（９５）

　剛士の事務所に一人の女性が訪れていた。
「誘拐・・・・ですか？」
　剛士は、女性の説明に困惑顔で聞き返した。
「ええ・・・・・・そうなんです。」
　依頼してきた女性の名前は、阿川光江、喫茶店を営む２９歳の女性だ。
「私のステディが、男に連れ去られたんです。」
「ステディ？」

　光江の説明では、相手の女性、吾川典子という光江と同じ年の女性が３日前に、一緒にいた公園内のトイレに行って典子の元へ戻ろうとしたときに見知らぬ男に連れ去られたという事だった。

「お願いします。どうか、典子を探してください。」
「はぁ・・・ま、それはいいんですが、何故、警察に届けないんですか？」
「相手から、もし警察に連絡したら命はないって、私・・彼女を失ったら、生きてられないんです。」
「生きてられないって・・・・・・・その・・・」
「彼女を愛しているんです。私と典子は永遠の愛を誓ったんです。」
「永遠・・・・？・・・・その、言ってる意味がよく・・・」
「典子とは、１０年間にわたるレズ関係を続けてきたんですけど、実は、来月から典子と二人で生活をする事になってるんです。」
「・・・・・レ・・・・・レズ・・・ですか・・・」
　光江は、別段、恥ずかしがる様子を見せるでもなく堂々と頷いている。

「その・・・・非常に失礼な事をお聞きしますが・・・・・つまり・・・」
「身体の関係ですか？」
「・・・す、すいません。」
「いえ、いいんです。・・・・・もちろんあります。典子がスレーブで、私がリード、つまり男役です。」
「・・・・・・・何年も前から・・・・ですか？」
「ええ。私と典子は大学時代に知り合って・・・・それからずっとです。」
「差し支えなければ、切っ掛けを教えていただけませんか。」
　剛士の質問に光江は頷きながら喋り始めた。

「大学時代に、ある運動部のマネージャーを典子と二人でしていたんです。部員の洗濯を終えて、最後に二人で一緒にシャワーを浴びたんですけど冗談でジャレあっているうちに、何となく典子にキスをしたんです。ところが二人とも妙に変な気分になって。自然に互いの手が性器に・・」
　剛士も豪も、興味津々で光江の話に耳を傾けていた。
「・・・・・・」
「それが、凄く気持ちよくて・・・・・それから回を重ねるごとに二人の同性に対する気持ちというか・・・つまり・・・・そう目覚めたんです。」
「ほぉー、なるほど・・・・」
　驚いた豪が、光江に質問をした。
「あのぉ、男役って・・・・ポコチンが、ついてるんですか？」
　隣で豪が平然と光江に問い掛けた。
　剛士に頭をコツかれる豪・・・・
「ば、馬鹿者っ、失礼な事を聞くんじゃねぇ！」
「す・・・すいません。」
　ショボンとしながら済まなそうに光江に頭を下げる豪・・・

「いえ、いいんです。そんなこと気にしていませんから。つまり、女性専用のディルドがあるんです。ショーツ形になっていて、それを私が装着するんです。」
　光江の説明に剛士と豪も、少々、顔を赤くしていた。
「な・・・・なるほど。」
「でも、私もインサートしてもらいますよ。双頭ディルドを使って一緒に果てる事もありますしシックスナインもします。」
　光江の詳しい説明に、妙に落ち着かない剛士と豪・・・・
「でも、大半は私が男役に徹して典子を責めますけど。」
　豪は、懲りずに、またしても横から口を挟んだ。

「その・・・・・相手の典子さんは、フ○ラもやるんですか？」
「ゲッ・・・ア、アホォォォーッ！」
　先程より強めに、剛士から頭を殴られる豪・・・・
「す、・・・す・・すいません・・・・・つい・・・」
　光江は、表情を崩さずに豪の質問に答える。
「もちろんですわ。典子のフェラチオは、最高に上手なんです。」
「な・・・・・・は？・・・マジ・・・っすか・・・」
　不思議な顔で光江を見つめる豪・・・
「あ、もちろん、感触ではなく、典子の舌使いを見て心で感じるんです。」
「・・・そ・・・そういうことですか・・・・・。」
「私は、同性愛を恥ずかしいなんて、全然思っていません。それとも、おたく様たちは、同性愛者に対して偏見でも？」
「と、とんでもない！」
　剛士と豪は、同時に手の平を顔の前で左右に振った。

