（１３０）

−　５月　−

　１ヵ月後のゴールデンウィークに、一馬と沙良は、ハワイに旅行に来ていた。
　息子の剛士は、一馬の両親に預け二人だけの旅行だった。
「素敵な海ね。」
「ああ、そうだな。」
　ホテルの部屋から二人は、裸のまま海を眺めていた。
　コバルト色の水面が夕日に照らされて華麗な色合いを見せている。
「さあ、そろそろ時間だよ。夕食でもいこう。燃えすぎて、腹がペコペコだよ。ハハッ。」
「ええ。」
　沙良と一馬は、今まで貧欲にお互いの身体を貪りあっていたのだ。

　着替えを済ませた二人は腕を組んでホテルの部屋を出た。

　舞台でショーが繰り広げられるレストランで沙良と一馬はグラスを合わせた。

「乾杯っ！」
　沙良の笑顔に一馬が優しく声を掛けた。
「結婚式はあげなかったが、新婚旅行のような気分だよ。」
「フフッ・・・初夜は激しくしてね。」
「ハハ・・・初夜って・・さっきやったばかりだろう。」
「まだ、満足してないわ。」
「よぉーし、覚悟しておけよ、奥さん。」
「フフッ・・・・期待してるわ。」
　二人は派手やかなショーを見ながら食事を堪能した。

　時間はまだ早かった。
　食事を終えた沙良と一馬は、場所を変えカクテルバーに入った。
　店内は、洒落た装飾品と明るい音楽が流れている。
　沙良と一馬は、誰にも邪魔されない奥のボックスに座った。

　二人で肩を並べながら、カクテルグラスを合わせる。
　異国に来て二人の気分は最高潮に達していた。
　その場の雰囲気もあってか、時折、キスを交わしながら会話も盛り上がっていく。
　一馬の手は、沙良の腰やヒップを往復していた。
　妖艶な視線で一馬を見つめながら身体を揺らす沙良・・・・
　沙良のスリットを掻き分け一馬の指がショーツに侵入してきた。

「・・・・アン・・・駄目よ、一馬さん・・・・見られるわ。」
「いいじゃないか・・・誰も知っている者はいないよ。」

　一馬の息を吹きかけるような声に沙良も蜜が溢れてくるのがわかった。
　蜜壷に一馬の指が入ってきた。

「・・・ァァ・・・・・見られないかしら。」
「見られても構わないけどな。」

　沙良は、その行為に興奮を隠せなかった。
　徐々に大胆になっていく沙良・・・
　足を開いて一馬の愛撫を助ける。

「・・・ァァァ・・・・・気持ちいいゎ・・・」

　周りを気にしながら沙良はグラスを口に運ぶと、カウンターに座る一人の男に気がついた。

（・・・・・・・・！・・・・剛士？）

　瞬間的に剛士の顔が頭に浮かんでくる・・・・

（よく似てる・・・・・・・ま・・・・まさか・・・）

　男は、サミュエルスミスを瓶ごと口に運んでいる。
　既に３本の瓶がカウンターに並んでいた。
　沙良の位置からは男の顔が確認できなかった。
　アロハシャツを着る男の両腕は傷跡が無数にある。
　太い首と鍛え上げた二の腕・・・・
　何より背中の筋肉のラインが剛士とそっくりだったのだ。

　沙良は、男の行動を一馬に気づかれないよう注視した。
　髪はロングだ。
　暫くすると、男が立ち上がった。

　カウンターにドル紙幣を数枚置き出口に向かっていく。
　沙良は、いかにも一馬の愛撫に感じているという仕草を見せながら身体を捩じらせて男を見た。
　男は、レッドゴールドの煙草のパッケージから煙草を抜いた。
　ダンヒルだ・・・・

