（１１１）

「どうぞ、お掛けください。」
「失礼します。」
「ちょっと着替えてきますのでお待ちください。」
「はい。」
　剛士は、服を着替えに部屋に上がった。
　軽くシェーバーを当て、服を着替えるとキッチンに向かう。

　キッチンでは、沙良とマリオンが楽しく会話をしていた。
「楽しそうだな。」
　剛士の声に振り向く二人・・・・
「ええ。沙良は楽しい女性だわ。」
「彼女もよ。とても軍隊にいたなんて思えないくらいチャーミングだし。」
　二人は、コーヒーを啜りながら話の続きを再会する。
「・・・・・沙良・・・客だ。茶を持ってきてくれ。」
「うん。」
　剛士は、そういい残して応接室に向かった。

「お待たせしました。」
　ソファに腰掛ける剛士・・・・
　ユンは、隙のない態度で剛士に視線を移す。
「で、私に話とは？」
「ええ・・・実は外国の女性を探してるんです。」
「女性？・・・・依頼ですか？」
「いえ・・・実は、昨夜、貴方の噂を本部から聞きまして・・・・」
「噂・・・とは？」
「貴方が、元ＳＡＳの対テロ部隊に所属し数々の戦歴を挙げておられる事を。」
「！・・・・本部？・・・貴方は、何者です？」
「あ、申し送れました。私、香港警察のものです。」
「・・・・・・香港警察・・・」
　ユンから視線を離さず、話の続きを待つ剛士・・・・

「実は、国連からのトップシークレットで、ある組織が大量破壊兵器を作っているという情報が入ったんです。その作成費用を工面しようと一部の組織員が、香港に潜入しているという噂がありまして・・・。」
「・・・・なるほど・・・・・それで？」
「独自に調査をしていたんですが、その調査結果をまとめた書類を盗もうと政府の職員に成りすまし、特別電子金庫に潜入した者がおりましてね。」

（クッ、クッ・・・・・）

　剛士は、それがマリオンだと言う事が直ぐにわかった。

「ほぉー・・・・しかし、特別電子金庫に潜入するとは大した人間ですな。」
「正直、恥を晒しているようなものですが。・・・その女性が日本に入国したんです。」「しかし、何で私に？」
「貴方は、国連と契約を結んでいる捜索員と聞きました。」
「・・・・・ん・・・何が言いたいんですか？」
　ユンは、表情を崩さずに剛士に言い放った。

「貴方が、国連エネルギー省の武力緊急捜索員だから・・・・です。」
「・・・・・・」
「貴方なら情報が耳に入っているのではと・・・・」
「・・・・よく調べ上げましたね。国連職員でも私の存在を知らないんですよ。」
「・・・・ま・・・・色々と・・・」

　そこへ、ドアをノックし沙良が茶を持って入ってきた。
　剛士とユンは、異様な雰囲気で視線を合わしており沙良を見ようとしない。

　沙良は、テーブルの中央に進んでお茶を差し出した。
　礼を言いいながら沙良に視線を移すユン・・・・

「！・・・さ・・・・・沙良さん・・・」
「え？」
　沙良はユンを見て驚愕した。
　持っていた湯飲みを床に落としてしまう・・・
「・・・ユ・・・ユンッ！・・・・・ど、どうして・・・」
「君は・・・・ここのスタッフだったのか・・・」
　沙良とユンを見る剛士・・・・

（なるほど、留守中の沙良の相手はこいつか・・・・あの下着も・・・ククッ・・）

　剛士は、笑いが込み上げてきた。

「二人は、顔見知りのようですな。」
　剛士の問いに慌てて返事をするユン・・・・・
「ええ・・・・ま・・・ちょ、ちょっと・・・・」
　ユンが、沙良を横目で見ながら、シドロモドロに声を上げる。
　剛士は、ユンの崩れた冷静さの隙を突いてカマを掛けた。
「ところでどうでした？　沙良のティーバックショーツ姿は。」
「・・・・ええ・・・セクシーでした。」
　一瞬、自分が何を口走ったか理解できないユン・・・
　沙良は、驚愕した顔で剛士とユンを見る。
「ぇ？・・・・ぁ・・・ああっ！・・・い、いや・・これは・・・その・・・」
「ククッ・・・貴方は、なかなか素直な人ですね。」
　沙良は、応接室を慌てて出て行こうとした。
「待て、沙良っ・・・」
　沙良は、困惑顔で剛士を見る。
「マリオンを呼んで来い。」
「・・・う、うん・・・」
　沙良は、顔を真っ赤に染めキッチンに走った。