「それより、本当にお願いします。どうか彼女を・・・・お金は幾らでも払います。」
「まあ、引き受けてもいいんですが・・・・・・ところで、肝心の男の要求は？」
「ただ単に、典子と別れろと・・・・」
「え？・・・・たったそれだけですか・・・」
「はい。」
（妙だな・・・・・事件性がないような気もするが・・・・）
　剛士は、相手の要求が二人の離別だけに限っている事から緊急性に欠けている感じを受けた。
「・・・・解りました。お引き受けしましょう。彼女の写真と貴方の連絡先を教えてください。」
　光江は、バッグから典子の写真と連絡先を書いたメモを剛士に渡した。

「他に何か心当たりがあったら、いつでも結構ですので私に連絡してください。今、貴女に聞いた話だけでは、とても彼女を探せる状況ではありませんので。」
「はい、ただ、連れ去った男は、大き目のサングラスをしていたので顔は判らなかったんですが、何処かで会ったような気もするんです。」
「思い出せないんですか？」
「ええ・・・」
「何か特徴は？」
「髪を銀髪に染めてました。背が高くて体格も良かったです。暴れる典子を軽々と担いで車に乗せていましたから。」
「ほぉー・・・」
「あ、そういえば手にタコが。」
「タコ？」
「ええ・・・・大きくて、かなりゴツゴツしてたような・・・・・・。」
「なるほど・・・・手掛かりには、なりそうですね。」
「どうか、よろしくお願いいたします。」
「いずれにせよ、直ぐにというわけには行かないので時間は掛かりますよ。」
「はい、典子が無事ならば・・・・・」
「では、今日から早速、調べますので。」
　光江は、剛士に頭を下げて事務所を後にした。

　光江が出て行ったのを確認し、剛士に声をかける豪・・・
「伊武さん、びっくりしましたね。あんな美人の女性がレズでディルドを股間に装着してエッチするなんて。オラ、オラァってやってんですかね。ハハハッ。」
「馬鹿もん！　失礼な質問ばかりしやがって。」
「・・・す、すいません・・・」
「・・・・しかし、どうも腑に落ちんな？」
　剛士は、腕を組んで顎を撫でた。
「何がです？」
「んむ・・・吾川光江の態度が妙に落ち着きすぎている。それに、福田典子を車に乗せるところも見てるわけだ。」
「・・・ええ・・・でも、それが何か？」
「俺の感だが、吾川は、連れ去った男を知ってる様な気がするぜ。」
「・・・何故です？」
「吾川は、サングラスをしていて男の顔は見てないがと言った。しかし、他の部分は、はっきりと覚えている。それに大切な福田典子が連れ去るのを見て、特に追いかけるわけでもなく何もしなかったというのは普通に考えてもおかしいだろう。」
「・・・・・そういえば、そうですね・・・・・」
「ん・・・・ま、いい。とりあえず、その男を探してこい。」
「え・・ええ、判りました。」
「相手は判り易い特徴だ。さほど難しくないだろう。」
「はい。・・・・しかし、どうやって・・・」
「アホッ。聞き込みするんだよ。」
「ですね・・・・・じゃ、行って来ます。」
「おう。頼むぞ。」
　豪は、ジャンパーを羽織ると早速事務所を出て行った。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　典子をさらった銀髪の男が、ベッドに座る典子をなだめていた。
　男の名は、金子俊一。
　典子が、光江に内緒で付き合っている男性である。
　俊一は、典子、光江と大学時代の同級生で、二人がマネージャーをしていた時の空手部の部員だった。
　大学に入った冬に典子の方から俊一を食事に誘い酔った勢いで体の関係を持ったのが切っ掛けだった。
　男性に抱かれた事がなかった典子ではあったが、その時、初めての俊一との交わりも悪くないと感じていた。
　それ以来、典子は光江とも付き合いながら俊一とも光江に内緒で会っていたのだ。