「・・・！！」

　煙草をふかしながら空調機の前を通った男の髪が風で上に吹き上がった。
　髪に隠された顔が露になる。

（！・・・・・・・そんなっ！）

　まぎれもなく、伊武剛士だった・・・・
　大声で声を上げる沙良・・・

「ま・・待ってぇっ！」
「え、な、何っ・・・どうした、沙良？」

（・・・・・生きてたの・・・・な・・・何で・・何でこんな所に・・・）

　沙良は、剛士との記憶が猛スピードで再生しだした。
　沙良は、一馬の腕を股間から抜くと急いで男を追っかけた。

「ぇ？　おい・・・沙良・・・どうした・・・怒ったのか？・・・おぉーいっ。」

　沙良は、一馬の声を無視して出口に駆けていった。
　外の大通りを見る沙良・・・
　左右を隈なく探していく。
　観光地であるため人通りは多く、剛士を探すのは困難だった。

（剛士・・・・・）

「剛士ぃぃぃぃぃぃぃーっ！」
　沙良の声は空しくハワイの夜空にかき消されていった。

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「どうしたんだ、沙良・・・・」
　診療を終えた沙良は、コーヒーを運んできた一馬に振り向いた。
「え・・・うぅん・・・別に・・・」
「帰国してから様子が変だぞ。・・いや、あのハワイのカクテルバーの時からだ。」
「そ・・・そうかしら。」
「何でも相談してくれよ。君は俺の女房なんだから。」
「ええ・・・でも本当に何でもないの。」
　沙良は、無理に笑顔を作って一馬に投げかけた。
「そうか・・・・・なら、いいんだが。」
「本当に大丈夫よ、一馬さん。」
「わかった。・・・・・・ああ、そういえば明日から２日間出掛けるからね。」
「え？」
「医師会主催の講演があって、そのあと医学部の同期会で旅館に泊まってくるから留守を頼むよ。」
「そうなの・・・・・ええ、わかったわ・・・気をつけてね。」
「ああ、そうそう土産買ってくるよ。」
　一馬は、そう言ってテレビのスイッチを押した。

　沙良は、浴槽の中で焦りにも似た気持ちを必死で押さえていた。

（・・・見間違いじゃない・・・絶対に剛士よ・・・・間違いないゎ。）

　頭の中を苛立ちが疾走している時、沙良は、ふと李の事が頭に浮かんだ。

（そうだ・・・・李さんに聞けば・・・）

　沙良は、思い立つと急いで、浴室から出た。

　寝室に入ると一馬は、鼾を立てて寝ている。
　沙良は、下着を着けると一馬を起こさないよう病院の診察室に入っていった。
　電話帳を広げ李の店を探す沙良・・・・

（・・・・あった・・・あったわ。）

　沙良は、早速、李の店に電話を掛けた。
　何度もコールが繰り返される・・・・・・

（・・・・・・いないのかな・・・）

　そして、コールが２０回を越えたとき眠そうな低い声が耳に響いた。

『・・・・・はい・・・』
「・・・・・・お・・・王華・・・・ぁ・・・李・・・李さん？」
『！？・・・・・・・・・さ・・・・沙良さん・・・・かね。』
「そうです。・・・あの・・・・お久しぶりです。・・・・・」
『・・・・どうしたのかね？』
「李さんっ・・・聞きたい事があるの。・・・私・・・私・・・」
　そこまで言うと李は、沙良の言葉を遮るように冷静に言葉を発した。
『伊武のことかね。』
「ええ・・・そうなんです。・・・実は・・・私・・・ハワイで・・・剛士を。」
　李の唾を飲み込む音が沙良の耳に響いた。
『・・・・・・黙っててすまない・・・・・伊武は生きてるんだ。』
「ぅ・・・・・や・・・やっぱり・・・・・あの時・・・」
『ああ、伊武は、ハワイで生活をしている。君が見たのは間違いなく伊武だろう。』
「何で・・・何で教えてくれなかったんですか？」
　沙良は、涙声で李に言い放った・・・・

