（１２９）

　前から歩いてくる剛士を李は見つめていた。

（・・・・・伊武・・・）

　李は、剛士の放つ、まだ衰えない怒りを感じた。
　李の前で立ち止まる剛士・・・・

「・・・・・伊武・・・」
「李よ・・・もう一人片付けなければいけない男がいる。」
「・・・・・・誰だ。」
「防衛庁・・・統合幕僚会議、特務室室長、佐々木雄平だ。」
「何故？・・・・お前と面識があるんじゃないのか？」
「少しな・・・・・・だが奴が、コイツらの船頭を操っていた。」
「・・・なんだと・・・」
「わざわざ、俺を西郷に紹介までさせている。・・・・俺を消そうとしたんだ。」
「・・・・・と言う事は？」
「俺が、邪魔なんだろう。・・・そしてホーピングと言う事を知っている。」
「つまり、日本にお前がいると、奴はやりにくいと言うわけだな。」
「・・・・・そうだ。」
「急いで・・・・日本に帰る。」
「・・・わかった。」
　剛士と李は、行きに乗ってきた車の隠してある金巌壌の入口に向かった。

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　剛士と李は、車に覆い被せてある木を払いのけた。

「伊武・・・・荷物を取ってくる。」
「ああ。」
「帰りは、赤同呉という所に船を待たせている。３０分も掛からないさ。そこに部下を待たせてあるんだ。・・・・・・・明日には日本に着く。」
「そうか・・・」
　力ない声で応える剛士・・・・
「直ぐ済む、待っててくれ。」
「・・・ああ。」
　剛士は、煙草を咥えて道沿いにある岩に腰掛けた。

（・・・・フゥゥゥー・・・・・・沙良・・・とりあえず終わったぜ。）

　剛士は、どっと疲れが滲み出てきた。
　色々な思いが頭の中を駆け巡っていく。
　その時・・・・
　空を駆ける聞き慣れたモーター音が微かに剛士の耳に入った。

（・・・・・ん？）

　立ち上がって目を向ける剛士・・・・・
　一機の旧型Ａ１０９イルンドが、こちらに向かって飛んで来た。

（・・・・・・・？）

　空を見る剛士に李が声を掛けた。
「伊武・・・どうした？　荷物は積んだ、行くぞ。」
　剛士は、怪訝な表情で目を凝らして、そのヘリを見た。
　李も剛士の視線に合わせて上を見上げた。
　その時、キャビンが開き、一人の男がＭ５７の銃口をこちらに向けた。
　軽快な連続音を響かせ銃弾が着弾していく。
「チッ・・・・李っ・・・隠れろっ！」
　李は咄嗟に剛士の叫び声に反応した。
　李の周りを銃弾が着弾していく。
　剛士は、足の不自由な李に覆い被さって銃弾から守った。
「あ・・・・危ないところだったぜ・・・・・・」
「・・・い・・・伊武・・・・すまん・・・・」
　Ａ１０９イルンドは、ホバリングして二人を観察している。
「李・・・・車に乗って逃げろ。」
「馬鹿を言うな。」
「李、聞けっ！ヘリから逃げるのは不可能だ。このままでは、二人とも確実に殺られる。」
「・・・・・・」
「俺が誘導して奴らを片付ける。その間に先に逃げるんだ。」
「しかし・・・」
「心配するな。俺は死なない。・・・・・恐らく奴は、佐々木の部下だ。」
「・・・・・・」
「佐々木を殺るまでは、俺は諦めん！」
　李は、剛士の強烈な視線を浴び、やむなく承諾した。
「・・・・わ・・・・・わかった・・・・・」
「武器はあるか？」
「後部座席にグロックが乗っている。」
「よし、俺の合図で運転席に乗れ。銃を取ったら俺は川沿いを走る。」
　李は小さく頷いた。
　剛士はタイミングを計って李の肩を叩いた。
　踊り出た李が運転席に乗り込んだ。

　剛士は、後部座席からグロックを取り川沿いに向かってダッシュした。
「李っ！爆走しろっ！」
　そう言って、川沿いを走っていく剛士・・・・

（伊武・・・・・死ぬなよっ！）

　李は、アクセルを強く踏み込んだ。
　このまま飛ばせば、２０分で目的地に着く。
　ルームミラーで後方を見ながら車を飛ばす李・・・・
　Ａ１０９イルンドは、剛士を追いかけて銃弾を浴びせている。
　李の顔が激しく歪んだ。

