（１２３）

　剛士は、スコルビッチの鼻にナイフを突き刺した。
「！・・・・グッヒィィィィィィィィィィィィー・・・・」
　激痛で目を覚ますスコルビッチ・・・
　剛士は、スコルビッチの両足を真上から踏み込んだ。
「ンギャァァァァァァァァッァァァー・・・・・ウングググゥゥゥ・・・」
　骨折音が響きスコルビッチが身体を捻っていく。
　アンドレと同じように肩の関節を外すとナイフでズボンを引き裂いた。
「さて・・・スコルビッチさんよ・・・死ぬ前に色々聞く事がある。」
　スコルビッチは、飛び出しそうな目で剛士を見た。
　まるで亡獣のような強烈な視線を返す剛士・・・
　スコルビッチが、その恐怖で失禁を始める。
「・・・・・勢いがねぇ、ションベンだな。」
　剛士は、収縮したスコルビッチの睾丸をナイフのグレードで潰した。
「フンギャァァァァァァァァァァァー・・・」
　今度は脱糞を始めるスコルビッチ・・・・
「うるせぇーぞ。」
　剛士は、ナイフを鎖骨の間に突き刺した。
「ンゴッ・・・ヒギィィィィィー・・・・・・やめろぉぉぉぉぉぉー・・・」
「俺の質問に応えたら少しの間だけ止めてやる。」
　スコルビッチは、剛士の言葉に何度もうなづく。
「よぉーし・・・・まず、大井右京は・・・・今、何処だ。」
「・・・・・き・・・・・昨日・・・昨日・・・帰った。」
「帰った？・・・・・日本に居たのか。」
　スコルビッチは目だけで頷く・・・・
「お前らの居場所は、ロシア国境に近い金巌壌という丘陵地・・・間違いないな。」
「・・・・・ぁぁ・・・・」
「いいぞ・・・・・大量破壊兵器は何処まで完成している。」
「・・・・・・・７・・・・・・７割・・・がた・・・」
「そうか。・・・・右京は、プランナーのはず・・・ボスは誰だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「言えよ。」
「・・・・・・・・・・」
　剛士は、人差し指をスコルビッチの目に突き刺した。
　眼球が破裂する音が響く。
「フヒィィィィィィィィィギィィィィィィィー・・・・」
「言え！」
「・・・・・・・・・ま・・・ま・・って・・・・」
　剛士は、もう片方の目も躊躇せずに潰した。
「ヴヒギィィィィィィィィィィー・・・・」
　動かない身体を必死に揺すりながらスコルビッチは泣き叫んだ。
　肩に刺さったスペツナズナイフを抜くと肛門に刃を当てる剛士・・・
「・・・ゎ・・・ゎ・・かった・・・・・・い・・・言う・・・・言う・・・」
「・・・・・・朴・・・・朴・・・王正・・・・・」
「朴王正・・・・・何者だ？」
「・・・・・元・・第八軍団の７７１軍部隊・・・・隊長だ・・・」
「第８軍団か・・・・・メンバーは何人居る。」
「・・・・・俺たちを含めて・・・・３４・・人・・・・」
「３４人だと・・・・」

（チッ・・西郷さんの話と全然違うじゃぇか・・・）

　剛士は、シュミレートを変更しなければいけないと思った。

「メンバーは、どういう連中だ。」
「７０７チームの出身者に・・・・・人民軍レンジャー部隊など様々だ・・・」
「７０７もいるのか・・・・そして、お前ら、スペツナズ出身者・・・」

　７０７ＴＥＡＭ　第７０７殊作戦大隊　
　韓国陸軍特殊作戦コマンドで韓国陸軍の精鋭特殊部隊だ。
　１９８２年に創設。アメリカの特殊部隊やＧＳＧ９から訓練を受けている。
　射撃、各種武器取り扱い、ラペリング降下、パラシュート降下などのほかテコンドー、突入等の訓練を受けている部隊だ。

　剛士は、一刻も早く現地に向かいマリオン、そして李と作戦を立て直さねばなら無いと思った。

「本州電力会長の孫は生きているだろうな。」
「・・・・・あぁ・・・・生きてはいる・・・・」
　剛士は、その言葉を聞くと肛門に当てていたナイフを思いっきり突き刺した。
「グギャァァッァァァァァァァァァァーっ！」
「・・・よかろう・・・・お前も連れと同じようにしてやるぜ。」
　肛門に突き刺さったナイフを引き抜くとスコルビッチの肉棒を無造作に切り落とした。
　スコルビッチは、胃の中のものを吐き出しながら気を失った。
　しかし、剛士は潰れた睾丸を蹴りスコルビッチを覚醒させる。
「・・・・ゥゥ・・・・ウギギギギギギィィィィィィィィィー・・・」
　股間から血を噴出すスコルビッチ・・・・
　既にアンドレは絶命したようだ。
　剛士は、立ち上がってスコルビッチに吐き捨てた。
「とことん後悔しながら死んでいけ。」
　剛士は、そう言うと、その場から静かに立ち去っていった。