「典子、いい加減に目を覚ませ。」
「・・・・・俊一さん・・・・・私は光江が好きなの。」
「馬鹿やろぉーっ！」
　俊一の大声に肩を竦める典子・・・
「女同士で結婚だと？　馬鹿言っちゃいかんぜ。将来を考えろよっ！　老後はどうする？世間は認めるか？仕事は？子供は欲しくないのか？」
「何とかなるわ。」
「甘いな。」
「いいじゃない、私の人生なんだし。」
「女同士で抱き合って何が面白いんだ。」
「俊一さんには、解らないわ。確かに、私は俊一さんが好きよ。貴方に抱かれていても感じる。でも、彼女は違うの。全てなの。」
「そこが解らねぇんだよ俺には。あいつは・・・光江は、変な秘密クラブを経営してるそうじゃないか。相手は、お前だけじゃないんじゃないのか？」
「光江は、私を一番愛しているといってるわ。」
「愛してるって・・・・・典子・・・・女だろ・・・将来・・・」
　典子は、俊一の話を遮って大声をあげる。
「同性愛は変質者じゃないわっ！」
「誰もそんな事を言ってるんじゃねぇよ。」
「・・・・・・・」
「違う幸せがあるんじゃないかって言いたいんだ。」
　典子は、ベッドから立ち上がると俊一が座る椅子に近づいた。
「・・・どうした？」
　典子は、無言で俊一のジーンズのベルトを外し始める。
「・・お、おい・・・典子・・・」
　典子は、俊一のファスナーを下ろし、肉棒をブリーフから露出させた。
「や、やめろって。」
　典子は、俊一の言葉を無視し、萎えた肉棒を舌先で舐めあげた。
　俊一は、一瞬抵抗するものの一気に昂ぶりを見せていく。
「・・の・・・典子・・・・・」
「今日が、俊一さんとの最後の日よ。」
　典子の言葉に頭が真っ白になる俊一・・・・

　俊一は、典子の顎を持ち上げて制止した。
「どうしたの？」
「最後ってどういう意味だよ。」
「・・・・・つまり・・・・・俊一さんに抱かれるのも最後ってこと。さっきも、言ったけど、私は、光江と一緒に暮らす事を決めたから。」
　俊一は、典子を抱き上げてベッドに押し倒した。
「キャッ・・・・・しゅ、俊一さん・・・・」
　俊一は、典子の服を乱暴に脱がし始めた。
　濃紺のブラジャーから豊満な乳房が踊り出た。
　右の乳首には、光江と互いの愛を誓ったピアスが痛々しく刺さっている。
　俊一は、典子の着ている服を全て脱がすとブラジャーとお揃いの濃紺のレースショーツを毟り取った。
「・・・しゅ・・・俊一さん・・・」
　俊一は、強張った表情で紀子の股間に顔を埋めていった・・・・・・・

（９６）

　俊一の女芯を責める舌に、典子は自ら腰を突き上げていく。
「クフゥゥゥゥゥー・・・しゅ・・俊一さん・・・か、噛んで・・・噛んでぇーっ！」
　俊一は、典子の言うとおり女芯を軽く噛んだ。
「ンアァァァァァァァー・・・・」
　典子の小穴から軽く飛沫が上がり俊一の顎に飛び散った。
「フゥ、フゥ・・・・・ハァァァァー・・・・」
　俊一は、典子の身体の下に潜り込み、軽々と回転させて、シックスナインの形をとる。　典子は、俊一のはちきれんばかりの肉棒を握り唇を窄めながら、ゆっくりと舌を滑らせていった。
「ぐぅぅー・・・の・・典子っ・・・・」
　典子の巧みな舌使いに呻き声を発する俊一・・・・
「俊一さんも舐めてぇぇ。」
　俊一は、典子の肉唇を左右に開き、舌を挿入した。
「ンムムムゥゥゥゥー・・・」
　肉棒を咥えたまま典子が歓喜で喉を鳴らしていく。
　典子は、肉棒を擦りながら舌を絡めていった。
　舌を絡める卑猥な摩擦音が、俊一にも届いていく。