　しばらくしてマリオンが、応接室に入ってきた。
「何、ツヨシ・・・・・・！」
　マリオンが、部屋に入った瞬間、空気が急激に流動した。
　ユンの顔が、引き締まり目にも止まらぬ速さで胸ポケットにある拳銃に手が伸びていく。
　しかし、それ以上の速さで剛士が動いた。
　ユンが、胸ポケットに入れた瞬間、スーツの襟を捻ったのだ。
　ユンは、拳銃を抜く事が出来きなかった。
　剛士の腕に手を掛けるがびくともしない。
　しかし、それ以上に剛士の実力に肝を潰した。
　マリオンは、一瞬の緊張から開放され剛士の真後ろに立つ。

「ユンさんとやら・・・・・彼女、そう君が追っているこの女はあんたが今ほど口走ったホーピング、武力緊急捜索員の一人だ。」
「えっ？」
　腕を掴む力を抜いていくユン・・・・
「マリオン、拳銃を置いてソファに座れ。」
「ええ。」
　マリオンは握っている拳銃をテーブルに置いた。
　剛士も、ユンの胸ポケットに手を入れ拳銃を預かった。
「さ、あんたも座りなよ。」
　ユンは、小さく息を吐きながら、ゆっくりとソファに座った。

　剛士は、ユンに理解させるため簡潔に説明をした。
「ユンさん、彼女は、今あんたが話した大量破壊兵器の資金集めで香港に潜入した組織員を調べるために単独で政府の特別電子金庫に入ったんだ。」
「・・・えぇーっ！」
「捜査上、身分を明かすことは出来ない。それは君も理解できるだろう。」
「・・・・・ま・・・まぁ・・・・・」
「あんたが聞いた組織とは、恐らく極東独立民族戦線・・・そうじゃないか。」
「・・・・やはり、知っていましたか。」
「この、組織のプランナーは、大井右京という男だ。」
　剛士は、過去の右京との関係、先日の韓国での調査目的、そして、元テロリストで右京の仲間だった李の存在をユンに説明した。

「そうだったんですか。・・・・解りました。本部には異常なかったと伝えます。」
　ユンは、一気に緊張が解けネクタイを緩めながらマリオンに質問をした。
「ところで、どうやって電子金庫の中に入れたんですか？」
　マリオンは、顔の前で指を振りながらウィンクをする。
「・・・・・でしょうね・・・。しかし、凄腕のガードをよく突破しましたね。」
「彼女の戦闘力は相当だ。それに一応、君とは、元仲間でもある。」
「え？」
「オーストラリア陸軍特殊空挺部隊の隊員だった。それもトップファイターだ。」
「そうだったんですか。・・・・どうりで。」
　剛士は、場が和み始めるとユンに香港での組織の活動状況を聞いた。

「実は、はっきり掌握してないんです。なんせ、香港はマフィアが台頭していますし、各国の国際犯罪組織が集中していますからね。命を張って隠し通す連中はゴマンといます。正直難しいんですよ。」
「そうか・・・・」
「しかし、これから掴んだ情報は、伊武さんに報告しましょう。」
「・・・・え？」
「我々が住む香港で、極東独立民族戦線が資金作りをしている以上、それを潰すために行動してる伊武さんに情報を送るのは当然です。」
「・・・ユンさん・・・非常に助かるよ。よろしく頼む。」
　ユンは、香港人特有の笑顔でゆっくりと頷いた。