『沙良さん・・・・・伊武から・・・・強く口止めされていたんだ。』
「え？・・・・ど、どうして・・・」
『・・・伊武は、あの後、直ぐにホーピングのメンバーに救出されて一命を取りとめた。ひどい怪我だったらしい。本部の専用治療室で高度な手術をし、リハビリに１年も掛けたが、強靭な気力で復帰した。」
「・・・・・・」
『その後、完全に完治した伊武は、君と平岡という男が住む島に行ったんだ。』
「えぇっ・・・・」
『・・・・・君を迎えにね・・・』
「・・・そ・・・・そんな・・・・」
『しかし、二人が幸せそうに暮らしている事実を知ったのさ。二人で腕を組みながら散歩している姿を見たと言っていた。そして・・・そして、君のお腹が、大きくなっている事も。』
「・・・・・ぁ・・・」
『帰宅した二人の家を訪れようともしたらしい。だが、またしても、まずいものを見たようだ。』
「・・・・・・ぁ・・・・・ぅぅ・・・・」
『その帰りに、伊武は、私の店に顔を出したんだ。それは驚いたさ。私は、涙が止まらなかった。そして、やはり伊武は凄い男と痛感した。』
「・・・・・」
『その時に君の話を伊武から詳しく聞いたという訳さ。伊武は、今の君の幸せを壊したくないと言っていた。』
「・・・・そんな・・・・卑怯よ。・・・・言い訳じゃないっ！」
『伊武は、思ったんだ。沙良さんの前に姿を見せる事によって二人の幸せな生活にヒビが入ると考えたんだよ。解るだろう。』
「・・・・」
『だって、そうだろう。彼の子供を身篭っていたのだから。』
「・・・・・・・で・・・・でも・・」
『・・・沙良さん、じゃ、聞くが、あの時、もし伊武が迎えに来たとして腹の大きいまま、平岡と言う男性を置いて出て行く勇気はあったのかね？』
「・・・・ぅぅ・・・・ぅ・・・・」
『君は、今、幸せな家庭を築いている。悪い事は言わない。あいつとは・・・・・伊武とは・・・会わないことだ。』
　沙良は、それ以上、李の話を聞かずに電話を切った。

　急いで部屋に上がっていく沙良・・・
　タンスの引き出しを引っ張り、この間しまったリングを探す。
　沙良は、一番奥に転がるリングを拾い上げた。
　指にはめる沙良・・・・
　涙が止め処なく流れ始める。

　沙良は、指を組んだままベッドにひれ伏した。
　声を上げて泣く沙良・・・・

　何度も・・・何度も剛士の名前を呼びながら泣き続けた・・・・

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　翌朝、沙良は、一馬の前で涙を流しながら話しをしていた。

「・・・な・・・何だって・・・・・・・い、生きていた・・・」
「・・・・・そうなの・・・・・」

　一馬は、驚いた表情で沙良を見つめた。
　鼓動が早くなる一馬・・・・
　沙良が、とんでもない事を言うのではないかという不安が募っていく・・・

「・・・そ・・・それで・・・どうしたいんだい？」
「・・・・あなたと別れるなんて言わないわ・・・・・・ただ・・・・ただ・・・・・剛士に・・・・・会ってみたいの・・・・もう一度。」
「・・・どういうことなんだ・・・・沙良・・・」
「真実を・・・・・・・いえ・・・踏ん切りをつけたいの。自分に・・・・」

　一馬は、一瞬怒りを露にしたが、沙良の堅実な意志と願いを理解せざるを得なかった。　何度も考えた挙句、一馬は沙良の願いを承諾する事にした。

「わかった・・・・・そのかわり、俺と剛士も一緒に行く。」
「・・・・・いいわ。・・・そうしましょう・・・・ありがとう、あなた・・・」

−　２日後　−

　沙良は、一馬と息子の剛士を伴って、一路ハワイに飛び立った。

　飛行機の中で、はしゃぐ息子の剛士をよそ目に、沙良は、複雑な気持ちで一杯だった。　剛士の顔が浮かんでは消える状態が延々と続く・・・・・
　あまり眠れないまま、約７時間のフライトを終え、沙良たちはホテルに着いた。

