（９）

　８月中旬

　朝の４時くらいだろうか、枕元に置いた沙良の携帯電話が鳴った。

　眠たそうに電話を手に取る沙良・・・
「・・も、もしもし・・・」
『・・・・・・・沙良・・・・・俺だ。・・・いま・・近くにいる。』
「か、一馬さん！・・・・・何処にいるの？」
『・・・・いつもの・・・・あの場所だ。』
「すぐ行くわ。」
　沙良は、急いで着替えを済ませると、その男が待つ場所に急いだ。

　沙良の運転するトーラスワゴンは、街の外れにある国道を抜けると、その男と会うための場所に到着した。
　左右には、木々が茂り、長く一直線に続く林道が美しい。
　その真ん中には、一台の車が止まっていた。
　沙良の運転する車は、その場所にゆっくりと近づいていった。

　男は、沙良を確認すると、ゆっくりと車から降りてきた。
　沙良も、男に合わせてドアを開く・・・・・

　車から出た二人は、無言で歩み寄った。
　暫し視線を合わすと、呼吸を合わせたように抱き合う・・・

　男の両腕が、沙良のワンピースを淫乱にたくし上げた。
　白いヒップが露出し男の手が沙良のヒップを掴みこむ・・・
「沙良、ここで・・・・今すぐに・・」
　沙良のパールレッドの唇からピンクの舌が伸びる・・・
　男も舌を伸ばし互いの生唾が絡み合った。
　男の指がショーツを割って沙良の蜜壷に伸びてくる。
「ァァ・・ゥゥゥ・・・」

　沙良は男のベルトを外しチャックを下ろした。
　男は、車のボンネットに腰をおろし足を広げる。

　沙良の瞑りかけのアイラインが男にはとてもセクシーに映った。
　沙良は、肉棒を握り、もう片方の手で袋部分を優しく包み込むと
　ゆっくりと肉棒を咥えていった。
　唇をすぼめて顎を引くと舌を躍らせながら肉棒を刺激していく。

　男が沙良の頭を持って肉棒から遠ざけた。
　沙良は、ワンピースを脱ぎ、車の屋根に放った。
　男が、沙良のショーツを脱がして股間に顔をつける。
「ハァァァ・・・・アウゥゥゥ・・・」
　沙良は、喘ぎ声をあげながらブラジャーもはずした。
　男に背を向けボンネットに手をつくと男は沙良のウェストを左右から握った。
　怒張した肉棒が、沙良の亀裂を割って蜜壷に埋まっていく・・・・
「アハァァァァァァァー、ゥゥゥゥー・・・」
　誰もいない早朝の林道の真ん中で、沙良の甘い淫声が響き渡った。
　立ったまま、色々な体位で行為を繰り返す二人・・・・
「キスして・・・キスしながらイッテェェー・・」
　男は沙良をボンネットに仰向けにさせた。
　そして、結合したまま覆い被さると舌を絡ませながら腰を突き上げていく。
「ンー・・・アゥ・・ム・・・クァァァァァー・・・」
「沙良・・・出していいのか・・・」
「キテ・・・・アァァァー・・」
　男は、沙良の中で爆発を遂げた・・・
　沙良は、指を噛みながら顔を横に向けている。
　ゆっくりと肉棒を引き抜いた男は、拭く事もせずに下着とズボンを穿いた。

　沙良の蜜壷から溢れる男の分身がボンネットに零れ、ゆっくりとナンバープレートに流れていく。
「・・・・沙良・・・・」
「・・・・そのまま、行って・・・・」
「・・・・沙良・・・」
「いいから・・・あなたが消えてから私も行くから・・・」
「・・・・・・わかった。」
　男が、自分の車に戻ろうとしたときそのままの状態で、沙良が呟いた・・・
「・・・今度は、いつ会える？・・・・・・・一馬さん・・」
「・・・また・・・・また・・・連絡をするよ・・・・」
　男は、そう言って車に乗り込んだ。
　エンジンをかける音が、沙良の耳に飛び込んでくる。
　真っ裸でボンネットに横たわる沙良の目は潤んでいた・・・・
（・・・一馬さん・・・・・）
　ふと、煙草を咥えてワインを揺らす剛士の顔が頭を過ぎった・・・
（・・剛士・・・・私・・・・）
　沙良は、きつく目を瞑って声を漏らした・・・・
「私の・・・馬鹿っ・・・・」