「あの・・・・ところで・・・・・沙良さんを・・・その・・・すいません。」
「・・・くくっ・・・・別に怒ってなんかいないさ。それに、沙良も、その気で君と関係したんだろう。」
「え？」
「大人の男と女は、理性をコントロールできる。ま、本質を知っていればね。」
「・・・・・はぁ・・・・・」
「ま、過ぎた事だし、気にしなくて結構・・」
　ユンは、済まなそうに視線を落とすが剛士の言葉に気が楽になったのも確かだった。

「あの・・・じゃ、私はこれで。」
「帰るのかい。」
「ええ・・・事情も解ったし特に日本にいる理由もないので。」
「そうですか。・・・・・・・・おい、沙良っ！」
　剛士の声に沙良が応接室に顔を覗かせた。
「な・・・なぁに？」
「ユンさんが香港に帰るそうだ。空港まで送ってやれ。」
「えっ？」
「そんな・・・伊武さん、結構です。」
　沙良とユンが同時に声を上げる。
「そんなビックリしなくてもいいじゃないか。敬遠する仲でもないだろう。一度は、激しく交わったんだ。当然さ。・・・・・な、沙良・・・・・」
　沙良が困惑顔で剛士を見つめた。
「早く送ってやれ。」
「・・・・うん・・・・」
「す、すみません。」
「いや・・・それより、また、日本に来る事があったら寄ってください。」
「ええ。・・・・・・・・では・・」
　ユンは、立ち上がって剛士に握手を求めた。
「貴方の武運をお祈りいたします。」
　マリオンとも握手を交わすと、ユンは沙良と共に事務所を後にした。

　二人が消えたのを確認してマリオンが声を掛けた。
「ツヨシ・・・・貴方って変わってるわね。」
「何で？」
「だって、サラは、貴方のステディじゃないの？」
「だから？」
「沙良は、貴方に対して済まないという複雑な気持ちじゃないのかしら。それを無理やり送らせる様な真似して。たぶん落ち着かないと思うわよ。」
「・・・・男の礼儀だ。」
「そうかしら？」
「ああ、それに沙良は、そんな事を悩む女じゃないさ。俺が知っているだけでも、二人男がいるんだから。」
「えぇっ・・・・そうなの？」
　驚いた顔で剛士を見るマリオン・・・
「ああ・・・・お前も見習って見つけろよ！」
「フフッ・・・・・そうね。・・・・・・・さて、私もホテルに帰るわ。」
「・・・・送ろうか？」
「うぅん・・・色々と見て廻りたいから。」
「そうか。・・・・気をつけろよ。」
「ええ。」
　剛士は、目を細めながら煙草のパッケージを手に取り１本を口に咥えた。
　慣れた手つきで、手品のようにジッポの火を点ける。
　剛士を見つめるマリオン・・・・
　紫煙を吐き出す煙の向こうで、剛士の姿が、これ以上なくセクシーに見えた。
　指を鳴らして指で銃弾を撃つ真似をするマリオン・・・
　僅かに口元を緩めた剛士に背を向け、マリオンは事務所を出て行った。

（１１２）

「沙良さん・・・・すいません。」
「え？」
「まさか、君がミスター・イブのところでアシスタントをしているとは・・・」
「・・・・いいの。・・・でもビックリしたわ。」
「あの人は変わった人だね。」
「そうかしら。」
「ああ、俺にはそう見えた。・・・・しかし・・・凄い人だということは解る。」
「え？」
「いや・・・・君が、彼に心を売るわけだ。」
「・・・・・・・・・」
　それきり二人は、無言のまま空港に着いた。
　助手席から降りるユン・・・

「送ってくれてありがとう。」
「ユン・・・・・ゴメンね。デッキまで見送りたいけど・・・・」
「いいんだ。」
「本当にごめんなさい。」
「君の気持ちが解るよ。早くミスター・イブの所へ帰ってやりなよ。」
　沙良は、笑顔でユンに頷いた。
　手を差し出すユン・・・・沙良も手を伸ばしてそれに応える。
「じゃ、元気で。」
　沙良の手の甲にキスをして、ユンは、空港ロビーに姿を消した。
　ユンの後姿を見つめる沙良・・・