　元の堤防に戻る剛士・・・・・
　奏が、剛士を待っていた。

「お疲れ様でした。」
「奏さん、李と連絡が取れるか？」
「ええ。」
「伝言を送って欲しい。」
「はい。」
「奴らのメンバーは、全員で３２人、メンバーは全員が特殊部隊出身だ。ボスは、元第八軍団７７１軍部隊隊長、朴王正、大井右京は朴の側近だ。」
「わかりました。」
「それから、奴らをやる前に兵器の破壊をしたいと・・・・」
「わかりました。さっそく連絡します。」
　剛士は、そう言うとヘリコプターが停まっている場所に戻っていった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「何ぃっ・・・アンドレとスコルビッチが・・・・・奴らがやられたというのか。」
「はい。先程、無線で連絡が入りました。」
「おそらく、伊武剛士でしょう。」
　隣の席で車椅子の乗った男が呟いた。
「右京、その男はそんなに凄いのか。」
「以前お話したとおりです。世界中のテロリストが舌を巻いた男ですから。」
「大丈夫なんだろうな。」
「奴は単身で乗り込んでくるんですよ。負けると思いますか・・・朴さん。」
「クククッ・・・・フハハハハッ・・・そうだな、その通りだ。負けるはずは無い。」
「メンバーは、超一流の集まりです。数分で伊武剛士を殺れるでしょう。」
「んむ・・・・。」
　朴の剥き出しになった肉棒を一人の若い女性が咥えていた。
　薬を打たれているのであろう。
　朦朧としながらも舌を懸命に駆使している。

「大分と上手くなったな。・・・・右京よ。お前の薬は凄いぞ。」
「恐れ入ります。・・・おい、女、もっと舌を使え。」
　そう言って手に持っている杖で女のヒップを叩いた。

　女は、本州電力会長、西郷竜太郎の孫娘、博美だった。

≫≫≫≫≫≫

　一旦事務所に戻った剛士は、ソファに寝転んだまま酒をあおっていた。
　妙な胸騒ぎがして、なかなかな眠る事が出来ない。

　ふと、電話機に目をやると留守番電話の着信ランプが点灯している。
　剛士は、空になったグラスにバーボンを注ぎ留守番電話のボタンを押した。

《一件目の着信です。・・・・・・伊武さんっ、マスターが・・・マスターがぁぁー・・・・早く、来て、早く、早くぅぅぅーっ！》

《２件目の着信です。・・・・・・》　《３件目の・・・・・・》

　剛士は、視線を一点に集中させたまま身動きをしなかった。
　いや、できなかったのだ。

　何度もテープが流れる中、剛士は持っていたグラスを床に落とした。

（・・・・・・し・・・・・四郎・・・・・）

　全身が知らず知らずに震え出している。
　剛士は、重い身体を引きずって事務所を出た。

　異常なまでの悔しさと怒りを身体中から発しながら剛士は、チェロキーに乗り込んだ。

　四郎の店に着いた剛士は、従業員に問いただした。

「まだ、警察には連絡してないのか？」
「・・・ええ・・・・チーママが、伊武さんが来るまで待ってろって。」
「豪と有紀を送っていったはずだが。」
「ええ。・・・帰ってきた時は、私も一緒にいたんです。私が集金に出かけて帰ってきたら、マスターが・・・。」
　四郎と一緒にいたという従業員は、震える声で剛士にそう説明した。

（・・・・・・さっき・・・・・・奴等が岬に来る前に殺られたのか・・・・・）

　剛士は、アンドレとスコルビッチが四郎を始末してから岩浜海岸に来たと推した。
　あの二人を始末したというのに、訳のわからない悔しさと怒りが身体中に充満した。

　剛士の背後で従業員も身体を震わせている。

「みんな、すまん・・・・・辛いだろうが、暫く俺と四郎だけにしてくれ。」

　従業員たちは、頷きあって店の休憩室に入っていった。

　カウンターの中で倒れている四郎を剛士は抱き上げた。
　ゆっくりとソファに進み、静かに四郎の身体を下ろしていく。
　剛士は、座らせた四郎の正面に膝を着いた。
　四郎の額を胸に引き寄せ独り言を呟く・・・・・