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　沙良は、それから１時間後、事務所に戻った。

　ドアを開けて中に入ると、上半身裸の剛士が床の上で腕立て伏せをしていた。
　ドアの音に気づき剛士が振り向いた。
「ん？　・・・沙良か。　こんなに早く何処へ行っていたんだ。」
「・・ん・・・・・うん・・・ちょっと・・・・・ドライブに・・」
「ドライブ？・・変わってるな、お前・・」
　剛士は、立ち上がってミネラルウォーターをボトルごと口につけた。
　沙良は、剛士の首に掛かったタオルを取り、汗ばんだ身体を拭きはじめる。
「なんだ、自分で拭くからいいぞ。」
「いいの・・・拭かせて・・」
「おかしな奴だな・・・・何かあったのか？」
　そういった瞬間、剛士の鋭敏な感覚が脳を揺らした・・・・
（・・・・ん？・・・前にも、何回か、こういう事があったな・・）

　剛士は、日本に帰国してからの４年間、沙良と生活を共にしてきたがたまに、真夜中や早朝に、こういう事があったことを思い出していた。
　夫婦でもなく、特に気にする風でもなかった剛士だが今日に限って、妙に胸苦しさを覚えたのだ。

「沙良・・・・何か、俺に、言いたい事でもあるんじゃないのか？」
　沙良は、ビクッっとした表情で剛士を見つめた。
「ぇ・・うぅん・・・」
「・・・・・」
　剛士は、それ以上、聞く事はしなかった。
　沙良からタオルを取ると首に掛けてソファに座った。
「剛士・・・朝食作るわ。待ってて。」
「ああ。」
　沙良は、奥のキッチンへ姿を消した。

　しばらくして、簡単な朝食を作った沙良が、事務所に戻ってきた。
　トレーには、サンドイッチとポテトサラダ、ウィンナーそして、ティーポットに入った紅茶が置かれている。
　沙良がカップに紅茶を注いだ。
「いい香りだな。」
　剛士が、何気にそう呟いた。
「うん、ダージリンティー。イギリスにいるときに良く飲んでたの。」
「ダージリンティー？」
「うん。この紅茶はね、独特の風味と香りがあって、マスカットや黒スグリのようだ、って形容されてるんだけど、紅茶のシャンパンと言われてるのよ。このお茶はストレートで飲むのがおすすめなの。」
「へぇー、どれ・・」
　剛士は、ダージリンティーを口につけた。
「なるほど、香りも凄くいいな。」
「フフッ、でしょ・・・」
　剛士は、どこか大人しめの沙良をみて声を掛けた。
「・・・・沙良・・・何か悩み事でもあるのか？」
　剛士は、サンドイッチを頬張りながら普段どおりの屈託のない喋り方で問い掛けた。
「・・・・・・うぅん・・・別に。」
　沙良は、そう言ったものの何一つ自分に隠し事をしない剛士の性格を鑑み心を揺らしていた。
（馬鹿じゃないの、沙良・・・・言えばいいじゃないのさ・・・）

　剛士は、沙良が他の男とも関係を持っていることは知っている。
　しかし、それは愛とは違った沙良が持つ性癖であり、沙良は、隠しているつもりは毛頭なかった。
　ただ・・・平岡一馬の事だけは、この４年間、一度もたりとも剛士に喋った事はなかったのだ。
（やっぱり、隠し事は嫌・・・剛士を裏切っているみたい・・・・・）
　沙良は、極力明るく、そして、さりげなく剛士に一馬の話をする事にした。