（・・・・ごめんなさい・・・ユン・・・・）

　ユンが人ごみに消えると沙良は車をスタートさせた。
　その時、空港内から銃声と共に客の悲鳴がこだました。
　急ブレーキを踏みロビー内を見る沙良、中はパニックで騒然としている。
　沙良は、車から降りると急いで空港ロビーに走っていった。
　すれ違いざま、一台のセダンが猛スピードで走り抜けていく。
　沙良は、飛び出てくる客を押しのけて中に入っていった。
　沙良は人だかりのある場所に踊り出ていく。
　スーツとコートを持った男が大量の血を流してうつ伏せに倒れていた。

「・・・・・・ュ・・・・・ユン・・・・・ま、まさか・・・」
　倒れている男は、背中から数発の銃弾を打ち込まれ焦穴から微かに硝煙を上げていた。
　沙良は、ゆっくりと男に近づいた。まぎれもなくユンだった。

（・・・ユンッ！）

　沙良は頭が混乱した。
　携帯電話で剛士に電話をかける沙良・・・・

『おう、俺だ。』
「・・・つ・・・剛士・・・・・・ユ・・・ユンが・・・・・」
『？・・・・どうした？・・・・・何かあったのか。』
「・・・ユ・・ユンが・・・・・・・・誰かに・・・う・・撃たれ・・・」
『ユンがどうしたって？　聞こえんぞ！』
「く・・・空港で・・・・撃たれて・・・・」
『撃たれた？・・・・どういう事だっ！』
「・・・そ・・・それが・・・・」

　剛士は、沙良が何を言っているのか、よく聞き取れなかったが直感的にユンの身に何かが起こった事を判断した。

『沙良、ユンから離れて身を隠せっ！　直ぐに行くっ！』
　剛士は、そう叫んで電話を切った。

　沙良は、震える手で電話を切ると周りを見渡しカウンターに近い柱の陰に身を隠した。

（早く・・・・早く来て・・・剛士・・・）

　剛士は車を飛ばした。
　空港に近くなると警察の検問で渋滞に巻き込まれる。

（・・・チッ・・・・）

　剛士は、近くのコンビニ店に車を止めると空港にダッシュした。
　そこへ空港方面から走ってきた白いマーク�Uが急カーブをして剛士の前を駆け抜けていく。
「・・・ウッ・・・」
　剛士は、反射的に横へ飛び体をかわした。
　瞬間に車内を見る剛士・・・・
　車内には、全員がサングラスをし、笑いながら煙草をふかしている姿が目に映った。

（・・・・なんだ・・・・あいつらは・・・・）

　剛士は気を取り直し民家の路地を走り近道を駆けていく。
　滑走路沿いの歩道を通り反対側のロビーから空港の中に入っていった。
　ユンが倒れているロビーは封鎖され中には入れない。
　剛士は、沙良を探した。

（・・・！・・・・あそこか。）

　沙良が顔面蒼白で柱の陰にしゃがみ込んでいる。
　剛士は、人ごみの後ろを通り沙良に近づいていった。

「沙良っ！」
　沙良が剛士の声に振り向いた。
「剛士・・・・・ユ・・・ユンが・・・こ・・殺された・・・」
「一緒にいたのか？」
「・・・うぅん・・・・車に乗っていたんだけど銃声と悲鳴が聞こえて・・・」
「誰か見なかったか？」
　沙良は頭を抱え込んで記憶を辿った。
「・・・そ・・・そういえば、ロビーに入ろうとした時に白塗りのセダンが・・・猛スピードで走っていったわ。」
「・・・・・・セダン？・・・・・・・！」