「四郎・・・・約束どおりお前を抱いてやったぞ。・・・・・これで満足か。」

　悔しさを噛み締め強い力で四郎を抱く剛士・・・・・
　どれだけ我慢しようとも涙は一向に止まらない。

（四郎・・・・すまん・・・・・・・すまん・・・・・）

　いつまでそうしていただろうか。
　剛士は、生前の四郎の笑顔が鮮明に浮かんできた。

　剛士は、四郎の好きだった一人咲きを歌い始めた。
　歌おうと思って声に出たわけではなかった。
　自然に、歌い始めてしまっていたのだ。

　四郎は、剛士が店に来る度に、いつもこの歌を必ず歌っていた。
　タンバリンを片手に、剛士を見つめながら・・・・・・

「・・燃え・・て・・・散るのが・・・・花・・・・夢で・・・・咲くのが・・・恋・・・・・・・・・・一人咲・・・き・・・」

　隣の部屋で待つ、従業員らのすすり泣く声が寂しく漏れてくる・・・

「・・・・・四郎・・・・・・・・・・・・・咲かせてやることが・・・・・・出来なくて・・・・・・・・すまん・・・・・・・・・・・し・・・・・四郎・・・・・・・・・四郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ！」

　剛士の目から零れた涙が、四郎の瞼に落ちた。
　それは、まるで四郎が流した涙のように冷たい頬を伝っていった・・・・・・・

（１２４）

　剛士は、店の従業員に事情を話して泣く泣く葬儀を任せてきた。

　空港のロビーに着いた剛士は、手続きを済ませると豪に電話を掛けた・・・・

「豪、無事か？」
『ええ、さっき沖縄に着きました。ちと船酔いですが、今から久米島に飛びます。』
「気をつけるんだぞ。」
『？・・・・ええ・・・解りました。』
「・・・・・・それから・・・・」
『え？・・・・何ですか・・・兄貴・・・・』
「いや・・・いい。」

　剛士は、四郎が殺られたことを豪に伝えるのをやめた。
　いらぬ心配を掛けたくない事も理由の一つだが四郎の無念を独り占めしたい気もあったからだ。

『今日、発つんですよね。』
「・・・ああ、今からな。中国を経由して平壌に向かう。」
『気をつけてください。・・・・兄貴・・・・』
「ああ、わかった。・・・じゃあな。」

　剛士は、電話を切ると沙良にメールを打った。

《無事に島に着いたか？・・・今から飛行機に乗る。俺の人生全てを掛けて、皆の無念を晴らしてくる。何があっても心配するな・・・・・・剛士・・・》

　剛士は、メールを送信すると携帯電話を初期化してバッテリーを外した。
　そして、ゴミ箱に電話を捨てると、ゆっくりとターミナルに向かった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

　剛士は、中国に着くと、李の部下、劉遼山と合流し直ぐに平壌行きの飛行機に乗り換えた。
　上客は少なかった。
　剛士は、バッグからバーボンを取り出しボトルごと口に運んだ。

「伊武さん、直ぐに着きますよ。」
「ああ・・・・・ところで、李はどうしてる？」
「金巌壌の近くにある村の一角に潜入しています。」
「そうか・・・・・」

　剛士は、無性に煙草を吸いたくなった。
　しかし、機内は禁煙であるがゆえ、それもままならない。
　何度かバーボンを口にすると剛士は自然と目を閉じていった。

　平壌に着いた剛士と劉は、李が手配した
　日本製の旧型コロナに乗って金巌壌に向かった。

　何度か故障はしたものの、無事、金巌壌近くの村に着いた。
　車を枯れ木と草でカバーした場所に隠し、劉の案内で李が居る家に向かった。

　李は、剛士は出迎えに外に出ていた。

「疲れたか？」
　李が、苦笑いをしながら剛士に声を掛ける。
「ああ、さすがに舗装していない道を休みなしで８時間はしんどいな。」
「くくっ・・・ま、入れ。ビールもある。」
「んむ。」