「あのね、剛士・・実は、私、たまに会っている男性がいるの。」
「え？・・・」
「こっちの大学病院で研修医だった頃、関係を持った人なんだけど私の先輩なの。
　別れた旦那よりも前に付き合っていたんだけど、その人は、医者になってから離島で医師を続けると言って私から離れていったわ。
　後から聞いたんだけど、本当は私を一緒に連れて行きたかったって言ってたの。でも、何もない土地で生活もままならない所に、私を強引に連れていく事を申し訳ないと思ったらしく口に出せなかったって。
　その後、別れた旦那と知り合って結婚しちゃったけど風の便りで私が結婚した事を知ったみたい。思い直して私を呼ぶつもりだったらしいんだけど、私の結婚を知って諦めたって言ってた。相当悩んだらしいわ。」
「・・へぇー・・・・・そうなのか・・」
「旦那と離婚して、剛士を追っかけて日本に帰ってきた翌年、偶然、街で会ったの。
　学会の帰りだったらしくて・・・・・そして、・・一緒にお茶を飲んだんだけどその時に、私が離婚した事を知って、彼から求婚されたわ。でも、私は断った。
　もう結婚はしないって。彼は、私の気持を理解してくれて直ぐに諦めてくれた。
　それに・・・私は、・・・剛士を・・・・・・追いかけてまで日本に・・・・。」
「俺の事を気にする必要ないだろう。」
「・・・・・違うの、私は、その時、ずっと剛士と一緒にいたいと思った。でも解らないのよ自分でも。あの時、彼と・・・二人で過ごした２年間が頭から離れなくて・・・たぶん・・・たぶん、彼の事を今でも好きと思う。」
「正直でいいじゃないか。自分に嘘をつくほど辛いものはないぜ。」
「彼と・・・あの時、会わなかったらって何度も思ったわ。」
「・・・そういうのも・・・運命なんだろう。」
「剛士・・・・」
「・・沙良・・・俺も、結婚なんか考えていないさ。」
「・・・・」
「これ以上、妻となる女を悲しませたくない。辛い思いをさせたくないし・・・・・な。」
「・・・・ね、剛士・・・・・もし・・もしも私が、彼の所に行くといったら引き止める？」
「・・・・どうかな。　・・・じゃ、引き止めたらお前はどうする？」
「そ、それは・・・・・・・わからない・・」
　そう言って、沙良は俯いた・・・・
　剛士は、冷めたダージリンティーを啜りながら囁いた。
「男も女も、好きな異性を一人に絞るのは難しい事かもしれんな。だが愛を与えるために、別の異性と関係する事を俺は拒まない。」
「・・・・」
「だからといって誰とでも寝るわけじゃない。」
「・・・・・・」
「ただ一つ、自分の持つ愛欲が、一致する異性には、心を預けれる。」
「愛欲？・・・・心を・・・・」
「心を預ければ、預けた者は、自分の所に必ず戻ってくる。愛とは欲なんだ。しかし、欲は、自制が効かない。だから、それを同じ目的の欲にするんだ。」
　沙良は、剛士の言った言葉で全身に衝撃を受けた。

「剛士・・・・その欲を・・・預けたい女性って・・・・誰？」
「それはな・・・」
　剛士は、サンドイッチを口一杯に詰め込んだ。

「・○・△・×・・」−−−−《　沙　良　だ。》
「！」

　何を喋ったのか聞き取れなかった。
　しかし、沙良は涙を浮かべて剛士に抱きついた。
「・・馬鹿ぁ！・・・・」

　沙良は、直ぐに理解したのだ。
　剛士の性格と自分を見つめる瞳の輝きを感じて・・
「剛士の馬鹿っ・・・照れないで、ちゃんと言ってよ・・・沙良って！」
　剛士は、ゆっくりと、ゆっくりと、沙良の背中に手を伸ばしていった・・・・・・
（沙良・・・・少しは、俺の気持ちが伝わったか・・・・・・）
　沙良は、剛士の思いに応えるように、抱きしめる手に力を入れていった・・・・・・