（間違いない・・・・さっきの奴らだ。）

　剛士は、先程猛スピードで横切っていった車を思い出した。

「沙良、とりあえずここを出るぞ。」
「・・・うん・・・で・・・でも・・・・」
「ユンは、しょうがない。警察と外務省の連中に任せておけ。」
　剛士はそう言うと沙良の腕を掴んで立ちあがらせた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　剛士は、事務所に李を呼び出し相談をもちかけていた。
「伊武・・・・奴らは、資金集めに焦っているようだな。」
「んむ。李よ、よくよく考えたんだが妙に俺の周りで事件が多い。」
「？・・・つまり・・わざとお前の前で・・・。」
「ああ・・・・右京が嗾けているような気がする。」
「しかし、わざわざ挑発してくるのはおかしいだろう。」
「いや、奴の性格からして単に俺に対するリベンジだけだと思う。」
「しかし、そのユンとかいう男の話とマリオンという女性の話を総合すると奴らは大量破壊兵器、つまり、生物化学兵器を開発しているわけだろう。」
「んむ・・・」
「つまり目的があるわけだ。・・・それに、この兵器を開発、制作するには莫大な金とそれを作る施設が必要だ。直ぐには実行に移せるとは考え難いぞ。」
「俺は、それ以前に右京を消したい。」
「伊武、単的に考えて天無教が消滅したいま、直ぐに資金調達が出来るとは思えん。むしろ、香港で資金を集める活動をしているという事は、見つけやすくもあるぞ。」
「ああ・・・・・そうだな。」
「伊武、こんな事を言うのもなんだが、待つしかないんじゃないのか。」
「・・・・・・」
「こちらから先手を掛けると命取りになる。」
「確かにな。」
　剛士は、珍しく焦りを浮かべていた。

「李よ・・・・香港に潜り込めるか？」
「ふっ・・・言うと思ったぜ。・・・よかろう、数名、優秀な奴を送ろう。」
「すまん。」
「気にするな。・・・・・さて・・・・そろそろ俺は行く。」
「ああ。」
　剛士は、李が出て行ったあとも暫しソファに座り込んで考え込んだ。

（・・・・・・・待つしかないか・・・・・・奴を・・・）

　剛士は、溜息をついて応接室を出ると部屋に上がっていった。

−　翌日　−

　マリオンが、剛士の事務所を訪れていた。
　マリオンは、国連本部より指令を受け韓国に向かう事になった。
「そうか・・・・気をつけろよ。」
「ええ。・・・・あ、それから昨夜、白いセダンに乗った男達を埠頭に沈めておいたわよ。昨日、ユンを殺った奴らでしょう。」
「さすがに早いな・・・・・・ま、捕まえても口を割らんだろうからな。」
「フフッ・・・・・・明日から、またやり直し・・・頑張るわ。」
「単独ほど身軽でやり易い事はないが、その分、危険でもある。気を抜くな。」
「ん・・・解ってる。」
　剛士は、静かに頷いた。

「どうだマリオン、どこかで飯でも食っていくか。沙良も、もうじき帰ってくるし空港に送ってやるぜ。」
「うぅん・・・・直ぐに発たないと。タクシー待たせてるし。」
「そうか・・・・」
　マリオンは、何かを言いかけたが思い止まった。

「じゃ、・・・・いくわ。」
「・・・・・んむ。」
　マリオンは、剛士に背を向けてノブを握った。
　ドアを開いて外に出ようとしたが、一瞬立ち止まって小声で囁いた。
　やはり、言わずにはおれなかったのだ。
「ツヨシ・・・・」
「何だ？」
「・・・・昨夜の事、一生忘れないわ・・・・・私を抱いた最初で最後の男・・・」
「・・・・・・マリオン・・・・」
「でも・・私は・・・・・私は、男に屈しない女・・・・女豹よ。」
「・・・・さよならだ。・・・・・・ザ・パンサリス・・」
　マリオンは、剛士のこれ以上ない敬象の言葉が嬉しかった。
「さようなら・・・・・ザ・グレートパーソン・・・」
　マリオンは、口元だけで小さく笑い事務所を出て行った。