　剛士は、僅か８畳ほどの小さな小屋に入って行った。
　しかし、手で掘り起こしたのだろうか、地下にも６畳ほどの部屋があり剛士が使用する、あらゆる武器が隠されていた。

「よく運べたものだな。」
「フッ・・・だから俺が来たんだ。」

　李は、発泡スチロールの箱の中からビールを取り出し剛士に差し出した。
　剛士は、栓を抜き一気に喉に流し込んでいく。

「ふぅぅー、生き返るぜ。・・・・・さてと・・李よ作戦を説明しよう。」
「んむ。」

　李が、調べ上げた見取り図を広げると劉と部下の２人が、それを囲んでいった。

　何時間も徹底して作戦を練っていく。
　数種類のシュミレートから、一番高い確立を検討していった。

「伊武よ・・・・例のマリオンという女だが。」
「ああ、何とか見つけたいんだがな・・・・」
「変装はしていると思うぞ。　目立つからな。」

　その時、外から小さな口笛が聞こえた。
　全員が、銃を構え入口に銃口を向ける。

「・・・・・誰だ。」
「・・・・レディを寒い外なんかに置いておかないで入れてくれない？」

　剛士が小さく笑うと皆に頷いた。

「今話していた、マリオンだ。・・・・・マリオン入って来い。」

　全員が、ほっとした表情で銃をしまった。

「ハァーイ。」

　マリオンが、真っ黒に染めた髪を靡かせながら中に入ってきた。
　目には、コンタクトレンズがはまりブルーの瞳を黒く変えている。

「よく、ここが判ったな。」
「あら、その人がここに来て、すぐに解ったわよ。」

　李を見ながら微笑むマリオン・・・
　李は、苦笑いをしながら呟く。

「参ったぜ。・・・さすがホーピングだな。ま、奴らでなくてよかったが。」
「マリオン、ちょうどいい。座ってくれ。」
「ええ。」

　マリオンは、みなと同じように胡座をかいで図面に見入った。
　剛士は、具体的な方法を知るために質問をする。

「マリオン、お前一人で何処まで出来る？」

「最初は、兵器破壊と組織壊滅の指令だったんだけど、調べているうちに、とても一人では無理とわかったわ。」
「・・・・・・例えば？」
「メンバーが凄いわ。　全員が特殊部隊出身、それも一流よ。計２９人・・」
　李が驚く・・・
「１６人じゃないのか？」
　沙良に剛士が訂正した。
「いや、マリオン・・３２人だ。」
「え？」
「俺の仲間を殺した奴らに口を割らせた。」
「割らせたって？」
「日本海から漁船で帰ろうとする前に、二人を始末した。」
「・・・・・さ、さすがね・・・・」
「ま、そんな事はいい・・・で、兵器を破壊する方法は？」
「中には、加工油が大量に格納されてるの。危険等級１級の引火性油よ。それに起爆装置を仕掛けて一つを爆発させればいいんだけど厳重で。」
「・・・んーむ・・・」
「中の研究メンバーは、交代で寝てるわ。つまり中が空になることは無いの。それに４箇所の出入口を全て警備しているわ。武器も半端じゃないしね。」

　剛士は、腕を組んで考えた。
　剛士を含め、こちらは李、マリオン、李の部下３人の計６人
　しかし、李は、右京の逃亡阻止に専念するため使えない。

「５人で３２人を倒すのは、奇跡でも起こらない限り無理だな。」
「警備の奴らを狙撃してから、他の者が気付くのに何分だ。」
「３０分で交代しているわ。小さな部落を装ってるけど全員がメンバーよ。」
「厄介だな・・・・・・ところで、誘拐されたは西郷の孫は？」
「たぶん・・・・・・たぶんだけど・・・・・・主要メンバーと朴王正と一緒に居るわ。右京もね。・・・ガードは、５人、多分一番の腕利きよ。」
「よし、解った。　まず、役割と決行日を決めよう。」
　剛士らは、更に念密な作戦を立てるためあらゆる想定を考察していった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「右京よ。どうも最近、きな臭い匂いが漂ってるな。」
「・・・・そうですか？」
「んむ・・・周りの様子が気になってしょうがない。」
　朴は、博美を腰の上に乗せながら隣に居る右京に声を掛けた。
「伊武が、日本海でアンドレとスコルビッチを殺ったのが昨日です。直ぐに向かったとしても、まだ到着しているかどうかは・・・・。」
「ま、一人で乗り込んできても何も出来まい。」
「ええ、ただ、以前、お話した李弦徳という男が伊武についています。奴が、色々な手助けを伊武にしていれば不可能ではありませんが、ま、そうだとしても、我々の組織には太刀打ちできないでしょう。」
「当たり前だ。ところで西郷は金を振り込んできたのか？」
「いえ、さすがに１００億の金を用意するのは容易ではないでしょう。」
「で、奴は振り込んでくるのか？」
「ええ、来週一番にスイス銀行へ・・・」
「フッ・・・よぉーし・・・これで破壊兵器が完成できる。」
　朴は、大声で笑いながら博美の蜜壷を突き上げていった。