にしながら肘で豪を突付いている。
「・・・もういい。豪、黙って聞いてろ。」
「・・・・・は・・・・・はい・・・・・」
シュンとした表情で下を俯く豪・・・・
剛士は、本題に入っていく。
「天無教って知ってるか？」
剛士の問いに幸三が答えた。
「あの、オカルト宗教団体って呼ばれている？」
「ああ、信者は数千人と少ないが、色々と話題になっている女教祖の団体だ。」
「で、今回の件が関係あるんですか？」
「ああ・・・近藤は、教祖の娘なんだ。」
「えぇぇーっ！」
皆が、一斉に驚いた。
「李よ、皆に説明してやってくれ。」
「んむ。」
李は、葉巻に火をつけると煙を吐き出しながら説明を開始した。
「伊武が言ったとおり、天無教は、数千人の信者しかいないんだ。全て運営は寄付金と募金によって賄っている。しかし、不思議なのは何百という人数で団体生活をしているのにも関わらず、かなり贅沢な生活ぶりだ。信者達は、確固たる信念と理念で教祖を慕っている。訳の判らない説法に騙されてな。
教祖は、さらに、今以上の拡大を狙って活動を続けているんだが、内容は、とんでもないインチキ集団だ。教祖は、皇女様と呼ばれ崇拝されているが、俺に言わせれば、ただの強欲ばばぁだ。それと共に非常に危険でもある。」
「何が危険なの？」
「俺の遣いが調べたんだが、どこぞの国のテロ団体と交流がある。一番懸念しているのは、その組織に金を寄付しているという事だ。つまり、天無教も、その一端を担う団体に成り得るという事だ。」
「そ・・・それこそ、警察に・・・・」
沙良の言葉に、剛士と李は視線を合わせた。
剛士は、沙良に追説をした。
「沙良、よく聞け。奴らは尻尾を絶対に出さない。ましてや警察に捕まるドジはしないんだ。何ヶ月も掛かって捜査を見ているより一気に俺たちが片付けた方が早い。いや、やらなくちゃいかん。」
「でも・・・・」
「宗教ってのは、厄介だ。今、潰しておかないと、とんでもない事になるんだ。」
剛士の真剣な態度に沙良は真意を理解していく。
「・・・・・・・わかった・・・解ったわ、剛士・・・・」
「よし、じゃ、今からやってもらう事を説明する。」
剛士は、それぞれに天無教を壊滅させるための作戦を説明していった。
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