「沙良・・・・どうするんだ。」
「・・・・場所は、わかってるの・・・・・行っていいかしら。」
「今すぐに？」
「ええ・・・・・駄目・・かな？」
　一馬は、沙良の肩に手をかけて優しく囁いた。
「・・・行ってこいよ。俺は・・・君を信じてる。」
「・・・ぁ・・・・・ありがとう。」
　沙良は、駄々をこねる息子をあやして早速、剛士の住む家に急いだ。

　李から聞いた住所は既に調べておいた。
　住所を書いた紙をタクシーの運転手に渡すと運転手は、親指を立てて車をスタートさせた。
　走る事１時間あまり・・・
　タクシーが、一軒のシックな建物の前で止まった。

「ここだよ。」
「ありがとう。」

　沙良は、料金とチップを渡すと車から降りて家の門の前に立った。

　大きな庭には、プールがあった。
　中を見る沙良・・・・・
　塀伝いに大型のガレージがあり、男がボンネットをあけて中を覗きこんでいた。
　ボンネットを閉め掌を払うと首に掛けてあるタオルで顔を拭う男・・・剛士だった。

（・・・・アストン・マーチン・・・・・・・剛士・・・・・）

　剛士が、ガレージからプールの方に歩いてきた。
　煙草を咥えようとしたとき、門の前に立つ沙良に気づく剛士・・・・

「！・・・・・・・・」

　沙良は、涙を浮かべて剛士を見つめた。
　困惑顔で視線を投げる剛士をよそ目に、沙良は、門のフックを外して庭に入った。
　剛士に歩み寄っていく。

「・・・剛士・・・・・」
「何故、来た・・・・・・何で来たんだぁっ！」
「・・・・私・・・・・・一馬さんと別れてもいい・・・・」
　剛士の顔が一気に崩れていく。
「馬鹿野郎ぉーっ！　お前は、一人の男の人生を狂わそうとしているんだぞ。」
「・・・・・・」
「俺は、堪えられる・・・そういう人間だ。だが彼は違う・・・・」
「・・・つ・・・・・剛士・・・」
「帰ってやれ・・・・直ぐに帰ってやるんだ。子供もいるんだろう。」
　沙良は、指からリングを引き抜いて剛士に見せた。
「何よ・・・・これは何なのよっ！」
　剛士にリングを投げつける沙良・・・・
　沙良は、気が狂いそうだった。　剛士と出会ってから８年、一度足りとも気持ちが途切れていなかった事に今やっと気付いた瞬間だった。

「沙良・・・俺は、悪いのか・・・・身体を治して島に行った時には、既に・・・」

　沙良は、苦汁の表情で跪くと嗚咽を漏らし始めた。

「剛士が死んだと思っていた・・・・もう、いないと思ってた。」
「しかし、今・・・・・これが現実だ・・・・もう戻れない・・・・」
「・・・・・・・・・貴方の記憶を消す事が出来ないの。」
「せっかく築き上げた家庭だ。壊してはいけない。」
「・・・・・」