（・・・・・・伊武・・・）

　勝てるのか・・・いや無理だ・・・・・
　李は、そう思い始めていた。
　しかし、剛士の性格上、引き返すことは、恩を仇で返すことになる。
　李は、苦汁の表情を浮かべながらアクセルを踏み続けた。
　その数分後、大爆音と共に車のルームミラーを反射して李の目に閃光が飛びかった。
　真っ白な煙が、立ち上っている。
「・・・・・・ミ・・・・・ミサイ・・・ル・・・」
　李は、目を疑った。
　車を運転している感覚もなく、ただ中を浮いているような錯覚を起こしていた。

（・・・・・・・い・・・・・・・・・・・伊・・・武・・・・）

　李は、呼吸が出来なかった。
　夢を見ているんだと言い聞かせる李・・・・

《・・・李・・・・・頼むぞ！》

「・・・・？！」

　剛士の声が、李の脳裏に届いた。

「・・・・・・・・・・・・・・い・・・・・伊武っ伊武・・・・伊武・・・・・・伊武・・・・・・・伊武ぅぅぅぅぅーっ！　伊武ぅぅぅぅぅぅぅーっ！　伊武ぅぅぅぅぅーっ！　伊武ぅぅぅぅぅぅぅーっ！　伊武ぅぅぅぅぅーっ！　伊武ぅぅぅぅぅぅぅーっ！」
　李は、狂ったように剛士の名を呼び続けた。
　声が枯れ、大声で喉が切れていく。
　それでも、李はアクセルを緩めないでいた。
　突如、車の無線が入り正気に戻る李・・・・・

“李さん・・・李さん、聞こえますか？　到着しました。いつでも出航可能です”

“・・・李さん・・・・・李さん・・・・・いま何処ですか？”

　何度も李を呼ぶ部下の声に李は返答しなかった。
　ただ、ただ、ひたすらアクセルを踏み続けた。
　涙で前が見えない道を猛スピードで・・・・・・

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−　５日後　−

　ほこりを被った剛士のチェロキーが車庫にあった。
　週が明けた２日後、豪と有紀は久米島から事務所に戻ってきたのだ。

　５日前の新聞では、北朝鮮の金巌壌という丘陵地で多数の外国人が惨殺されているという報道がされており豪達は急いで帰ってきたのだ。
　豪は、鍵を開けて有紀と共に事務所に入ろうとした。
　その時、上部に填め込まれたアルミ製の表札が目に入った。

「は？・・・・・・江口探偵事務所・・・・」
「豪ちゃんの名前に変わってるわ。」
「・・・ぁ・・・ぁぁ・・・」
　豪は、小さな声で呟く。
　隣にいる有紀も豪と顔を見合って首を傾げた。
　表札は、剛士が事務所を出る前に取り付けていったものだった。

「有紀・・・伊武さん帰ってないな。」
「ええ。・・・もうとっくに帰ってると思ってたのに。」
　静まり返った事務所の中で、豪と有紀は戸惑っていた。
「ま、しょうがない。とりあえず荷物を運ぼうぜ。」
「うん。」
　豪と有紀は、裏のアパートから寝具などの生活用品を運ぶ事にした。

≫≫≫≫≫

　荷物を運び終わったのは夕方だった。
　豪と有紀は、テーブルを挟みながらコーヒーを啜っていた。
　その時、玄関前に、島から戻った沙良が事務所の前に立っていた。
　表札を見て寂しそうな顔を浮かべる。

（・・・江口探偵事務所？）

　剛士の車もあり、事務所には電気も点っている。
　沙良は、てっきり剛士が帰っているものと思っていた。
　ドアを開ける沙良・・・・
　ドアが開く音を聞いて豪が叫んだ。
「あ、有紀っ、伊武さんだぞ。」
　そう言って、入口に急ぐ豪と有紀・・・
　入口に立っていたのは沙良だった。

「あ！・・・さ・・沙良さん・・・・」
「お久しぶりね・・・・」
「び、びっくりしましたよ。」
　沙良は、元気のない笑みを返す。
「豪君・・・・・・・剛士は？」
「それが、まだ帰っていないんですよ。」
「週明けには帰ってるって・・・・・もう水曜日なのに。」
　沙良の声で豪と有紀も心配が募り始めた。