　俊一は、蜜壷に指を入れて優しく掻き混ぜ始めた。
「ハゥゥゥゥゥー・・・」
　典子は、起き上がって俊一の方向に向きを変えた。
　俊一にキスをすると肉棒を掴み自ら蜜壷に導いていく。
　騎乗位になった典子は、硬く怒張した肉棒に体重をかけていった。
「グッフゥゥゥゥー・・・・・アゥゥゥゥゥー・・・」
「の・・典子・・・・光江とより・・こうして・・・・俺と・・・」
「い・・・いやぁ・・・言わないで・・今は・・今は・・・・アァァァァァァー・・」
　典子の綺麗に手入れした陰毛が上下運動で歪んでいく。
　俊一は、複雑な気持ちで典子の表情を窺っていた。

（・・・・・・！そうだっ・・典子を妊娠させれば・・・・）

　典子と身体を求め合うときは、暗黙の了解で、俊一が、一旦、中断をし避妊具を装着する事になっていた。
　そろそろ互いに限界は近い・・・・
「典子・・・・後から・・いいか・・」
「ぅ・・うん・・・」
　典子は、俊一の腰の上から降りると四つん這いになってヒップを高く上げた。
　俊一は、一呼吸置き、いかにもスキンをはめている様な仕草を取る。
　その間、典子は、昂ぶりが醒めないように女芯を擦って俊一の挿入を待っていた。
　俊一は、真上から典子の全身を眺めた。
（・・・・典子・・・・・）
　心の中で、そう呟き典子の腰を掴むといきりたった肉棒を蜜壷に食い込ませていく。
「ンッ、フゥゥゥゥゥゥゥゥゥー！」
　俊一は、典子を突き上げるように肉棒を打ち付けていった。
「アグゥゥゥゥゥゥゥッゥゥー・・・・」
　激しい打ち付けで典子の身体がブレたような錯覚を見る。
　見え隠れする肉棒は、典子の蜜で怪しく光っていた。
「典子・・・・典子ぉぉぉ・・・・」
「俊一・・さ・・・ぁぁ・・・・き・・・気持ちいいぃぃ・・・」
　湿った摩擦音が二人の感度を一層増していく。
「ァァ・・・アァァァァァー・・・・イ・・・イキソォッ・・・」
　俊一は、典子の喘ぎにピッチを上げた。
「ウッ・・・ウグゥッ・・・・・典子っ！」
「キテェ・・・・・キテェェェェェェェー・・・」
　俊一は、典子の腰を思いっきり引き付けて下腹部を密着させた。
　そして、奥深くに熱い分身を爆発させていく・・・・
「グゥゥゥー・・ッハァァァァァー・・・・・・・・・？・・・・・ぇ？　・・・・・・な・・・・・しゅ、俊一さん・・・・も、もしかして・・・」
　俊一は、典子の動揺に動じなかった。
　最後の一滴まで、典子の蜜壷に分身を注いでいく。

「俊一さんっ！」
　典子の大声に俊一は、力を抜きながらゆっくりと肉棒を引き抜いていった。
　すかさず身体を起こし、俊一の股間を見る典子・・・・
「な・・・なんで、はめてないの？・・・・・・なんで中で出しちゃうのよぉー！」
　俊一は、長く深い息を吐きながら典子を見つめた。
「典子・・・気持ちよかったろう。」
「・・・・ば、馬鹿な事を言わないでよ。・・・今日は、危険日なのよっ。」
「生めよ。・・・・・俺の子供を。」
　俊一の言葉に尻餅をつく典子・・・
　股間からは、俊一の放った分身が、ゆっくりと流れ落ちてきた。

「俊一さん・・・・・・わ・・・私帰るわ。」
　立ち上がって服を着ようとした典子を俊一は制止した。
「離してっ・・・・・やめてよ。」
　俊一は、典子の身体をロープで縛り始めた。
「何するのよ。俊一さん、やめてっ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁーっ・・・」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「え、知ってる？」
　豪は、典子がさらわれたという公園近くで若いグループに聞き込みをしていた。
「銀髪で背が高い男だろ？」
「そうそう、結構、ゴツイ体で。」
「多分、私鉄腺沿いにある空手道場の奴だぜ。」
「空手道場？」
「ああ、神道会って道場さ。目立つからな、あの人は。よくこの辺でも見かけるぜ。」
「そうなのか・・・・・サンキュー、助かったよ。」
　豪は、さっそく若者に礼を言って神道会という空手道場に向かった。