　沙良は、何を喋ったらいいかわからなかった・・・
　剛士が、小さく溜息をつきながら沙良に諭すように呟いた。

「・・・・・ただ・・・離れていても愛欲に到達する事は出来る。」
「！」

　沙良は、剛士の言葉に全身が覚醒した。
　今までの剛士に対する言葉や行動が鮮明に浮かんできた。

（・・・・・愛欲に到達できる・・・・）

　沙良は、心が流動した。
　多少ではあるが胸の痛みが薄らいでいくのがわかる・・・・

「・・・・・・剛士・・・・私・・・・・・・・・・・わかったわ。」
「沙良・・・・」
「・・・ごめんなさい・・・・私・・・帰ります。」

　沙良は、立ち上がって剛士に背を向けると一言呟いた。

「何とか、最後に・・・・思い出を作っておきたかった。」

「沙良・・・・今夜、パールパークでパーティーがある・・・・良かったら来い。」

「・・・・・・」

「俺たちの・・・最後の・・・・・・そして本当の・・・終幕だ・・・」

　沙良は、その言葉を聞いて走り出した。
　涙を見せないよう・・・一度も振り向く事無く・・・・

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「彼が・・・そう言ったのか。」
「ええ・・・・」
「・・・・沙良・・・・行けよ・・・・」
「ぇ？」
「行くんだよ、パーティーに・・・」
「で・・でも・・・・」
「行かないと後悔するぞ・・・・・・・一生な。」
　一馬の言葉に沙良は戸惑った。
「俺は恐くない・・・・沙良、君の人生だ。」
　沙良は、一馬の真意ある言葉で決心がついた。
「わかった・・・・行くわ。・・・・・そして、あなたも、一緒に来て。」
「・・・・・ああ。」

　夜、７時になると公園内には沢山の人々が集まっていた。
　園内周囲を囲むように特設バーやドリンクカウンターをはじめ、多種の料理が豪勢に並んでいる。
　沙良は、息子の剛士の手を引いて一馬と共にパールパークに足を踏み入れた。
　剛士を探す沙良・・・・・
　ほぼ中央に位置するメインブロンズ像の前に剛士は立っていた。

（！・・・・・・剛士・・・・）

　剛士は、サミュエルを手に持ち、パールパークに現れた沙良に視線を送っていた。

　二人が見つめ合うのを待っていたかのように照明が切り替わった。
　頭上を彩るスペシャルライトが、華麗に園内一面を覆っていく・・・・

　そして、優雅な音楽が、ホールに響き渡った。
　それぞれのパートナーが腕を組み音楽にあわせて踊り始める。

　まるで時が止まったように視線を合わせる二人・・・・
　沙良が、独り言のように一馬に囁いた。

「あなた・・・・今夜、・・・たった一時だけでいいの。あの人を・・・剛士を・・・愛して・・・・・いい・・」

　一馬は、小さく溜息をついた。

　後から、沙良の背中を押す一馬・・・・

　沙良は、一馬に振り向いた・・・

「・・・・行ってこい・・・・沙良・・・」
「・・・・ぁ・・・ありがとう・・・・」

　沙良は、剛士に近づいていった。
　剛士も、ゆっくりと沙良に歩み寄っていく。
　二人は中央で立ち止まった。

「剛士・・・・・」
「何も言わなくていい・・・・・。」

　後を振り向く沙良・・・
　一馬は、沙良に向かってゆっくりと頷いた。
　そして、剛士と視線を合わせた一馬は、親指を立てると、剛士は、口元だけで笑みを返した。
　沙良が、剛士の首にゆっくりと腕を巻きつけていった。

　怪訝そうな表情で息子の剛士が一馬に問うた。
「パパ・・・ママと一緒にいる人だれなの？」
「ん？あの人か・・・あの人はな、ママが・・・今までで一番愛した人さ。」
「・・・・へぇー・・・なんて言う人？」
「お前と同じ名前さ・・・・・・剛士・・・・伊武剛士って言うんだ。」
「ふぅーん。」

　剛士に抱きついた沙良の腕に力が入っていく・・・・・
　剛士は、クールに囁いた。

「さぁ・・・・俺と沙良だけの舞踏会の始まりだ。」

　沙良の全身に鳥肌がたち、子宮の奥が急激に痺れていくのを感じた。
　そして、身体全体が、まるで性感帯になったような感触を受ける。
　剛士の手が腰に当てられた。
　沙良は、これ以上ない、甘い吐息とセクシーな瞳で囁いた。

「私の剛士を思う気持ちが・・・途切れる事のない愛欲に変わる瞬間を見せてあげる。」
「・・・・・俺の求める欲が、愛以上だという事を見せてやろう。」

「剛士・・・・・愛欲に・・・・・愛欲に終幕はないわ。」

　・・・・・・・・そして、剛士と沙良、たった二人だけの舞踏会が始まった。

「剛士・・・・・・・・剛士・・・・・・ワイン買ってきたわよぉ。」

「グラスは冷えてるぞ・・・・・・・・・・沙良・・・・・・」

　愛欲の舞踏会・・・・・・完