　沙良は、豪達と応接室のソファに腰掛けて話を始めた。
「沙良さん、何とか連絡が取れないもんですかね。」
　沙良は、無言で何かを考えていた。
「・・・・・・！・・・そうだ、李さんのお店に連絡してみるわ。」
「そ、そうですよね。」
　沙良は立ち上がって受話器に向かおうとした。その時・・・・・
「その必要はない。」
「え・・・・」
　ドアの向こうで男の声がした。
　静かにドアが開き男が入ってきた。

「・・・・李さんっ！」

　李は、沙良と豪達を見ると杖をつきながらソファに座った。
　沙良も李の前に座り、神妙な面持ちで李を見つめる。

「・・・・ぁ・・・あの・・・・李さん・・・・・・剛士は・・・・」

　李は、静かに、先日の話を喋り始めた。
　息を飲みながら李の言葉に耳を傾ける沙良たち・・・・

「伊武が北朝鮮に来る前に、ユートピアの陣内四郎が殺された。」
「えぇぇぇぇーっ！・・・・・・そ・・・そんな・・・・」
　李は、話を続けた。

「向こうでの戦闘で、マリオンも殺された。」
「・・・・・・ぅ・・・・・嘘・・・・・」

　沙良が、急激なショックで一気に青白く顔色を変えていった。

「・・・・・・そ・・・・・それで・・・・・・つ・・・・剛士・・・・・・は？」

　大きく息を吸い込む李・・・・目には涙が大量に溜まっている。
　そして一気に言葉を吐いた。

「死んだ。」

　後頭部をハンマーで殴られたような錯覚を覚える沙良・・・・
　豪と有紀は、口を半開きにし、驚愕した表情で李を見つめる。

「伊武剛士は・・・・・金巌壌で・・・ミサイルに・・・・・・・・散った。」

　豪が、発狂したかのように大声で叫び始めた。
　口を押さえて体が固まる有紀・・・・・
　そして、それと同時に、沙良が、ソファから崩れ落ち気を失った。

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　有紀の介抱で目を覚ます沙良・・・・・
　李は、沙良を見て涙を流していた。

「・・・・・・・」
「沙良さん・・・・・これを・・」

　李は、沙良に昨日の新聞を見せた。
　黄色いマーカーで、３面記事の一部を囲んでいる。

「・・・これは・・・」
「・・・・言って見れば、伊武を殺った張本人です。」
　
　新聞をみる沙良・・・・

【謎の変死体】

　昨日未明、貸しビルの一室で男性の惨殺死体が発見された。
　男性は、防衛庁幹部で統合幕僚会議、特務室室長の佐々木雄平氏で警察の聴衆によると家族や職場でのトラブルもなく、殺された原因は全く判らないということだった。

「・・・これは？」
「西郷氏に伊武を紹介した男だ。右京と奴らの組織はこいつに管理されていたんだ。」
「・・・・そ・・・・そんな・・・」

　豪は、李に尋ねた。

「李さん・・・でも・・・この男は・・・・」
「伊武が、この佐々木と言う男を殺るまでは諦めんと最後に言ったんだ。しかし・・・それも。・・・・だから、俺が伊武の変わりに佐々木を。」

　沙良は、新聞に目を落としたまま身動きしなかった。
　豪と有紀は、まるで魂が抜けたようにグッタリとしている。
　李は、ゆっくりと立ち上がった。

「私の役目はこれで終わりだ・・・・・・失礼するよ。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・私も君達とは、お別れだ。・・・・・」

　李は、沙良の肩に優しく手を掛けて囁いた。

「沙良さん・・・・・辛いだろうが・・・・・早く忘れる事だ。」

　李の涙声が、沙良の心痛を一層強くしていった。

「・・・・・・では・・・・失礼する。」

　李が出て行ったあと、沙良は夢遊病者のように立ち上がった。
　有紀が声を掛ける。

「沙良さん、何処へ・・・・・」
「来ないで・・・・一人にして・・・・・・・・・・・お願い。」

　沙良は、２階の部屋に上がっていった。
　剛士が使っていた部屋に入っていく沙良・・・・・

「！」

　木製テーブルの上には、あの時、車のダッシュボードの中で見たリングケースが乗っていた。
　力なくテーブルに進む沙良・・・・
　リングケースを手に取ると蓋を開けてリングを取り出した。
　指にはめる沙良・・・・・
　リングは冷たかった・・・
　まるで今の沙良の心の中のように。