　３０分ほど走っただろうか。
　豪は、車を路上に止めると道場のある入口に向かった。
　中から威勢のいい掛け声が響いている。

　入口から離れ、小窓から中を覗く豪・・・
　道場の中では、まだ色の淡い帯をはめた少年達が稽古を行っていた。
　銀髪の男は道場内に見当たらない。

（なんだ・・・・子供ばっかりじゃねぇか。）

　豪は、しばらく少年達の稽古を見ていた。

「何か御用ですかな？」
　豪は背後から枯れた声で話し掛けられた。
　振り向く豪・・・・
「あ、・・・・あなたは・・・・」
「ここの道場の者だが。」
「そうなんですか。し、失礼しました。」
「で、なにか？」
「え、ええ・・・ちょっと会いたい人が・・・」
「会いたい人？」
「ここの道場に、髪の毛を銀色に染めた男性が居るって聞いてきたんですが。」
「銀色？・・・・・ふむ、俊一の事だな。」

（俊一っていうのか・・・）

「俊一は、夜の稽古にしか来ないよ。」
「そうですか。・・・・あの、よろしければ彼の住所を教えてもらえませんか？」
「ああ、構わんよ。その先を左折して大通りに出るとアパートが数件並ぶ住宅があるんだが、その一番奥の緑コーポという２階の２０３号室だ。」
「ありがとうございます。」
　豪は、老人に礼を言って、そのアパートに向かう事にした。

　大通りを越えてアパートが立ち並ぶ一角に豪は到着した。

（あそこだな・・・）

　豪は、俊一と呼ばれる男の住む緑アパートの前に立った。
　外からアパートを見上げた豪は、２階の２０３号室に足を運んだ。

（金子・・・金子俊一か・・・）

　表札を確認しチャイムを押す豪・・・・
　しばらくして中から俊一が顔を出した。
　怪訝そうな顔で豪を見る俊一・・・
「誰、あんた？」
「突然すいません。ちょっと、貴方に聞きたい事があって。」
「俺に聞きたいこと？・・・・・あんた、警察か？」
「いや・・・・」
　豪は、身分を明かす事を警戒した。
　光江が興信所に依頼した事を知られると典子に危険が及ぶかもしれないからだ。
「じゃ、なんだ。」
「あ・・・あなた・・・神道会の人ですよね。」
「・・・・・ああ・・・親父の道場だ。」
「え？・・・じゃ、さっきの人は。」
「道場に行ったのか。・・・・・・入門なら俺じゃなく親父に言ってくれ。」
「え・・・ええ・・・」
　豪は、曖昧な返事をしながら玄関の下を見た。
　女性用の靴が置いてある。

（まさか・・・福田典子の・・・）

「あの・・・失礼ですが金子さんは、独身ですよね。」
「独身じゃいかんのか？」
「い・・・いえ・・・・」
　豪は、ひとまず帰ろうと考えていた。
　あまり、しつこく詮索して疑いをかけられても厄介だからだ。
「あの・・すいません、ありがとうございました。」
　豪は、そう言って立ち去ろうとした。
「おい、待てっ！・・・・・てめぇ、何を探ってやがる。」
「え・・・いや・・俺は別に・・・」
　俊一が、スニーカーを履いて外に踊り出てきた。
　ドアの鍵を掛け豪の胸座を掴んだ。
「お前、何者だ。」
「・・い、いや・・・だから・・・・俺は・・・」
「ちょっと来い。」
　俊一は、豪の襟を持って下に降りていく。
　豪は、いきなり俊一の部屋を訪れた事を後悔した。

（チッ・・・・困ったな・・・・）

　豪は、俊一に襟を掴まれたまま、裏の林の中に連れて行かれた。