「・・・ぅぅ・・・・・・つ・・・剛士・・・・・・・・・」

　床にしゃがみ込む沙良・・・・
　堪えていた感情が一気に爆発する。
　そして、悲鳴のような声で沙良の鳴き声が建物全体に響き渡った・・・・・

−　翌日　−

「沙良さん・・・本当に行くんですか？」
「・・・ええ。・・・・ここにいても剛士の事を思い出すだけですもの。」
「沙良さん・・・・」
「豪君、有紀ちゃん、二人で、頑張って。・・そして・・・・・剛士のような・・・・そう・・・・格好いい探偵になってね。」
　涙を拭う豪と有紀・・・・
「沙良さん・・・・・お・・・俺・・・・・・頑張るよ。」
　沙良はにっこりと笑って二人の手を握った。
「元気でね。」
「また・・・・また、遊びに来てください。」
「ええ・・・・・からかいに来るわ。」
　沙良は、そう言って事務所を出て行った。

−　３年後　−

　平岡クリニック

「ぁぁ・・・・・一馬さん・・・・・いぃぃ・・・・素敵ぃぃぃーっ・・・」
　沙良は、一馬に後から深々と蜜壷を貫かれていた。
「沙良・・・・最高だ・・・・・」
　沙良は、後を振り向いて一馬に妖艶な表情を投げかけた。
「沙良・・・・いいか・・・・・」
「キテェ・・・・思いっきり突き上げてぇぇぇぇー！」
　沙良の要望に応えるべく一馬は、腰を握ると激しく突き上げていった。
「イヤァァァァァー・・・イックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー・・・・・」
　沙良の蜜壷に大量の分身を放出する一馬・・・
　沙良は、グッタリとベッドに身体を倒していった。

　優しく沙良に覆い被さる一馬・・・
「沙良・・・・・」
「・・・ぁぁ・・・・あなた・・・・私、・・・・幸せだわ。」
　沙良は、一馬との間に一人の子をもうけていた。
　２歳になる男の子だった。
　名前は、一馬の勧めもあり剛士と名づけていた。
　そして、この４月から島を出て都心の郊外に病院を構えていたのだ。

「俺こそ、最高に幸せだよ。」

　沙良は、これ以上無い笑顔と艶やかな視線を見せながら一馬の肉棒に貪りついた・・・・
「おい、沙良・・・・・・」
「いいの・・・貴方のものなら何でも平気よ。」
　一馬と自分の蜜がたっぷりと付着した肉棒に沙良は舌を滑らせていく。
「うぅっ・・・沙良・・・・」
　一馬の肉棒は、急激な勢いで復活してきた。
「沙良・・・・もう一度・・・・もう一度、お前を・・・・」
「・・・・私を無茶苦茶にしてぇぇ・・・」
　肉棒を握る沙良の手に力が入った。
　丁寧に肉棒を上下に擦っていく・・・・
　蕩けるような視線で一馬の肉棒を見つめる沙良・・・・

　沙良は、口を半開きにして肉棒に見入っている。
　一馬は、沙良の妖艶な表情を見ようと頭上にあるベッドスタンドのライトを点灯した。
　自分の肉棒を握る沙良を見て一馬は興奮を倍増していく。
　そして、沙良の唇が肉棒に被さった。
　舌を絡める感触を確かめようと沙良の髪をかき上げる一馬・・・・
　その時、沙良の指に填る彫刻を施したプラチナリングがライトに反射して光った・・・　その光が、沙良の目につき刺さる・・・・・・

（・・・・・！）

　舌の動きが止まった沙良に一馬が声を掛けた。

「・・・どうしたんだい・・・沙良・・・」
「・・・ぇ・・・うぅん・・・なんでもない。」
　沙良の脳裏に、完全に忘れ去ったはずの剛士の顔が浮かんだ。
「ごめんなさい・・・ちょっとトイレに行ってくるわ。」
「・・・・ああ。」
　沙良は、素っ裸のままトイレに歩いて行った。

（なんで・・・なんで急に・・・・）

　沙良は、トイレから出ると部屋に入りセクシーな下着を選んだ。
　一馬が喜びそうなショーツを手にして足を通していく。
　ベッドに座った沙良は指のリングを抜いた。

（・・・・・・いつまでも過去に拘ってちゃ駄目よ・・・・沙良・・・）

　沙良は自分でそういい聞かすと、リングをタンスの一番奥にしまいこんだ。
　沙良は、大きく深呼吸するとシースルーのキャミソールを着て一馬の待つ寝室に急いだ・・・・・・